存在確認行為X 林迅

 戯れのようなものだ。
 そう思ってねえ、と声を上げる。
「りんどーさん」
「なに」
「おれのこと抱いてよ」
返事が来る前に、次の言葉を放つ。
「おれがここにいる証明をちょうだいよ」
いいよ、とその言葉以外、来ないように。馬鹿なこと言うな、なんて。そんな真面な反論はいらない。何処までも、何処までも。壊して、後戻りなんて出来ないようにして欲しい。
 じっと、沈黙が下りた。言葉を探しているというよりは、先ほどの追撃を咀嚼しているように見えた。角度の所為か、反射でその眼鏡の奥の瞳は分からない。
 暫くして、その人は唇を湿らせた。ぎし、と座る椅子が軋む。
「ほら、来い」
「…ねぇおれの話聞いてた?」
「聞いてたよ、だから抱いてやろーと手を広げてンのに」
「………それは抱き締める、だと思うけど」
「いやか?」
首を傾げてみせる、それは凡そ子持ちの男がやるような仕草ではないと思ったけれども。それと同時に、こういうのをあざといと言うのだろうな、とも思った。
「…嫌じゃ、ないよ。ボスのいじわる」
「これがいじわるに感じるようじゃあまだまだガキだな」
 わはは、と笑う胸に頭突するように飛び込んだのは、せめてもの仕返しだった。



しろくま
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あのこにしたみたいに、して? 米出

 一週間前、米屋は彼女と別れたらしい。それを今日聞いた俺は、付き合っていた彼女と別れた。高校生のお付き合いなんて、それなりの言葉を選んでやればすんなりと消えていく。ごめん、なんか違うって思ったんだ。そっか、私もそんな感じしてた。悪いな。謝らないでよ。謝らせてよ。そんな感じで。
 軽々しい別れ話を済ませて来たその足で、俺は米屋の元へと行く。
「オイ、弾バカ」
「オレそういう名前じゃないんですけどぉ」
 まだ傾かない陽。子供が走る公園。今日の予定、なし。
「お前ン家行っても良い?」
「いーけど課題手伝って」
「お願いします公平サマって言えたらな〜」
「オネガイシマス公平サマ」
「お前………。しっかたねえなぁ〜」
歩き出す。
 かわいい子だったな、と思う。けれどもその視線は今、彼女には向いていない。自分のものだ、自分のものだ、自分のものだ。心が踊る、浮き上がる。
 ―――これは、おれのものだ。
 大きくふってみた手がぶつかって、そのままそれが自然だとでも言うように繋がれた。



確恋
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真面な食事は大切です。 穂荒

*倒置法発覚前

 もう、勝手に部屋に入り込んで勝手に人の雑誌を読みあさり、勝手にゲームをやり、勝手にベッドで寝る。そんな恋人の蛮行には慣れてしまった。此処で慣れてしまった、なんて言うところが甘いのだとかなんとか、周りの人々には言われることはあるが、それでもこの順応性こそが穂刈の生まれ持った性質であるのだから仕方ない。
 扉を開けたところで、こちらも見ずにおかえり、と言った荒船のことを、可愛く思わない訳でもないのだし。
 ただいま、と返して鞄を下ろすとぼすん、とベッドに腰掛ける。どうやらゲームをやっていたらしかった。何処から出して来たのか、懐かしい正方形がテレビの前に鎮座している。本当に、何処から出して来たのか。この家の何処かにあったことは流石に覚えているが、もう何年も使っていないこのゲーム機のことなど、今の今まで忘れていた。
 画面の中はもう終盤のようだった。そのまま黙って見ていると、ぱっぱらぱーと呑気な音楽が鳴ってクリアを知らせた。きらきらと、星が舞う。その様子を見てやっと、そのコントローラーは手放された。
「今日の夕飯なに」
その言葉に、素直に驚きを示す。
「なに、食ってくの」
「食ってく」
こくり、と神妙な顔で頷いてみせた荒船にそか、と呟いた。
「鯖の味噌煮するつもりだけど」
「それでいい」
お前の作るものなら大体美味い、との言葉には素直に照れる。
「っていうかお前そんなもんつくれんのか」
「圧力鍋様に頼る」
 数ヶ月前に買った圧力鍋はとても使い勝手が良い。特別料理が得意ではなかったはずの穂刈が、主婦顔負けの料理を出せるようになるくらいには便利だ。その経緯を知っている荒船はなるほど、と呟く。
「骨まで食えよ」
「食えるように調理しろよ」
「圧力鍋様がしてくれる」
「なら食う」
「ついでに手伝え」
「皿並べるくらいしか出来ねえけど」
「じゃあそれで」
「おう」
なら行こうぜ、と荒船が立ち上がる。
 テレビの画面ではまだ、気の抜けた音楽と星が舞っていた。



鯖の味噌煮をつくる穂刈くんと荒船さん
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重ねる度に薄っぺらくなる。 忍林

 ちゅく、と音がした。まるで中学生みたいだな、と思う。ただの行為なのに、そこに意味を探したくなる。女々しく、特別でいなければならないと、そう叫ぶように。
 そんなことを考えていたからだろうか、いつものようにそれが終わったあと、葉が転がり出た。
「なんでお前キスすんの」
ヒかれるかな、と思った。思ってから、それでも良いや、とも思った。元々意味のない行為ならば、別にここでやめたって変わりはない。
「俺のことすきって訳じゃあねえんだろ」
追撃のように更に転がり出る言葉。
 それを受けた忍田は、難しい顔をしてみせた。
「…分からん」
「分からんて」
ああ、ほら、意味などなかった。自嘲めいた感情が胸から上がってくるのを感じて、何でだよ、と一人で突っ込んだ。何をもってして、自嘲なんてせねばならないのか。
 まだ忍田は難しい顔をしていた。じっと、林藤の表情を観察するように見つめてくる。
「…ああ、でも今は、キスなんかしなければよかったかもしれないと思っている」
「じゃあ、」
「だからと言って、やめられる訳でもない」
その言葉には?と声を漏らすより前に、引き寄せられた。触れる唇。さっきまでとは何も変わらない。
 はず、なのに。
「…意味、わかんねえよ」
「なにがだ」
「うるせえ」
 何かが変わったような、そんな気がするなんて。



一人遊び。
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このあと滅茶苦茶セックスした 風歌

 ひとには得手不得手というものがある。それをしっかり理解しているつもりの風間にしたら、年下の恋人がその愛情を言葉にすることをひどく不得手としていることもよく分かったし、その代わりと言ってはなんだが、こちらが愛の言葉を綴れば、可愛らしい反応を見せてくれるのでそれはそれで満足感を得られていた。
 のだが。
 目の前であちらこちら視線を彷徨わせ、落ち着きのない様相を晒している歌川からは、どうしても言わねばならないとばかりの気迫が感じられた。故に風間はいつものように先に何を言うこともなく、ただその口から言葉が発せられるのを待っている。
「かざま、さんっ」
「なんだ」
「その、…あのっ」
こんな遣り取りを先ほどから何度も繰り返しているのだが、兎にも角にももじもじとする歌川は大層可愛らしいので、風間の側からしたら特に不都合はない。少々据え膳を食らっている気分になる程度だ。
「その………いつも、言葉に、出来ないですが」
「ああ」
 進んだ、と思った。その決して手入れされているという訳ではない、ささくれの目立つ唇がまるで今生まれ落ちたとでも言うように震える。
「オレ、は。風間さんが、すき、です」
言ってからぎゅっと目を瞑る姿に、胸の辺りからあたたかいきもちが湧いて来た。そっと、距離を詰める。
「ありがとう、俺もだ」
そう言えば緊張が解けたようにふっと目を開けた歌川に、風間はそのまま接吻けを落とした。



ask

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図書室の窓辺 菊時

 眠っている。それは見ればわかった。呼び掛けようとしたその声を飲み込んで、静かにその正面へ回り込んだ。春の光がやわらかく窓から差し込んでいて、それとはうらはらにまだ冷たい風が通り抜けて行く。
 静か、だった。別れの名残もそこそこに、始まった部活動の声も気にならないほど。
 時枝充は誰も拒まない。そう思っている人は多いのではないか。そんな幻想を菊地原は嘲笑う。彼の擬態は殆ど完璧に近い。彼の隊長の方もその言葉にとても良く似合う性格をしてはいるが、菊地原はその隊長よりも時枝の方が重症であることを知っている。
 こうして眠っている時だけ、彼は安心して本性を曝け出す。誰も知らない弱い時枝充を、なんとしてでも守ろうとやわらかい拒絶の膜を作る。それが、菊地原には心底愛おしい。
 あれほどに、あれほどに! 人を愛してやまないというような表情をしてみせる、そんな人間の腹の中を垣間見ているようで。
「ときえだ」
小さく呼び掛けると、肩が僅かに揺らいだ。
「きくちはら…?」
「そだよ、起きて」
きっと時枝自身も知らないであろう、薄暗い、やわらかいいばらのことを。
 菊地原は誰にも教えるつもりはなかった。



図書室の窓辺に眠る姫君が纏う荊のやわらかな棘 / みずたま

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君の涙は君のかなしみ 三輪米

 涙は繰り返される。
 それを米屋は身をもって知っている。理屈がどうとかではないのだ。ただキャパシティオーバーの悲しみを、自分自身に塗り込むように繰り返さなくてはならない。だから三輪は涙する。米屋の前で、何度も何度も。正直それは見慣れたが―――
「ようすけ」
掠れた声が耳へと滑り込む。
 先ほどまで泣いていたなんて嘘だと思うような鋭い視線が米屋を射抜く。
「ようすけ」
縫い付けられたように動きを止めた米屋に、まるで縋るような丁寧さで三輪は口吻けを落とす。何度も何度も。触れるだけ、触れるだけ、それを繰り返す。
 かなしみの味には、まだ慣れなかった。



繰り返す、自身、先ほどまで
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両手を広げて絶望に案内せよ 忍太刀

 向き合った顔は戦士の表情をしていた。
「来い」
対する姿勢は獲物を構える、それ以外にあり得ない。
 丁寧に、育てた方だと思っている。自分の身を守る武器を愛するように、惜しみない愛を注いだと、自負している。自分にはそれが出来た、自惚れでも何でもなく、ただの観測結果として、忍田はそう思っている。
 見つめ返してくる曖昧な色をした瞳は、じっと忍田を見つめていた。何処か伽藍堂に感じるその視線に火を付けるように、構えた獲物の切っ先を向ける。
「いつだって殺してやる」
すると、スイッチが入ったようにするりと同じ獲物がこちらを向いて、そして、にっとその唇hの端が吊り上がった。獰猛な、笑みだった。それを見て忍田は息を吐く。この獰猛な笑みがこんなにも。
 嬉しい、なんて。



しろくま
http://nanos.jp/howaitokuma/

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首をなくしたデュラハン 菊時

 ないと困る、という訳でもなかった。ただ、落ち着かないというだけで。最初から切り離されていた、そんな気もするのに、ずっと手に持っていたような。
そんな気もして。
 まるで、有名なライトノベルのようだった。なくしてしまった首を探している、でもないからと言って困ることは別段ない、そんな感じで。そもそも感覚としては最初からくっついてなどいなかったのだ。接合していない身体の一部など、元からないのと一緒ではないか。ライナスの毛布だとか、もしかしたらそういう類のものだったのかもしれない。其処まで考えて、くあ、とあくびが出る。
 手元の課題は一文字だって進んではいなかった。目が勝手に壁掛けのカレンダーへと走って行く。今日の日付は先ほどとは変わらない、丸のついた日までまだ三日もある。
 遠征組の帰って来る日。それが、赤く記された丸の意味。
「…はやく、三日経たないかな」
はやく帰って来ないかな、そう言わないのは立場を理解しているから、そう言えたらよかったけれども。
「オレが世間体気にしてること、言ったらきっと怒られるよね」
 いつもなら容赦なく怒ってくれる、大切なひとがいない日々は、あまりに味気なかった。




青色狂気
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熱っぽいので冷たい手を所望しています 林迅

 熱い夜だった。熱いのは夜ではなくて自分なのだと本当は分かっていたが。
 氷枕の冷たさも、冷感シートの冷たさも、もう分からなくなって。自分がふわふわとした脳みそだけになったような、そんな感覚だった。
 そんなふうに思ったら急に不安が襲ってくる。自分が今此処にいるのか怪しくなって、目に映っているこの人まで夢か何かのようで。喘ぐようにその名を呼ぶ。
「りんどーさん」
「何だ」
「いる?」
「ここにいる」
「うん」
本当かもどうか分からない声と会話をしていたら、頬に何か当てられた。
 冷たい、けれども氷のような無機質な冷たさじゃあない。
「…手?」
「ん? ああ、手だよ。ほっぺた真っ赤になってるから」
「まっか…」
「熱出てんだからまぁ、仕方ねえよな」
でも心配になるくらい赤いから、と林藤は手を添えたまま何やらごそごそとしていた。
「熱、もっかい計ってみるか?」
「んー…」
「ほら、ちょっと手あげろ」
言われるままに手を上げると、わきの下に体温計が差し込まれる。その先端の冷たさが腋窩を刺激して少しふるえた。
 すぐにぴぴっと音を上げた体温計が引き抜かれる。
「まだ高いな…」
画面は見せてもらえなかったけれども、その表情から大体予想はついた。
 りんどーさん、と体温計をしまっている人に声を掛ける。その声にも力がなくて、いよいよ自分は病人なのだなという気持ちが湧いてきて、少し笑ってしまった。
「りんどーさんの手、つめたくてきもちい」
そう言えば、少しでも、と思うのか、額に乗せられる手。
「おれが寝るまで、ここにいて」
「はいはい」
 眠るまではこの手は自分ひとりのものだと思ったら、眠ってしまうのがひどくもったいない気がした。



確恋
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***

20140809
20140920
20141015
20141024