その苦痛が抱え込まれるばかりでなくなりますように 

 僕を見つめる視線というものが何か含んだものであると、それがどうにもこの関係の先にある気がするのと、だと言うのに恐らく欲だとかそういうものとは程遠いものであると。
 ここまで分かっている(と思っている)はずなのに、どうして分からないんだろうな。首を傾げても中身のない疑問符が飛んで行くばかりで、答えは見つからない。
 いつか。
「君の秘密が、僕のものになりますように」
僕が君の苦痛を、分かち合えるものになれますように。
 それは、一途な祈りだった。



お題bot
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思わず祈りを捧げたくなった

 ああ、と思った。いつだってこの背中に守られてきたのだ。そう思ったら、なんて幸せなのだろう、と涙が出そうになった。
 大きな背中だ。
 この背中に、一体どれほどのものを乗せてきたのか。自分のことばかりではないだろう。
 美しい、と。
 そこまで。
 膝をつく。その行動にはまだ気付いていないようだった。
 とても、美しかった。
 ずっと、美しいままでいてほしかった。



神威
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逃がさないで 

 例えばこの背中におもいきり飛びついたとして、彼はびくともしないしそれをなんとも思わないのだと、そんな当たり前のことが分かったのはごくごく最近のことだった。なんてひどい話だ、と思う。自分から言い出しておいて、にっかり青江の中の感情に名前をつけておいて、彼の中にはそれに伴うあれこれがない、というのだから。
 それとも、巧妙に隠しているだけなのだろうか。そうだとしたら、大した技術だ。にっかり青江は両手をあげるしかない。
 甘えている、その自覚はあった。それでも、そうすることを選んだのは、そうでもしなければ彼がある日突然いなくなってしまいそうだったから。そんな、ことは。背筋が震える。戦争の中にいて、それはいつ起こってもおかしくないことだったけれど、同時にそんなことは起こってはいけないと、そうも思った。
「どこにもいかないでね」
「…? 何か、不安にさせるようなことをしてしまいましたかな?」
「ううん、夢見が悪かっただけ」
 嘘は、得意になっていた。



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裏切って、裏切って 

 やわらかな言葉が頭のてっぺんから降り注いでこのからっぽかもしれない身体を満たしていく度に、言いようのない焦りが腹の底から湧いてくる。けれどもそれはいつだって腸(はらわた)を駆け抜け胃を巡り、食道を灼いてそこでふっと形を失ってしまう。舌に乗る直前に、口蓋垂を揺らしておきながら、その正体を掴ませない。
 こんなに、幸せで、良いのかな。
 そんな定期的に浮かんでくる疑問は打ち消した。打ち消した、はずだった。
「嘘を、吐いて欲しい、なんてさ」
あのゲームではなく、対等なところで。
「なんでだろうね」
そんな、望み。
 まるでそれは、自分が嘘を吐いているかのようだ。



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押し付けて、つよく 

 好き、と。その気持ちがまっすぐに形にされることは少ない。態度で、全身で、愛を伝えられていると分かってはいるが。ふとした仕草に照れることだって多いのはその所為で、だから。
 背骨が鳴りそうなほどに抱き締められたいなんて、そんな狂ったようなことを思うのだ。
「ぜんぶ、きみがわるいんだ」
幼子のように頬をふくらませて、がすがすとその背中に拳を打ち込む。そう力は入っていない、ただの戯れ。
 きみのすべてておしつぶされてみたい、なんて。
 狂ったように恋をしている、それが馬鹿なことだとは思わなかった。



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Be yourself. 

 背が高いな、と思った。そりゃあ勿論彼は槍で僕は脇差で(一応自称は大脇差だし、実際脇差の中では大きい方ではあるのだけれど)、体格差なんて仕方のないものかもしれなかった。勿論その法則に当てはまらない人の身を持つものがいない訳ではないけれど(例えば蛍丸くんだとか)、大抵が元である彼らに呼応する形になっている。
 それは分かっていたし、特に大きくなりたいだとか、そう思うことはない―――なかった、けれど。
「とんぼくん」
呼んで振り返ったところで手を伸ばす。その肩に手を置いて、ぐいっと背筋を伸ばす。
 重なった。
 それは一瞬だった。
 めいっぱいに伸ばした背筋がぎしりと嫌な音を立てて、おっと、とたたらを踏む。
「…うん」
びっくりしたような彼の表情を見てから一人頷いた。
「ちょっと、不便だね」
主導権を握りたいなんて、そんな恐れ多いこと、思ったことはなかったけれど。
 それでも僕が僕のしたい時に思うようなことが出来ないのは、やはり。少し、悔しい気分にさせられた。



1.重ねるだけ
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ラベル作業、原材料名偽造 

 身体の中に延々巣食っている熱が、その時だけは解放されたような気がした。ずっと前からそうだったように、そうであるのが当たり前のように、僕はあ、とその時初めて気が付いた。
―――これは、恋だ。
名前を。
 名前をつけるだけでこんなにも、すべてのものに意味が見えて、世界に色がつくと言うのか。別に、これまでが色のない世界だった訳ではない。愛した人間たちの住まう世界だ、それが彩り豊かなのはよく知っていた。知っていた、のに。更にまた、花が咲く、ような。
―――これが、恋だ。
始終静かだった、優しかった、その手の感触をすべて思い起こすように。
―――恋だったんだ。
おそらく、胸に去来したのは幸福感だった。今までずっと何か分からなかった、それに主観的なものであろうと、もしかしたら間違いかもしれなくても、名前が付けられた。それは不安からの解放で、もう悩む必要がないのだと、戸惑う必要がないのだと、そういうことだった。
「とんぼくん」
最早布団の中にはいないその名を呼ぶ。
「―――ありがとう」



ask
今までで一番幸せだった時はいつですか?

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Who wii kill Cock Robin? 

 透明人間になれたら何をしたいですか?
彼ならいったいどんな回答を寄越すのだろう、と思ってふってみる。主の読んでいた書物―――彩り豊かなそれは雑誌というらしいが、それにまとめられていたいろいろな人間の声。
―――透明人間になれたら。
人間でないにっかり青江や蜻蛉切に、それは可笑しな質問かもしれなかったが。
「要は他の人に見えないようになったら、ってことだよね」
「それは、一日、など、期間の決まっているものでしょうか」
「そのようだね。ちなみに此処に書いてあるのは悪戯をする、とかタダで何処かに入るとか、立入禁止のところに入るとか、………ああ、想い人の着替えや私生活を覗く、なんてものもあるねえ」
結構みんな俗にまみれているんだね、と笑えば、返って来たのはそうですな、という同意。
「一日で元に戻れるのであれば、自分はいつもと変わらないでしょうな」
「誰からも見てもらえなくても?」
「ええ。いつもと同じことをします。整理整頓をして、繕い物をして、洗濯物を取り込む。変わりませぬ」
その答えはきっと模範だった。つまらないの、と思う。
 彼はあまりに均整がとれている、ように感じる。どこも突出したところがないような、そんな心地。勿論彼自身がすごくないだとか、そういうことではないけれど。此処にいる刀剣たちは良くも悪くも人間に愛されたからこそ心なんてものを持ったのだから。
「けれど、」
思考に、歯が入る。
「もしも、ずっと透明のままであるのなら―――」
思わず息を止めた。彼のその瞳はまるで、あの夜のゲームの時のように光っていて。
「その時は、にっかり殿、貴方が斬ってくださるでしょう?」
その辺りを漂う、塵芥のように。この世との繋がりの切れた、憐れな思念体と同じように。
 ぞくり、と背中の鳴る音がした。彼、は。以前斬りたい訳じゃないと言ったことを覚えていて、それでいて言っているのだと分かった。
 はく、と唇が震える。
 どう答えて良いのか分からなくて、ぎゅっと拳を握りしめた。



ask

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きみのかげ 

 夕闇が迫っていた。その赤と黒の境目を、小さな影たちが飛んで行く。その羽音までぎらぎらと聞こえるようでなんとなく、ああ、いいな、と思った。すう、と息を吐く。吸い込むための予備動作。そうして飲み込んだ大気はいつもと変わらなくて、なんだ、と思って隣に立つひとに笑いかけた。



蜻蛉の味がするだろうかと夕闇を含む大気を吸い込んでいる /五島諭

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あさがおよ、枯れないで 

 遠征に出た先は穏やかな天気だった。今の城は梅雨の季節に設定されているから、この陽の光を少しでも持って帰ることが出来たら彼は喜ぶだろうか―――そんなことを考える。花ならまだしも、天気となると。
 自分の思考の無茶さに笑いながら陽を掴んだ掌にふいにあの朝顔の文の感触が蘇った。あの、優しくも控えめな、恋文を。一体誰が受け取るのだろうと。主だろうか、他の刀剣男士であろうか、きっとにっかり青江には関係のないことだったろうが、もし、彼の恋が成功したら。今までのように過ごすことはなくなるだろうな、とそう思ったら掌に力が入った。
 形のない陽が潰れた感触がした。



日溜まりの なかに両掌をあそばせて 君の不思議な詩を思い出す / ほむらひろし
「あー…」
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20150716