隊長にはよく思われたい 菊時

「〜ってことがあって、もう、さいあく」
「うん」
「やだもう風間さんにかっこわるいとこみられるし」
「うん」
「ちょっときいてるの時枝だって嵐山さんにかっこわるく思われたくないでしょ」
「うん」
「すきだよ」
「うん、おれもすきだよ」
「………ばか」
「ばかでも菊地原のこと好きでいいならそれでいいよ」
「ぼくもばかがいい」
「うん」



https://twitter.com/m9m_su/status/657576825493680128
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嗚呼! 私のかわいい子よ! 陽レイ

「今日は迅に教えてもらったおれでも出来る料理をレイジにひろうする!」
「たのしみだ」
「レイジ、すごい心配そうなかおしてる」
「…たのしみだけど心配だ」
「大丈夫だ! なんてったってお湯を沸かすだけだからな!」
「ちょっとまて」
「インスタントラーメンっていうんだ! すごい!」
「すごいがちょっとまて。迅を呼んでこい」
「よくわかったな! 迅がオレに教えてくれたんだ!」
「いいから呼んでこい」



インスタントラーメンをつくるレイジさんと陽太郎
http://shindanmaker.com/476794



(おまえのせいだ!)

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放し飼い にのはと

 漆黒の髪、なんて褒められたものではなかった。あれは飼育し切られないものだ、それでも手放してはいけないもの。手を放したら瞬く間に変身して、その名残など残さない生き物、なのだから。



飼育、変身、漆黒の

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My Dear Dog ほかあら

 ピンチをチャンスに、なんてよくある言葉だけれどもそう現実が上手くいかないことくらいよく分かっていた。この十八年は、そう短くなかった。もしもこの力関係を逆転したかったのなら、もっと早くにこいつから離れなければいけなかった。それを、はやくに気付いていたのに。気付けるくらいには賢かったのに。どうしてか、首輪もつけられていないのに遠くに行くことも出来なければ、静かに呼ばれる己の名前に、すぐさま反応しないなんてことも出来ない。お手と言われればするだろうし、お座りだってするだろうし、きっと生命をはって俺を守れ、なんてことを言われたらきっと、したがってしまうのだろう。例えそれが仮想空間での生命でも、そう言った戦法は褒められたものではないと、そうは分かっていても。犬にとって飼い主は神様だった。そして神様の命令に、犬は反発することを知らないのだ。



ピンチ、チャンス、逆転

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思い出ばかり 最林

 生きている人間は前に進むのだと、そういうことが分からないほど子供ではないはずだった。死ぬということがいつだって付き纏う場所なのだと、その覚悟は出来ていたはずだった。だからそのことを知った時も取り乱すような真似はしなかったし、誰かの前で涙を流すこともしなかった。
 彼の弟子の後見人になり、彼の弟子を呼び、その思い出話をして。彼がいたことを誰よりも強く此処に刻みつけているのはきっと、林藤だったと、そう思っていたのに。
 忘れていく、忘れていく、忘れたくないのにこぼれ落ちていく。
 それが生きるということだった。分かっていたのに、覚悟は出来ていたはずだったのに。本当の意味で林藤はまだ子供だった。強くなどなれてはいなかった。
「最上さん」
子供のような声で呼ぶ。
 それに返してくれる人は、もう、居ないのに。



時間は敵だ 時が経てば傷はいやされる せっかくつけてもらった 傷なのに(江國香識「すみれの花の砂糖づけ」)

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約束の朝、きみは、 菊時

*死ネタ

 遠征艇の帰って来る朝。時枝充ははっと目を覚ました。ざわりざわりと胸が鳴る。なんだ、これはと問わなくても、なんとなく、その正体が分かってしまった。
 学校に体調が悪いと連絡を入れ、パーカーをかぶって本部へと行く。そうして昼頃つく予定の遠征艇を一人、休憩室に座って待っていた。
 どくり、どくり、音がする。こんなとき、煩いよ、と言ってくれる恋人は、今はいない。

 そうして、帰って来た中に、彼の姿はなかった。
―――おまえは、ぼくが忘れろって言っても、忘れないでしょう。
思い出される。
 そうに決まってる、だんっと殴った机は揺れただけで、何が起こる訳でもなかった。そんなことしないの、そう面倒そうに呟く彼はもういないから。いつもとは違う時枝の様子に、誰かが声をかけようとした、顔を上げて微笑む。
 彼がもういないのに、涙を流す気にはなれなかった。



白黒アイロニ
https://twitter.com/odai_bot01

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貴方と死ぬみちを探してる つつすわ

 堤大地は幼い頃、電車の車掌になりたかった。親戚連中に声を褒められて、少し調子に乗った結果の夢だった。
「ああ、なんか分かる」
それを聞いた自隊の隊長はそんなことをぼやいた。
「お前、良い声してるもんな」
「それはドーモ。ありがとうございます」
褒められたので礼を言っておいた。こういうことがさらっと出来て、少しうらやましいな、なんて思う。だから年下に慕われるのかもしれない。隊長なんてやってられるのかもしれない。
「なんでなんなかったの」
良い声、してんのに。
 隣の隊長は興味なさそうな顔で、それでも堤の領域に何処まで踏み込んで良いものかと、少しずつ距離を図ってくる。その、やさしさが。
 車掌への憧れはまだあった。今でも電車に乗ると、ああいいな、と思う。一人でいるときに、その真似をしてみることもある。声が良いと、未だに褒められることもある。親戚に会えば、大地くんのアナウンスの電車、乗ってみたかったなあ、と言われて。
 それでも、夢を諦めたのは。
「………さあ。何ででしょうね」
挫折とかそういうポジティヴなものでは決してなかった。

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言わなきゃわからない 奈良米

 傲慢だ、と奈良坂は憤っていた。何に対して、と問われれば目の前のこの馬鹿だ、と言う以外に言葉が見つからない。
 三輪と一緒にいた期間が長いからか、この馬鹿は何処か言葉にしなくても読み取れる、と思っている部分がある。そんな真似が出来るのはお前が人の感情の機微に敏感だからであって、そして更に言うならば三輪と過ごした時間が長いことや、彼と似た部分が多いからであるのだが、それについては奈良坂自身思うことが多いので口にはしてやらない。見せつけられているようだ、なんて。何度思ったことか。
 その馬鹿は今もまだ、奈良坂の前で缶ジュースを開けていた。かつん、と軽い音と共に机に置かれたそれが、空になったことを知らせている。そう確認してから、奈良坂は馬鹿に手を伸ばした。
 伸ばされる手に気付かないのか、馬鹿の視線は奈良坂を向かない。
「あまえるな」
耳を掴んでこちらを向けたら悲鳴があがった。
「俺はお前じゃないしお前は三輪じゃない」
「いたいいたいいたいって奈良坂!痛い!」
「うるさい、聞け」
オーボー!と悲鳴の合間に叫ばれたが、それでも耳を離しはしない。そもそもこの馬鹿が横暴の意味を知っているかも怪しいのだ。さっきの言葉だって外国語のように聞こえた。それに、今はそんなことよりも大切なことがある。
「だから、俺はお前が言葉にしなければ何一つ分からないんだ」
 耳を掴まれたままの馬鹿はびっくりしたように奈良坂を見ていた。そしてそれから、そっか、そうだよな、と目を丸くしたまま呟いた。



イトシイヒトヘ
http://nanos.jp/zelp/

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硝子の上を蒼い血が流れてる 三輪米

 任務中のことだった。
 トリオン兵と対峙して、それは三輪を狙って来て。避けることは出来ないと思った、けれどもその分チャンスだと思った。それだけ近いのだ、当てるには充分だ。
 そう思った三輪の銃弾は確かにトリオン兵を貫いて、その活動を止めさせはしたが、その戦闘体が何処かしら欠損したりすることはなかった。
「…ようすけ」
「だめじゃん、秀次。油断しちゃ」
「油断なんか…」
米屋の肩にはヒビが入っていた。
「あっちゃーこれ、直してもらわないとだめだよな。次の任務っていつだっけ」
「…明日の夜だ」
「うわー間に合うかな。ま、間に合わなくてもこれくらいなら行けるかー」
さっさと撤退しよ、と米屋が笑う。その横で、三輪はぎりっと唇を噛み締めた。
 おまえはいつだってそうだ、思う。なんでもかんでも平気な顔をして、うっかりうっかりと言った顔でいつだって三輪に振りかかるものの盾になる。それが当たり前だと、そういう顔をして。
「陽介」
歩き出した背中に呼び掛けた。
「おまえは怖くないのか」
振り返ってかえされる言葉を、三輪はずっと昔から知っている。
「―――なにが?」
 こてり、傾げられた首に、嘘のない笑み。
「お前の傍にいるのに、怖いものなんてなんもねえよ」
それがが≠ナなくの≠ナあることが、すべての解えなのだと知っていた。



神威
http://alkanost.web.fc2.com/odai.html

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くらげ 米出

 おまえのさ、と唐突に出水が声をあげた。この暑い中、クーラーも壊れた部屋で死んだようになっていたから死んだのかと、ちょっとボーダー隊員がネッチューッショーってアホっぽいな、なんて思ってた米屋は少しだけ驚いた。
「なになに、生きてたのいずみん」
「なにそのいずみんって。きっも」
「きもいとはなんだね。トモダチに」
「オレらトモダチなの?」
「トモダチじゃないならなんなの?」
「セックスするトモダチ?」
「なにそれセフレ? きゃーただれてる」
ばかな会話をしていたら更に疲れた。アイスが欲しい。
「まーそれはおいといてさ、お前のさ、一番ってオレじゃねーじゃん」
「え、何、一番が良いの」
「それもおいといて。トモダチでもなんでもいいけど、お前のいちばんって三輪じゃん」
「そだね」
「そうだろ。んで、オレのいちばんは太刀川さん」
「えっ出水ってそうなの。太刀川さんラブなの」
「だからちげーってんだろ死ね」
「死ねまで行くかよ」
 ごろり、と転がる。どすん、と音がした。向こうで出水がベッドから落ちた音だった。人のベッドを占拠しているから悪い。
「でもさ、ほら、だからうまいこと行ってんのかなって」
「行ってんの?」
「行ってない?」
「さあどうだろ」
「セックスしちゃうくらいだし、行ってんだろ」
「お前のそのロンリ破綻してない?」
「お前破綻とか知ってたのか…」
馬鹿にしやがって、額からにじむ汗が床を汚していく。アイス、アイス。確か下の冷凍庫に入っているはずだから、起き上がれれば。
「なぁ槍バカ」
「なに弾バカ。アイスとってきてくれんの」
「なんでオレが」
 ずりずりと音がする。出水が近付いて来る。
「アイスよりもっとイイコトしようぜ」
「…もっとさあ、なかったのかよ」
手を伸ばす。
 その頬はいつもよりずっとしめっぽかった。



水母のような代用品にみちていてさしあたりしあわせなぼくたち / 加藤治郎

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20160923