どうか僕の名前を呼んでおくれ 一薬

 その部屋にだけはベッドというものがある。主が手入れやら何やらをする時にやりやすいように、それとやはり、傷付いたものたちがもっとゆっくり休めるように。そういう理由でベッドになっているらしかった。
 誤魔化すためにいろんな話を聞いた。ぼろぼろの弟をつきっきりで看病しながら、煩い心臓を黙らせようと必死だった。手伝い札というのは主に負担が掛かる。それを知っている弟は重傷を負いながらも首を振った。時間を掛ければ治るのだから、自分の代わりならたくさんいるから。だから、札はいらない。そんな美しい弟の願いを、主が飲み込まない訳がなかった。弟が望むのに、兄である自分が主に嘆願することも叶わなかった。
 激痛の最中に彼が何を呻いているのか聞く余裕もない。ただはやく戻ってこいと、願うばかりだった。



弟、ベッド、激痛の
ライトレ

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すべてよし 主へし

 世界の平和だとか未来だとか云々。正直どうでも良かったし、莫大な報奨金が出るから受けただけだし、この時代に刀を、なんて時代錯誤もいいところだと思っていたが。
「主、このお菓子は何と言うのですか」
金平糖を眺めてきらきらした目で、必死に平静を装うとする彼が愛しいので。



刀、お菓子、世界
ライトレ

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貴方様の未来を 主たぬ

 名も無きものであった頃はこうして自分で戦うことも、何もなかったのに。仮にも神の名を冠したことで、人の姿を得たことでこんなにも。
 手綱を握る手に力を込める。呼ばれていた、呼ばれているのが分かった。その声に、応じたい、なんて。馬に乗って向かうのは、地獄かそれとも地獄の淵か。



(どちらでも変わりないことよ)
馬、地獄、名も無き
ライトレ

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貴方はだれに赦すのですか 主清←他主

 ぺこり、挨拶をした男の髪にはレースの飾りがついていた。
「可愛い?」
「可愛いよ」
思った通りに頷く。
「あの人がくれたんだ」
だから、すっごく嬉しい。
 そう笑う顔がとてもとても可愛くて、でもそれを口にすることは出来ないで。良かったね、そう言いながら、笑いながら、神も物で釣れるのならば釣っておけば良かったと心底後悔した。



神、レース、挨拶
ライトレ

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意味深な彼にオトされる 主←青

 色欲の罪とはよく言ったものだ。
 フランクフルト一つ食べるにしてもやたらと様になるなんて、確かにこれは罪深い。いや、罪深いのはこちらなのかもしれなかったが。
「今にも飛んでいきそうだねえ、ミサイルみたいだ。ね、君もそう思うだろう? 発射寸前、って感じで」
その台詞も敢えてのチョイスなのだろうなぁと思うといたたまれない。いつもなら(暗黒微笑)と馬鹿にしているだろうその笑みも、今はやたらと艶やかに見えるのだから本当に。
 こちらに出来るのはただ、睨むことくらいだった。


ライトレ

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おやすみ僕の可愛い子 主→ぶし

 泥酔、なんてものが人ではないその身にも降りかかる現象なのだと初めて知った。
 はく、と言葉になりきれないその声はきっと、自分を呼んだのだろう。黒の眸がゆらりと揺れる。どきり、と胸も揺れる。彼の力というのは存分に知っている。それに助けられている身だ、よく分かっている。防御力だっては凄まじいものだと分かっている、分かっているがしかし、今なら。
 そう思う心をなんとか押し込めて、もう寝なさい、と微笑みかけた。



黒の、泥酔、防御
ライトレ

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なんでもするのでしょう? 主→へし

 お前にだけだ、と目をじっと見つめて静かに言う。この言葉は他の言葉と同様に彼にとっての命令でなくてはならない。だから静かに、いつもと同じように言う。波も風も、其処に立ててはいけない。
 贈り物一つ、するだけでも。これほどまでに気を使うのは、彼だからか。主と刀という関係でも、彼が神だからか。
 けれども、いくら相手が神とは言え面倒だな、とは思いはしても、そこも含めて愛おしいのだ。



贈り物、いくら、神
ライトレ

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君といる未来 今主♀

 ごはんをたべたすぐあとにねるとうしになるんですよぉ、との声を聞きながらうんうん、と生返事をしていると、もう、と彼は横に座った。ねぇ、と話し掛けるとなんですか、と柔らかい声。
「私たちの未来は、どんなものになるかなぁ」
「みらい、ですか」
「そう、未来。私たちが今、必死になって守っている、まだ作られてもいない未来」
「…すてきな、ものだと」
そこでその声は一段沈んだ。
「でもぼくは、そのみらいにはいないんですよね」
 思わず、目を閉じたままにその手を掴んでいた。
「いるよ」
驚いたような気配。
「きっと、いるよ」
「………そうですか」
「いてよ」
「おねがいなら、しかたありませんね」
 笑ったその気配に安心したら、一気に意識が遠のいていった。



(だからねたらだめですってばあ!)
未来、牛、意識
ライトレ

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きっとまた逢えるよ 清安

*闇堕ち

 これは戦争だと分かっている。誰かが向こうへと落ちればループに陥って、戦争は終わらない。それをこの上なく分かっている。だから、これは必要なのだ。
 執行を任された泣きそうな相棒に笑いかける。
「人間って不便だね。殺さないといけないなんて」
背骨がぐりぐりと口から湧き出る音がしていた。いつものあの顔で良いのに、どうして俺の時だけ人間みたいな顔をするのかなぁ。



ライトレ

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可愛い貴方のいじらしい少女性 石かり

 お弁当を作ったんだよ、と彼は言って何やら小さな包みを渡してきた。
「遠足じゃないんだけれど」
「分かっているよ」
 どうにも彼は諸々の事情を抜きに、私になついているように思う。私はそんな彼を、どう扱って良いのかわからない。遠征先で開いたお弁当は定番だらけだった。彼が慣れない台所に立ち、本とにらめっこをして作ったのだろうな、と思わせた。
「…ああ、まったく」
 少し好みの味付けよりも薄いそれさえ、美味しいと思わせるのだから、もう。



お弁当、定番、遠足
ライトレ

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20150308
20150410