さよならが言えない にのはと 理解していなかった、と言われればそれまでで、でも一旦理解すればきっとその後の対策なんてどうとでもなっただろうに。結局何を言われることもなくて、頑なに謝らない女のキョドキョドした視線の動きが本気で気に食わなかったのを今も忘れることが出来ない。事故でも人が撃てたならショック療法、ないしそれに該当する何かしらが出来るのだと思っていた。一旦人の殺し方を理解ってしまえばそれだけで充分で、二宮はその時になってほら、お前にも人が殺せたと言うだけで良かったのだと、本気でそんなことを思っていた。あのおどおどとした気に食わない女が人を殺せるようになって、いや勿論ボーダーのそれは仮想のそれだけれどもやっぱり殺した感触というのは手に残るものであって、いつかそれが現実にも侵食してきて何もない場所で。 ―――隊長、わたし、人を殺せるようになったんですよ。 ピロートークさながらに言われる日が来るのだと。それがあまりにも夢で現実不可能で、子供の我が儘だったのだと突き付けられた時の衝撃を、一体何と表したらよかったのだろう。おもちゃを取り上げられたかのような、ショックという言葉でははかりきれないそれは、それでも怒りにもなれずに。先に離脱(ベイルアウト)した鳩原は、二宮が作戦室に戻った時には既にもういなかった。状況は氷見から聞いて、本当にそれだけ。鳩原とその後、その話はしなかった、話題にも上げなかった。 ―――吐いてて、 それを、二宮は知らない。鳩原だって知られたくなかったのだと思う、でも別にお前がだめなやつだって俺は知っていてそれを分かっていてでもお前は俺が選んだというだけで真面な振りをしようとして、それが出来ないなら真面さに対抗しうるものを勝手に自分で自分を追い詰めてでも獲得してくるんだろうと思ったら遣る瀬無いような気持ちになって、でも二宮がそれを鳩原に言ってやる未来なんてきっと一生来なくてそれが分かっていて、二宮も、鳩原も、だから二宮隊は少しだけ壊れたのだろう。壊れた、なんて誰も思っていなかっただろうけれど。きっと壊れているのは鳩原なのだと、でもそれでも良いのだと、誰もが思っていて、この窮屈な箱庭が壊れているだなんて誰も思っていなくて。 嗚呼きっと、優しいセックスくらい出来たらまだマシだったのかもしれないな、ともう不在になってしまって戻らない空間を見て思う。 其処に、未来はない。 *** 首輪 米出+三輪 お前の中での三輪がどんなものなのか多分説明されてもオレには分かんないしお前に説明出来るとも思わないしお前の中にあるクソデカ感情が三輪から離れないっていうのも分かるしそれは仕方ないし、お前の全部って三輪のモンなワケでお前の根底のところにも三輪がいて、でも恋愛はオレのもおなワケだしお前のそれは三輪に対するそれは恋愛じゃないしそれだけは信じられるから仕方ねえって誤魔化してるけどやっぱお前が三輪の話する度にオレはちょっとじゃすまないくらいに嫉妬するんだからこれくらい許せよ。 *** 魔性のラムネソーダ 三輪米 しゅわしゅわ苦手なんだよな、と米屋が言ったのを三輪は少し驚いた顔で見た。米屋は本当に何にでも挑戦するから、好き嫌いというのは少ないと思っていたのだが。というか、ラムネに関してはよく飲んでいるから、好きなんだと思っていたのだけれど。 「苦手なのか」 「うん」 「ならなんで飲んでるんだ」 「だって秀次は好きだろ、ソーダ」 「…ラムネだ」 「ラムネ」 その返し方に、多分何一つ理解していないのだろうな、と思う。でも三輪にだって真面な説明は出来ないから、聞いて来られても困る。 三輪が何となく困ったのを察したのか、米屋はいーよ、と言った。 「そうやってお前が訂正してくれるからいーよ」 何を言い出したのか、もう米屋の方を見るのも疲れる。 「オレはそれが良い」 それは。 何かを預ける、そういったことの代替のようにも思えて。 「…馬鹿が隣にいると疲れる」 「じゃあ賢くしてよ」 今オレの口ン中ソーダ味、と言われたので、ラムネだ、と訂正して、そのまま。 * 白紙に恋 @fwrBOT *** 卵が先とか鶏が先とか 林迅 その少年がまだ少年とも呼べない子供だった頃、林藤さんだけはオレのこと好きにならないでね、と言われたのをよく覚えている。何でそれ、オレに言ったの、と純粋な疑問でもってして聞いてみたら、林藤さんなら分かってくれるって視えたから、と子供は言った。 それは、一種の呪いだ。 迅が視えたと言えばそれは殆ど確定の事実になり、勿論悪いものは排除しようとするけれど、良いものだったらそのまま放置される。そしてこれは後者なのだ、もうこの年で、これが後者に入ってしまうことを知っている。 「…お前、性格悪いよな」 「林藤さんにだけね」 「なんで」 「オレが林藤さんのこと好きだから」 「好きなのに性格悪いとこ見せんの」 「好きだからだよ」 好きになってもらえちゃったら、つらいから。 そんなことを言っていた子供は少年になって青年になって、それからまだ、林藤にオレのこと好きになってないよね? と問う。抱擁もねだるしついでにキスまでねだられた時は一応拒否したけど、それでも計算高い青年は勝手に林藤の唇を奪っていく始末だし。 「好きにならないでね」 だから安心して好きでいられるんだから。意味は分かるが意味の分からないことを青年は繰り返して、それから笑う。年相応の顔で。多分これは林藤しか知らないもので、だから林藤はもうそれで良いよ、と言う。キスくらい、減るもんじゃない、セックスまで行きそうだったら流石に逃げるし城戸の名前を出してでも止めようと思うけれど、青年だって其処まで馬鹿じゃない、はずだ。 でも。 「お前のためを思うならきっとこんな世界滅びちまえば良いんだよなあ」 その言葉はきっと、誰にも言えないまま。 * 好きな子を想って短歌を作ると世界を壊しがちな君たち / 卵塔 *** 炭酸水で割った愛憎 米出+三輪 別に分かってるよ、陽介にとって三輪はそんなんじゃないってことくらい、兄弟とかそういうのに近いのかもしれない、こういう時に幼馴染とかいう魔法のワードを使えたら良かったのかもしれないけど、陽介と三輪は別にそういうのじゃなくて、だからまあ、兄弟、と仮に置いて。それくらいしか、恋人としての地位を脅かされている訳でもないのに憎むような真似をしてしまう、俺を擁護するための言葉はないのだ。 でも、なあ、陽介なら分かってくれると思うけど、俺は俺で、三輪のことそれなりに大事に思ってるんだぜ。お前の思ってるのとは全然違うと思うけど、これでも俺は友達思いなんだぜ。だから、憎らしいばっかりじゃなくて愛とかそういうのだって、あるから、お前にも三輪にも何も言わないままで一人で炭酸飲みながらお前らの帰りを待ってるんだよ。 * ストレーガの憂鬱 @strega_odai *** 世界でいちばんとびっきりのキスをして! 三輪米 いろいろと考えるようなことは多分あるのだろうけれどもそれは結局俺にとっては難しいことでそれって必要? なんて言えてしまってそんなことを考えるとこれって考える必要ってある? 俺の足りない頭を使う必要ある? なんて思ってしまう訳で。いろいろと考えることはある、でも本能に従ってはいけないなんて理由もないはずだから。 なあ、秀次。 お前には本当は俺なんか必要ないのかもしれないけど、やっぱお前が俺を呼んでくれるような気がするから、そいで俺はそれがすっげえ嬉しいから、やっぱお前のとこにいくよ、お前のとこにいたいよ。 * もう少し待って私の右足が大地を蹴って会いに行くから / 坂口 *** 「嫌だ」 三輪米 お前がさ、忘れたくないって言うのは分からなくもないけどやっぱりそれって他人の言うことで、結局俺は秀次にはなれなくてだからお前の気持ちなんて本当は分かってやることは出来なくて、でもそんな俺だからきっと、一緒に悲しんでやることが出来るってそう思うんだけど、秀次はそれじゃあ嫌? * ありふれた喜びよりも悲しみをアイコンとして共有しよう / 北原未明 *** 君の心臓 三輪米 空を飛ぶことは出来ないんだよな、とそのいつもの頭を見て思う。優等生みたいな頭だ、まるい、頭。秀次は人間だから、そして俺も人間だから、跳ぶことは出来ても(トリオン体で)飛ぶことは出来ない。それを分かっているのに何か忘れ物をしたようなきもちになってしまう。未来の自分への手紙。姉さんと仲良くやっていますか、なんてそんなありふれた言葉にそんなに落ち込むなよ、と本当は言いたかった。 * 文字書きワードパレット 20 手紙/忘れ物/飛ぶ *** 二律背反抱えて眠れ 三輪米 多分米屋陽介が三輪秀次にいろんなことを言うことは簡単だった。三輪は米屋の言葉を適度に聞き流すし、全部受け止めることはしない。それを悲しいとは思わないしそれが出来なければ三輪はとっくに潰れていたと思う。 「ともだちでいてくれるか」 だから珍しく三輪が弱音を吐いたところで米屋は特別な反応をしないし、うん、と返す。 「ともだちでいるよ」 その言葉に嘘はない。いつか何処かで言った言葉と矛盾していたとしても、この時に真実であるのなら三輪は何も言わない。 「だから寝よ。オレ、ねむい」 「…ああ、そうだな」 ともだち、という言葉を頭の中で繰り返しながら眠りにつく。怠かった。でも嫌じゃなかった。それでも多分、世間一般的にはともだちというのはセックスをしないのだと、それくらいの常識は米屋だって持っていた。 * 理想幻論 @asama_sousaku *** 夜は一人でも怖くない 菊時 誰だろう、と思っていた。かろがろしいと云うには慎重さがあって、それでも何処へでも行けそうな足音で。気付いたらその音にばかり耳を澄ますようになって、ああ、これを一目惚れだと言うんだな、なんて。 「菊地原」 それがまさか、何処へも行けないだろう時枝の音だなんて、一体どうして誰が予想出来るだろう。 * 文字書きワードパレット 4 一目惚れ/耳/足音 *** 20200221 |