「何も出来ないなら、せめて笑えよ」 三輪米 苦しそうだなあ、と思う。息も出来ないみたいに、ずっと下を向いて、首がもげてしまいそうだ。 可哀想。な、部類なのだろう。米屋にはそういう難しいことは分からない。だってそういう目にあっているのは何も目の前の三輪だけではなくて、それなのに米屋の目にはいるのは目の前の三輪ばかりで。だけれども彼のことを可哀想と思うのかと問われると、それも何か違うような気がして。 秀次。 呼ぶ声は明るく、触れる前に掛けること。勉強を教えてほしいという名目で暇な放課後は家に押し掛けて、泊まってけと言われた日は素直に泊まること。そのために三輪家に着替えを何かしら理由を付けて置いておくこと。歯ブラシは持ち歩くこと。三輪が悪夢で魘されたなら起こしてやること。その時に魘されていた旨は伝えないこと。 たくさんの制約を拾い上げて、そうしてその壊れそうな背中の荷物に気付かれないように手を貸す。 でも知っているのだ。それが三輪にとってなんの意味も持たないことを。 * 一人遊び。 http://wordgame.ame-zaiku.com/ *** 甘くもっとどろどろ煮詰めて 風歌 三歩後ろをついてくる、いつの時代の貞淑な妻なのかと思うほどだった。最初は自分に自信がない故の行動なのかと思ったが、どうやらちがうらしい。過ごした時間は三年と少し、だけれどその人間性をつかめないほど、それは難しいものではない。 「かざまさん」 もた、り。艶出しのゼリーが溶けるような温度の声。 「何だ、歌川」 それを嫌だと感じない、それどころか嬉しいと感じるなんて、ああ、どうやら俺も末期なようだ。 *** 擬似的ネクローシスの反復 菊時 左側の視界がごっそり失われていた。もくもくと上がる黒煙が右側も邪魔をして、ああ早く収まってくれないかな、と思う。けれども漏れ出るトリオンは生身で言う血液みたいなものではあるのだから、この欠損だとすると止まるまでに時間が掛かりそうだ。 「時枝さぁ」 少し離れた場所で菊地原がぽつり、呟いた。 「そんな状態でまだぼくに勝つ気なの」 カメレオン禁止のハンデをつけてもなお、その差は明確だ。もとより時枝がサポートを得意とする性質であることも勿論あるが、それだけではいられないことも分かっている。息を吐く。 「は、菊地原、それで煽ってるつもり?」 気付かれないように内腿に力を込めた。一瞬、一瞬で良い。トドメを刺そうと徐々に詰められる距離。油断なんてきっとしてくれない、菊地原はそういう人間だ。だから、チャンスは一瞬。 その刃がこちらへ届く前に、この刃が彼を穿けば良い。 * http://shindanmaker.com/a/253710 「煽る」「内腿」「徐々に」 *** 生きている死体 迅遊 これは紛い物なのだよなぁ、とちょうど目についた頭をもふもふと撫でてみた。思いのほか触り心地が良い。髪の毛の質とかそういうものよりも、もしかしたら頭の形とかが良いのかもしれなかった。本当のところ、大したことも考えずにむしむしと撫で回していただけなので、心地好さの理由などどうでも良かったのかもしれない。 「迅さん?」 どーしたの、突然。不思議そうな瞳に僅かに混ざる疑い。それはきっと、いつもと違う行動に対する警戒だ。一緒にいるるものが味方だとは限らない、味方が裏切らないとも。そんなことがずっと頭の隅にくっきり刻まれてる、そんな感じ。 それを悲しいだとか可哀想だとか、そうは思わない。ただ、お前のいちばんはお前をそう育てたのか、そう思った。 「んー…なんとなく?」 「なにそれ」 「おれにもよく分かんない」 そんな曖昧な会話をしてやれば、微妙にサイドエフェクトが疼くのか困ったような顔をされた。 なぁ、心の中でだけ問う。俺たちのいちばんは、どうして俺たちをおいていってしまったんだろうな。連れて行ってはくれなかったんだろうな。どうして。 この世界が、俺たちがあるだけで良いなんて顔して、死んでいったんだろうな。 * 一番星にくちづけを https://twitter.com/firststarxxx *** 君が追ってこれない世界に逃げてみたい 米出 嘘みたいにあっけらかんと笑うやつだと思っていた。こっちがどれだけ考えたか、苦しんだか、知らないで、まるで馬鹿馬鹿しいとでも云うように、軽く笑い飛ばしてしまうひどいやつだと。 けれども大丈夫、と笑うその姿も、馬鹿の一つ覚えみたいに敵に向かっていく姿も、やたらと格好良く見えるのだからもう末期だ。恋の病とは良く言ったものだ、本当にその通りだ、病だ。 「どしたの出水」 がしょん、と近界民が地に伏す。ばらばらになったそれに、もっと綺麗に出来ないのかと問う。下校最中、本部への道すがら。目の前で門が開けばやることはひとつな訳で。 するとお前だって同じようなもんじゃんね、といつもの笑みが返って来て、それに安心している自分がいるのだから本当に救えない。 「俺ならもっと上手くやるし」 「輪切りがミディアムになるだけだろ」 「ばっか、俺がやったらウェルダンだし」 中身のない会話でそれを流して、それから。 強くなったな、と言われた気がした。勿論最初からこっちの方が強いのだけれど。A級にあがったのも、遠征に出たのも、一歩先を行っていたし行っているはずなのに。 「…なぁ」 「なに」 くるり、振り返る顔。すべて、お見通しとでも言うような。 ああでも、どうせ何処まで行ったとしても、平然とした顔で馬鹿笑いをしながら、こいつは後ろをついてくるんだろう。 * (そうであって欲しいなんて女々しいにもほどがある!) しろくま http://nanos.jp/howaitokuma/ *** 愛されるのに強さは当然必要です。 佐当 *師弟関係捏造 *嵐山隊と冬島隊の模擬戦ワンカット的な 一瞬が命取りになる。そう教えてくれたのは師匠でもあるこの人だったなあと、佐鳥は心の隅で思い出していた。 付きつけられた銃口の冷たさなど分からない。そもそもこれは狙撃用のトリガーなのであって、こんな至近距離で打つものではないのに。 「お前はやっぱり詰めが甘ぇな」 ちらり、揺らいた瞳を見逃すほど佐鳥は甘くはなかった。 その目をじっと見返して、引き金が引かれるのを待つ。 こういう目をしてほしくないと思っていた。嫌だとか、そういうことよりかはさせてしまうことが悲しかった。 「お前は死ぬって考えたことある?」 どうにも狙撃が上達しなかった頃の佐鳥に、当真がそう尋ねたことがある。 「緊急脱出機能だって万全じゃねーって、死ぬかもしれない場所にいるって、自分が死んだあと悲しむ人間がいるかもしれないとか…考えたこと、ある?」 何をセンチメンタルなことを言うのだ、と当時は目を見開いたものだが。 ―――だから、ひとは、いきようともがくのでしょう? その答えを、今なら言える。 「…すみません」 引き金に掛かった指に力が入るのを見てそう呟く。 「もっと、強くなりますから」 「たりめーだボケ」 ぱん、乾いた音一つ。 『トリオン供給機関破壊、佐鳥ダウン』 * 旧拍手 *** 遠くへ行く貴方のさよならと云う嘘に頷く嘘が、見破られませんように。 太刀嵐 嘘を吐くのが苦手だった。それに加えてそのぼんやりと曖昧な瞳は深く、何処までも見通されそうで、よりいっそう嘘を吐くことが苦手になった。 「あらしやま」 にゅっと伸びてきた手ががし、と手首を掴む。身長はそんなに変わらないはずなのに、どうしてか彼の方ががっしりしているように見えて、これが鍛え方の差かと少し落ち込んだ。 「それ嘘でしょ」 「…なんでバレるんですかね」 「なんでって分かりやすすぎだし。ってか俺で練習すんなよ」 「良いじゃないですか、別に。どうせ太刀川さんは全部わかっちゃうんですから」 いつか、日常の一部になれば良いと思う。呼吸(いき)をするのと同じなるように。 この練習すべてが報われるものとなれば良い。 * 旧拍手 *** 狭い布団の上の世界だけでも良いから 三輪米 「ようすけ、」 舌がもつれるような拙い声に、米屋は慣れたようにはいはい、と返事をした。時間は夜中の二時。一度落ちた眠りから浅く揺り起こされるなんて、そんな非常識なことをする人間を米屋は一人しか知らない。 掛け布団を捲って壁際へと寄って、そうして開けたスペースをぽんぽんと叩いてやれば、その影は安心したように息を吐いた。それからそのスペースへと潜り込んでくる。 「しゅーじ」 「起こして、悪かった」 「んーん、べつに」 擦り寄ってきた頭を抱えると、嬉しそうな吐息が漏れた。 「ゆめだよ」 安全が確保された、そう相手が思ったであろうところで呟く。耳に吹き込むように、お伽話でも語るように。 「おまえがみたのはゆめ、だよ」 「…分かってる」 「でもこわいんだろ」 「…うるさい」 ぐり、と頭が押し付けられた僅かな痛みに笑ってから、宥めるように撫ぜた。 「だいじょうぶだよ」 呪文か何かのように、毎回この言葉を繰り返す。 「このせかいはこわくはねーから」 世界は美しい、なんて。 そんな当たり前のことを何度唱えれば、君は救われるんだろう。 * 旧拍手 *** セプテンバー (菊栞)←歌 隣に寄り添うその姿が、あまりにも可愛らしくて。いつから付き合っていたのだとか、そういう関係だったのかとか、何も聞かされていないとか。いろいろとを一瞬のうちに過ったはずのあれやこれやは、ふっつりと消えてしまった。 ただ隣り合って立っているだけの光景のはずなのに、ひどくそれは世界を構成しているようで、二人が特別な関係にあるのをまざまざと見せつけられるようで。 ―――いいなあ、羨ましいなあ。 そう、心の底へと沈殿していった言葉は、一体誰に向けたもの。 * 旧拍手 *** あこがれ 太刀川 その切っ先が。滑るように空気を斬り裂いてその先に届こうという時。 タイミングはばっちりだった、けれども呼吸の感覚だとかそういうものが読まれていた。かつん、と軽い音で手を離れた刃が驚くほど遠くに飛んでいく。頼み込んで作ってもらった師匠のニセモノが、感情のこもらない瞳でこちらを見ていた。そして、そのままばっさり、袈裟斬りにされる感覚。 ニセモノだとて、まだ越えられない。 *** 20140630 20140709 |