きれいでなくてもいいよ ほめられなくてもいいよ きみのそばがいいよ
きみの腕の中、泳いでいるだけがよかった ただの金魚のままで
返事の代わりに首の鈴を鳴らす きみは少し馬鹿で見栄っ張り
背中にユーラシア大陸浮かばせて今日もきみは焼きたてのパン
馬鹿だと云って欲しかった もう待たなくて良いよと云って欲しかった
何処へも行けないぼくらは舟を漕ぐ 桜の下を通って、明日まで
かはず鳴く岩木のしろのほとりにてたまの寄らむばきみのこえきく
何も欲しがることの出来ないこどもでした 全部ゴミになるから
ここからここまで君の入れないところだ 死の側より来たりて、冬
此処から此処まで、地球儀たどっておさないきみとの心中旅行
＊
水平線に吸い込まれて光、明日がまた生まれてくるのを待つ
末枯れの俯く乙女の袖引いて駄々をこねても冬はきたれり
広辞苑枕にして眠る まるき頭に知識載せ往けよ猫
ゆくはるよ 追いて留めむ我が罪の白き歩幅にきみは憶えぬ
春の陽に揺らぐ影ふと見上ぐれば何をか言わんや君にたとうる
風下りつ爪先灯る白妙の夏の雪とて見紛うばかりなり
この高反発マットレスは俺のものだと尻尾突き立てて、猫
このままで終わりにしてください、お財布は閉じてもう出しましたので（初句：このままで）
塩素のにおい鼻をついて八月、夜と底へ消えていったきみよ
きみに会うため夢を見なければいけないので無理矢理にでも眠る
＊
猫より君よりずっと薔薇の方が手がかかるし傷が増えていく
何億光年先でも会いに行く、ぼくらの愛は星座にならない
きみがぼくを消費するのを見ないで済む世界に生まれたかったよ
速報だけで完結する世界にいたい 続報も何も要らない
雨のふるふる、祈りは消えて流れていくのに宛先も知らないで
誰も彼も織姫と彦星 主人公になりたいやつらばかり
「この世界に正しいところなどありません」無線をただ聞いている
祈りの首を絞めて殺して今日も明日も変わらぬおむすびの味
今日もまた懲りずに下書きに保存下書きに保存したがきにほ（初句：今日もまた）
「もしもし、ブラジルのひと聞こえますか？」 今日も今日とて穴を掘っている
＊
春の庭
箱庭を崩さない貴方に砂、荒々しく白に染まりゆきて
掌に消えた花片追って笑う貴方はこどものままでいて
さよならの意味も知らないふりを続けて僕に悟らせないでいて
いちにのさん、で忘れてくださいほら、いちにのさん、ねえ、お願いだよ
「忘れたふりをするから、きみはずっとずうっと生きていて。 待ってるよ」
人間ごっこ
きみは僕を信じていない 信じていない 君は誰も信じない
知っていたよ おかえりの代わりのきみの新鮮に嬉しそうな顔
いつだって僕は新品 きみの新しい項目の一番上
信じなくても別にいいよ、それでいいよ でも、認めてしまってよ
僕の腹の底に沈んでる きみの人間性はきみだけのものだ
＊
初夢
きみは優しい人 とても優しい人 優しさで僕を殺す人
思い描けるね ふと目覚めた朝にきみがいなくなっている世界
すきにならなくていいよ きみはまだ人間にも満たないかいぶつだ
人間のことばを繰り返してもはらわたは入れ替えられないから
それでも待っててあげる だから車のキーなんかさっさと捨てろよ
六月の庭
幸いの訪れたちよ 夏は過ぎ、モノクロの世界に君は降り立つ
一つずつ戻るページのその色を教えてくれとせがむ貴方よ
掴めない よくあるはなしと笑って夢見に過ぎるあなたの影よ
水を引くその宛先も分からずに綴る青は初恋に勝りて
不幸になるためにうまれた貴方の君の幸せを願っています
＊
キレ散らかしたみたいな思い出が入っている 夏はたからばこだ
美しい世界の中で僕だけが製造ラインの違うパズル
幸せだったとか言うなよ、恨んで呪っていいからそこにいろよ
善いひとのように涙が出ては止まらない午前三時の嘔吐
きみを窓から探すようにも見える小さき猫の背中に浜名湖
午後の居間降りるきみの不在を不在たらしめる薄明光線
矢の如く、光の如くいきたおまえよ 秋の日にとけたおまえよ
足の裏に魚の目が出来て床を監視するさかなが現れる
吸って吐いて吸う、ただそれだけのことが上手に出来なくて紙袋
私には意見が聞かれない教室で只管に潜伏する秋
＊
「卵から生まれたんだよね」言いながらきみがつつくセブンのおでん
お願いよ、ミスタ・エンジェルス あなたはどうか孤独に生きていて
黒ずんだから磨いて元通りにした、そんな人生がよかったね
人を殺すゲームの広告で練習してても難しくてさあ
僕が不幸じゃないと悲しむ人間がいるみたい、笑えちゃうよね
友人のように喋るきみはおよそたくさんのディスプレイの向こう
真夜中の約束には間に合わない あなたの前で化粧を落とす（初句：真夜中の）
最後にはどうせ捨てるんだから ゴミの日は木曜日、間に合わせてね（初句：最後には）
蠍座の目玉も心臓も尻尾も貴方のもの 脇役は悔しい
箱いっぱいのシュークリーム きみの門出をお祝いする廃棄品
＊
忘れたことに、した忘れ、たことにし、た忘れたこ、とにした忘、れたこ
真夜中の三叉路にて鳴く猫よ、物語の冒頭を飾れよ
消えないよう大切に傷付け続ける 装備スロットのない耳
ないものをあったと笑ってさよならを言い切ったわたしの勝ちです（連想：幸せ/NG：幸せ）
明細を見て領収書を見て合っているからもう一度見てみる（連想；予想外/NG：予想外）
あの夏を忘れられない、歓声が耳から離れない もう一度（連想：再）
地元には伝説ばかり あれもこれもそれも姉の作り話だ（初句：地元には）
この夏は記録に残るよ 来年には塗り替えられるだろうけど
二十四時間いつだって隣にいる チンするだけの愛でいたい
何度でもきみを探す 薬指がちぎれぬ限りいのちの限り（初句：何度でも）
＊
キッショい妄想押し付けんなvsそれで食ってんだよ ﾌｧｲｯ
だってお前ら結局少女が少女のまま死ぬのが大好きじゃん
どうせなら飛び降りてやればよかった リボンとトウシューズを脱ぎ捨てて（初句：どうせなら）
こんなにもじょうずに踊れるようになりました 制服のスカートで（初句：こんなにも）
好きだった、好きだった、好きだった 過去形にしたいからわたし、行くね。
「こうやってされるのすきなんでしょ」って五億円くらい贈られたい
今だけは忘れていてもいいよね 電気も出しっぱなしのシャワーも（初句：今だけは）
あれもこれもと言うきみの横で壊れた扇風機を直している
もしかして運命の、ひとですか、ちょっと踏み出してもらっていいですか（初句・もしかして）
あの人もあの人も夏を見せてる ロマンスカーの至るところで
＊
すれ違うきみの黒髪、春、揺れて 歩み止まりし愛（かな）し馨るを（連想「華」）
あとひとつ、貴方がすきと言ったなら わたしはわたしの過去を許そう
ほたほたと曇り硝子をぶつ音のうらさみしきかな 雨の大粒
AIは私の真似はするけれど傷付けられてくれはしないね（初句：AIは）
淋しきに膝の抱えて泣くきみの声聞くときぞ明日を棄ておく
運命と洒落て狂って煮崩れて切っちゃいましょう小指と小指（連想：はさみの絵）
いち、に、さん。微かな記憶辿りつつ三角紙片に開いた花よ（連想：はさみの絵）
春までにこの踏切を渡り切る 悪魔の手から逃げ切るために（初句：春までに）
みちみちと音を立てては落ちていく 人権とかいう僕の心臓（連想：ビルと電車の絵）
コンパクト叩いていち、にの、さん！でみんなの知らないワタシになれる（連想「変身」）
20230310