Just because of love 花今 ぱちん、と小気味良い音がした。掌にじんじんとした痛みが残っていて、同じくらいかそれ以上の痛みがあちらの頬に残っているのだと思うと自然と笑いが漏れた。驚いたように目を見開いて、咄嗟に頬を抑えようとした手を抑えて、今し方ひっぱ叩かれた人はこちらを見てにんまりと笑う。 「い…っ、たくなんか、ないわ」 それでも尚虚勢をはるその人があまりに憐れでみすぼらしくて、どうしようもなく憎たらしいのだ。 *** サイレント・アーカイブ 今山 戯れのように触れてくる手に嫌悪感を覚えないかと問われれば、そんなことはないのだろう。ただそれがあまりにゆっくりと価値観に刷り込むように行われたため、今更拒むことも出来ないのだ。 「…今吉さん」 涙袋の辺りをなぞる指を振り払う術など知らない。 「なんや、山崎クン」 にぃ、と唇が歪むのを見て、ああ今日もだめだったと思う。 此処から逃げる術を誰か知っているのならば、教えて欲しかった。 * (触れる、涙、ゆっくり) 診断メーカー *** 明日晴れるかな 瀬山 山崎は甘えるのが下手だ。瀬戸はそれを誰よりも分かっているはずだった。 はふ、と荒い息を繰り返す山崎は、どう見ても体調の悪い人間のそれだ。ついでに結構熱も出ているように見える。 「なァ、山崎」 「…ンだよ」 「俺はもっと頼って欲しいって言ったはずなんだけどなァ?」 体調の悪い時に無理をされるなんて、頼られていないことの証明のようだ。 「…ん、わり…でもさ、イケると思ったから…。迷惑…ちげぇな、心配…かけて、ごめんな」 だけれどそう力なく笑って少し見上げて来るその様は、やけに可愛く見えて瀬戸の胸を揺さぶってくるのだから皮肉にも程がある。 * (繰り返す、熱、皮肉にも) 診断メーカー *** 神聖なる君よ、どうか私に恥じてはくれぬか。 赤山 するりと触れてきた指に思わず肩が揺れた。此処は何処かと言えば中学の間の青春をバスケに捧げた、そういう少年少女たちが汗と涙を散らしていく会場の二階席である。知り合い顔でまるでそれが当たり前だと言わんばかりに隣に座ってきたその姿を見て、山崎はああ一人で座っていてよかった、とそう思ったのだった。如何せん相手は魔王である。知り合いなのかと質問攻めにされるのも、チームメイトが気圧されるのもごめんだ。 話が逸れた。 さて、そういう訳なので周りに知人がいないと言えど人目はもちろんのことあるのである。其処で、男同士が手を繋ぐなどと。山崎の方は無名のモブだから良いものの、相手は名の知れた魔王である。確実にその動向は注目されている。そんな中で突然親しげに隣へ座られるだけならまだしも、手なんて繋がれたらまるで仲が良いようであるし、それ以上なのかと疑われることは必須であろう。それだってごめんである、なので山崎は静かに、周りに気取られないように抵抗をしてみせたが、思ったよりも強い力でそのまま絡め取られた。赤司、と避難めいた呼び掛けはバレてしまうよ、という微笑に完封される。 何を言っても無駄そうなのその笑みに、仕方なく眼下の試合に集中することにした。魔王さまの方はそれが気に食わなかったらしく、徐々に強く握られるそれは次第に痛みへと姿を変えて行ったが、それだって気にしないことにした。 * (繋ぐ、肩、強く) 診断メーカー *** 幸福な王子 花山 はなみや、といつもの調子からは想像出来ないようなか細い声で呼ばれるのが、堪らなく優越だった。 真っ青を通り越して白くなった頬ももう見慣れたものだ。 「弘」 甘ったるいこんな声が自分から出ることに驚く。焦点の定まらない瞳でこちらを見ようとする、その忠誠心のような刷り込みに胸が鳴る。 山崎が貧血を度々起こすような体質だったことは、ただの切欠だ。きっとそうでなくとも、こういうことにはなっていた。 安心させるように繋いだ手をそのまま床に縫い付けるのに使うと、満足に抵抗も出来やしない状態にひとしきり笑ってから、見せつけるようにその首筋に唇を寄せた。 * (繋ぐ、首筋、白い) 診断メーカー *** 楽園喪失の秒読みをしよう 古山 しまった、と思ったときにはもう遅かった。肩を震わせて零してしまった言葉はなかったことには出来ない。露わになった感情を、隠す術はどこにもない。 「きもち、わりーと思う、だろ」 どうにでもなれ、そう思っているのに声はどんどん情けない色に染まっていく。 「でも、別に、お前に、どうこう、してもらおうとか、ねー、から。忘れて、いいから」 なんとか沈黙を避けたくて必死で、ずっと下を向いていた。沈黙を作ったら最後、古橋に言葉を発する権利を与えてしまうから。 だから山崎は知らなかったのだ。山崎を見つめる古橋の口角が、嬉しそうに少しばかり持ち上がったことを。 * (震わせる、声、露わになった) 診断メーカー *** 夕日に染まる斉藤さんの机の上 モブ山 *モブレ 「はなせ、っ…よッ!」 じたばたと暴れる身体を抱き締める。 「あーうぜ」 「やっぱ殴った方がよくね?」 「でも山崎って喧嘩慣れしてるっしょ」 ぐるる、と唸り声を上げるその様は確かにそうも見えた。 「んー…じゃあさ、指は?」 「指?」 騒がしい後ろに話しかける。 「そ、指。山崎だってバスケ部だし? 指は大事だよね?」 知ってる? 親指って簡単に折れるんだよ。そう囁けば面白いようにその頬から色が失せていった。それでも負けるかと言わんばかりの目がこちらを睨みつける。皮肉にもそれはこちらを煽るだけだった。そしてきっと、山崎はまだそれに気付いていない。 思ったよりも楽しめそうだな、と小さく笑いを漏らすと、ワイシャツのボタンに手をかけた。 * (抱きしめる、指、皮肉にも) 診断メーカー *** 今一番感謝しているものは? 今花(R18) 「お前。…とか言うたら喜びのあまり踊りだすとかあるんか? そないならワシ、何べんでもそーゆーこと、言うたるけど?」 馬鹿にしたような表情でその男はゆったりと身体を起こす。 「かーわいい花宮がワシの誕生日祝いにこーして来てくれて、あまつさえ自分からあれこれしてくれんのはなぁ、まあ嬉しいことやけどな」 ぐりぐりと手が乱暴に整えてきたはずの髪を乱していく。 いつだって、こうだ。何をしてもこの人は、まるで先が見えているようににやにや笑いを収めないで、その表情を花宮なんぞに消させてたまるかという余裕を魅せつけてくるのだから、本当に。 「………踊ってやりましょうか」 「ほう。何を?」 「平成ちゃっきり節」 「………なかなかハイテンションやなあ」 ま、それだけ嬉しいってことか。ほら続き、と促されてまた頭を下げる。 感謝なんてしてくれなくて良いから、もっと素直に自分の誕生日を祝われることを、喜べる人になれば良いのに、とそう思った。 * ask 今吉誕フライング *** 扉のない箱庭 瀬戸+今吉 あの男は花宮から逃げたのだ。瀬戸健太郎が今吉翔一について抱いている感情はそんなものだった。花宮が支配の全権を握るコートから、すたこらと逃げ出した恥ずべき人間だ、と。しかしながら、時折考えてしまうのだ。 花宮がその支配権を放棄する時が来たら。そういう時が来たら自分は用なしなのだろうと、そんな、当たり前のことを。 そういうものを見越してあの男は逃げたのだと、逃げることが出来たのだと、何処か羨望に似た感情まで。 首を振る。視界の端をモップが通りすぎて行った。モップを持った人間と床の立てる、きゅっきゅと言った擦れる音が、今だけは無性に腹立たしかった。 * (逃げる、支配、床) 診断メーカー *** クライムポケット 瀬火 周りに誰もいないことを慎重に確認してから、瀬戸は慣れた手つきで集合ポストの中の一つから鍵を取り出した。それを使ってオートロックの共有玄関を開けて305号室へと向かう。真っ暗なその部屋に我が物顔でただいま、と言って入ると、窓が開けっ放しだったのか冷たい風が内腿辺りを撫ぜていった。 「…不用心、だなァ」 呟く。その不用心さを正してしまったら、そもそもこうして家主の許可を得ずに部屋に入り込むことも出来なくなるのだろうけれど、火神が一人暮らしであることを考えるとそうも言っていられない。彼が帰ってきたらまずは文句を聞くより先に説教だ、と窓をしめてやる。鍵の問題はまたこの有り余る頭脳を使って、うまいこと合鍵でもなんでも手に入れたらいいだろう。 ソファに沈み込むと、心地好い眠気がまたせり上がってきた。寝起きでも口で負ける気はしない。何せ火神は近年稀に見る馬鹿なのだ。あそこまで馬鹿だと逆に珍しい。 おそらく火神の帰宅まで一時間程度。それまでは少し眠ろうと、瞼をおろした。 * (取り出す、内腿、慣れた手付きで) 診断メーカー *** 20131120 20131130 20131216 20150708 編集 |