君の神様を殺します ほかあら *アニマ荒船 *穂刈妹捏造 オレはオレが好きなんだよ、と言われて穂刈はそうか、と呟く。 「オレは、自分の中の女性性、アニマの部分に恋をしているんだ」 それが荒船の言い分で、穂刈は何度も何度もそれを聞かされていたけれど。荒船の中には荒船をそのまま女にしたような部分があって、それは絶対にどんな人間にも備わっている部分なのだけれども、荒船はその部分が人よりもよく見えていてあまつさえ恋までしてしまったのだと。自分だから叶わない、自分だからいつでも叶う。そんな背反の狭間で荒船は生きているのだと。 でも穂刈は知っている、穂刈は賢い子供だった。記憶力も良かった。だから幼馴染の荒船の両親が小さい頃に別れていて、そして荒船には本当は姉がいたことを、荒船の言うアニマの正体が実在する姉なのだと、知っている。 それを言わないのは、このままなら荒船の恋は傷になることが分かっていたからだった。 穂刈は先の侵攻で妹を失っていた。それを自身の傷だと思っていた。ずっと治らない傷、どうしても治らない傷―――治したくない、傷。荒船の恋もきっとそうだった。どうしても手放さない、手放せない、手放したくない。それが、あれば。 「荒船」 手を伸ばす。簡単に応えられたその温度を、穂刈はきっと離したくないのだ。 荒船がそれを傷と勘違いしたままでいれば、傷の舐め合いという大義名分で、何でも出来る気がしていたから。 * キズとキズ合わせることをキスと呼ぶキミが神様だった世界で / 黒木うめ *** 新世界より ほかあら 「馬鹿だ、お前は」 思わず笑う。きっと苦々しい表情だ。 「馬鹿だ、とても」 「知ってる」 「だから。…こんなのに」 「そうかもな」 荒船哲二はすべてを手に入れてしまった、それ故にもう穂刈篤は彼から離れることなんか出来なくなってしまったのだが、もうそれで良かった。 穂刈篤にとって、荒船哲二とは世界だった、世界そのものだった、神だった。 * 革命をほどこされたと苦笑して惑星をふくみあうようなキス / 佐藤聖 *** 海の底 ほかあら 言いたいことがたくさんあるのに、どうにも言葉にならないのは、ならないのは。 「お前は何も言わなくて良い」 優しい顔で飼い主は言う。 「お前の言うことは、言いたいことは、オレがひとつ残らず分かってやるから」 何もしなくていいのだと、安寧でやわらかく殺して、くるから。 * 「あさ すいよく を していると ことばが みんな ながれてしまい きがつくと わたくしは もう あなたに おはなしもできなくて」 / 川崎洋「にんぎょ」 *** 消えた灯り 風迅 ねえ風間さん、と呟く。 「あのね、きょうね、おれ、ひとをみごろしにしたんだ」 生きられるはずだったんだよ、あのおかあさんはさ、おれが何かを言ってやれば、こどもを庇って死ぬことなんてなかったんだ。そうまるで物語のように笑うその馬鹿なこどもに、風間は何も言うことがなかった。 なかったのでそのままその馬鹿な口をふさいでやった。 * あたたかい電球を持つ(ひかってたひかってました)わかっています / 笹井宏之 *** 無限の未来が 林迅 広がっているなんて嘘だったよ、と迅は言う。 「ねえボス、あの人おれに嘘吐いたんだ」 その人を責めることをしないのは、同じ被害者だと分かっているからだし、攻められたいなんて馬鹿なことを願っているのを知っているからだった。 嘘だったんだよ、と繰り返す。この世界は嘘だらけだ、と続ける。 「だから、お願い、ボスだけは、」 縋る手を許してくれるのは、迅が迅自身に許してやれるのは、 「おれのほんとうでいて」 その人だけに、しておきたいから。 * レム睡眠 https://twitter.com/rem_odai *** すすめ、すすめ、まえへ。 迅 だれもいないへや。きっとそのうちに物置になる。だってここには無駄な空間を置いておけるスペースがない。そういう未来だけがみえている。おれにちょうだい、とそう言えばきっと、上司として自分を引っ張ってくれるあの人は部屋替えを許してくれるだろうけれど。 「さよなら、最上さん」 おれは、貴方の最高の弟子でいたかった、だからこの部屋は手放して新しい未来にくれてやって、そうして彼のことを過去にしてしまうしかないのだ。 * ひいらぎをあなたの部屋へ置きました とむらうことになれていなくて / 笹井宏之 *** 君のやわい場所に土足で立ち入りたい 菊時 時枝は菊地原の口がはくはくとあけられたりしめられたりするのを見ていた。時枝には菊地原のようなサイドエフェクトはないから、その唇の動きがや言葉にならないはずの音を拾うようなことは出来ない。というのを菊地原は分かっていて、それでいて付き合ってくれる時枝に甘えてこんなことを繰り返している。本当は、言うつもりなんてなかった。言わない方が良いということも良くわかっていた。 なのになのに、菊地原の残酷な部分が、時枝のやわいところまですべて手に入れろと警鐘を鳴らすのだ。 ―――あのね。 伝わらない。 ―――時枝が前、可愛がってた野良猫。 伝わらなくていい。 ―――ころしたの、ぼくなんだ。 スコーピオンの感覚は向こうで人間を殺した時よりもリアルで、ああこれが時枝に関係することだからなのだと、菊地原はとても嬉しくて、けれどもそれはきっと一生言ってはいけないことなのだとよくわかっていた。 だから、 「大好きだよ」 嘘じゃない言葉で、今日もこのきもちを誤魔化すのだ。 * じつは、このあいだ、朝 なんでもありません / 穂村弘(手紙魔まみ) *** 母の背中には白い羽根がある 二鳩 R18 *セフレ *鳩原ちゃんの口調捏造 鳩原未来の失踪について、恐らくその馬鹿が唆されたことについて、二宮匡貴がここまで腹立たしい気持ちになるのはきっと、彼女のいなくなる前の晩、彼が彼女を抱いたからだった。 恋仲、という訳ではなかった。 ただ単に都合が合ったら互いの性欲だとかそういうものを解消する、そんな所謂爛れた関係だった。慰め合い、なんてものじゃなく、時にはその馬鹿さ加減に喰われてしまうのではないかとすら勘ぐるほど、その関係はギスギスしていたと思う。二宮は鳩原を馬鹿にしていたし、馬鹿にされていることについて鳩原が何を申したこともないのだけれども。 ―――馬鹿には馬鹿なりの戦い方があるんですよう。 いつだって作り笑いをその頬に貼り付けて中身まで見せないその女が、馬鹿であると分かっているのに二宮はいつだって恐ろしかった。馬鹿なりの戦い方、それが口先だけの何かだと分かっていても、二宮の動きを止めるにはいつだって充分で、それを察した鳩原はまたその上に笑みを貼り付けて、腰止まってますよ、なんて言うのだ。もう疲れちゃいましたか、こんな女の相手は嫌ですか、と。 馬鹿に馬鹿にされるのは嫌で、本当のところこんな女を抱いている自分というのも自分のようではなくて、すべてがこの馬鹿の掌の上のようで。 「あまえんぼさんですね、二宮隊長は」 「…は?」 「あまえんぼですよ、貴方はだーれにも甘えられないで、だからこんな馬鹿に捕まっちゃうんです」 へへ、と緩んだ口元を見ていたくなくて、本当に笑っているのかも分からなくなるような目を見ていなくなくて、そのまま身体をぐるりと入れ替える。 嬌声の代わりにまた笑い声があがったのもまた、二宮が何をしているのか分からなくさせた。 「べつに、いいですよ」 貴方、サイテーなヒトですからね、と鳩原はつっかえながら言う。 「中で出せば良いじゃないですか」 どうせいろいろ、飲んでるんですから。 その言葉は無視して、ぐちゃみその中から、二宮の形をまったく覚えない中から逃げ出した。馬鹿の背中に白濁が飛び散って、それだけが二宮の心を凪がせていた。 *** 心中日和 オサチカ 私の兄はひどい人間だ。 否、雨取千佳に対して雨取麟児という人間がひどいもので、ひどい兄であった訳ではない。彼は私にとってとても素晴らしい兄だった。それは演じていた訳でもないし、私がそうしてくれと懇願した訳でもそうであれと脅した訳でもない、彼の自主的なものだったので、本来であれば喜ぶべきものだったが、それでも私の兄はひどい人間だ、と言わざるを得なかった。 優秀な、あるべきとされた兄の偶像のために、兄はひどい人間になっていった。 その犠牲者の一人が、目の前にいる。 いくら頼まれたからと言って、それは家庭教師の個人的な願いで、それを身体をはって遵守することもないだろうに、彼はやってのけた。兄は彼がそれをすることを知っていた、そういう人間だと知っていた。だから言葉で操った。言葉で彼を縛った。 彼を解放する手立てを知っているのは兄と、きっと私だけで、でもきっと私の言葉は彼の何を変えることもしないし、言うならもっと早い段階で言わなくてはいけなかったのに、それを分かっていたのに、しなかったのは私だ。 だって、私は。 「………おさむ、くん」 呼び掛ける。 雨の音が視界を遮っていく。私は笑えていただろうか、彼が望むように、笑えていただろうか。 「ずっと、一緒にいてね」 「何当たり前のこと言ってるんだよ」 照れくさそうに笑う、彼を騙しているつもりはなかったし、別に誰が見ても騙している訳ではなかっただろうけれど。 私の中に一点の曇りがあった。それがもっと広がって雨になったら、私はこの胸の内をすべて彼に伝えようと、そう決めていた。 *** 初恋の葬送 二鳩 R18 *鳩原ちゃんの口調諸々捏造 鳩原未来という女はとんでもない嘘つきだった。 そのことを彼女の師匠や兄弟子に相談してみるも、〈俺たちといるときはそんなことはない〉の一点張りで勿論相談やら何やらに乗ってくれたことはあっても、彼女の嘘についての、二宮がつかれた嘘についての根本的な解決にはなっていなかった。 勿論戦闘上で彼女が嘘をつく訳ではない。日常の些細なことであるとか、ふとしたところで露見するような嘘を、彼女はその貼り付けた笑みで飄々とうたってみせるのだ。それが二宮には理解が出来ない。元々露見するのが分かっているものをどうして言うのか、完璧主義者に最も近いであろう二宮匡貴には理解が出来なかった。 そんな女を抱くようになったのは正直なところ不本意なもので、 「たいちょう、女の子よりどりみどりなのに私なんかにかかずらっていてカワイソーですね」 いつもの軽薄な笑みでそう馬鹿にされてしまえば、だって二宮は彼女のことを馬鹿だと思っていたので、あとはもう衝動的だった。 自分にもこんな獣のような部分があることに失望したし、それでけらけらと喜んでいる彼女にも失望したし、その他諸々いろいろなことに失望したはずなのにどうしてかその関係はずるずると続いて、彼女が二宮を裏切って姿を消してしまう、その前日まで同じことをしていた。 「だいすきですよう、にのみやたいちょう」 甘々しい鼻にかかったような声で彼女そんなことを言った、いつもは言わない言葉だった。驚きのあまり動きを止めてしまって、それに笑った彼女の所為でまるで誘うようにぎゅっと圧迫感があって、それで。中で出しちゃうなんて、たいちょう、いよいよカワイソーですね。そんなことを言われたはずなのに、二宮の耳の中ではだいすきですよう≠フ部分だけがリフレインしていた。 それまでもが嘘だなんて思いたくなかった。 思いたくなかったことで、二宮は鳩原のことが好きだったことに気付いた。既に二宮の未来が潰えた、その後でのことで、もうすべては手遅れだった。 *** 20150806 |