シーグリーンの憂鬱 黄灰

 似ている、と思ったのがいつのことだったか覚えていない。けれども負けたくない、と思った切欠のことはよく覚えている。誰よりもずっと黄瀬の欲しかった言葉をくれたのが、彼だったから。
「お前って、意外と寂しがりなのに、一人で生きてけちまうやつだよな」
暴力的な言葉だ、そう思った。荒削りで何を隠すこともないそれはたった今掘り返された宝石のようで、ひどくいびつで、熱くて、冷たくて、そうして黄瀬の心に切り込んでくる。純粋。似合いもしない本質を抱えた本人は、その真実に気付いていない。
 ああ、なんて、狡い!
 そう思ったら走るしかなかった、走って巻き返して勝ってそして―――なんて考えていたけれども結局全部嘘になって。
 すべて終わったあとに再会した何でもない一般道路で黄瀬は仁王立ちになる。
「ねぇ、ショーゴくん」
挑戦状を叩きつけるかのようにその手を取る。
「朝靄の中のうっすい緑の何処までも続きそうな海、見に行こ?」
 今にも消えそうな、オレたちの色。

***

*今モブ(女)要素有り

 「はなみやぁ」
情事後のそれを思わせるような鼻に掛かるその呼び方が嫌いだった。甘々しく、けれども触れたらさいご、そんなような呼び方。

月のくじら 今花 R18

 戯れ、だったと思う。何か理由があった訳ではない。ただ寝れると思ったから誘われて、気が向いたら寝るようになっていた。お互いに相手は相手だけではない。そんなことは分かりきっていた。分かりきっていても言わないことが暗黙の了解だった。
「お前のためなら、ワシ、死ねるで?」
「ふはっ、じゃあ今すぐ死んでみろよ」
「馬鹿やなぁ、花宮。そんなん此処で使ってもうたら勿体ないやろ?」
ワシ、一回しか死ねへんのやから。そう言ってへらへらと笑う妖怪にどうだか、と返す。
 まるで恋人だと言われたらそうだったのだと思う。けれども結局それを指摘するような人間は誰もいなかった。誰も、今吉と花宮の密事を知る人間などいなかった。
 そうして時は過ぎて、大人になって。
「―――花宮くん?」
喧騒の中、呼び止められる。女だった。その女に花宮は見覚えがあった。同じ中学の先輩、つまり今吉とは同級の女。そんな女が花宮に何の用だろう。
「ええと、久しぶり! こうして話すのは初めてだね…」
「そうですね、先輩。どうしたんですか?」
「え!? えっと、花宮くんを見掛けたから…だけじゃ、騙されてくれないよね」
女は上目遣いに花宮を見上げて、それから今吉くんのこと、と囁くように言う。
「今吉先輩の?」
「うん…。大学まではやり取りがあったんだけど、それから音信不通で…。花宮くんのことはずっと可愛がっていたから、何か知らないかなって思って」
 どうして女のことを覚えていたのか急激に思い出す。この女は当時今吉と寝ていたのだった。確かめた訳ではないけれど、そうであると確信していた。同時進行を攻めるような貞操観念を持っていた訳ではないけれど。
 この女は、あの背中に甘えて泣いたのだろうか。
 そう思ったら無性に腹が立った。
「あの人、死んだんですよ」
女が息を飲むのが聞こえた。
「そういうことなので、では」
 勿論、嘘だった。
 でもきっと、今は死んでいなくてもそのたった一回を花宮にくれるのだと、未だに夢を見ているから。
―――はなみやぁ。
鼻に掛かるその呼び方が、甘々しく、けれども触れたらさいご、そんなような呼び方が蘇っては、耳を穢して消えていった。



image song「海原の人魚」

***

ひまわりのように笑って 花諏佐

 夏に輝く花のような、そんな笑顔を見せられて一番最初に思ったのは、うえ、気持ち悪い、だった。流石にそんな感情を言葉にも、勿論顔にさえ出しはしなかったが、きっと湛えた本人も同じことを思っていただろう。
「アンタが言ったんですよ」
「………ああ、そうだな」
「投げやりにならないでくださいよ」
オレに出来ないことはないんですから、と今度はいつものように笑ってみせた花宮に対して、まあ時々はあんな馬鹿みたいな笑顔を作ってもらうことも悪くはないかな、なんて思った。



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***

恋と気付くのが遅すぎた 花山

 その駄犬と称して差し支えのないその部員に手を上げたのは花宮の方が先だった。人を殴ることに特化していた訳ではない花宮の手は開いた形で、殴ったというよりは張り飛ばしたという方が近かったのではあるが。そんなことをして見せても痛いと訴え何すんだよやめろよと言うだけでそいつは何をすることもなく、大人しく花宮にされるがままになっていた。何か理由があるんだろう、なんて顔で、理由なんてきっとなかったのに。どうして許したのか、許してなどいないのか、花宮にはもう分からない。殴って殴られて壊して壊されて。もうぼろぼろになったその関係性は、修復不可能なように思えた。
 ああ、でも、と頭の隅で上がる声がある。きっと泣いて縋り付けば、頭を地に擦り付けて懺悔すれば、ゆらゆらと揺らめく瞳を一旦閉じてから、そうか、の一言で赦されてしまうのだ。それでは、駄目だ。赦されてなどやらない。もう恋なんて綺麗なものに昇華出来ない気持ちならば、この関係ならば。
 このまま消えない傷跡になって、ずっと醜く残って行く方が良いなんて。



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***

水と空挟んだ解えは何処? 花黒

 信号の点滅に足を止める。此処の横断歩道は長くて、点滅が始まってからでは渡りきれない。それを花宮は知っていたので足を止めた、それだけだった。
「あ」
上がった声はどちらのものだったか、はたまた非常に腹立たしいことにハモったのか。目を逸らしたら見失ってしまいそうな、そんな存在感をした、この上なく気に入らない人間を見て、花宮は隠すことなく顔を歪めた。
 花宮さん、と呼んだのはついこの間対戦した、誠凛高校の影の薄い一年だ。こちらのことなど嫌いだろうに、どうして話かけてくるのか。理解しがたい、と花宮は首を振る。
「この辺りで何をしていたんですか?」
穏やかな声。また先輩たちに、という警戒は感じられない、だがただ聞いただけ、とも取りにくい。花宮は答えなかった。嫌いな人間と、既に本性も知られている人間と、にこやかに話をしてやるだけの価値を黒子に感じなかった、そうとも言い換えられる。
 穏やかではあるが、何処か独り言のような声だった。独り言だからこそ穏やかなのかもしれない。黒子は花宮から答えが返って来るとは思っていないようだった。その証拠にこちらを視認したきり、そのうっすらとした瞳は花宮を向かない。花宮と同じように、赤信号の残り時間を示す点滅を見つめている。
「花宮さん、知っていますか」
黒子は相変わらずこちらを見ずに続ける。疑問符はついていなかった。花宮の沈黙を曲解したのかもしれなかった。信号機の赤い表示がまた一つ減る。
「殴られたら痛いんですよ」
あと三秒で青信号に変わる。
「殴った方も、痛いんですよ」
 結局言葉を一つも返すことなく花宮は歩き出した。白黒の歪なその線の上を歩きながら馬鹿馬鹿しい、と思う。そんな当たり前のこと、痛いほど分かっている。
 後ろから水面のような瞳がまだこちらを見遣っているのなど、振り返らずとも分かっていた。



image song「金魚の箱」東京事変



20141103

***

貴方は誰のもの 青→山・花←山

 最初はなんだったんだっけ、と現実逃避を試みる頭がそんなことを思っていた。中学時代だったはずだ。中学時代も花宮と同じチームでプレイしていた山崎はレギュラーでなかったものの、ジャージですぐにその所属を知られたらしい。だん、と襟首を捕まれ壁に押し付けられて、その時はキセキの青峰はこれで潰せるなあ、なんて言う楽天的な思考をしていたはずだったのに。
 何を思ったのか壁に押し付けられたままキスをされて、
「今日からお前は俺ンだ」
なんて言われたものだからすべてが狂ってしまった。
 それ以降、大会がある度にこうして暗がりに連れ込まれている。
「お前のご主人様は誰だ?」
今日だって、自動販売機の奥にある表からは見えにくい空間で、そんな意味のない問いかけをされている。
「は、なっ」
その名前を全部言い終わる前にまた景色が回った。じん、と遅れてやって来た痛みに張り飛ばされたのだと気付く。
「そうじゃ、ねぇだろ?」
くわんくわんと反響する音の中、のしりと腹の辺りに重みが乗った。馬乗りになられたのだ、それくらいちゃんと見えなくても分かる。
 がっと顎を掴まれて、無理やりにそちらを向かされた。そんなことをしている張本人と目が合う。
「…言えるよな」
唇を噛み締める。目の前のこの男の名前を紡いでやれば済む話だった。けれどそれを山崎のプライドは許さない。
「だから、言ってんだろ」
「ちげえよ」
「違くねえよ」
負けじと睨み返す。
「オレは花宮の駒だ。お前ンじゃ、ねえ」
 きっぱりとそう返すと、一瞬、一瞬だけ見下ろしてくる目がぐらりと揺れた。でもそれは本当に一瞬で、次の瞬間には怒りを灯したものに変わる。
「…躾が足りねえってか」
「躾けられるような関係じゃねえだろ」
はやく、この手を離せ。そうは言ってもその言葉が聞き入られることはないと、分かってしまっている。
 無言で近付いてくる顔に、次に何をされるかはもう分かりきっていて、諦めたように山崎は目を瞑った。これだけ乱暴にするのに、どうしてかいつも、キスだけは死ぬほど優しい。その所為だ、と山崎は思う。
 噛み付いてやろう、そんな気力がもう、湧いてこないのは。その所為なのだ。



ひろしくんは青峰に頭を押さえつけられ、「お前のご主人様は誰だ?…言えるよな」と言われます。
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20140802

***

大人になれないぼくらには、この狭い世界がちょうど良い。 山原

 この教室には王子がいる。山崎弘は前の席の奇妙な色をした頭を見ながらそう思っていた。授業中にも関わらず、彼からはあまったるい香りがしてくる。よくもまあ、とは思うが、以前彼を注意してそのまま手も出してしまった教師が、何処かへ飛ばされたのを目の当たりにしてしまって以来、教師陣は彼に注意することすら躊躇っている。
 何が怖いって、その飛ばされてしまった可哀想な教師は比較的大人しい部類の人間だったのだ。それこそ、生徒に手をあげるなんて何かの間違いだ、と噂になるような。けれどもそれが授業中の出来事だったために証人は一クラス分存在したことだし、言い逃れなど出来ない状況だった。
 それを、すべてつくりだしたのはこの男なのだ。この男の口、と言うべきだろうか。あれこれ喋っているうちに彼は相手の逆鱗を探し出し、それに敢えて触れに行くことで自分を被害者の立ち位置に持っていく。勿論、加減というものを知っているので、彼がとんでもない事件に巻き込まれた、なんていう話は今まで聞かない。聞かないだけなのかもしれなかったが、まぁそんなに深く考えてやることもないだろう。
 そんなふうに考え事をしながら数式を解いていた山崎の視界に、ふらり、と揺れる手が映った。
 顔を上げる。それは前の席から伸ばされていた。はぁ、とため息を吐いてポケットを探る。いつものように其処に入っているガムが指に当たる―――はずだった。
 いくら探しても指先に求めるものが触れることもなく、訝しんだ頭がくるり、と振り返る。どくどくと心臓が鳴っていた。
 別に、こういうことが前にもなかったという訳ではない。山崎とていつもお菓子を持ち歩いている訳でもなく、ないからと言って彼が言う文句も軽いもので、聞き流せるのに。どくどくと嫌な音。冷や汗でも出ているのか、妙に、さむい。
「もってない?」
囁くような声にこくりと頷く。悲しげな音に息が止まりそうになる。
「そっか。なら仕方ないよね」
がまんする、とまた前を向いた頭は、今度はちゃんと教科書に向かったらしかった。
 どくどくと、まだ脈は耳についた。
 どうしてだろう、彼は確かにひどい男で、けれどもそのひどさを山崎に対しては決して発揮することはないのに。こわいとでも言うのだろうか、ただの同級生が? それは違うような気がした。根本から違う感情が、腹の底から胃の裏を通って心臓を掴んでいるような。
 傷みきった髪が窓から入る風に揺られていった。真面目にしおらしく、それでいて世界中の悲しみを背負ったみたいな背中に、どうしてだか抱き着いて、声が枯れるまで謝りたいだなんて思った。



(おれの世界にはおまえだけでいいし、おまえの世界にはおれしかいない)



ask
「共依存の山原」



20140630

***

ホップステップで踊ろうか 今古

 かちり。
「今吉さん」
日付が変わったのを確認して、隣で突っ伏している人に声を掛けた。ううん? と寝ぼけたような声が返って来る。
 ここが何処かと言うと、都内のとある居酒屋だ。何の因果か大学へ上がっても何故か親交(という名の一方的な誂いである)は途絶えず、二十歳を過ぎた今、一緒に酒を飲むまでになっている。
「なーに、ふるはしクン」
ふわり、とした口調でその人は頭をもたげた。重たそうだ、と思う。顔が火照っている所為で、いつもよりも楽しげにまで見える。
「誕生日、おめでとうございます」
「なんー、おぼえててくれたんやね」
ふわふわとしたまま、ふるはしクンは良え子やなあ、なんてこちらの頭を撫ぜてきた。完全に酔っ払っているらしい。
 これなら大丈夫だ。頭の隅でそんなことを思ってから、小さく息を吸う。
「それで、」
予め決めていた台詞がするすると零れていった。
「何か、欲しいものはありますか」
「えー、プレゼントまでくれるん?」
「そのつもりです」
ぱちり、と細い目が驚きに瞬かれる。しかし深くは言及せずに、そうかあ、とまた笑う。
「なんでもええ?」
「どうぞ」
「じゃ、これ」
次の動作は、指差しなどではなく、自らのポケットを探ってからの差し出しだった。
「あの、何ですかこれは」
「何って、鍵」
「それは見れば分かりますが」
 彼の取り出したそれには見覚えがある。こうして外で飲むことは珍しいことではなく、非常に情けない話だが、この男の口車に乗せられて潰れたことは二度や三度ではない。その度に潰した責任があるからと、古橋を連れ帰ったのはこの元凶だ。二日酔いでぐったりとする古橋にベッドを譲って、そうして授業あるから、と鍵を置いて出て行く。鍵はポストにでも入れといてえな、なんて付け足して。そういう訳で、何度もお世話になっている鍵だ。
「なんかくれる言うたやろ」
「ですから、」
「古橋クンがワシの部屋の合鍵を貰って“くれる”。なーんも間違っとらんやろ?」
小学生か。思わず舌打ちをしそうになった。日本語というのは確かに面倒で、こんな謎かけのような言葉遊びも可能だが、そんなことを言って許されるのは小学生までだろう。
 反論のために開こうとした口は、くてん、と傾げられた小首に黙殺された。
「なんでもええ言うたやん」
今度は抑えられなかった。盛大な舌打ちが二人の間に響き渡る。
「なぁ、古橋クン」
その頬はやはり火照っていて確実に酔っているはずなのに、
「まさか前言撤回なんて、せえへんよなあ?」
いつもより、厄介そうに見える、なんて。
 酒だ、酒の所為だ。古橋は思う、自分に言い訳をするように胸の内で繰り返す。酒の所為なのだ。誕生日を祝ってやろうなんて気になったのも、言葉まで用意したのも、それを言うために邪魔になるであろう理性を緩めるため、いつもよりもハイスピードで飲んだのも、小学生のような屁理屈に納得してしまったのも、“なんでも”なんて失言をしたのも。
「…分かりました」
ずっと差し出されていた手に、自分の手を重ねる。
 血色のよくなったてのひらに、銀色の鍵の冷たさが気持ちよかった。



image song「ワールズエンド・ダンスホール」初音ミク・巡音ルカ(wowaka)
今吉生誕祭!



20140606

***

さよならさんかく 原澤×時枝(クロスオーバー)

*記憶の処理方法とか捏造

 「大丈夫ですか?」
差し伸べられた手を咄嗟に取ったのは、まだ頭が混乱していたからだ。
 出張で三門市という場所まで来ていた原澤は、この歳にもなって、とは言われるかもしれないが、迷子になっていた。寂れた町並みに首を傾げつつも歩いていると、突如として三階建ての家ほどの大きさをした怪物が現れ、原澤を飲み込もうとした。それを退治したのが、目の前の少年である。
 小さな手だ、とそう思ったのは、普段から身体の出来ている子らに囲まれているからかもしれなかった。
「此処、立ち入り禁止区域なんですが、ご存知なかったんですか?」
少年は首を傾げる。既にそれは消えていたが、彼は先ほどまでアサルトライフルを持っていたように思う。ついでに、今は制服だが、さっきはジャージのような赤い服を着ていたようにも。
 戸惑いを覚えつつも頷くと、市外の方ですか、と問われた。それにも頷くと、なるほど、と少年は納得したような顔をした。曰く、この三門市には時折、こういった怪物が出るのだと。それは操作の結果であるのだが、それを怠れば日本のみならず世界の何処にでも、こういうものが出現するようになってしまうらしい。
「…君は」
「俺はボーダー隊員です。一応、こういう怪物と闘う術を持っている者ですよ」
原澤はもう一度、少年を見遣る。制服を着ていることも勿論あるが、その他の要素を鑑みても、原澤が日頃教えている生徒たちと大して歳の差はないように見えた。
「君は、すごいですね」
思わず、言葉が漏れる。わずかに、その瞳が見開かれたのを、原澤は見逃さなかった。
 ゆるり、とまるでそうすることが決まっていたかのように自然に、膝がつく。
「あ、あの」
「君は、ほんとうに、」
握ったままだった手を引いた。
「すごい、ですね」
口元まで導いた手の甲に、そっと、接吻けた。
 それからはっと我にかえる。
「す、すみません」
つい、という言葉は飲み込んだ。生徒くらいの年の子供に突然こんなことをするなんて、本当に高校教師としての立場が危うい。
 少年はすぐに笑って、大丈夫ですよ、と言った。
「此処は危ないですから、街まで出ましょう」
「あ…お恥ずかしい話ですが、実は迷ってしまいまして」
「俺で良ければ案内しますよ」
助かります、と言ってから宿泊先のホテルの名前を告げると、ああ其処ならあっちですね、と細い指が示す。今まで歩いていた方向とは全くの逆方向だった。こちらですね、と足を踏み出す。
「ありがとうございます」
後ろで、少年の声がした。
「そして、すみません」
 次の瞬間、目の前が真っ白になって、何も分からなくなった。

 「大丈夫ですか?」
眠そうな瞳をした少年が覗き込んでいた。制服を着ている、学生だろうか。
「えっと…?」
「こんなところで眠っていたら風邪を引きますよ」
上体を起こす。どうやら公園のようだ。どうして公園のベンチで眠っていたのか、記憶に靄がかかったように思い出せない。
「もしかして、迷ってらしたんですか?」
少年の言葉に、ああ、と頷く。確かに、迷っていたような気がする。
「俺で良ければ案内しますよ」
既視感を感じたような気もしたが、振り払って頷いた。
 宿泊先のホテルの名を告げると、其処なら分かります、と少年は街の方を指し示した。行きましょうか、日も暮れそうですし、との言葉に立ち上がる。
 並んだ少年は小さかった。そう思うのは、いつも身体の出来上がっている子らを見ているからかもしれない。
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらですよ」
「…それもそうですね」
少年は笑う。
 「なんとなく、言いたくなったんです」



(手の甲のキスは尊敬のキス)
#キスの日とかいうのでリプ貰ったキャラを適当に組み合わせてキスさせる



20140530

***

貴方のことを心配してよい存在でいたいのです。 実渕さんと小梅ちゃん(クロスオーバー)

 部活のない放課後。踏切で少女を見た。
 帽子をかぶり、眼鏡を掛けた少女だった。ぼんやりとその目線は踏切の端の方に注がれている。嫌だな、と実渕は思った。その踏切はつい最近、その少女と同じくらいの少年が事故にあった場所だ。そんな場所を見つめている彼女は一人で、細い肩がこの世界の何処にも居場所がないと、主張しているようにも見えた。嫌な感覚を振り払うように少女の方へと足を向ける。
 「危ないわよ」
その肩をとん、と叩くと少女は振り返った。可愛い子だな、と思う。
「あぶ…ない?」
首を傾げる所作もさまになっていて、こういう選ばれたような女の子は存在するのだな、と感心してしまった。
「そこ、このあいだ事故があったの」
少女の目線の先辺りを指差す。
「遊んでいた男の子がね、そこで足を挫いちゃったみたいで。周りには誰もいなくて」
こんな可愛い子にそんな残酷で悲しい話をするのはどうかとも思ったが、言葉がするすると唇からこぼれ落ちていった。
「………そう、なんだ」
少女はこくり、と頷いてから、またその場所へと目をやる。まるで何かみえているみたいだ、なんて。そんなことあるわけないと首を振る。
「だから、」
「あ、あの、」
再度危ないからと忠告しようとした声は遮られた。
「その子の名前…とか、わ、分かり、ます、か…?」
「名前?」
思わず聞き返す。
「は、はい…名前、です」
 名前。もう一度、繰り返した。
 結論から言うと、実渕はその少年の名を知っていた。そもそもこの事件のことを憶えていたのもその悲劇性からではなく、その名前の所為だったのだから。目が眩むなんて表現は生ぬるい、鮮烈な光のような後輩に、よく似た、名前。
 「ど、どうか…教えて、もらえません、か」
実渕の様子から察したのか、少女が見上げてくる。その怯えたような喋り方からは想像も出来ないような、つよい眸だった。いきが、とまりそうになる。
 気付いたら、しゃがんで目線を合わせていた。
「―――」
内緒事を囁くように、その名を紡ぐ。ざあ、と強い風が吹いて、まるでその瞬間だけ世界に二人きりになってしまったような、そんな心地がした。
 少女はそれを聞くと、また視線を踏切の中へとやる。ふわり、と紡がれる名前が祈りのようで、それだけで名前を聞いた時から胸のうちにつかえていたものが取り除かれるようだった。
 「…ありがとう、ございます」
音が戻ってきて、少女ははにかんで礼を告げる。
「これで、あの子も、いけた」
「私は…別に…」
明らかに可笑しな言葉が混じっていた気がするのに、それを指摘することも出来なかった。
「だから、これはお礼」
迎えも来たから、とその声はひどく近くで聞こえた。
 頬に、やわらかな感覚。
 じゃあね、と少女は駆け出す。ぽかん、と眺める先で、その後ろ姿はスーツを来た男と合流した。大げさに少女を抱き締める男に、遠くからでも彼女を心配していたことが分かる。
 彼処が少女の居場所なのだと、そう思った。そう思ったら、何故だかひどく安心した。

 数日後、偶然つけていたテレビで少女と男の正体を知るのは、また別の話。



#5月23日はキスの日らしいのでリプで一番目に指定されたキャラが二番目に指定されたキャラにキスをする
小梅ちゃん(モバマス)がれお姉(黒バス)に



20140530

***

20190119