どうしたら俺のものになる? 当時

 第一印象は広報担当の嵐山隊の中でも、いちばんにぱっとしないやつ。第三とかそこらが、フォローのうまいやつ。第五とかその辺までくれば、周りを良く見ているやつ、とそれはどんどん変わっていった。それは、戦闘においても、日常生活でも、同じで。
 「とっきーはさ、」
「はい」
休憩室で見つけた時枝は、静かにみかんを剥いていた。
「それ、疲れねえの」
恐らく当真より一回りは小さいだろう手は、意外と雑に橙の皮を散らしていく。
 何のことですか、なんて、聞かれないだろうと思っていた。当真は次に出て来る言葉を、その表情を、きっと知っている。
 「疲れませんよ」
ふわり、と効果音でも出そうなほのかさで、その目は少しだけ伏せられた。
 予想通りだとそう思う。思うのに、それ以外にないと分かっていたのに、それでも問うたのは。
 肯定は甘えと、何処かで思っていたからに他ならないのだろう。



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頼むから一発殴らせてくれ 佐時

 がぶり、と佐鳥がチキンに噛み付くと、美味しそうな香りが強くなったような気がした。
「賢、食べるのは後にして」
「充、これだけ!」
チキンはあついうちに食べたいの、とはぐはぐ食べ進む佐鳥が犬のように見えて、時枝は器用に片眉を上げてみせるだけに留める。
「午後の授業遅れたら賢の所為だからね」
「その時は任務が長引いたとかさ、そういう機転きかしてよ」
ぺたり、とそこに座り込んで今度は別のものを開け始めた佐鳥に、ため息を吐いた。
 嵐山隊は朝から防衛任務だった。それが終わった昼、こうして持ってきていた制服を着て、学校に向かっているというのに。そりゃあ時枝だってお腹は空くので、佐鳥が騒ぐままにコンビニに寄ったのが、どうしてこのまま此処で食べるということになってしまうのか。
 はぁ、ともう一度ため息を吐く。
「充、食べないの?」
たしたし、と自分の横を叩かれても、状況は変わらない。
「…もう、ほんとに、賢の所為ですって言うからね」
示された場所へと腰を下ろす。
「此処に座った時点で共犯でしょ」
 何か言い返そうと開いた口に、勢いよくコロッケパンがつっこまれて、時枝が涙目になるくらい咳き込むまであと数秒。



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「昼のコンビニ」「噛み付く」「制服」

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隠してるつもりだけどバレバレ 古当

 きょうも、だ。当真は振り返らずに思う。こちらをすっと射抜くような、そんな真っ直ぐで、それでいて妙に甘ったるい、そういう視線。No.1の座にいることで人の視線に晒されることは、そこそこ慣れてはいたが、どうにもこれは勝手が違う。彼の優秀だが馬鹿真面目で救いようのない先輩のおかげで、それは余計に際立っている。
「さて、どうしたもんかねぇ…」
零した。困ったように、頬を掻くような仕草まで付けて。
 けれども、ああ、そんなきらきらした視線を、嫌だと煩わしいと、思ったことなど一度もないのだ。



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(それがこたえ)

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指をからませて手をつなぐ 時菊

 「とっきーはしずかだね」
先ほどまで延々と呪詛を吐いていた口が、唐突にそう零した。
「しずか?」
「うん」
菊地原の言った意味が分からなくて聞き返す。確かに彼の呪詛を黙って聞いていたという点では静かだったのだろうが、きっと彼の言いたいことはそういうことではない。
「静か。とーっても、しずか」
するり、手遊びのように指が手の甲を滑っていった。
 「きくちはら」
呼ぶ。逃げるように離れかけた指を捕まえて、そのまま絡める。
「…ほら」
不満気な顔がこちらを向いて、
「むかつくくらい、しずか」
余裕なさそうに染まった目元が、やたらと愛おしかった。



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夢の中で会いましょう 風太刀

 いやだ、と太刀川が子供のようにぐずった。
「寝ないでよ、風間さん」
彼も眠いだろうに、その口は一向に閉じる様子を見せない。眠い、と一刀両断してみても、やだやだ、とその理不尽な我が侭は増すばかりだ。
 そろそろ我慢の限界だ、と横たえていた身体を起こす。かざまさん、と顔を輝かせた太刀川に少しだけ罪悪感を抱きつつ。
 だばん、と大きな音がして、その蹴りが太刀川の鳩尾に命中した。



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アイリス 唐根

 毎年同じ日に届くその花の、一度も書かれてない送り主のことを、根付は良く知っている。ボーダーという組織を加齢に合わせて脱退したそのあと、ふっつり連絡の途絶えたその相手のことを。
 「一途ですねえ」
自分のことは棚にあげて呟く。
「そんなに一途ならば、迎えに来てくれれば良いのに」



(良き便り、吉報、消息)
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ポラリス 太刀菊

 あなたなんかきらいだ、と何度言っただろう。それはいつものように口をついて出る謗りの類ではなく、もっと奥底から湧き出た、防衛本能のようなものだったと思う。
 それでも、その手は縋るように、それでいて遊ぶように、菊地原の髪を弄ぶのをやめない。
 「風間さんのいるとこじゃしないくせに」
「してほしいのか?」
「ジョーダン」
ばかじゃないの、とその声に力がないことなんて、自分が一番良くわかっているのだ。



星の見えない夜に目を閉じてあなたは 「全部壊してしまえ」 と言いました。
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プライドが許してくれない 奈良時

 周りを良く見ている人間だと、そう思った。観察眼も優れていて、人の求める行動が、すっと無理なく出来る人間なのだと。故に、その隣は居心地が良いのか、様々な人間が逃避場所として利用する。
 いわば、時枝充というのはボーダーの、と言ったら流石に大げさかもしれないが、少なくともA級の間では、最後の砦のようなものだった。
 「奈良坂さん」
声がかかる。
「一本、いかがですか」
休憩室、時枝の目の前には缶ジュースが数本置かれていた。なんでも嵐山隊当てに送られてきたものの一部なのだと言う。
「たくさん頂いたので、今皆さんに配っているんです」
もしよければ、と控えめに言う彼に、押し付けがましい所はない。
 しかし、それでも奈良坂は首を降る。
「いや、気持ちだけもらっておく。手伝えなくてすまない」
「そうですか」
残念ですけど、大丈夫ですよ、と笑う彼から目を逸らして、開いている席へと座る。
 なんだか無性に喉が乾いていた。



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under CAT fight 奈良時

 この行為に意味なんかないと、奈良坂は思う。意味なんかあってはいけないと、そうとも。ボーダー本部、ひと気のない廊下の片隅で、こんなことをしているのに意味なんかあってたまるものか。
 いつもでは絶対に聞けないような声が聞きたくて、ずるり、と歯の裏をなぞる。ん、と鼻から抜けるような息を聞いて思わず笑みを漏らすと、余裕のなさそうな目が下から恨みがましそうに見てきた。
「…は、」
とりあえあずは満足して、唇を解放すると、大きく肩が揺れる。そんなに苦しかったか、と笑うと、またじろり、と睨み上げられた。
「なら、さ、かさん」
「なんだ、時枝」
逃げられないように壁に押し付けた左手はそのままに、髪を梳いてやる。ついでに脚の間に割り入れた膝もそのままだ。もっと他の場面ならどうにかなったのかもしれないが、トリオン体でもない今、流石にこうなってしまえば十センチの体格差は覆せない。
「突然、何を」
「さぁ」
「さぁって」
 恐らく本人はこの上なく苦い顔をしているつもりなのだろう。奈良坂は推察する。確かに苦い顔はしている、しているにはしているが、先ほどの余韻か未だ瞳は潤んでいるし、身長差も相まって見上げる構図になっているしで残念ながら効力は微塵もない。
「どうでも良いだろう、そんなこと」
「良くないです」
回復してきたのか思い出したように抵抗を始めた腕を、また抑え込んで。
「ときえだ」
暴れるな、と囁いてからもう一度接吻ける。 諦めたのか、それとも先輩からの言葉、という年功序列に立ち返ったのか、それに素直に従う一回り小さな彼が、どうしても理解出来ずにいた。奥へと引っ込んだ舌を捕まえて歯を立てる。
 「…いッ」
がり、と遠慮無くいったその場所からは、血の味がした。



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「意味」
イメージ:悔しい

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氷点下の沸点 奈良米

 「三輪はおまえのことなんか見ない」
囁きというにはあまりにはっきりとした言葉だったろう。
「何も返ってこないところへ尽くすなんて、馬鹿じゃないのか」
 途端、息が苦しくなったのは物理的な理由からだった。胸ぐらを掴まれ、米屋のくろぐろとした瞳が間近に迫る。ああ、と思った。自覚はあるのだ、自覚していて、馬鹿じゃないかと思って、それでも想っているのだ。乾いた笑いさえ漏れそうだった。
 こんなに感情の露わになった瞳を、みたことがあっただろうか。それをさせるのは紛れもなくたった今口にした名前の男なのであって、奈良坂には逆立ちしてでも出来ないことなのだ。
 それが妙に、かなしいことのように思えた。



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「囁く」「瞳」「露わになった」

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20140504
20140530