07/鼓動 「ふふふん」 「今日も一段と気持ち悪いなお前」 「今日はじゅんちゃんせんぱいの心臓の音を聞いていました!」 「なにそれ」 「ねえ知ってますか? どの動物も鼓動の回数は一緒っていう迷信」 「迷信」 「だからね、じゅんちゃんせんぱいと一緒にいるおれはずーっとどきどきしてるから早死しちゃうってこと!」 「………ふうん」 「あっ、でもじゅんちゃんせんぱいもおんなじくらいどきどきしてるはずだから、おれがじゅんちゃんせんぱいより一年分多くどきどきすれば一緒に死ねるね!」 「馬鹿なこと言うな」 *** 08/探しもの 「さがしものはなんですかー」 「………」 「みつけにくいものですかー」 「………」 「かばんのなかもーつくえのなかもー」 「そろそろうるさい」 「このタイミングで止めると見つからなかったみたいですよね! そんなじゅんちゃんせんぱいにこのおれ! 下井梓! じゅんちゃんせんぱいの運命の人ですよ!」 「それは違うと思うし別に運命の人は探していない」 *** 09/いとしいひと 「じゅんちゃんせんぱいー」 「………」 「冴え渡る無視! そんなじゅんちゃんせんぱいもすき!」 「………」 「えっ今日はなんだか元気がないですね? おれが慰めてあげますよ! 主に身体で!」 「ちょっとしずかにしてて」 「死んだみたいにしてましょうか?」 「やっぱ喋ってて」 「ふふ、じゅんちゃんせんぱいっておれのことだいすきですね!」 「うるさい」 「だいすきですね!」 「だからうるさい」 *** 10/壊れた時計 「じゅんちゃんせんぱい、時計止まってますよ」 「電池切れた」 「ふうーん」 「………なに」 「なんかこれ、じゅんちゃんせんぱいみたいですね!」 *** 螺旋 図書館で小川にばったり会うことは、涼暮の中で珍しいことではなくなっていたし、涼暮の隣が空いていたら小川がそこに座るのにももう慣れていた。 「涼暮くんは、いつまで、いる?」 くだらない話をぽそぽそとするのもいつものことで、だからそれは今日はいつ帰るかと、そういう意味だと思ったのに。 小川の声はいつになく真剣で、やわらかさは保たれていたけれど何処か暗く、夕やみのような静けさを持っていて。 「涼暮くんは、いつか、いなくなってしまいそうだったから」 息が、止まり、そうに。 「…今のところ、そういう予定はないよ」 「ほんとう?」 「………ほん、」 「ほんとう?」 重ねられて言葉に詰まる。 もしもこのまま。 この馬鹿馬鹿しい企みが上手くいかなかったら。最初からすべて決められた通りに、なってしまったら。そうしたら涼暮はきっと彼らには二度と会わないで、あの男、とも。 「…今は、分からない」 「…そっか」 でも、と小川は笑う。 「でも、涼暮くんはいなくなってしまうことが、嫌なんだね」 「…そう、かな」 「そうだよ」 「何で、小川は、」 そんな。その先は言葉にならなかった、してはいけないと瞬間的に思った。 「オレがそうでいて欲しいから、かな」 それでも小川はその先を紡ぐ。 ただの我が侭だよ、と笑った。それはなんだか妙にさびしく見えて、ああそういえば彼は梓とも交流があったのだと思いだした。どちらか、なんて。 ―――ひどい話なのだろうな。 他人事みたいに思った、だからいけないのだ、と誰かに言われた気がした。 *** 11/紅茶 「じゅーんちゃんせんぱい! 見てくださいこれ! 見て! いいから見て!」 「紅茶?」 「そうです! 小川ちゃんに淹れ方教えてもらったの!」 「くれんの」 「どうぞ! 喉渇いてましたか? あっ普通にこれは紅茶だけでちゃんとおれがしっかり淹れたやつなので別に不純物とかあやしいおくすりとかまったく入ってないですけどじゅんちゃんせんぱいがそういうのがお好みなら次から入れますから遠慮無くいってくださいね!」 「普通でいい」 「そうですか! おれはどっちでもいいですから、そういう刺激が欲しくなったらいつでも言ってくださいね! さあ、お味はいかがですか?」 「うまいんじゃないの」 「よっし!」 「お前本当に腹立つな」 「それは褒め言葉として受け取っておきますね! ………ところでじゅんちゃんせんぱい」 「なに」 「陶器のカップって、死体とおんなじくらいに冷たくてかたい、って知ってましたか」 「………なに、それ」 「まあ迷信です!」 「また迷信かよ。そんなの覚えてる暇があったら復習でもしておけば」 「あっそれは頭のいいおれなら惚れ直しちゃうってことですか!? がんばりますね!!」 *** 12/シーツ 「何、これ」 「何ってシーツですよ。じゅんちゃんせんぱいも見たことあるでしょう?」 「何でここにあるの」 「よーくんが洗濯に出したのを代わりに取ってきてあげたんですよ。おれ、えらいでしょう?」 「お前の従兄もお前にたかられて大変だな」 「むっ。なんでおれがたかってること前提なんですか!」 「たかってないの」 「たかってませんよ! 引き換えに今度寮に泊めてもらうんですけど」 「………」 「よいしょお! って、なんでじゅんちゃんせんぱい避けるの!」 「まて、脈絡もなく人にシーツをかぶせようとするなそれは人のものだろうやめろやめろってばばかやめろ」 「むむ…じゅんちゃんせんぱい素早い…」 「嫌いになるぞ」 「ってことは今は好きってことですね!」 「好き嫌いの反対は無関心だと思っている。つまりオレはお前のことを今はなんとも思っていない」 「照れないでくーだーさーいー。えっと、なんていうか、白無垢ごっこ」 「それ以上ききたくないから黙って」 「結婚式ごっこですね! じゅんちゃんせんぱいきっとウェディングドレスも似合いますよ!」 「なんでオレがそっち」 「あっおれがウェディングドレス着る方がかわいい? かわいいですかね? かわいいですね? じゃあおれが着ますね!」 「なんなのもう」 *** 13/虹のように儚い 「あっじゅんちゃんせんぱい見てください窓の外! ちょっとその骨子さん置いて!」 「骨子さんじゃない」 「いいから! ほら!」 「………虹」 「きれいですねえ」 「そうだな」 「でもこれ、きっとすぐ消えちゃいます」 「そうだな」 「うらやましい、ですね」 「………」 *** 14/撫でる 「じゅんちゃんせんぱいー! 見てくださいこのテスト!!」 「満点じゃん」 「褒めてください!!」 「………おめでとう」 「………!!」 「なに」 「おれ、こういうの、はじめて、だから…」 「………そうなの」 「ねえ、じゅんちゃんせんぱい」 「なに」 「もうちょっと、えっと、それ、しててほしいって言ったら、しててくれる?」 「………頭、撫でるくらい、なら」 *** 15/映画 「じゅんちゃんせんぱーい!」 「なに」 「あっ今日は一回で返事してくれた! あのね、一応おれも同好会のメンバーなんで、活動を考えてみました!」 「そう」 「これ、この映画! ウィキペディアであらすじみたら骨出て来そうなのでどうですか!」 「そういう観点なの」 「逆に他の観点あります?」 「いや」 「じゃあ今度はこれ見ましょうよ! えっと、ツタヤで借りてくれば良いんですよね!」 「………お前、ツタヤ行ったことあんの」 「ないです!」 「………オレもいく」 「やった! デートですね!」 *** 20190117 |