鹿田くんのおひるね 1 

 その日鹿田くんはとても眠たかったので図書室に行って、文芸部員の原稿を徴収している上原くんの背中を借りて、うとうととしていました。
 たたた、と音がしてはっと鹿田くんが目を覚ますと、視線の先にいたのはうさぎの耳を生やしたええと、なんでしたっけ、名前は忘れたけれども背の高い先輩でした。燕尾服をきっちりと着込んで時計を気にしています。とてもきれいな顔をした先輩なのでうさぎの耳が生えていて、剰えそのおしりに尻尾が生えていても別に気になりません。寧ろ似合っていると思うくらいです。
「おっ? お前、鹿田だっけ」
「はい、えっと、そうです」
「時間、大丈夫?」
「時間って、何の時間、でしたっけ…ええと、」
「佐竹。佐竹だよ。女王様に呼ばれてるだろ?」
そんなこともあったかな、と鹿田くんは思いました。そう言われるとそのような気もしていますが、女王様とは誰でしょう。そんな人がいたような気もしますがしかし、どこかぼんやりとしたままの鹿田くんにははっきりと断言することが出来ません。
「ええと…サタケ、先輩」
「ん? 何?」
「女王様って…」
「行かないと首落とされんぞ」
 首を落とされる!
 なんて恐ろしい女王様なのでしょう! 鹿田くんはびっくりしてその目を見開きましたが、佐竹先輩は笑うだけでした。
「ほらほら早くいくぞ!」
そう言って一人穴に飛び込んで行った佐竹先輩に鹿田くんはしばらくおろおろとしていましたが、ええいままよ! とその後を追って穴に飛び込みました。
 飛び込んだ先は何故か竹林でした。辺りを見回しましたが佐竹先輩の姿は何処にもありません。困ってしまいました。だって鹿田くんは佐竹先輩の言っていた女王様のことを何にも知らないのです! 首を落としに来るような恐ろしい女王様ですから、何か訳が分からなくても会いに行くべきなのでしょう。生命の危機です。ですが案内をしてくれそうだった佐竹先輩の姿はもう見えません。
 仕方なくてくてくと歩いて行くことにしました。

***

16/ノスタルジー 

「ねえじゅんちゃんせんぱい」
「なに」
「おれの家の話なんだけどね、おれはあの家をまもるべき場所と思ったことはあるけど、帰る場所だと思ったことはないんだあ」
「ふうん」
「でね、じゃあおれは一体どこに帰るのかなって考えたときにね」
「なんかそれ以上は聞きたくない」
「じゅんちゃんせんぱいの腕の中しかないなって思ったんだよね」
「思わなくて良い」

***

17/こぼれるもの 

「じゅんちゃ、ん、せんっぱっい、あっ、や、むり、むりっそんなに、はいんな、あ、げほっちょ、まってじゅんちゃんせんぱ、い、こぼれ、ねえ、う、ぅん…じゅんちゃんせ、んぱいっのっ、せっか、ち…っ!」
「なんでお前大人しくしてらんないの」
「だって、むり、むりですって、そんなのはいんない! おれの純粋無垢な身体を、もてあそぼうって、魂胆なんですねっ!? じゅんちゃんせんぱいだからゆるしますけどっ! おれ痛いのも我慢できますけどっ」
「目薬くらい自分でさせるようになれよ」
「ぎゃっ! やるときは声掛け―――ぴゃっ!!」

***

18/髪の毛 

「じゅんちゃんせんぱいは髪の毛このまま伸ばすんですか?」
「そのうち切るつもりだけど、何で」
「こないだじゅんちゃんせんぱいの髪の毛が肩についてたらしくて、クラスメイトに彼女いるのって聞かれたんで恋人ですよって答えたらどんな人って聞かれたのでそういうの嬉しいなって思いまして」
「外堀から埋めようとするのやめてくんない」
「じゃあ内堀から埋めていきますね!」
「そうじゃない」

***

19/通り雨 

「雨、すごいですね」
「そうだな」
「まさかたまの買い出しに出てこんな図ったみたいな雨に降られるなんてすごいですね」
「そうか?」
「だって、ねえ、じゅんちゃんせんぱい」
「なに」
「さっきからおれの方全然見てくんないじゃないですか」
「いつもだろ」
「おれの制服濡れたから?」
「………」
「身体透けて見えるから?」
「………」
「えっちなきぶんになっちゃった?」
「それはない」

***

20/コーヒーショップ 

「じゅんちゃんせんぱいはコーヒー飲めますか?」
「好きだけど」
「へええ。じゃあおれも飲めるようにならなきゃ」
「なんで」
「今はちょっと苦手だから?」
「お前に苦手なものってあったのか」
「ありますよう。じゅんちゃんせんぱいに嫌われることとか! だからね、じゅんちゃんせんぱいといつキスしてもいいように、コーヒー飲めるようにしておきますね! あ、もしかしてコーヒー飲めるようになればいつでもじゅんちゃんせんぱいとキスしてることになる…!?」
「お前本気で馬鹿だよな」

***

21/夕暮れ 

「もうちょっと部活してたら道暗くなったのにぃ」
「暗くなったら危ないだろ」
「きゃっ。じゅんちゃんせんぱいがおれのこと心配してくれてる! かわいいおれが不審者に襲われたら大変だもんね!」
「違う」
「ええー何が違うのー。だってそういうの以外にないじゃん」
「………お前、転びそうだし」
「じゅんちゃんせんぱい、それは苦しいよ。おれ、目ぇつぶってても歩けるもん」
「…そういうところが、だ」

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22/しがみつく 

「ぎゃーかみなりがおちてていでんになってまっくら!」
「説明乙」
「で、なんでじゅんちゃんせんぱいは逃げたんですか! かわいいおれがこんなに怖がってるのに!」
「怖がってる?」
「怖がってますよ! 怖がってますよ! こんなに怖がってる後輩を捕まえてじゅんちゃんせんぱい、何言うんですか!」
「怖いなら大人しくしてろよ」
「やだ! むり! せんぱいの腕の中でよしよししてもらいたい!!」
「うるせえ」
「あ、電気ついた」

***

23/本 

「ねーじゅんちゃんせんぱい、今日は何の本読んでるんですか」
「検死医の本」
「ふうん。先輩はおうち継がないんですか?」
「継ぐ…つもり、だけど。っていうかお前に家の話したっけ」
「しましたよー」

***

24/おしえて 

「ねえねえじゅんちゃんせんぱい」
「何だ」
「じゅんちゃんせんぱいって死んだひと、みたことあるの?」
「………そりゃあ、家柄」
「ふうん。どんなんだった?」
「どんなんって」
「…ううん、ごめん、なんでもないやー」

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20190117