早く此処まで迎えに来て 眩しい、と思う。なんでこんなに眩しいんだろう、ああ神作画だからか、と思ってううう、と唸る。 「どうしたんですか?」 唸ったらその神作画が乱れが一ミリもいやもしかしたらナノ単位でいややっぱりもしかしら本当に一切ないのかもしれない―――神作画なのだし。神、なのだし。 「え、ううん、なんでも、ない」 こういう言葉ばかりが上手くなるなあ、と思う。せんぱいいっつもそれですよね! と膨れてみせるその頬にどうしてこうも彼はしゃべるのだろうなあ、と思ってしまう。 別に、彼の声が嫌いな訳じゃあない。 というか声まで神声優というかなんというか、つまるところ彼が素晴らしく素晴らしいことで、それ以外にはなんにも言うことなんかないのだけれども。 ―――ねえ、 声にすることすらおこがましい。 ―――ちょっと、黙ってて、 そんなことを言ってどうするつもりだろう、何が変わる訳でもあるまいし、ならやってみるのも、いやもしそれで彼に嫌われてしまったら。 「榎木せんぱい」 ぎゅっとしても良いですか、と彼は笑う。笑って、ひとが頷く前に手を伸ばして、その中にすっぽりとおさめられる。 「―――」 彼が何か言ったのが、聞き取れなかった。 どくどくと、煩い心臓の音だけが、ただひたすら耳の裏まで響いていた。 * image song「Discommunication」9mm Parabellum Bullet * 20151125 *** それでおしまいさ 夢を見る。ぱりん、何かの割られる音。ちょきん、何かの切られる音。ああ、なんて思う。これはいつだって悪夢の前触れだ。 とても美しい悪夢。 彼女の完成された悪夢は物理的距離を置いても何も解決しなくて、切り離せなくて、ああこれが血が繋がっているという呪いなのだなあ、と思った。思って、それは仕方ないと思っていた時もあった、と思い出した。 過去形。 それが過去形になる日が来るなんて、思ったことがあっただろうか。ぱりん、何かの割られる音。ちょきん、何かの切られる音。それがどんどん近付いて来て、でも絶対的な何かが守ってくれているみたいで。そんなのはひどい汚染のようなものだったけれど。 「しゃむにゃん」 甘えた声がする。頭の中で、リフレイン。何度も何度も、呼ぶ声。紗霧、さきり、さきりさきりさきりあたしのかわいいしっぱいさく―――それを、すべて。 打ち消す声。 「俺の傍にいてよ」 そんな馬鹿なことを言う馬鹿がいるから。 目を開ける。夢から引き上げた、馬鹿は笑っている。 「うん」 * image song「Just Be Friends」巡音ルカ(Dixie Flatline) * 20151126 *** なにもない じっと見つめる。 その首を、その背中を、何も着つけていない狭いこの部屋で脱衣所もないからそのままで着替えをする薄っぺらい身体を、生きるのに困難ではない程度に薄っぺらい身体を、眺めている。 「どうかしたんですか」 じゅんちゃんせんぱい、といつものように呼ぶ後輩に何でもない、と言ったらいつもと逆ですね、と笑われた。 * 殺したい人はあなただ殺せない人もあなただどうすればいい / 黒木うめ *** 夢じゃないよ 夢じゃないかなあ、と榎木が呟いて見せたのはいつものお茶会でのことだった。 「何が?」 「今の、全部が」 「ぜんぶ?」 「小川くん、胡蝶の夢って聞いたことある?」 「うん、シナリオで出て来たことあるから」 「………シナリオってえっとその、」 「佐竹くんが作ってる」 「そう…」 可愛いもの知ってるんだなあ、という榎木に小川は首を傾げて見せた。 可愛い。 胡蝶の夢はそんな話だっただろうか。 「かわいい、かな」 「可愛いと思うけど」 「そうなの」 「うん…違う?」 「うーん…僕はそう思わない………かな」 怖い、と思うよ、と続ければ怖い、かあ、とぼんやりした返事が帰って来て。 この燃えるような、存在の証明が、全部、夢だったら、なんて。 「うん。やっぱり怖いよ」 「ふうん」 「榎木くんも、嫌、じゃない?」 全部、夢、だったら。 それは幸せを否定するような話、だから。 「………嫌、かも」 「………うん」 「なんか、ごめん」 「ううん、僕、こそ」 なんか、押し付ける、みたいな。 お茶を手に取る。 パックの安っぽい味がした。 * image song「magnet」巡音ルカ・初音ミク(流星) *** たとえば待つということ メールのランプが光っている。こうしてメールが来ることは時々だが今までもあって、そう珍しくもなかったから何も言わなかったし、特に返してやることもしないけど。 「…本当に、切ったんだな」 「どしたの涼暮くん、何か言った?」 「お前は早くレポート終わらして自分の部屋に帰れよ」 「ええーウノしようよウノ」 「二人でか」 「榎木くんとかも呼んで」 「入りきらないだろ」 「じゃあデニーズで」 「…終わってから考えろよ」 「はーい」 メール文面にまた目を落とす。 桜が、散ってから。一度たりとも口に出されない名前がないものかと、探してしまうのは一体どうしてなんだろう。 * 火を焚いて醸せ卵の殻どっさり取り換えっ子が喋り出すまで / 佐々宝砂 * 20151129 *** 君のいた夏 目を瞑ると音が聞こえることがある。それは幻想だと言われればそれまでで、引きずっていると言われればそうかもしれないと頷く他なかったけれど。 ―――約束なんだ。 忘れるなと言われた訳ではない。ただ、その時が来たら、と言われただけ。そして、 その時など。 来ないと思っている、だけ。< /> 思い込もうとしているだけだと言われたらそれまでで、それはただの停滞だと言われればそうかもしれないと頷く他なかったけれど。 「あかねさん」 呼ぶ。 ―――なあに。 優しい声が、聴こえた気がした。 * 夏のシャツさっと羽織って振り返る午後のあなたはあなたの柩 / 田丸まひる *** チョコレートバナナクリーム 「そうそれ」 そろそろ覚えてやれば良いのになあ、と思うも榎木の中であの二人はセット扱いで(まあそれは間違っていないけれど)どっちがどっちだとか、二人の名前を言え、となると少し詰まる、らしい。だから涼暮相手にはそれをサボる、のだとか。 「何処が良いの」 二回りくらい上じゃん、と言う榎木にそれをお前が言うか、と正直思った。榎木の外見は相変わらずで、妻鹿はちゃんと(腹が立つくらいに)成長していって、そうなると二人の外見の差というものは広がるばかりであって。 「寧ろ聞き返すんだけどさ、」 でも、それは一旦端において。 「何処が悪いの」 榎木が一瞬息を止めたのが分かった。それから目を見開いて、ゆっくりその目を閉じて、はああ、と長く息を吐く。 「うっわ盲目っていうんだよそういうの」 「良いだろ盲目でお前も妻鹿に対してはひっでえくらいに盲目だろ」 「そんなことないよ妻鹿さんは神作画なだけで」 「それが盲目ってんだよ!」 盲目だ。盲目じゃない。延々と二人で繰り返しながらパンケーキに戻っていく。 悪いところ。 考える。 ―――本当に、浮かんで来ないな。 自分としてはしっかりと考えたつもりだったので、確かに盲目かもな、なんて思って崩れたクリームをフォークで掬った。 * あの人の どこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す / 作者不詳 *** 時速4kmで家を出た兄の忘れ物を届けるのに45分遅れで弟は時速6kmで追いかけます。 たんっ、とボールの跳ねる音がする。バッシュの床と擦れる音が、心地好い。高校に入ってもバスケを続けようと思ったのは、こういう空気が好きだからかもしれない。 なんて思いながらストレッチ、そして助っ人として後輩が探し出してきた逸材を眺める。そんなことをしていると、にゅっと出て来た同級生が、あいつホント筋いいよなーと話を振ってきた。その通りだと思ったので頷いておく。そして暫く助っ人にしておくには惜しい人材について話し合って、 「いやでも何で榎木だったんだろうな?」 そいつは首を傾げた。 「何でって、アイツがそう言ったからって聞いてるけど。事実それで取引成立したし、オレの土下座は無駄になってない訳だし。なんで?」 「いやだってアイツ、坐故と噂になってた一年だろ?」 「坐故ォ!?」 思わず声をあげたら体育館中が振り向いた。 いやなんでもない、ごめん、と大きな声で謝ってから話に戻る。足を開いてぺたん、と前に倒れる。この柔軟性は実は自慢だ。長座体前屈はもう少し手が長かったらな、と思う。 「なんで坐故? 学年違うし、別にアイツら寮でもないだろ?」 「噂だってば。なんか大きいだのがばがばだのゆるゆるだのって話してたって」 「それでデキてる判定かよ………中学生かっ!」 「いやだってこんな環境だし? そっちに走る子がいても可笑しくないのでは? とまあ思わなくもないし? 坐故だっていろいろ噂持ちだし? それにさー…妻鹿は妻鹿でいろいろ派手じゃん? ほら、佐竹とかとよく一緒にいるし」 「あー…あ? そういうタイプなの? あのイケメンちゃんは」 「らしいぜ? というか俺も見たことあるし」 「へー…いやあ人は見かけによらないもんだな…」 自分の学年でもなかなかに(いい意味でも悪い意味でも)有名な人間の名前が出て来ると、ううむ、と唸るしかない。そういえば榎木も最近佐竹とよくつるんでいるらしいという噂があったなあ、と思い出す。主な噂の発生源は図書室だし、あそこでは文芸部が黒ミサをしているし、本とは縁がないし、真相は確かめられていないのだが。いやそもそも出歯亀する趣味もない。 でも、と呟く。ストレッチは終わりだ。そろそろ部長が集合をかけるだろうから、と立ち上がる。 「榎木は律儀に飼い犬の面倒でも見るが如く、なんだよなあ…」 「ん? あ、榎木だ。入ってくればいーのに」 「話しかけてやるなよ、逃げそうだし」 「分かるけどーアイツ一応臨時マネ扱いなんだろ?」 「そーだけど。人には向き不向きってのがあるだろ」 「無理そうなのは分かるけどさー、やっぱあっこに立ってられると気になるっていうか」 「はいはい気にしない気にしない。お前が気を散らしてどーする、次期部長サマ」 「いや次期部長はお前だろ。っていうかお前以外にいるだろうか、いやいまい」 「反語か」 ツッコミつつ部長の号令に返事をして、ちら、と入り口を確認して苦笑してから走り出す。 「でもまあ、妻鹿引っ張ってきた張本人の話聞く限りではあすこまで榎木が来てるの大進歩らしいし」 「そーなの?」 「だから、まあ、いいんじゃね?」 「何が?」 「何かしらが?」 「やっぱお前しかいないだろ次期部長」 「やめろオレに出来るのは土下座だけだ」 * 20151204 *** 多分、きっと、愛。 下井の家にやって来たその日、事情を全員の前で説明されたその日、その男が去ったあと一番に行動を起こしたのは従弟だった。 「よーくん!!」 昔の呼び方と変わらないなあ、と記憶を掘り返してその手が掴んだままに引きずられていく。彼の姉たちのああ、こうなると思った、と言わんばかりの顔を横目に、涼暮は特に抵抗もしなかった。 この先何が起こっても何も変わりはないと思った。 下井の家に必要なのはお人形。それ以外では、ない。例えばこれで従弟に暴力を振るわれるのであっても、涼暮はただそれを受け入れなければならない。それが出来て初めて、下井の家のお人形であれるのだから。この数日でそこまではっきりと把握した涼暮は既に諦めていた。そういう気持ちの悪いものに、きっと今までも散々言われてきただろうが―――それよりもずっとひどいものに成り果てる自分に、綺麗に敷かれたレールに、乗ることに異議を唱えなかった、それだけ。 「きらい、きらい、よーくんなんか大嫌い!!」 ひと気のない部屋に連れ込まれて、まず発されたのはそんな言葉だった。幼稚園児かよ、と思う。今まで周りに理路整然とした説明の出来る大人ばかりだった所為か、涼暮にはそれがあまりに幼いものにしか思えなかった。 「だってそこ、おれの場所!!」 ンなことは知っている、とも。 下井の家は血を重んずる。それで現代までなんだかんだ残ってきたのだからなかなかの手腕だったのだろうと、それだけは認めてやっても良いと思っているが、長男である男―――つまりは下井梓の父親が、下井の家のことを考えた時に、下井梓よりも涼暮洋を選んだ。涼暮にも下井の血は流れているから、何の問題もないと、電話一本で動きを封じ込めた。 「俺が決めたんじゃねーし」 「なにそれ! 言われるがままってこと!? よーくん下井に来たかったの!?」 「んな訳ねーだろ…」 「じゃあなんで!!!」 ぺたん、という間抜けな音だった。人を殴るなんてことも知らない、可哀想な拳だった。よーくんなんて、よーくんなんて、と繰り返しぺたんぺたんと人の胸を殴り付けるこれがまったく痛くなくても、これが怒りなのだと涼暮にはよく分かった。 よく分かったから、尋ねてみたのだと思う。 「お前もアイツらのようになるのか?」 その、答えを知っていて。 「………ならない」 掠れて、絞り出されたような声は、いつもの彼が出すものとはまったく違っていた。 「ならないよ、絶対」 目が、合う。ぴったりと、幾ばくも変わらないようなそんな、目。 譲れないものが、あるなんて。 ―――すごいな。 純粋に思った。 ―――俺には、こんな顔、出来ない。 「おれはよーくんのこと、敵として見るから」 「うん」 「絶対、おれの場所は奪わせない」 「そう」 「もっと! ちゃんと! 返事して!」 「………頑張れば」 意味ないと思うけど、と続けなかったのは多分、涼暮だってそういうものを捨てたくなかったからだ。 それだけ。 * image song「モザイクロール」GUMI(DECO*27) * 20151207 *** 世界の終わりを信じた馬鹿 全部寄越せと傲慢にも言ったのは自分だった。殆ど何も知らないで、でも全部欲しくて、ああ本当に子供みたいだな、この人が全部引き出していくみたいだ、と。子供時代というのが本当はどういうものなのか、涼暮は知らない。正しい、なんてきっとなかっただろうけれども、一般、的ではなかっただろうことは、ちゃんと自覚があったから。 「僕もこちら側をするのは初めてだから」 向き合ったベッドの上で、いっそう真面目な顔でその人は言っていた。初めてなのか、と驚きはしたけれども、普通、とまではいかないけれどもどちらをやりたいか、というのは決まっていることが多いから、との言葉になるほどな、と思った。 緊張をしているのだ、と思ったら今まであった緊張が更に跳ね上がるのを感じた。ハードルあげちゃったかな、と微笑むその人に、もしもの時はちゃんと救急車を呼ぶんだよ、と言ったその人に、それでも学生時代に見た硬質さはそこにはなく、ああ許されているのだと感じる。 甘い。 此処は、ひどく、甘い。 この人はよく振られていたのだと言っていたけれど、この甘さを一心に注ぎ込まれて、過去の人々はどうやってその先満足を得たのだろう、とまで思う。今までそういう人々には会ったことはなかったし、きっと会ったとしても聞くことなどしないだろうけれど、手を伸ばしながらそんなことを考える。 「…明音さん」 「何だい洋くん」 長かった、と思う。 「………ゆめ、じゃない?」 「夢、じゃないよ」 「ほん、とう?」 「本当、だよ」 胸が、いっぱいになるということを。 この人といたらあと何回経験することになるのだろう。もっと何か、身体的な感想だって出せたはずなのに、ただ只管にすべて埋まっていくような、苦しくはないけれども苦しくて、泣きそうで、叫びたくて。 ―――繋がっている。 そんな状態を、もう知っていたはずなのに。 「…痛く、ないですか」 「痛いまではいかないけど、ちょっと、流石に、苦しい」 「じゃあ、もう少し、止まってます、から………ほんとに、むりだったら、言ってください」 「大丈夫、ちゃんと言うから。そんな顔をしない」 指が頬を滑って行く。それだけで、自分が今どんな状態なのか、分かってしまう。 「期待はずれだったかな」 「そんなこと」 はじめて。救急車。今まで。ハードル。緊張。 「もし、俺が今、そんな顔して見えるなら、」 全部与え終わったら、この人は何処かへ行ってしまうのだと、怖かった。けれども大丈夫だよ、と手を握って涙を拭って、それはこの時ばかりは涼暮の役目のような気もしたのだけれど。いつか、と思う。いつか、いつか。 これを言葉に出来るのなら。 「アンタが信じられない程、俺のことを許してくれるからだ」 終わらない世界で、ただ一人になっても、貴方が好きだと叫びたかった。 * https://shindanmaker.com/566033 * 20151209 *** 20190117 |