愛してたよ、愛してたんだよ、ほんとだよ 林迅

 嘘だな、と言われることは分かっていた。だってそういうものだから。この目は見たくないものだって何回も何回も見せて、だから迅はその答えをずっとずっと知っていた。それでも言いたかったのは、やっぱり此処が戦場だからだ。
 迅の、大切な戦場だからだ。
「遅かったかな」
「そんなことねえよ」
ありがとな、と言うこのひどい大人には絶対に似ないぞ、とそう思ったことをこの人は知っているだろうか。



酔ってみる生きてる人と話してみるぼくだいじょうぶだいじょぶだから
アーモンド

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新しい白い壁に大穴を空けたくなった 佐当

 天才という言葉が好きではなかった、それはなんだか負けを認めるようで、一生そこへ行くことが出来ないと決め付けるようで、いわゆる自分の限界というやつを自分で作る行為のようで。だから佐鳥は天才という言葉が好きではなかった。当たり前のように存在している言葉だし、そもそも天才という生き物は存在するものだし目の前にもあっちにもこっちにもいるので、若干諦めもあったけれど。
「当真さんはどうなの」
自分のこと天才って本当に思ってる?
 どうしてそんなことを聞いてみたのか分からない。分からないけれども、気になってしまったから。いつもそんなことを思っているのに、どうして真反対みたいな言葉が口から飛び出たのだろう。
「思ってるぜ?」
難しいことなんか考えていないという言葉が羨ましかった。
「ま、才能がどうのって話よりも結局さあ、今楽しいかどうかだと思うんだよな」
だから楽しもうぜ、と耳元で囁かれて、なんだかとても負けた気分にされた。



ロドイビ @dorakujocho

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さよならの挨拶をしに 米出

 「お前、この街がすき?」
「え? うん。まあ」
「ふうん」
「ていうか何、それ、学生がするような言葉?」
「秀次の受け売り」
「はあーマジで仲良いのな、お前ら」
「オレらは仲良いとかじゃないよ」
「なにそれ」
「一番好きなのはお前だけど」
「うん」
「オレの一番は秀次っていう」
「何、振られてんの俺」
「違うよ」
「はあ? いやもうなんか分かるけど。別に良いけど、三輪だし」
「出水のそういうとこどうかと思う」
「お前がふっておいて?」
「うん」
「…ていうかさ、」
「何」
「お前はこの街、好きじゃないの」
「どうだろうな。考えたことなかったわ」
「ダウト」
「バレると思った」
「で?」
「うん」
「嫌いなの」
「嫌いじゃないよ」
「じゃあ好き?」
「好き、………でもないかな」
「やっぱり」
「だってオレは外に行けないから」
「なにそれ」
「そう思ってるだけ」
「三輪の所為?」
「これは流石に秀次関係ないよ」
「はいダウト」
「セーフ」
「よよいのよい」
「何の話だっけ」
「お前の飲んでるジュースまずそうって話」



どこでもいいから遠くへ行きたい。遠くへ行けるのは、天才だけだ。
寺山修司

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アシカ言語を理解せよ 三輪米

 殺し合いがしたい訳じゃないよ、と米屋が言うのを三輪はどうだか、と思って見ていた。嘘を吐くような人間ではない、だけれどもそもそも嘘を嘘と認識しているのか、その辺りが危ういのだ。そうだったっけ? と首を傾げる様はすぐに目に浮かぶ。言わないという選択肢をいとも簡単に思いつくような人間で、手元に置いておくにはやはり角が立ちすぎるのかもしれなかった。
―――それでも、選んだ。
そう、選んだのだ。
 三輪が、米屋を。
「そういえば何で?」
「…なんとなく」
「あのさあ、秀次。全部言えって言ってんじゃないんだから言いたくないなら秘密、とか内緒って言ってくれても良いんだぜ」
「本当になんとなくだ」
「じゃあもっと眉間のシワ消してから言ってよ」
嘘ですって言ってるようなモンじゃん、と言う米屋の眉間には、勿論シワはない。
 それがなんだか腹立たしくて、そこに一つ、デコピンをしておいた。



びたんびたん海驢のやうに跳ねまはるその御御足をよけつつねむる / 秋月祐一

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君の過去、貴方の未来 三輪米

 米屋陽介の右手首には傷がある。横一線の、見ようによっては自傷痕にも見える傷跡だ。なんてことはない、昔針金に手ひどく引っ掛けただけである。わんぱくな子供、世間一般で言うそんなものに該当することを知っていた米屋は、秘密基地を探していて怪我をしたのだった。そもそも米屋は右利きであるので本当に自傷痕であったら左手にないとおかしいんじゃないか、と思う。米屋でも思う。だのに三輪秀次の、米屋の右手首の傷を見る目と言ったら!
 まるで自分が付けさせた傷であるかのように、愛おしそうに、ともすれば誇らしげに! それを眺める三輪に米屋は慣れきっていた。三輪にだって説明したことはあるし、この怪我をした頃はまだ三輪と出会っていなかったためこの怪我が三輪の所為だということもまったくないのだが、それでも三輪は蕩けるような顔をするのだ。
「秀次」
「何だ」
「面白い?」
「まあ」
「へえ…」
そう、としか言えない。
 ただ、同じ空間にいるのに傷ばかりを、過去ばかりを見られているのは気に食わない訳で。
「えい」
すぱん、と掌で頭をはたいてみたら、いきなり何をするんだ、とばかりにため息を吐かれた。



きみの右手首の傷を美しいものの例えにしてもいいよね / 黒木うめ

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君のいない朝は来ない 菊時

 いつか死んじゃうかもしれないんだよ、なんて菊地原は思ってもいないことを口にする。絶対に生きて帰ってくるつもりのくせして、そういうことを時枝に言う。
「菊地原のそれってさあ、おまじない?」
「かもね」
「意外」
「ぼくもそう思う」
二人で笑って、こうして寄り添って。それが奇跡みたいなことなんだって本当はずっと知っている。だからこそのおまじない、なのかもしれなかった。
「人間はね、いつか死ぬよ」
「うん」
「もしかしたらオレだって明日事故で死ぬかもしれないし」
「時枝のことは流石に迅さんが見てるでしょ。広報部隊が事故で死ぬとか縁起悪いし」
「そうかもね」
 でも世界は万能じゃないよ、と言えば時枝のくせになまいき、と鼻をつままれたのだった。



魔法瓶に一晩泊まってゆくといい 銀色のお湯になれる幸福 / 嶋田さくらこ

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ガラスの靴は砕けた 忍林

 お姫様なんて王子様なんて、つまるところ特別な人間なんていうのは何処か遠い国の話で、此処では生き残れるかどうかだけが重要だなんて、思っていた時もあった。というか今だって思っている。正直なところ自分が特別じゃないということよりも誰か他に特別な人間がいるということよりも、結局特別だろうが何だろうが待っているのがハッピーエンドとは限らないとか、そういう話を心に秘めていたからかもしれない。
「うん、だからさあ、お前のそれって勘違いだと思うわけよ」
煙草を吸いながらというとても真面目に向き合っているとは思えない姿勢で答えたのに、向き合う忍田はとてつもなく真面目な顔をしていて、いやこいつが真面目な顔をしていない時なんて多分なかったような気がするんだけれども(その真面目な顔で問題を次から次へと起こすのだからやっていられない!)、同僚として―――そう同僚として! 忍田のそういうところは良いところだと思っていたし、好いてもいた。だから林藤に出来るのはここでいつものように軽薄そうに笑うことだけだったし、この話を断ることだった。
「お前、さみしいだけだよ」
「さみしい」
「うん」
 人が減った時ならきっと自分でそう判断することだって出来ただろう。でも、今は人が増えて、またもとに戻ったとは言えずとも新しい形として進みだしている。城戸が、そうしている。すべてを捨てて歩んでいこうとする彼の背中を見て、忍田は急に郷愁のようなものに襲われたのかもしれない。人数はあの頃よりずっと多くなった、だからこそ感じたさみしさを看過できなかったのかもしれない。林藤に出来ることは結局そんな推測だったけれど、そう当たらずとも遠からずだと思っている。
「さみしい、か」
「うん」
「そうなのかもしれないな」
「そうだよ」
きっと、という不確かな言葉は口にしなかった。そんなことを言えば迷ってしまうから。
「でも、林藤」
 少しだけ俯いていたはずの顔がこちらを見上げてきて。
「俺はかぼちゃが馬車になった方がすてきだと思う」
「―――……」
 そのどこか純真に無垢にまるで少女のような瞳に、林藤が更に言葉を重ねることなんて、最初から出来なかったのかもしれない。



喉元にカッター
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世界は平和だから天使の音がします 林迅

 今日は一緒に寝ても良い、と問うのはただの形式。答えなんて分かりきっている。いいよと言われる時にしか聞かない、そういうのはきっと、狡いって言うんだろう。オレは巣穴に潜り込むこぐまのように頷きに従って布団をめくる。あ、これ夏物から変えてない、なんて思った。もう秋だからそろそろ変えないと寒いのに。寒いよ、と言ったらそうかもな、なんていうどうでも良さそうな返事があった。多分、寒くなって風邪をひいてから後悔しながら布団を変えるんだろう。そんなのはサイドエフェクトがなくても分かる。
「オレ、子供みたい」
本当は逆のことを思ったけれどもそう言ってみた。
「お前はまだ子供だろ」
「オレ、いつになったらボスに並べるのかな」
「もう並んでるよ」
「にしてはいつまでも子供扱いなんだけど」
「そりゃそうだろ」
 ぐしゃぐしゃと頭を撫でていく手。いつまで経っても上手にならない撫で方。これでよくも一児の父です、なんて顔がしてられるものだ。
「いつまでも子供扱いしてやりたいんだよ」
「なんで」
「お前は俺の後輩なんだから」
「…なにそれ」
そんなことを言ったら全員が後輩だ。オレだけ甘やかしてもらってるのはなんか違うと思う。
 オレの言いたいことが分かったのか、そういうことにしておきなよ、とまた撫でられる。ぐしゃぐしゃと、へたくそ。
「大人の我が侭」
「じゃあそういうことにしてあげる」
おやすみ、ボス、とオレは唱える。おやすみ、と優しい声がして、世界が閉じた。



ふゆのあめ なにがしたいか言えなくて羽音の中にあなたがとける / 東直子

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エネドラのお葬式(誰がエネドラ殺したの) アフト

誰がエネドラ殺したの
それは私とハイレインが言った
私の計画で 私の命令で
私が殺したエネドラを

誰がエネドラ見つけたの
それは私とミラが言った
私の黒トリガーで 私の窓の影(スピラスキア)で
私が見つけてトドメを刺した

誰がその血を取り上げた
それは貴方とミラが言った
私の仕事は回収だけ
その血は玄界に置いてきた

誰が死装束作ったの
それは私と兵士が言った
電気とラッドと少しの映画
二度目の旅路は自由気ままに

誰が墓穴掘り当てた
それは誰もと司令官
人型の敵はいませんでした
それが世間の真実なので

誰が司祭をやりますか
それは私とランバネイン
死出の旅路に神は居らずと
笑うことくらいは出来ましょう

誰が付き人やりますか
それは私と翁立つ
暗く記憶に沈む前に
私が付き人やりましょう

誰が松明運んだの
それは私と煙草の兵士
ライターならいつでもポケットに
松明くらいは運びましょ

誰が喪主をやりますか
それは私と総司令
愛する人を悼んでやまない
私以外に喪主はない

誰が棺を担ぐのか
それは私と未来視青年
夜を徹して行われても
私が担ごう 棺を担ごう

誰が棺覆いを運んだの
それは私と眼鏡の支部長
私と部下たち一つの部隊で
棺覆いを運びましょ

誰が賛美歌歌ったの
それは私とヒュースが言った
ぬるいぬるい檻の中で
私が賛美歌歌いましょ

誰が鐘を鳴らしたの
それは私と名もない少年
聡明で賢かったはずの
私はだあれ 貴方はだあれ

何処へも行けないすべての小鳥が
嘘を吐いたり忘れたり
みんなが聞いた 鳴り出す鐘を
かわいそうなエネドラの見えない見えないお葬式



誰が殺した 駒鳥の雄を
それは私よ スズメがそう言った
私の弓で 私の矢羽で
私が殺した 駒鳥の雄を

誰が見つけた 死んだのを見つけた
それは私よ ハエがそう言った
私の眼で 小さな眼で
私が見つけた その死骸見つけた

誰が取ったか その血を取ったか
それは私よ 魚がそう言った
私の皿に 小さな皿に
私が取ったよ その血を取ったよ

誰が作るか 死装束を作るか
それは私よ 甲虫がそう言った
私の糸で 私の針で
私が作ろう 死装束を作ろう

誰が掘るか お墓の穴を
それは私よ フクロウがそう言った
私のシャベルで 小さなシャベルで
私が掘ろうよ お墓の穴を

誰がなるか 司祭になるか
それは私よ ミヤマガラスがそう言った
私の聖書で 小さな聖書で
私がなろうぞ 司祭になろうぞ

誰がなるか 付き人になるか
それは私よ ヒバリがそう言った
暗くなって しまわぬならば
私がなろうぞ 付き人になろうぞ

誰が運ぶか 松明(たいまつ)を運ぶか
それは私よ ヒワがそう言った
すぐに戻って 取り出してきて
私が運ぼう 松明を運ぼう

誰が立つか 喪主に立つか
それは私よ ハトがそう言った
愛するひとを 悼んでいる
私が立とうよ 喪主に立とうよ

誰が担ぐか 棺を担ぐか
それは私よ トビがそう言った
夜を徹してで ないならば
私が担ごう 棺を担ごう

誰が運ぶか 棺覆いを運ぶか
それは私よ ミソサザイがそう言った
私と妻の 夫婦二人で
私が運ぼう 棺覆いを運ぼう

誰が歌うか 賛美歌を歌うか
それは私よ ツグミがそう言った
藪の木々の 上にとまって
私が歌おう 賛美歌を歌おう

誰が鳴らすか 鐘を鳴らすか
それは私よ 雄牛[9]がそう言った
私は引ける 力がござる
私が鳴らそう 鐘を鳴らそう

空の上から 全ての小鳥が
ためいきついたり すすり泣いたり
みんなが聞いた 鳴り出す鐘を
かわいそうな駒鳥の お葬式の鐘を

***

今年も手が冷えます。冬はこんなに寒いものでしたか。 兄林

 別に人の手を握るような奴ではなかったと思っている。思っているのに、ふとした瞬間寒いなあ、と思って、あいつがいないからだなんて思ったりする。
「そろそろか」
隣の忍田が立ち上がったものだから何だよ突然、と言えば、むっとしたような顔をされた。
「お前、今の無意識か」
「何が」
「お前は今、風間と呟いたんだ」
「えっ、マジかよ」
「嘘を吐いてどうする」
「うわー…暫く蒼也と顔合わせないようにしたい」
「無理だろうな」
「俺がうっかりしたら殴ってくんない? 蒼也を」
「林藤、知っているとは思うが、例え相手がトリオン体でも殴っていいことにはならないし、そもそもトリオン体をトリオン体で殴ったところで記憶は飛ばない」
「あーあ、俺、今すぐインフルエンザにならないかな。迅に頼んだら俺が菌拾ってくる未来見てくんないかな〜」
「お前がいなくなると困るだろう」
「…お前の悪いところはそういうところをスラッと言ってみせるとこだろうな」
俺のこと嫌いな癖に、と林藤が言えば忍田はそうだな、と頷いた。否定しろよ、と思った。



青空 @odai_en

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20190119