虫以下 今山

 子供の時一番好きだったおもちゃはなんですか?
 テレビを見ていたその人がうーん、と唸り始めて思わずアンタに子供時代なんてあったのか、とこぼしてしまった。
「なーんや、ヒドいなぁ、山崎クン。あの花宮だって子供時代あったんやで、ワシにだってあるに決まっとるやろ」
一応は多分幼馴染みという分類にまぁ半無理矢理ぶちこめるであろう友人のことを出されてしまえば、そりゃあそうだが、というしか出来ない。
 子供でなかった人間はいない。分かって、いる。けれども。
「…で、なんだったんスか」
「ん?」
「子供のとき一番好きだったオモチャ」
「ワシはあんまインドアやなかったからなー。オモチャってより、蟻の巣埋めたり、クワガタの足引きちぎってみたり、そんなことばっかしてたなぁ」
想像にかたくない。
「やから、まぁ、君はそうならんように、気を付けてな」



ask

***

人間には魂があります。 原山

 動物に魂はあると思う?
 ねえ、どうなの答えてよ、とそのつま先はもう生き物ではないものをぐりぐりといじっていた。それを山崎はやめろということもできないで、ただただ見つめている。動物に、魂。一体全体この光景とその質問と、何の関係があるのだろう。それともいつもの気まぐれで、何の関係もないのだろうか。
「ねえ、ザキ、答えてよ。お前の意見でいいからさあ。別に難しいこと聞いてる訳じゃないっしょ。イエスかノーか。今思ってることで良いんだからさ、オレに教えてよ。どっちなのか。五秒後に答え変えても良いしさあ」
ぐりぐりと足は動きを止めない。どうして。そんなにそれが憎いのか、それとも彼にとって、原にとって、それは最早炉端の石だとかそういうものと大差ないのか。
「ねえ」
どっち。
唇がからからと乾いていた。どうしてそれが今はもう生きていないのか、それだけが謎だった。そうして冷えた頭で、ああ、と思う。
 これは、この質問は。



ask

***

I was born. 原山

 「ザキってさ、時々バカみたいにアホだよね」
「ア?」
真っ暗な部屋、同じベッドにぎちぎちに詰まって眠ろうとしている最中、そんな罵倒が突如として飛んできて声を上げた。原はそんな山崎を気にせずに続ける。
「でもさ、なんてーかさ…そういうのに救われるんだよねぇ…」
ぎゅっと握られた手は朧げな月明かりに照らされていたが、その先の表情まではどうにも見えなかった。ただ、触れ合っているところから熱が伝導して来て、紛れもなく原が生きているのだと、喉が張り裂けそうな程、吐きそうな程に生命を咥えこんでいるのだと、それだけが分かって、目を瞑った。
 それだけで充分だった。



(目を瞑る、熱、ベッド)
診断メーカー
image「I was born」吉野弘

***

それはきっと甘い毒 花山

 花宮真の絶対王政について山崎弘が思うことは少なかった。下っ端意識の強い彼にとってただ組織の頂点が変わるだけの話だったし、そんなことが自分のあり様に何か干渉してくるだけのものがあるとも思えず、拒む理由も拒まなくてはいけない理由もなかった。
 なかったけれど、しかし。
 ゆっくりと価値観に干渉してくるような、世界をつくり変えて行くような、そんな浸食だけはひどく恐ろしいと思っていた。



(拒む、意識、ゆっくり)

***

冬の夜 瀬火

 よ、と片手を上げて見せた瀬戸に火神は思いっきり顔を顰めた。途端に笑い声が返って来る。
「ヒデー顔」
「てゆーかお前下着」
「忘れてったね」
「じゃあ、」
「お前の履いてったね」
「………」
そのまま踵を返すと追いかけてくる足音。
「待てってば」
「待つ義理はねーよ」
「ヒデー奴」
するり、と纏わり付く感覚。
「…おい」
「良いじゃん、暗いし。手くらい。誰も見てないよ」
何故だか上手く言葉が返せない。
 強引に繋がれた手がやたら暖かいだなんて、きっと冬の寒さの所為だ。



繋ぐ、下着、強引に

***

冷たい貴方 降古

*「それこそ運命か何かのように」と同じ設定

 目の前で行われた悪行について、目を瞑れる程降旗は大人ではなかった。それが自分の仲間に降りかかったものなら尚更。確かな意志に基いて行われたのだから、もっと言うことはないだろう。
 けれども涙は止まらなくて、物理的に傷付いてボロボロの古橋を抱き締めていることしか出来ない。これはある意味自業自得の末なのだ。だから降旗が涙を流してやる義理などないし、此処でざまあみろと嘲笑っても良いはずなのだ。なのに一方的にされた約束のために公園に行ったり、そこに古橋が来ないからと言って心配して電話を掛けたり、その電話に出た知らない男に、大事な古橋くんはもうボロ雑巾みたいになってるよ、とか言われたりして。
 そうして頭が真っ白になって、言われるままにその場所へ来ていて。罠だったらどうしようとか、まだ奴らが残っていたらとか、全くそんなことは考えられなくて。ただ、痛くて。
 腕の中の古橋が僅かに身じろいだ。どうして、と問われているような気がした。小さく首を降る。
 そんなこと、こっちが聞きたかった。



(だって今にも死にそうだ)
目を瞑る、涙、僅かに

***

きらきらの初恋 黒黄

 片時も考えない時がない、なんて、小説の中でだけの話だと思っていたのに。マジバのバニラシェイクを啜りながら黒子は考える。ずず、と立つ音まで楽しめる程に愛しているはずなのに、今はそれがただの音にしか聞こえない。
 脳内を占拠する、きらきらとした光のような人間。もちろん、相棒としての光、という意味ではないが、黒子には黄瀬がとても眩しかった。中学時代、教育係を務めていた時もいつも眩しい人だなぁ、と思っていた。
 それがあの空白の時間を経て、下さい、だなんて。
「嬉しかったなんて言ったら、先輩たちに怒られますよね」
それとこれとは話が別だと、きっとあの人たちは言ってくれる。元チームメイトにまた一緒にプレーしたいと言われて、喜ぶのは当然だと言ってくれる。けれども、黒子には何かしらの理由が必要だった。この胸に湧く甘い疼きに知らないふりを続けるための理由が。
 あの日から。巣食うように、蝕むように、影が離れない。
 「この歳で一目惚れ、だなんて」
実際には違うはずだが(だって黒子と黄瀬は面識がある)、黒子にとっては一目惚れと同然だった。
「あんなに格好良い知り合い、いませんよ…」
言葉に出している時点で既に知らないふりなど出来ていないのだと、分からない程黒子は鈍くなかった。



旧拍手

***

それは我が侭 今諏佐

 はぁ、と吐いた息が白く染まっていく。冬だ、そう思うと余計に寒さがきつくなったような心地がして、首をすくめる。
「諏佐は寒がりやなぁ」
隣でけたけたと笑う今吉を横目だけで見た。冬にふさわしく今吉も厚着はしているが、それでも諏佐程は着込んでいない。雪国出身なのにどうしてこんなに寒がりなのだろう、筋肉も今吉より多いはずなのに。そんなことを考えながらざくざくと歩を進めると、今吉が立ち止まった。
「今吉?」
振り返る。と同時に、ふわりとしたものが諏佐に押し付けられた。
「いまよし?」
「見てる方が寒なってくるわ。それつけとき」
ワシなくても平気やし、と渡されたのはマフラーだった。先ほどまで、今吉がしていたもの。
「…ありがとう」
寒いのは寒いのでありがたく借りることにする。首に巻くと、ふわり、と今吉の香りがした。
 どんどん強欲になっていく、そう感じる。前は同じ空の下、同じ空気を吸っているだけで良いなんて、そんな甘いことを考えていたはずなのに。今は近付きたくて堪らない。もっと、もっと、と求めてしまう。今吉もそれは感じているようでこうして甘やかしてくれる。けれどそれは、諏佐にとっては生殺しのようなものだ。
 今のままではいたくない。心の底から、そんなことを思っているのだから。今吉に全てを捧げたい、そして今吉にも全てを捧げて欲しい。なんて強欲なのだろう。マフラーに埋もれた口元がひく、と笑いを噛み締める。馬鹿馬鹿しい。半歩先を行く今吉に並ぶ。
「あったかい」
「そうか」
それは良かったわ。こちらを見る今吉の瞳がどんな色をしているかなんて、本当は知りたくなんかないのに。



旧拍手

***

色褪せる証拠 古山

 「プリクラでも撮るか」
「は?」
職員会議で部活が中止になり、花宮によるミーティングもなかった二人は、学校帰りにゲームセンターに寄っていた。古橋の指差す方向には四角い箱がいくつか並んでおり、二人と同じように学校帰りの男女で賑わっている。
「いや、あれって女性専用とかだろ」
「恋人は良いって書いてあるぞ」
「あれは女の子の、彼氏って意味だろ」
古橋は山崎より頭が良かったと記憶しているが。山崎が首をかしげていると、古橋は店員を引き止めて話しかけていた。そこまでして撮りたいのかプリクラ。
 斯くして、古橋の話術が功を奏したのか、それとも単純に霧崎の制服を見て、此処の生徒ならば悪さはしないと踏んだのか、長身の男が二人、狭いボックスに入ることになったのである。撮影時は機械が喋る通りに二人でポーズをとるという結構シュールな光景になっていたのだが、まぁそれは割愛する。
「山崎の分だ」
二分割した片方を古橋が渡して来るのを受け取る。画面の中の二人はそれなりに楽しそうで、初めてだったはずの落書きも、途中から古橋がコツを掴んだのかまるで玄人のように仕上がっている。書いてあるものは日付や学校名、部活名、互いの名前、それくらいだ。あとはスタンプなどで埋められている。
 「恋人」や「デート」という言葉は、結局どちらも書かなかった。古橋もあんなにテンションをあげていた割りには、ハートのスタンプだけは綺麗によけていた。二人は確かに付き合っている恋人であり、今日は一応デートのつもりだった。それは互いに共通の認識だろう。それでも、それらの言葉やスタンプは使えなかった。
 文字にして何かを残してしまうということは、殺人に使ったナイフを隠そうと焦るように、ひどく恐ろしかった。



拍手ログ

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音色の行進 笠黄

 「先輩がギター弾けるってホントっスか?」
それはきっとただの無邪気な質問だった。どうせ森山辺りに聞いたのだろう、あのお喋りめ、と脳内でひと通り森山を貶してから黄瀬に向き直る。
「正確には弾けた、だな」
最近忙しくて触ってもいねーよ、ネック反ってるかもしんねぇし。遠回しに弾かねぇぞ、と牽制する。流石に馬鹿でも分かったのか、それは残念っス、なんてしょぼくれる。しょぼくれる価値なんかねーよ、と思いながらその頭を小突いて練習始めるぞ、と声をかける。すると懐っこい大型犬のように、はいっス! なんて笑うのだから、また不自然でない程度に顔を逸らす羽目になる。
 最近ギターに触っていないのは、何も忙しさだけが理由ではなかった。一、二年の時はそれでも時間を作って触っていたのだ。三年になって受験勉強が、と言い訳したところで、それが理由でないのは自分が一番良く分かっている。
 弦に触れていることが、突然怖くなったのだ。
 弦に触れていることが恐ろしくなったのは、指先から零れた痛みが誰かに伝わりそうだったからだ。音に乗って、そう、あまりにきらきらして眩しいアイツのところまで、飛んでいくことだった。
 こんなドロドロとした黒い感情が、あんなきれいな人間のところまで、飛んでいくかもしれないことが、この上なく怖かった。



旧拍手

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20130923
20131022
20131130
20150708 編集