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星降らしの転居




泣きました 童話の中の少女のようなあなたの死んだ夢を見た朝
いただきます 言葉の意味も知らぬ間に祈る我らは殺戮者になる
忘れます 神様のような親友よ 主人公にしかなれない憐憫
重かろう 色付く生命(いのち)は懸命に親の顔したしなる枝先
真っ青なあなたは神様でした かわいそうなほど神様でした

構うなと曲がったままの吾(あ)の悪よ 舌切ってやると親知らずは吼ゆ
大泣きよ パンケーキのお葬式 ナイフとフォークで嘘を吐いた
しみ込んだ涙はバニラの味かしら 哀しくないの とろけたアイス
暑くてもだめ 寒くてもだめだよ 冷房二十八度の妖精
「好きでした」「大好きでした」「さようなら」どうにかこうにか世界が終わる



さよならも言いたくないし言えないしだから開けっ放しの冷蔵庫
うそつきだ 彼岸の花の美しさなんてひとつも思っちゃないくせに
君となら全部壊れた世界でもきれいだなんて思えたろうに
我々はたまごから生まれ羽根を欲しがる 仕方ない だって少女だもの
僕という歯車は世界に必要ない それを思うと少し安心

二人だけ氷の間に残されたあのくじらたちの幸福を想うと
あつがりのラムネのビンは泣いていてシュワシュワ消えるかなしい思い出
ささやかな不安を取り除くためだけに残してください 所有印など
あさがおの恋と名付けし我が恐怖 永遠(とわ)に名前を知らぬが仏
あげました ひとつ残らずあなたには それでも止まない隙間の風たち



花火という名すら知らない我が恋よ 次があるなら笑ってみせて
物語捲る指先冷たさに 生とは何かと問うは残酷
もらい水 生きる背中にもたれては恋と名づけた冷たさを知る
朽ち果てた愛と絆の骸の上にあなたの棄てた玉座が待ってる
ぜんぶ嘘 君が失くしただいじなものは最初からなかったなんて信じて

腹痛は何に対しての過敏だろう ジアゼパム飲む 冷えすぎ地獄
「あいしてる」だから私とひとつになって 呪いの遺伝子 少女の病
認識は既に人間(ヒト)の領域だ それならいっそ騙されていて
熱掬う その手に何度焦がれただろう すくってほしいと願っただろう
運命が赦さないと云うのなら僕らは人間(ヒト)に堕ちるしかない



最低の女でいたい 貴方の心のガラス傷でいたいの
天国は何色ですか? 知る由もないこんな血塗れの戦場
ただひとつ「愛してください」貴方にはきっと永劫言えないままで
「あなたはわたしのぜったいでしたので、すがたをけすなどゆるされません」
名前などつけたもの勝ち 貴方より先に走れば良いだけのこと

嘘吐きはどっちだったかな もう今は幸せなんて笑えてしまうから
飛行機が尾を引く空に泣きました こうして君は死んだのでしょう
ぼくたちがぼくたちであるためだけのせかいはほんとにくだらないもの
かなしみとほんのすこしの自己欺瞞 わたしはきみの神様ではない
薔薇咲いたその美しさをしれたのは君が人間(ヒト)にしてくれたからでした



不確定を想うほどかしこくばかになる 私は私でいたくはなかった
知りません 君の名など永遠に 踏みつぶした蟻たちのなみだ
しもばしら 何処にもいけない僕たちはとりあえずにと大型を取る
かなしみのこの形なんか言いもせずただ泣く少女のなんとずるい
黒と黄の鳴り響く音軽やかに ぼくらは天使の祝福を見る

泣かないで 僕らの生まれたその意味を識る時がきた それだけのこと
夏休み きゅうりの味が嫌いだと食べたこともないカブトムシ貶す
「死んじゃえよ」私のあたまでさんざめく 貴方の名前を教えてください
4L 補給して尚脱水の私の前世は人魚だったのだろう
ランドルト環のない世界の私 君の世界が見えてきません



いたいのもくるしいのもはいたのもことばのぼうりょくもぜんぶわたし
本当におばかさんなのかわいいね だってわたしは神じゃないのに
「あいしてる」そんな、嘘だって吐けるのにどうして真実(ほんとう)を云ったのかしら
神様はひどく残酷だって少女をだきまくらにするロリコンだから
ころそうよ ころしちゃおうか そうしよう どうしょもないな かがみのなかでさ

美術的価値があるんだ君たちに影絵の中で遊ぶ筆色
さいごだけ嘘にしなくてよくなって ああもうそれで それだけでいい
泣いていた あの日のぼくはすくわれない だから代わりに君をすくうの
あいしてた そんなキレイな言葉だけ のこしてころしてのみこんで
君が君であることを終えて今、この手の中に在ることがこわい



唇を噛んでかんでかんでみて君の唾液の味がしたんだ
カナリアの醜い声を聴かないで わたしの羽根はこんなにもきれいよ
だいすきとその言葉たちの無責任さを僕は抱えて流し込んでく
あいしてよ 僕はここにぼくはどこにだれでもないぼくはぼくはぼくは
イルカさんもクジラさんもシャチさんもぼくだったぼくは海に澄んでいた

ナプキンが真っ赤に染まって責めないでよ 私だって好きで、こんなの。
カナシミは腐りきった林檎のよう 食えば下すし飲むにはかたい
さよならを教えてくれない君だからぼくはいつまでも子供でいたい
さよならも言えない吐き気頭痛抱えて何処にも行けない自律神経
恋をするたびに増えてくぬいぐるみ 心はずっと空虚なままで



吐きそうだ 吐きそうだけど吐けないで少女はことばを呪詛に変えない
パンケーキ バターもはちみつもないとこで私は私のことを知らない
大人になったの処女でもないの あなたの文法忘れたわたし
愛くらい その辺のスーパーで買って来なさいよねこの意気地なし
ぐらぐらと崩れていく音ウソマミレ 十七歳の耳の細胞

音がする 虚ろな音が美しい音が 聞こえない音がしていた
誰にも聞こえない音は美しく君にも届かぬ私の愛たち
出来損ない 何一つできやしませんとインクまみれの私のてのひら
血を流し笑う君のその首をわたしは果たして愛せるだろうか
こらえてははいてこらえてはきだして母にもなったことがないわたし



炭酸に溶かした哀しみ飲み干してそれでも僕らはさよならしたまま
遺されし 笑えよ笑え 幼子よ 君が君でなくなる時まで
ダブルダッチの飛べない子供でした 火あぶりにされる子供でした
残酷に微笑う 百年後会いましょう 彗星の降る夜(よ)を知らない私
僕らは互いに純粋であるのだ ちっぽけな魂を抱いて

運命が引き裂いた二人手を繋ぎ ふたご座落つる 謝るように
星が往く 死ねない僕らを捨て置いて 腐った夜が君を撫ぜている
ざわめきの中に独りで座る僕 待ち人来(きた)らず 春の終わるに
我々は水と油と同じです ポルクスが死ねなかったように
夕色に染まりにけりな天(あめ)の翅(はね) 尾を引かず飛ぶつばめを見たり



カナリアの喉を潰してみたとしてあの子の美しさは薄れぬ
雨の空 孤独寂しと鳴きながら一羽消えゆくカラスの哀愁
肌と肌 幾らすり合わせてみたとして一つになれぬ絶望に焦ぐ
工場の吐いた煙は天高く くもりの空に混じりて消えぬ
かなしみは青い檸檬の味がする 初恋売りはそう唄いぬ

雨の朝 くるゆ山端(やまは)のしろけむり 霞し記憶は幼き思ひ出
くらくらり 青に目眩のようなデジャヴ 君を思い出す 冬の晴天
雨が往(ゆ)く たなびく雲の切れ端の太陽覗く冬の天鵞絨(ビロード)
食卓の豚 がなる父 恥を知れ いただきますは懺悔ではない
悲しいね 世界の果てにいる化石 私もそうよと愛を囁く



20170424