この顔に弱いって知っててやってみる 

 ねえ、おねがい。首を僅かに、本当に僅かに傾げてみせる。これはわざとらしくてはいけない。そう分かっている。何事にも節度は大事だ、それが戦略なのであればなおのこと。
「だめ、かな?」
ぐっと詰まるのが見える。後ろで歌仙兼定が笑っている。仕事を増やす、そうは分かっているけれども。
「君の作ったオムライスが食べたいんだ」
「ですが、」
「なんなら僕も一緒につくるから」
「にっかり殿」
「………我が侭、かな」
 負けました、というように息が吐かれるまで、にっかり青江は彼を見上げることをやめないのだ。



(…分かりました。しかしもう、本当に、その表情は他ではしてはいけませんからね!)

***

調べておいた君の好物で餌付け

 遠征から帰って来て、報告に行くという隊長の岩融を見送ってからいつもの部屋へと行く。今日は彼は非番だったはずだ、ならばきっと、部屋で何かしら仕事をしていることだろう。
 そういう僕の予想通りに、彼は自室で繕い物をしていた。
「おや、にっかり殿。帰還なされていたのですね、お疲れ様です」
「うん、ありがとう」
「何か御用ですかな?」
いつもはそんなこと聞かないくせに、と思いながら隣に腰を下ろす。
「お土産」
「自分に、でしょうか」
「それ以外に誰がいるってのさ」
開けてみてよ、と小さな包みを渡す。大きな手が、恐る恐るというようにそれを解いて行く。
「これは…」
「君、すきでしょう」
 遠征先で見かけたくず餅。彼がこれを好きだというのは御手杵からの情報だった。
「ええ、好きです」
ですが何故? と問いたげな彼をまあまあと封じ込めて、食べてよ、と言う。
「きっとたぶん、とっても美味しいから」
 君のことを考えながら買ったんだから、そうでないと困るんだ、とは流石に言えなかった。

***

さりげなく触れてそっと耳元で囁けば 

 みるみるうちに耳が赤く染まっていくのを見て、ああ彼もそう自分と変わらないのだな、と安心する。
「にっかり殿」
悪さをする手はこれですかな、と掴まれたそこも全く痛くない。力の差を考慮しているのか、考慮していない時がないのか、彼はいつだって優しい。
「他の人にこのようなこと、しませんように」
「ほかのひとにする意味、ないと思うけどなあ…」
 彼がにっかり青江の何を疑っているのか知れないけれど、にっかり青江は彼に恋をしているのだから。

***

たまにはヤキモチを妬かせるのも一つの手 

 とは思うものの、彼の中に嫉妬なんていう感情はあるのだろうか。そんなことを思いながらへし切長谷部を誘って、縁側でお茶でもしてみる。非番の日のこれくらいの時間は、いつも彼の部屋にいっているから、何かしら反応があれば面白いのに、そう思いながら。
 しかし予想通り特に彼からのアクションはなく、やはり穏やかな彼には嫉妬なんていう感情はないのかもしれないと、そんなことを思った。
 それがなんとなく気に入らなくて、夜に部屋を訪れた時、意味もなく肩パンしておいた。

***

『あーあ、濡れちゃったぁ』 

 夏。暑さが鬱陶しいのは人間も刀剣男士も同じだ。そこで主から教わったのが、水鉄砲だった。中に氷を入れられるタイプのそれは凶悪な武器となると思いきや、あまりに暑いため歓迎しかされなかった。
 そういう訳で短刀たちと思いっきり遊んできたにっかり青江はびしょぬれであって、一呼吸ついたところでそう呟いたのも、深い意味はない。
 なかった、のだが。
「にっかり殿」
後ろから呼びかけられて、思わず背筋を伸ばした。
 聞き慣れた声。
「と、とんぼくん…」
いつもいつも何故か背後を取ってくるこの刀剣は、いつもと変わらぬ穏やかな顔でにっかり青江を見ている。
「そのままではお辛いでしょう」
どうぞ、と渡されるのはタオル。
「風邪をひいてはいけませんからな」
なかなか受け取らないにっかり青江に蜻蛉切は首を傾げてから、そのタオルをふわり、とにっかり青江の頭に乗せた。
「ちゃんと、拭くのですよ?」
小さなこどもに言い聞かせるようにそう言って、彼は他の短刀にもタオルを渡しに行く。
 それを見送ってから、にっかり青江はしゃがみ込む。思い出されるのは余裕があるとき―――つまり、彼の前でないところで言っている、自分の意味深な台詞たち。
「そ、そういういみじゃ、ないもん…」
 その呟きは一体何の弁明だったのか、にっかり青江自身にもよく分からなかった。

***

寝ているフリして君の本音を 

 同衾、というと何かしらあるように聞こえるが。にっかり青江は何もないんだよなあ、と目を閉じ規則正しい呼吸をしながら思っていた。
 あのゲームの感想を言い合って、そのまま睡魔に身を委ねる。その関係が何となくおかしいということは、分かっていたけれども。
「にっかり殿」
囁くような声に、返事はしなかった。
「眠られましたか」
眠ってないよ、とは答えない。身動ぎもしない。
 彼が、何を言うのか。
 興味があったなんて言ったら彼は、怒るだろうか。
「にっかりどの、」
その先の言葉は、
「………にっかり…」
いつになったら、聞けるのだろう。

***

罠にはめたつもりがはまってた? 

 おいしいねえ、と言えばそれはよかった、と返される。最初のあれやこれやなど思い出せないくらいに、蜻蛉切のオムライスは上達した。今では燭台切光忠よりも上手いくらいだ。
 最初は、出来ないことのある彼も可愛らしいと思ったのと、気にしているようだったので自信をなくさなければ、と思ってした約束。
 だったはずなのに。
「もう、君の作った以外のオムライス、食べられないなあ」
曖昧な笑みとともにそんなことを言ってから、逆に利用されたかな、なんて不穏なことを思ってしまった。



milk
https://twitter.com/milkmilk_odai
確信犯なアナタへ7題

***

その手が掴むものは 

 ずっと、人間のためにあるのだと思っていた。
 神剣の話だってそうだ。にっかり青江が神剣になれないのはそもそも人間に愛されたからで、まあもちろん他の要因だってあるだろうけれども、そこまで気にしていなかったのだけれど。
 こうして、人の身を得てみると。不安、とでも言うのか。本当ににっかり青江という存在は人間のためにあったのか、愛されるだけの価値はあったのか、そんなことまで考えてしまう。
「はは」
自嘲のように漏れ出た笑いに、首を振った。
 例えこの手が人間のためになくとも、にっかり青江は自身を握って、そうして戦場を駆けるのだ。それ以外はない、それ以外は考えられない。
 それで良いし、それが良いのだ。



(だから君の手を、とることはきっと出来ない)

honey
http://d51.decoo.jp/diary/x7xodai

***

すれ違う中交わらない視線 

 そういうものだと思っていた。
 ゲームに不慣れなものなんて幾らでもいたし、別に僕ひとりだけが出来ない訳じゃあない。だから別に、彼が誰かを褒めたりアドバイスをしたりしていることに何を思うこともなかった。
 それどころか、安心すらしていたはず、なのに。
「にっかり殿」
今ではその声を、心待ちにしている、なんて。



(いみがわからないよね)

創作お題bot
https://twitter.com/asama_sousaku

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もしも来世なんてものがあれば 

 花火っていうらしいよ、とその写真を余りにも熱心に見つめるから言ってしまった。
「知っていたかな?」
「いえ…ああ、知ってはいましたが、結びついておりませんでしたので」
彼のこういうたまに見せる隙のようなものが、にっかり青江は嫌いではない。
 おなじ、ものだ。
 そう感じることが出来るよう、で。
「きれいだよねぇ」
すごい音がするんだって、そう言ってみれば見てみたいものですな、と返される。
 そうだね、と言いながらきっと、そんな未来は来ないのだと、そんなことも思っていた。



(君と僕で君と僕だったものを探しに行こうか)

大輪の花火はじける五億年後にぼくたちの化石をさがせ / 秋月祐一

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20150716