偽りでコーティング済みの純情 最林

 お前は鳥かと、何度言いたくなっただろう。カルガモの如く最上さん最上さん、と後ろをついてくるその後輩に、空閑が一番面倒みたのはおれなのにな、と笑っていたのを思い出す。そう思うならもっと引き止めておけば良かっただろう、思っても言えないのは、もう空閑が此処にはいないからだった。
 何でついてくるんだ、と。そう問うても返って来るのは、だって憧れだから、なんていう真っ直ぐなもので。お前はもっと隣のやんちゃ小僧を見習えと、こちらの感情の底まで見透かしてくるような可愛くない餓鬼を見ては、そう思う。
「もーがーみーさーん」
「林藤、うるさい」
「うるさいって! ひっど!」
けらけら笑う姿は大人に近付いては来ているけれど、それでもまだ子供だった。
 なのに、なのに。憧れなんていうきらきらとした感情を、殺してしまいたくなって。伸ばしかけた手、この手を、どうするつもりだったのだろう。子供が振り返る前に引っ込める。
 もし、もしも―――このまま。押し倒したりなんぞしてみたら、この後輩はどんな顔をするだろう。首を振る。
「最上さん?」
「…何だよ」
「何でもないけど」
こうして笑いかけられることで、それだけで、もう。
 本当は良いのだと、そんなことは分かっているのだから。



アメジストはほくそ笑む
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たべられなくてもいいよ 陽レイ

 カップラーメンが伸びている。それは分かっていたけれど。
「レイジ、レイジ、ごめんなさい」
幼子の泣き声。その頭を撫ぜてやる。
「大丈夫だ、お前に怪我がなくて良かった」
 ひっくり返された白い発泡スチロール、びたびたになった床。そんな惨状が可愛く思えるほどに、心を奪われているなんて。



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サタデーナイト 佐当

 ずしり、と肩の辺りに重みを感じて目が覚めた。
「あれ、起こしちゃった?」
とーまさん、と呼ぶ声を聞くより先にそれが誰なのか分かって笑う。
「…さとり」
「なんですかー」
引き寄せて触れた唇は冷たかった。
「てーれーるー」
からからと笑う顔はいつもと同じように見えるのに、疲れてでもいるのだろうか。そんなことを思いながら先ほどまで眠っていたベッドに引き倒すと、え、と驚いたように声が上がった。
「な、何? とーまさん。オレ、期待しちゃうけど」
「ばっか、素直に寝ろよ」
疲れてんだろ、と頭の後ろ辺りをぽんぽん、と撫ぜると、驚いたように目が見開かれたのが分かった。
「………なんで?」
「さぁ」
 おれがお前のこと、好きだからなんじゃねえの。
 そんなふうに寝ぼけ眼で愛の言葉を囁いてやったら、不器用に笑う子供はえへへ、と嬉しそうに笑った。笑って、そのまますぐに眠りの世界へと引き込まれていった。



「照れる」「肩」「冷たく」
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うそがじょうずなぼくらのみらいは 米古

 本部からの帰り道。暗くなった道で、まだ少し喧騒の遠い道で、古寺と米屋は並んで歩いていた。まだ息が微かに白く染まる、さむい道。
「しょーへーはさ、栞が好きだからおれを選んだの?」
なんの前触れもなしに、恋人であるその人から放たれた言葉は耳を疑うようなものだった。
「米屋先輩、突然何なんですか」
「イトコだし、似てるか似てないかって言ったら似てるっしょ」
 確かに、二人は似ている方だとは思うが、一体。暗がりで見遣る顔は拗ねているようには見えなかった。そもそも、拗ねてこんなことを聞いてくるような人か。
「誰かに何か言われたんですか?」
「いや?」
右に十六度程度、傾げられる首に違和感はない。いつもの―――いつもの反応。何も可笑しいことはない。吐いた息が白く染まっていく。さむいよな、と米屋は言った。
「足止めさして悪かったな。気にすんな」
ほら行くぞ、風邪引かしたらおれが秀次に怒られる。
 手を引かれ、歩き出す。いつもと同じだ。強くも弱くもない力で繋がれる手が、もう少し人通りのあるところについたら自然と離れてしまうことも、よく、知っている。
「………米屋先輩の、そういう、嘘が上手なところ、きらいです」
だから、という訳ではないけれど。
 繋がれた手はそのままに、ぶつかるようにして額をつけた背中は冷たかった。
「オレは、米屋先輩が好きだから米屋先輩を選んだんですよ」
 どっちがだか、とこぼされた言葉は、聞かなかったことにした。

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ねーよと君は笑った 米出

*水槽出水

 この学校のどっかには水槽があんだって。ほら、この学校って名前変わる前は学園だったじゃん? その時代からあるらしいぜ。それには人魚になる水が入ってて、浸かってると人魚になんだって。夜な夜な学校を徘徊する番人みたいのがいて、それに捕獲された生徒はその水槽の中に入れられるんだってさ。したら人魚になる訳じゃん、で、そのあとどうなるかっていうと、喰われちゃうらしいぜ。人魚って薬になるとかで、ばりばりって、頭から。
「ふうん、人魚ってそんななり方もあるんだな」
「何お前、なったことあんの?」



水槽、学園、捕獲
ライトレ

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子供じゃない、大人でもない 太刀出

 はやく酒飲める年になれよ、ビール奢ってやるから。そう言ったその人からは知らない香水が香っていた。ずるいな、と思って手を伸ばす。なになに、と笑ったその人の耳を掴んで、そのままキスをかましてやる。
 俺とセックスして、香水の女のことなんか光速で忘れてしまえば良いと思った。



ライトレ

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別れが来ると知っていたなら 最林

 出会いというものは始まりであり、そもそも最初から別れという終わりを含んでいるものである。そういうことを子供ながらに賢かった林藤匠は分かっていたはずだけれど。加えて此処はちがういきもの≠ニ交流をはかる組織だ。同じ人間でも攻撃される場合があるのに、違う彼らが攻撃してこないという保証は何処にもない。
 それを、分かっていた。
 分かっていたから戦いの技術も身につけたのだ。いつか戦う日が来ることを知っていて、それでいてそんな日が来なければ良いと、そう願っていた。
―――お前は、良い子だなぁ。
まるで子供扱いをしてくるその人の、隣に何度立ちたいと思ったことか。隣に立てて、どれほどに幸せだったか。その人が、いなくなって。
 どれほど声をあげずに泣いたか。
 だからと言って、選ばないことが出来たかと言うと、そんなことはないのだ。



烏合
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(貴方は悲しみ以上の喜びをくれました)

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焼肉なんか行けなくて良い 荒船隊

 焼肉には呼ばれなかった、代わりに隊で映画に行った。いつもは選ばないミステリなんてものを選んだ所為か、トリックは最初から分かるわ人はいっぱいいるわで映画自体は面白くなかった。
 それでも楽しかった、と隊員たちは笑うから。今日は来て良かったと思った。



トリック、映画、焼肉
ライトレ

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貴方に今でも恋をしている ほかあら

*アニマ荒船

 女教師に興奮するのだ、と犬は言った。何故と問うてもそういうもんだろ、としか返ってこない。分からなかったが一緒にビデオを見て、それで抜きあって、現実世界に戻ってきたらやたらと空虚感に苛まれた。
 こいつは、姉ではないのに。
「まだ私を求めているの?」
姿なき姉が笑った気がした。嘲笑された、気がした。



女教師、現実世界、姿なき
ライトレ

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さよなら子供時代 林迅

 林藤さんっておれのこときらいでしょ。そんなことを言う子供だったのだから、さぞかし可愛くなかったことだろうと思う。自分の師匠を取って行った、才能ある子供。自分のことをそんなふうに思っていた、自分が傲慢だったとは思わない。そうでも思わなければ、とっくにこの副作用に潰されていただろうから。
 それを聞いた林藤はんなことねーよ、と言ってから、どっちかってとおまえのことすきだよ、と頭を撫でた。それからキャラじゃないとでも思ったのか、頬を紅くしていた。
 十年も前の話だ。迅が今より子供だった分、林藤だって若かった。素直な言葉が恥ずかしいと、そんなことを思うほど。
 言われた迅はと言えば、まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなくて、言った本人に負けず劣らず顔を赤くしていた。思わず顔を覆う。
 苦々しいきもちが、胸の中に広がっていった。二人で照れ合っているところに師匠その人が入ってきて、二人で慌てて誤魔化した。



林藤さんは「どちらかというと好き」と言って照れました。相手は手で顔を隠しています。どうやら恋に落ちてしまったみたい。だけどそれはほろ苦い気持ち。
http://shindanmaker.com/521669


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20150124
20150308
20150410