僕はヒーローじゃない 太刀川
 真っ黒い死神のノートの漫画のことを世間に遅れて把握して、タブレットで既に完結していたそれを一気買い一気読みした時、誰一人として似たようなことが現実に存在するなんて思っていないんだろうなぁ、と思った。そもそもきっとこんな異世界人と戦っているなんて、それだってテレビや漫画の中の世界みたいな話だし、それに伴って不思議な能力が存在するなんてやっぱりあんまり信じられないことなんだろうと思った。
 太刀川慶の目には、人間の寿命が見える。
 勿論、それが絶対なものではない。友人の自称エリートが言うように、絶対なものというのはない。運命というのは幾つかの分岐があって、その時にその人間が死ぬかはその時にならないと分からない。
 大抵の人間は幾つかの数字を持っていて、そういう時は少し、少しだけ話をしたりするだけでその数字は消えていくものだが、時々どうしても一つの数字しか見えない人間というのがいる。今、話している子も、そうだ。
 駅でぶつかった人間。太刀川の顔を知っていたらしい。家族を助けてもらったのだとその子は言っていた。太刀川にではなく、ボーダーに、だったけれど。
「本当に、本当にありがとうございます」
片足のないそのシルエットで、自分のことに触れないのはそれが近界民の仕業ではないからだろうか。
「あ、そろそろ行かなくちゃ。ありがとうございます、いつかお礼を言いたいと思っていたんです」
「いやおれは。…なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「貴方、今幾つ?」
なんだそんなこと、と笑顔と共にこたえが返ってくる。
 頭の上に、ある数字と同じ年齢が。
 その日の夜、テレビで駅での事件を見た。足が不自由な人が階段で足を滑らせ、頭を打って死んでしまったという事件だった。



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相手の寿命が見える太刀川の話
20160328

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ブルー・レモン・ハート あらほかあら

 穂刈篤には少しだけ面倒な幼馴染がいる。
 あつしくん、ごめんなさい、とぽろぽろと涙をこぼす女の子に、穂刈はため息を吐いた。その向こうではにやにやと幼馴染―――荒船哲次が笑っている。何度目だろう、これ、と穂刈が少しだけ気怠い思いを抱えながら二人を見つめているのを、対称的な二人は見返してくる。
 とりあえず、と穂刈は口を開く。
「良いから、もう」
「じゃあ、」
「別れよう」
こうなった時点で穂刈の答えは決まっていた、元よりそうしようという頭があった。何故ならこれが一度めではないから。ついでに言うと、もう両の手で数えられないくらい起こっていることだから。
 女の子の目からまたぼろり、と大粒の涙がこぼれ落ちる。荒船はそれをにやにやと見ている。可哀想に、と思うことはしない。穂刈は最初からこうなることを分かっていた。
「………うん、そう、だよね」
うん、うん、と自分に言い聞かせるように女の子は頷いて、それから涙を拭って笑顔を見せた。
「ごめんなさい、穂刈くん。でも、わたし、ほんとうに貴方のことがすきだった」
過去形。きっともう、荒船に心が移って、でもそれは叶わないことだと理解したのだろう。賢い、と思う。選んだだろう、そういうのを込みで、と自分にツッコむ。
 そうして女の子が走り去ったのを見届けてから、荒船はさっきよりもずっとにやにやとした表情で穂刈と肩を組んできた。
「なんでお前って俺になんも言わねえの?」
楽しそうだな、と思う。いつもこうだ、とも。
 荒船には悪癖がある。穂刈の彼女を横から取っていくのだ。毎回、毎回。それが当たり前だと言うように。
「俺から誘ってきた、ってあの子言ったじゃん。なんで何も言わねえの? あれ、あの子の嘘だと思ってる? まさかなあ、お前でもそんなことはねえよな。なぁ、なんで? これ何回目だよ? 俺が聖人君子だとでもおもってんの? なぁ? 何か言えよ、何で次々に彼女取られてフツーの面してんの?」
「…別に」
「別に?」
「してない、普通の顔なんか」
「してンだろ、」
―――当たり前、みたいな顔してンだろ。
 その言葉に穂刈が顔色を変えることはしなかった。それに満足したのか、荒船はそう、と頷いた。何がそう、なのか分からないが。
「図体ばっかでかくなってよ。中身なんにも変わってねえのに」
そう言って笑う荒船はとても楽しそうだ。
「………楽しそうだな、随分と」
指摘する意図はなかった。ただ、感想を述べたようなもので。
「お前の選ぶ女、ハズレねーからすき」
 嬉しいんだろう、それが、とは言わない。言えば最後、穂刈の方からラインを越えることになる。それは、しては、いけない。
「早く新しい彼女出来ると良いな」
もう一度笑って、荒船は歩き出す。穂刈はそれについていく。

 穂刈篤には少しだけ面倒な幼馴染がいる。そしてそれにずっと付き合っている穂刈も、恐らく世間様からしたらやっぱり少しだけ面倒なのだろう。



20160803

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死ぬには夏がちょうどいい、 エネ+ミラ

 音がしない、と思ったことがある。城というには其処はきっと小さかっただろうし、だからと言って屋敷、というには少し大きすぎた、と思う。アフトクラトルの夏というのは夜が長くなるだけのもので、音のしない静かなものだった。というのは他の国家を侵略していく中で知ったことで、エネドラのその知識の分誰かが死んでいる、ということでもあったが。
 そういった道を選んだ、と言うとそれは少し違う、と思う。だがしかし、選ばされた、と言うのも違う気がした。城とも屋敷とも言えないその場所はエネドラにとっては箱庭だった。遠征や任務は其処から出られる唯一の手段だった。
 エネドラは外の世界が知りたかった。
 知って、そしてそれを誰かと共有したかった。
 けれどもエネドラはあまり口が上手い方ではなかった。なかったし、何をどう話せば良いのか、そういうことは習わなかった。エネドラが知識として持っているのは隊長の言うことをどれだけよく聞くかということであり、誰かとのコミュニケーションはそれに含まれていなかった。兵の間に感情は必要ない。それがこの国の上に立つ者の考えであったようだった。
 だから、という訳ではないけれど。
「エネドラ、というのね」
一人、音のしない夏の光の中で林檎を囓っていた時に声を掛けられて顔を上げると、其処には少女がいた。見たことがある、と思う。まだ同じ部隊に配属されたことはなかったけれど、エネドラと同じように黒トリガーに適合した角付きのことを話にだけは聞いていた。
「大人たちが話すのを盗み聞きしちゃった」
ミラ、と名乗った少女の角は黒く染まっていた。エネドラと同じように。
「ねえ」
隣に座って良いかしら、と笑ったミラにエネドラが拒絶を示す理由は何処にも見つからなかった。林檎を二つに分けて、そうして渡すと、ありがとう、とその小さな口が林檎を囓った。
 ミラとの時間は静かだった。
 その季節が夏だったからかもしれない。
「もうすぐ侵略が始まるわ」
外の世界の話をぽつりぽつりとするエネドラに、ミラは小さく微笑んで、それから悲しそうな顔をしてそう言った。もう始まっている、と言うエネドラに、ミラはもっと本格的に、と続ける。
「そうしたら私たちはもう子供扱いはされなくなって、兵士として国に仕えるようになる」
「…子供扱いなんて、されたことないだろ」
「そうね、そうかもしれないわ」
でも、此処で過ごす夏はこれが最後になる。
 エネドラはその横顔を見て、ああ、と思った。死地へ赴く兵士のようであると。角があるからではない、その角が黒く染まっているからではない。ただ、既に彼女の中では覚悟が出来ているのだと、そう思った。
「この夏がきっと最後になる」
ミラは膝を抱えて言う。
「そうしたら、もう、此処には戻って来れない」
「戻って来たいのか」
「…分からないわ。でも、此処以外に戻る場所なんてないのに、此処まで取り上げられてしまったら」
私はどうすれば良いのかしらね、と泣きそうな顔をするミラに、エネドラが出来ることは殆どなかった。けれどもミラにそんな顔は似合わないと思った。
 音のしない夏を、エネドラはただミラとだけ過ごした。
 箱庭の中で、ただ抱き合っていた。
 恋情があった訳ではない。家族のような情が湧いた訳でもない。エネドラはそういうものは知らなかった。知らないように育てられた。この国のため、この国の将来のため。それでもミラを一人、膝を抱えさせておくのは違うと思った。ミラは何も言わずに、同じようにエネドラに腕を伸ばした。
 ミラの将来は知っている、女の身であるというだけでエネドラよりもずっと鮮明に、ミラの将来は決められている。それはエネドラやミラには手の届きようのない事実であったし、どうこうしようとは思わなかった。
―――この国に生まれたのだ。
―――この国のために生き、
―――この国のために死ぬのだ。
言葉にはしなかったがお互いがそれを知っていた。既に造られた道の上を歩かされることに対して何の感情も抱かなかった。
 けれども二人は箱庭の中で、ただ抱き合っていた。
 音のない神の国の夏を、刻み込むように。
―――例えいつ、如何なる理由で死んだとしても。

 音のない夏を、死んだようなこの夏を、忘れることがないように。



20160803

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零れ落ちる真珠色の涙 三輪米

 きれいだな、と思うことがある。
 人が抱えきれない悲しみを溢れさせる場面のことを、静かに声もあげずに泣いている姿のことを、そんなふうに言うなんてひどい話なんだろう。それは米屋も分かっているから何も言わない。感想なんていだきませんでした、という顔をして傍に寄っていって馬鹿みたいに笑うのは得意技だった。
「しゅーじ」
夜空には月が光っているばかり。雲もなくて、隠れる場所もない。
「朝飯、パン焼いてバターとマーマレードたっぷりにしような」
 だから、そんなどうでも良い話しか出来ないのだと、信じていたかった。



夢見月 http://aoineko.soragoto.net/title/top.html

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明日は雨 林こな

 涙が止まらない日があった。
 どうして泣いているのか自分でもよく分からなくて、ままならない言葉のまましがみついた先にひたすら言葉を零して。こんな自分はかっこ悪い、とすら思うのに、他に出来ることもない。ただただ涙も言葉も止まらないのを、その人はただうん、うん、と聞いてくれていた。
 今にして思えば、くだらないものだったのだと思う。よくある子供の言い争い、そうなった原因すら忘れてしまうようなもの。珍しくもなんともない話、だから本当は小南がそこまで泣くことも、かっこ悪がることもなかったのだ。でも、子供の世界というのはとても狭くて、些細なことで大きな壁に四方を囲まれているような心地になって。自分がふいに浮き上がってしまったような気がした。だから、多分、手を離せなかった。
「こんなの、」
涙で歪んだ世界の中で、小南はそう吐き出した。
「かっこわるい」
 肯定されるのだろうか、言ってからそんな不安に駆られる。けれども、だからと言って否定もされたくなかった。我が侭だ、答えなんて何処にもない。そう思って顔を上げた先で、その人は優しげな顔で小南を見ていた。
「なにも、いわないの」
言ってほしくないくせに、逆の言葉が口から出て行く。
「言わないよ」
何が欲しいのかも分からないのに、反応だけは欲しがるなんてひどい話だ。でも、その人は頷いただけだった。
「だってお前の中ではそうなんだろ?」
だから、聞くよ、と。いつものように小南の頭を撫でる。
「ならそれで良いじゃん」
「いいの」
「良いと思うよ。…もっと教えてよ、お前の見てる世界」
「………うん」
 多分、その人のことを狡いと責めるべきだった。
 それでも小南はそう言ってもらえたことが嬉しくて、だからだいすきよ、たくみ、とその人を抱き締めたのだ。



雨だねと君が言ったらそうだねと僕は答える 嘘のつき方 / 黒木うめ

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bad dream ヒ+玉狛

 あのへらりとした口調にうっかり絆されて連れてこられたその場所で、結局のところ拷問を受けるのだと思っていた。
 のだが、どうにも雲行きがあやしい、とやっとのことでヒュースは気付いた。
 まずジンとかいう奴に乗せられたクルマに乗っていたレイジという人間。先ほどまで戦っていたはずなのだが開口一番聞いてきたのは「何か好きなものはあるか?」だった。何を聞かれているのかわからなくて、けれどももしかしたらそれを目の前につるさげて、なんて初歩的なことをするのかもしれない。そう警戒して好きでも嫌いでもないものを答えておいた。それはどうやらこちらの世界にもあったらしく、レイジはなるほど、と頷いただけだった。
 それからタマコマ支部に連れてこられて、やはり先ほどまで戦っていたキョウスケという奴に手を差し出された。「これからよろしく」との言葉に固まってから、思わずその手を跳ね除けた。別によろしくするつもりはない。生まれた国に帰ることを、諦めた訳ではない。キョウスケとにらみ合っていたらシオリとヨウタロウが出てきて、仲良くしなさいと叩かれた。と言ってもやたらと優しいものだった。ヨウタロウは小さいからともかく、どうやらシオリは戦闘員ではないらしい。此処から脱走するのならこの二人のどちらかを人質にするのがいいのかもしれない。
 そうこうしている間に夕食の時間になったらしく、レイジの声で全員が皿を並べたり何だりをし始めた。ヨウタロウに「ヒュースもてつだえ!」と言われてしまえば、年少のものにあれこれ言われることで傷付けられるプライドの方が勝って、結局手伝った。本当にレイジはさっきの答えを活用してくれたらしい。別にそれは好きでもなんでもないが。
 食卓がきれいに彩られる頃には支部長ともう一人が帰ってきた。髪の長さが違ったので一瞬気付かなかったが、開口一番「なんでコイツが此処にいるのよ!?」と指をさされてその声で思い出した。支部長がまあまあと宥める傍ら、疳高い声でキャンキャン喚かれたので何を言われたかよく覚えていない。正直中身がなかった気もする。ただ気に入らないだけらしい。彼女(コナミというらしい)の言い分を一通り聞いてから、「でも俺がそうしたいの」と支部長が言って、それで彼女は席についた。どうやら彼女の中で支部長は絶対らしい。単に諦めのような気もしなくもないが。
 夕食のあと、ちょっとおいで、と支部長に呼ばれた。此処から拷問が始まるのか、と思ってついていくと(コナミも後ろからついてきた)、渡されたのは大量の絵本と書き取り帳だった。「とりあえず読み書きははやく出来るようになっといた方が良いだろ?」と、なんでもないことのように言う支部長に何も返せなくて、隣のコナミに「返事は!」と怒られた。
 なんだかすべてが夢のようだった。悪夢だった。ここは敵陣なのにこんなに普通で、不安が頂点に達してそのまま絵本や書き取り帳を抱えたままその場に座り込んだ。隣でキャンキャン言っていたコナミが慌てて背中を撫でてくれた。優しい声で「大丈夫よ」と言われて、もう、何が何だか分からなかった。
 夢ならはやく覚めて欲しいと思った。



ask
20150917

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鯨が泳ぐネオンの街 城戸三輪

 守らなければ、そんな高尚な思考は持ち合わせていなかった。ただあの日の無力な自分を肯定したくなくて、ひたすら走ると決めただけ。それを見抜いていたはずの大人たちは、大人は、どうして三輪をボーダーへと招き入れたのだろう。確かに精神鑑定でも問題は出なかったが。
 それでも。
 自分という人間の危うさ、などと言うのはとても腹が立つけれども、そういうものを三輪は自覚している。隠しきれていないだろう、ことも。
 なのに、大人は三輪に戦えと言うのだ、戦って良いと言うのだ。
―――どうして。
疑問は、言葉にすることは出来なかった。
 した瞬間、許可された以上の領域に踏み込むことになりそうで。大人なのだからきっと、そんな子供の足などでは荒らせないと思っても躊躇が生まれる。
―――貴方は。
 何も聞かない方が良いと分かっていた。その傍らで、何か聞きたいとも思った。何か知りたいと、何か、何か。
「城戸司令」
そっと、名前が紡がれる。
「どうでも良い質問ではあるのですが、」
静かな部屋の中、光を放つデジタルパネルの移す街が輝いて見えた。
「なんだね」
「コーヒーはブラック派ですか、ミルク派ですか」
点々と記される近界民の出現ポイントがなんだか星座のようで、辿ってみたらなんとなく鯨のように見えた。



青色狂気 @odai_mzekaki

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最も深い憎しみは、最も深い欲望から生まれる。 城戸三輪

 復讐を望むか、とその声は言った。まるで裁判官のようだ、と思った。閻魔大王、嘘を吐くと舌を抜かれちゃうのよ、そんなふうに笑った姉を思い出す。
「はい」
だから三輪は嘘偽りなく答えた。
「この世界に、三門市に、近界民は必要ありません。だから、駆逐したいんです。一匹残らず」
 自分のような者がもう出ないように―――そんな奇麗事は言わなかった。そんな資格はなかった。この先誰が傷付こうと知ったことじゃあなかった、ただ三輪は、力が欲しいだけだった。
「良いだろう」
裁判官は笑う。
「ボーダーへの入隊を歓迎する」
これから共に戦おう、などと、裁判官も奇麗事は言わなかった。
 それがなんだかとても、嬉しかった。



by ソクラテス

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世界が終わる、その日まで 城戸三輪

 自分を見ているようだ、と思う。これは戒めか、と信じてもいない神に聞いてみたい気分だった。お前もこんな顔をしているのだと、そう鏡を突きつけられているようで。
 非常に。
「司令」
声が、現実へと引き戻す。
「悪い、何の話だったか」
「次回の遠征の話です」
「そうだったか」
「はい」
 変わらないだろうな、と思った。この先、何があろうとも。そういうものだった、城戸が抱えているものも、彼の抱えているものも。
 けれどもそれが少しでも軽くならないものかと、そんなことを考えてしまうのは。
「………私も年をとったな」
普段はしない呟きに目が丸くなるのを見た。それを見たらなんだか、まだ彼には救いがあるように思えて笑ってしまった。



飴玉 @odai_amedamabot

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君の隣は僕じゃない。 城戸三輪

 「三輪が心配?」
そんなことを聞いてきたのは今は敵対していると言っても過言ではない後輩だった。
「…私が部下の心配をしたら悪いのか」
「わるかーねえけどね?」
寧ろ良いと思うよ、と後輩は笑う。笑うけれども、それは何処か苦味を含んでいて。
「でもさ、城戸さんは三輪と一緒にはいられないじゃん」
それがこちらを揺らせたいための言葉ではないと、城戸は充分によくわかっている。
「いろいろ言いたいのは分かるし、なんなら俺だって何か言いたいなって思うし、城戸さんが一匹狼してたの思うとさ、後輩としてはそういうの嬉しい訳よ」
でもさ、といつもは吸っている煙草を取り出さないのは、彼なりの真剣さの表れか。
「ずっと一緒にいてやれないんだったら、やっぱり俺は、城戸さんが何か言うべきじゃないって、そう思うんだよ」
「…わかっている」
「うん、ごめん、分かってるのも分かってる」
「…わかっているが、どうにも、」
そこまで言って手を出すと、はいはい、と呆れたように煙草が乗せられた。
「俺だっていつもいる訳じゃないんですから、その癖もどうにかした方が良いですよ。答えたくなくなると煙草吸うとか、健康に悪そう」
「ヘビースモーカーに言われたくはない」
ぷか、と吐いた輪が三つ、上へと昇っていった。
 ひどいことなのだと分かっていても、その少しの間でも、なんて思うのは。
「…青臭いな」
「遅れてきた青春、ってやつ?」
「そこまでじゃない」
「なーんだ、つまんないの」
 輪はすぐに消えてしまった。それでも、掛けたい言葉は消えてはいかなかった。



「これからずっと 毎年 一生 全部の祭りで一緒にいてやれないんだったら やっぱりお前には何も口出しする権利はないんだよ」ハチクロ(花本先生)
20150917

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20200222