バイバイさよならいとしいおひと 最林+城戸

 忘れてしまえ、とその言葉はきっと正しいのだ。林藤はそう思う。
「でもさぁ、城戸さん。人間がいつも正しい道を選べるとは限んないでしょ」
そんなふうに笑ってみせると、馬鹿が感染ったのだな、とため息を吐かれた。



ずいぶんとなくなったから心がね 何年かかけて忘れるだろう /柳谷あゆみ


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僕等はずっとこのままで 風迅

 ねえ風間さんおれさ、きっと何処へ行っても三門市のこと、忘れられないと思うんだよね。泣きそうな顔でそんなことを言ったそいつの頭に、風間は記憶消去用のトリガーを突きつけるべきだったのか。その解えが今もまだ、分からないでいる。



日本を脱出しても思ふだらう 淡きたたみの薫り手ざわり / 筒井宏之

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ヒーローの在り方 陽レイ

 ヒーローというのはその死ぬところを本当は誰にも知られてはいけないんだよ、と大好きなひとはそう言った。それは寂しいと大泣きをしたことをおぼえている。それが普通なんだと固い表情で言ったその人が死ぬ前に、もっと、もっと強くならなくてはならないと心に決めた。



普通だね うん普通だよ 普通だね 薔薇の花束抱いて死にたい / 黒木うめ

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ばか、すら云えない 最林

 泣いている夢をみた。
「なんでアンタ泣いてんの」
不可逆だと、誰よりも分かっていたはずだった。だからこそ林藤も、彼の可愛がっていたはずの迅も、置いて行かれたのだ。泣いて喚いて、それでも何も変わらないことを知らされて、それで。
「なのになんでアンタが、」
 それは林藤の夢だった、本当に彼が泣いているかなんて、分からないのに。
「泣かないでよ、最上さん」
幻想でも愛した人の涙は、胸を痛ませた。



どうしたの くるしいですか もういちど ぼくらのように いきをしますか / 黒木うめ

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もう一つの選択肢 林迅

 迅、お前はさ、此処から出て行くべきだよ。
 師匠を失くしてずっと代わりに世話をして来てくれた、その人はまるで猫でも棄ててきなさいというような調子でそう言った。
「ちょっとまってよ、ボス、どういうこと? 此処におれがいなきゃ、」
「うん、それはそうなんだけどさ。ずっとお前が此処にいる必要も、ないってこと」
聞けば新しい副作用(サイドエフェクト)補助トリガーが出来て、それがあれば遠方でも迅の予知が使えるだろう、ということらしい。
 でも、それでも、と唇を噛む。
「お前はずっと此処にいるべきじゃない」
だから、この機会を逃すな。言いたいことは分かる、迅だって一応は大人だ。でも、でも。
―――ボス、おれはアンタの口からそんなこと、聞きたくなかったよ。
 そんな、子供じみた我が侭さえ。



「わたしたち生きているからこの町で死ぬことだってできるはずだよ」 / 黒木うめ

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ともだちであること 三輪米

 饐えた匂いにもなれてしまったなあ、と米屋陽介はそんなことを思いながら狭い個室の中、友人、友人、隊長、友人、いや友人でいいや、の背中を擦っている。うっかり一緒に吐いていたのなんて最初の数回で、それ以降は何でもないことになった。何で許されてるんだろうな、と思いながらその手は止めないで、なあ秀次、と呟いて見せる。
 もしもお前が望むのなら、おれはこのまま笑ってみせるけど、本当はどうするのが正しいんだろうな。



微笑んであげよう君が悲しみをこれみよがしに吐き出すそばで / 黒木うめ

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どうしようもないのかもね、きもちわるい ほかあら

 穂刈篤には幼馴染というものがいる。
 幼い頃はまるで美少女のように美しかったその幼馴染は、年を負うごとに少年のそれになっていって、次第に喉も出てきて声も低くなり、その身体は厚みを持ったものになり、何処からどうみても男、としか言えないものに今では育っていた。
 美しい、本当に美しいものを見て育ってきた穂刈としてはまあそれを、勿体ないと(勿論これは美しいものが失われたことに対する悲しみである)(幼馴染が育ってしまったことに対する悲しみではない)(両者はイコールのようでイコールではない)思うことはあったが、今の元気で楽しそうな幼馴染とあれこれしているのは穂刈としても楽しいので、別段気にしてはいなかった。
 いなかった、けれども。
 穂刈には幼馴染には言ったことのない、感情が一つだけあった。先に述べたような幼かった彼を美しいと思っていたことではない。それは昔からこの口下手な方であろう唇からも、素直にこぼれていった。それは今では時折からかいのように繰り返される訳だが、それは置いといて。もっと、ほの暗いものだと。穂刈は分かっていた。名前をつけたらいけない感情だ、そうとも思っていた。そして、それと同時に。幼馴染に抱いているこの感情が。
 許されるものだなんて思ったことなど、ない。
 穂刈に課されたのは、それをずっと黙っていることだった。贖罪のように幼いころ思っていた美しいという感情を並べ立てて、そうしてまるで蓋をするように。その顔が歪むことなどないように、ずっと腹の底の一番したに埋め込んで、出来たらそのまま忘れられてしまえたら。でもそう思う反面、分かっているのだ。これはきっと、一生消えることなど、ないのだと。
 諦めに似たものを抱えながらも、穂刈は幼馴染から離れることをしない。それが既に解えで名前のような気もした。しかしやはりそれは、口に出さなければ良いものなのだ。



壊れかけメリアータ
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春の匂いはきらい 風迅

 まただ、と思う。またこの季節が巡ってきた。貴方のいない、この季節。
 桜を褒める声も、そのままに死体が埋まってるなんてふざける声も、未来視なんて特別な力じゃないと笑い飛ばしてくれる声も、なにも、ないのなら。
 春なんて来なきゃ良いと思う、のに。
「迅」
強い手は一人でいじけることを許してくれはしなかった。
「そういうとこが嫌いなんだよ、風間さん」
そんなこと、微塵も思ってない、くせに。
 春の匂いを纏った、おれのすきなひと。



揺蕩う言葉
https://twitter.com/tayutau_kotoba

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何処にもない楽園 米出

 世界のどこかに住めるとしたら,どこに住みたい?
 何気ない質問だった、リゾート地だとか、そういう回答が返ってくるもんだと思っていた。そうしたら笑って、じゃあ住めるように今稼いどこうぜ、なんて笑って。それだけで良かった、どうでも良い未来を思い描いて、そんな普通の馬鹿みたいな話をして、それで良かったのに。
「んー…秀次がたのしいとこかな」
まさかこんな時まで、その名前を聞くことになるなんて、思っていなかったと言えば嘘になるから。
 ただ、唇を噛むしか出来なかった。



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さいごのうそ 最林

 この時が来た、と思った。可愛い弟子を裏切ることがこの上なく申し訳なくて、でもきっと大人になればこの選択の意味をきっとわかってくれるだろうと、そう育てた自信があった。だから、心配してはいなかった。時間が解決してくれる。それに、友だちもいる、から。
 しかし、彼は。
 友だちはいるがそういうことの出来る人間でないというのは分かっていたし、時間が解決するものでもないと分かっていた。だから。
「たくみ」
呼ぶ。最高の、最期の愛を込めて。
「おれ、城戸さんが好きなんだ。だから、お前、この遺言だけ預かって」



ask
最後についた嘘を教えてください。

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20150806