ソーダの泡は夏の味 風迅 お前と何処までも行ってみたかった。 そんなことを言ったら世界が平和になったら何処にだって行けるよ、と返される。其処にお前はいるんだろうな、なんて。そんなことも聞けないでいるのに。 *** 見えない明日が怖いのだ 林迅 夜が来る度に甘えたくなる、まだ自分は子供でいて良いのだと、そんな証明が必要になる。でもこんな力を持っている人間がそんなことを出来るはずがなくて、結局辿り着くのは共犯者のところで。 「不健康」 身長伸びないぞ、なんて言われても別に、伸ばしたいと言った覚えもないのだけれど。 「オレのこと必要じゃないって言ってよ」 「必要だよ」 その腕の中に潜り込む。この人が何もしてくれないことを知っていて。 「お前のことが一生必要だよ」 甘やかさないことを知っていて。 「お前がいなかったらオレは死んじゃうよ」 「…ボス、」 だから、笑う、笑える。この腕の中でだけは笑って良いのだと、そんなことを思う。 「嘘吐くの下手…」 夜が来れば朝が来る。 それを知っているから迅はただ只管に、朝が来ないように願っている。 * 暗がりで死す @odai_bot_11 *** 泣きたいくらいの青だった 林迅 とりあえず終わりだよ、と言って終わったよ林藤さん、とその身体が林藤の腕の中に飛び込んできて、だから林藤のやってやることは抱き締めてやることだけだった。 「おつかれ」 「うん、林藤さんも」 「がんばったな」 「うん」 「とりあえずの勝ちだ」 「これからも勝っていきたいね」 それにそうだな、と答えられなかったのは空が青過ぎる所為だった。少なくとも林藤はそう思った。 * 喉元にカッター @nodokiri *** 運命を嗤えよ 林迅 自分のことを不幸だなんて思ったことはない。大変には大変だと、それくらいは思うことはするけれど、持ってしまったものをなかったら良かったのに、なんて悲観することはもうとっくにやめていた。此処では必要とはされるものの期待はされないからかもしれない。未来なんてものを視ても視えるだけ、というのがあまりに普通に蔓延っていて、どうしようも出来なくても落胆されることはなかった。お前はまだ子供だから、と言われるようなことはなかったし、それなりに大人の扱いをされているとは思っていたけれど、大人とか子供だとかの枠組みの話ではないのだ、これは。 「林藤さん」 だから、一人の大人を呼び止める。 誰が一番のらりくらりと枠組みを構築するのを阻止しているのか、もう分かっていたから。 「どうやったら林藤さんみたくなれる?」 「俺?」 「うん、林藤さん」 「なんで俺」 「それ聞く?」 「何。聞かれたくないことなの」 「うん」 「えーお前でもそういうことあるんだ」 「林藤さんの中のオレって何なの?」 「おませなガキンチョ」 「もっと可愛く言ってよ」 で、と話題を戻す。 「どうやったら林藤さんみたくなれるの?」 「俺みたいになりたいの?」 「うーん…どうだろう」 「ええー、そこは嘘でもうんって言っておくとこじゃないの?」 「嘘吐いて良いの?」 「うーん…お前はそういうのだめそうだな」 「ええ、そここそもっとなんか…道徳的なこと言うべきなんじゃないの?」 「俺そういうの向かないもん」 「向かなくても出来るじゃん」 「出来るけどね」 やって欲しいんじゃないでしょ、と言われてしまえばそうだね、としか返すことが出来ないけれど。 「迅」 「なあに。答えてくれる気になった?」 「別に秘密にしようとは思ってないよ」 「その割にははぐらかしてたよね?」 「そういう訳じゃねえよ」 ただ難しい話だなって思っただけだよ、と言葉が落ちる。 「だって俺はさ、何か思って俺をやってる訳じゃないし」 「…まあ、そうかもね」 「だからなんて答えたら良いのか分かんないしさ」 「でも答えてくれるんだ」 「お前が大分気になってるみたいだったしね」 こういう時は大人が頑張んないと、と。 その言葉を聞いて、やっぱりこの人の中では自分は子供以外のなにものでもないのだと突きつけられる。 「多分さあ」 「うん」 「良いことをさあ、作るんだよ」 「作る?」 「ほら、トリガーだっていろいろ作るじゃん。それと一緒だよ」 「林藤さんは作ったの」 「作ったっていうか、結果的に作ってるっていうか。俺は楽しいこと好きだし、それを追ってたらそうなってるっていうかさ…まあ、ほら。考えてやってないんだよ。だから答えるの迷った訳」 「ふうん」 「お前な。お前が聞いたのに」 「林藤さんだって要領得ないじゃん」 「俺もまだ精進中なの」 「オレも精進出来るかな」 「出来るんじゃないの」 「雑」 そう言って笑い合ったら、どんな悲劇だって乗り越えてしまえるような気がした。 * 黄泉 @underworld_odai *** 枯れるほど叫んだ、届かななった、愛は枯れた 迅三輪 どうして腹立たしいのだろう、と考えられるようになったのはきっと、三輪が良くも悪くも大人になったからなのだろう。諦めというものの遣り方を知ったと言うべきか、視野が広くなったとでも言うべきか。ただ、自分がそんなふうになることをあの男は考えていたのだろうか、とも思う。あの男―――迅の中で、三輪はいつまで経っても守るべき子供であって、何処かで警告する冷静さで気付いていても、迅はそれを願っていたのではないのだろうか。 「…何か考えてる?」 本をめくるのをやめて、迅が顔を上げる。 「考えていたら悪いのか」 「そんなこと言ってないよ」 「そうとでも言いたげだった」 「オレ、そんなふうに思われてるの?」 秀次は手厳しいなあ、と笑うその笑みがいびつなのだと知った今でも。 結局、手厳しくあることを望まれているのだから、どうして、の先を三輪は考えることを許されない。 * 暗がりで死す @odai_bot_11 *** 許してほしいわけじゃないの 三輪米 秀次は結構モテる。この話を聞いてくれてるオネーサンがそのことをどう思うかは知らないけど、やっぱり、って思うのか意外って思うのか、それは分かんないけど、まあ、オレから見たら結構モテる。秀次に直接キャーキャーいう感じじゃあないから、ある意味ひっそりなのかもしれないけど。そんな秀次が誰でもないオレのことを好きだって言ってくれたこととか、ユウエツ? を抱かなかったかっていうとそんなことはない。オレだってわりと周り見てるんだぜ? だから秀次のことを好きな子たちがどんな子かっていうのも知ってる。こういうこと言うの、怒られるかもしんないけど、まあまあモテる子たちばっかなんだよな。可愛かったり、丁寧だったり、気が効いたりして誰かの心を絶対掴んだことがあるタイプの女子。秀次は気付いてんのか気付いてないのか分かんないけどさ。オレだってまあ、秀次が黙ってろって言わなかったら言いふらして回ってるような気がする。だって自慢だし。はしゃぎたいし。オレだって秀次のことが好きだし。でも秀次が黙ってろって言ったからオレはうんって言ったわけ。いろいろ難しいことも言ってたけど、まとめたら独り占めしたいからナイショが良いって内容だったから絶対守ろうって思うよな。今破ってるわけだけど。これには理由があるから許して欲しいんだよな。秀次には…黙ってるつもりだけど、オレ、秀次誤魔化すの下手だしな。どうなるかは分かんねー。うん、そう、秀次には言いにくいことがあった。別にいじめられたとかじゃねえよ? 誰かにバレたとかでもない。ショージキ、オレの周りの奴らってフーンで済ませそうな気がするし。いろいろ考えるのかもしんないけど、最終的に変わらないなーとか、そういう考えになるような気もする。オレが楽観的すぎるって言ったら反論出来ねーけど。まあそれは良いのよ。今は関係ないし。…そのさ、秀次のことが好きな女子がさ。そろそろ秀次に告白したいな、って感じの空気だったわけ。オレも長いこと秀次のそばにいるから、そういうの分かっちゃうようになったんだよね。あと、だいたい女子って秀次に直接行かずに、オレから探ってくー…みたいなこと、するし。秀次が好きなのはオレなのにね。告白、されたってさ。秀次が断るって分かってんのにな。オレはやだなーって思って。だから、その女子がたぶん最後の仕上げで、確認で、秀次に苦手なものないかなって聞いてきた時に、さあーって言ってさ。でもオレがいつもジュース渡そうとすると断られるんだよな、って付け足したんだよ。秀次がジュース断るのってオレがジュース好きだって知ってるからだし、好きなモンは自分で飲んで良いっていうやつで、まあちゃんと渡すために買ってきた、とかそういう時は受け取ってくれるんだけどさ。ただの会話だったらそんなのさ、フーンで流せるじゃん。でも相手は告白したいなって考えてる女子でさ。秀次が好き嫌いしないこと知ってて、いや秀次にも好き嫌いくらいあるんだけどさ、でもその子は知ってると思ってて、オレと秀次は一番仲が良いって思ってて、まあそれはそうかもしんないけど、………分かってたんだよなあ。オレ。そう言えばあの子が、秀次が人から食べ物貰わないんだって思うことくらい。その子は知らないと思ってたと思うけど、オレ、その子が料理趣味なの知ってたんだよ。秀次と付き合えたらお弁当とか作ってあげたい、とか思ってるのも知ってたんだよなあ。…それから、その子はオレに話しかけて来なくなったし、秀次も告白とかされてないみたいだった。別に悪いことしたとは思ってないけどさ、ちゃんと告白して振られるのと、勘違いで勝手に諦めるの、どっちがマシなんだろうなって思っちゃって。どうせ結果は同じなのにな。そ、これはザンゲってやつなんだよ。多分。でも、オレはどうしたって秀次の隣にいたいし、秀次はもうそういうことはやめろって言ったらやめるけど、秀次は知っても止めないような気もしてるし。そういうのって、どうなのかなって思って、だから誰かに聞いて欲しかったんだよ。そのクリームソーダはオレの奢りだから、それに免じて聞いたこと、忘れてくんない? それとも高校生からは奢られてくんない? 思ってたよりちゃんとした大人なんだ。まあ、どっちにしても忘れてくれるよな。 約束だぜ。 * 夏空 @sakura_odai *** 御伽話のはじまりはこうではないけれど 陽レイ 好きだよ、という言葉はとても大事なものなのだと知っていた。誰に教えてもらった訳でもないけれど、結婚は好きでなくても出来るけれど、好きでなくては出来ないことがこの世界にはたくさんあるのだと、陽太郎は知っていたから。だから、好き、という言葉は胸に抱いたまま、いつか本当に好きな人に渡せたら、と思っていた。 だから、というと、恐らく接続詞は可笑しいのだけれど。 「レイジ」 呼ぶ。少しだけ緊張が走って、それからなんだ、と返される。大事に育てられたと思っている。たくさん守ってもらったのだと思っている。レイジの言う好き、というのが陽太郎のものとは違っても、それでもこの感情を押しつぶしたりは出来なかった。 ―――違うよ。 困ったように笑って欲しかった訳じゃあない。 ―――誑かしたなんて、自分を責めるのは違うよ。 でも、陽太郎に力がないのは事実だから。 ちゃんといろんなことを認識したいと思った。そして、誠実にしたいと思った。レイジ、と呼ぶ声がこの上なく優しくなるように。 「好きだよ」 同じ気持ちを、いつか返してもらったとしても、同じように大事に出来るように。 * 黄色い土に影を重ねて最初からやりなおすから声を下さい / 東直子 *** 何処にでも行けるよ 菊時 別れよっか、と言われた意味を理解出来ないほど時枝はものを知らない訳じゃなかった。 「別に、オレ、菊地原の死体が戻ってこなくても城戸司令を責めたりしないけど」 「そういうのがスッと出てくるのが分かってるから言ったんだよ」 変なところで物分り悪くならないで、と言われても、ボーダー隊員の、遠征任務につく相手の恋人として、今の解答は百点満点なんじゃないだろうか。 「そういうのってさ、誰かと話したりするの」 「特には。でも、似たような手記を読むことはあるよ」 「ふうん」 「誰かと話して欲しかった?」 「死ぬつもりはないけどさ、誰かと話してた方が、ホントに僕が死んだ時に困らないかなって」 「どうだろうね」 「冷たくない?」 「まだ菊地原は生きてるから、考えるのは難しいってだけだよ」 「ものすごく悲しむって分かってるのに?」 「うん。分かってるから別れたくないってだだ捏ねてるんだけど」 ぱちり、と菊地原の瞬きが聞こえる。 「だだなの」 「だだだよ」 「ふうん」 「何」 「時枝のだだ聞いたことあるのって僕くらい?」 「どうだろう。かもしれない」 「ならいっかあ」 別れないでいよ、と簡単に上書きされた言葉に、自分たちにとって恋人か恋人でないかはそこまで重要ではないのだな、と思った。 「菊地原」 「なに」 「好きだよ」 「僕も時枝のことが好きだよ」 小指を絡めたまま、ごろり、と転がる。 この気持ちだけ、何処までも抱えて駆け抜けることが出来れば、どうなったって良いような気がしていた。 * きみもきみも生きていなさい六月はエンドロールのように駆け足 / 加藤治郎 *** 紡いで、解いて、紡いでく。 米出 お前にとっての三輪ってなんなわけ、と直接聞いていない出水はそこそこ理性のある方だと思っている。理屈では分かっているのだ、恋愛と友愛は違って、まあ友愛がやたら強かったり、そういうことだってある訳で。強かったところで恋愛の方が蔑ろにされる訳でもなし、米屋がそういうことをしない奴だということを多分、世界で一番出水が知っているのだし。 でも、やっぱり、感情の方は納得してはくれない訳で。どうしようもない嫉妬が渦巻いて、こいつはオレの恋人なんだけど、と喚き立てたくなってしまう。そんなことをしても意味がないのは分かっているのに。出水にだって仲の良い友達はいるし、時には恋人である米屋より優先することだってあるのに、相手の行動だけは気に食わない、なんて子供じゃああるまいし。 「いーずみくん」 「…ナニ」 「なんか怒ってるみたいだったから賄賂持ってきた」 「そんな正々堂々とした賄賂があるか」 「じゃあ脇の下」 「袖の下だよ馬鹿」 「ツッコミどうもありがとう。うまいよ、つぶつぶオレンジ」 「うるせーな飲むよありがとうな」 「怒っててもちゃんと受け取って飲んでくれるお前のこと、俺、めちゃくちゃ好きだよ」 分かっているのか、いないのか。 今の出水にそれを問いただす勇気などないけれど。 「バッカ。オレだってお前のことが好きだよ」 「怒ってても?」 「好きだから腹に据えかねることもあるわけ」 「ふーん…?」 いつか、このこじれた感情ごと抱き締めてやれる日が、来たら良い。 * 白黒アイロニ @odai_bot01 *** 嫌なことなど忘却の淵へ 三輪米 忘れちゃえよ、と言えなかったのは彼女が三輪秀次の中でどれだけ大きな存在だったのか、それなりに米屋が知っているからだった。忘れてしまったら三輪は米屋の知っている三輪ではなくなると分かっていたから、馬鹿なこと一つ言えなかった。 「秀次」 「うん」 「めし食った?」 「スポドリは飲んだ」 「えらいじゃん」 「お前に言われたくない」 「そういうことはここにあるツナマヨおにぎり大魔人を倒してから言ってもらおうか」 「やきたらこがいい」 「やきたらこ大魔人もいます」 「ありがとう」 「オレが熱出したりとかしたら看病で返して」 「………努力はする」 三輪が目を閉じる。忘れられない悪夢に魘されることが、建設的だとは思えなかったけれど、やはり忘れちゃえよ、なんて言葉は言えないのでおやすみ、とだけ綴って接吻けた。 * ぽつりと吐いて、 @__oDaibot__ *** 20200222 |