*瀬→花→←今前提

剔抉セヨ、カナリアの眼光 瀬今(R18G)

そんなに開くこともなければきっと、
その瞼の下に眼球があるかどうかすら疑わしかったと言うのに。


 ぎちり、と捻り上げた腕が鳴る音がするようだった。
「なぁ、アー…瀬戸クン? やったよね? 花宮ンとこの。これ、痛いんやけど。解いてくれん?」
今吉は目の前で怠そうな表情を崩さない男を見上げる。後ろ手に縛られているこの状態ではそれしか出来ない、と言い換えても良かった。しん、とした何処とも分からない部屋で後輩のチームメイトと二人きり、縛り上げられている腕の自由は効かず、足もなんだか力が入らない。
「なぁー…何か答えてくれへん? もしかして名前、」
「間違ってないよ。瀬戸であってる」
「ほうか」
で、解いてくれん? と小首を傾げて見せた今吉に、瀬戸は大きくため息を吐いた。
「そない大きなため息吐かんといてや」
流石に今吉にだって分かっている、この状態を作り上げたのは目の前の男だ。しかし、理由が見つからない。彼の所属する霧崎第一とは同じ地区ではあるがこうまでして潰すメリットなどないはずだ。そもそも彼らならばコートの上で正々堂々と(と言うのも可笑しいが)やれば良いだけの話。ならば個人的なことだろうかとも思ったけれども、特に彼に対して恨みを買うようなことをしたかと言うと、残念ながら記憶にはないのだ。
「俺だってさぁ、別に個人的にアンタに恨みがあるわけじゃあないんだけどさ。アンタが花宮を見るとそれだけでアイツ動揺すんだよ。だからさ、その目、潰しちゃお? 今アイピックとかもってないし、指でえぐり出すのも嫌だからさ。ね? ほら、顔前に出しなよ、先輩」
は、と漏れた声はちゃんと形になっていただろうか。困ったことに常人よりは少しばかり回転の良い頭が、今し方言われた言葉をつぶさに理解してしまう。流れるような手つきで取り出されたそれは血液が充満しているようで、確かに先ほど言ったことは実現出来そうではあった。あったが。
「な、ん…」
信じられないものを見る目になったのも仕方ないと思う。頬にべちりと当てられその熱さを皮膚で感じた。
「これから先、花宮がアンタの目線に怯えることがなくなるって思うとさ、正直今からでも興奮できるよね」
恋にすらなりきれない執心が愛慾に変換されると、こうも歪んだ形になるのかと思ってしまう。
 眼鏡を外され、眼前の肉しかはっきり見えるものがなくなった。その手つきがいやに優しく思えて首を振り距離を取ろうとすると、伸びてきた手が両耳をこれでもかと言うほと引っ張り、上を向かせる。
「ねぇ、先輩。目は二つあるんだから、さ。んで折角これ、使うんだから」
やめろ、と。そう声にすることすら震えて叶わなかった。せめてもの抵抗にと目をぎゅっと瞑る。上の方で嘲りの色を灯した笑い声が聞こえた。意味はきっとないだろう、けれども目を見開いたまま迫り来るものを凝視している程、今吉は勇敢ではない。
 「良い声で啼いてよね」
腰の引かれる気配に、今吉はもう一度、その閉じた瞼に力を入れた。

***

カナリアの臍帯を咀嚼する 瀬花(R18)

 しんと静まり返った部室で、粘膜のこすれる音だけが響いていた。
 腰から迫り上がる悦楽を感じながらも、瀬戸は冷え切った目でそれを見下ろす。いつもは悪意を秘めていたり、もしくはきらきらする優等生のフィルターを掛けている眸が、ひどく蠱惑的に揺れているのがまた滑稽だ。
 「今吉さん、今吉さん…」
他の男の名前を呼びながら、その欠片ほども残っていないはずの名残を追う花宮が、純粋に憐れで、そして気持ち悪いと思った。擽るように舌を這わせてみたり、リップ音とともに小鳥のように接吻けを落としてみたり。喉の奥の肉にこすれる程に飲み込んでいる、この状況はとてつもなく腰に来るはずなのに、胸がしんと冷え返っていて、其処にいるのが自分ではないような気さえしてくる。
 その目線の先にいるのは瀬戸ではなく、あの男なのだ。あの眸が失くなっても、花宮の視線は依然としてあの人へと向いたままで、寧ろ失くなったからこそ、強くなったような気もした。
 この喉の奥まで突っ込んでしまえば良いだけなのに、そうしたらきっと気持ち良いだろうに。硬い眼窩の拡がらない窄まりよりも、肉で出来ている其処はきっと吸い付いてくるだろう。なのに、それを出来ないのは。
 「いまよし、さん」
 花宮のその声も眼差しも、ひどく甘ったるいそれがどうしたって自分に向くことなどないと、分かってしまったからにほかならないのだ。



20131113

えのさんがこれの本番漫画「幕間」を書いてくれました!

***

せんせい、おしえてください。 黛葉

 まぁそういう本を読むのが趣味なのは知っていた。葉山は自分を落ち着かせるようにそう思う。ライトノベルとされる本は萌えるをコンセプトにしたものから、あれこれちょっとした文学じゃね? 的なものまで幅広くカバーしていることも一応頭にあった。頭にはあったけどこれはさぁ、と至極平和そうに寝こけているこの部屋の主を見やる。すうすうという規則的な呼吸、今すぐに起きるということはなさそうだ。葉山は彼を起こさぬように極力小さく、だけれども全力で長く、ため息を吐いた。
 そもそも何故葉山が黛の部屋にいるのかと言うと。前回の試験が赤点ぎりぎりだったことが赤司に知れていて(今更何故かなんてツッコまない)(だって赤司だから、で済んでしまうのだから)、千尋に教わっておいで、と言われてしまったから、としか言い様がない。同学年の人間を指名しなかったのは、一年の間に誰に教わっても無駄だったことが、実渕や根武谷から伝わっていたからなのだろう。
 葉山は頭が悪い方ではなかった。なかった、と過去形なのはその成績が回を追うごとに徐々に落ちていってるからである。最初は追試にすら引っかからなかったはずなのに、今では赤点ぎりぎりという恐ろしい落ち込みようだ。このままでは次の試験では赤点は確実だろう、周りがそう思うのも無理はない。
 という訳で、赤司にそう告げられた時、たとえそれが気に食わない先輩であろうと、葉山は抗議することが出来なかった。黛は黛でおもいっきり嫌な顔をしたものの、赤司から葉山の成績を見せられると、こちらを憐れみの目線で見てから静かに頷いて引き受けた。このやろう。
 そして部活が休みのこの日、寮の黛の部屋にて勉強会は行われることとなった。彼の教え方はそこそこに分かりやすく、一通りの説明が済んでしまったらあとは演習問題をやるだけになった。途中で分からない場所が出てきて聞こうと顔をあげたら、目の前の先生は机に肘をついたまますやすやと眠っていたのである。
 起こすのもなんだかなぁ、と思った次に湧いてきたのは悪戯心ともいえる好奇心で、ペンを置いた葉山はひっそりと、物音を立てないようにその部屋の物色を始めた。
 そして、見つけてしまったのである。
 興味本位でぺらぺらと捲ったそれはなんというか、そう、控えめに言って、只今十七歳である葉山は読むことを法律やら条例で規制されるようなそんなものだった。
「か、完全にアウトでしょ…これ…」
と、口では優等生じみたことを言ってみるもののそこは健全な男子高生。手元にあるのなら気になる。本能のままに読み進めて行って、とうとう次のページで、と思った時。
「へーそういうのが趣味なの、おまえ」
ひょい、と後ろから取り上げられた本に、あ、と声をあげる。いつの間に起きたのか、いつもよりもぬぼーっとした顔で、この部屋の主は本を大事そうに本棚に戻した。
「な、べつに、ちが、ってか急に取り上げないでよ!」
「やだよ、おまえ汚しそうだもん」
汚し、って、と問う前にその意味を理解してかっと頬が熱くなる。
「まっ、黛サンじゃあるまいし!そんなことしねーしっ」
「そんなことって?」
にまにまと笑う黛に何を言うことも出来ずに、うう、と唸るしかなかった。
「悪いわるい、意地悪しすぎたな。演習終わったのか?」
「分かんないとこあって止まってたの! 聞こうとしたら黛サン寝てるしさ」
「へぇ、それで家探しか。随分次のテストに自信があるんだな?」
「うっ」
「…ほら、何処だよ、わかんねーの」
さっさと机に戻ってしまう先生に従って、もといた場所に座る。
 やっぱり分かりやすい説明で分からない設問は越えられたけれども、心臓が妙に煩い理由は、結局最後まで分からなかった。



ask
黛さんの部屋で美少女文庫の本見つけた葉山くん



20140505

***

「なんか黛サンと暮らしてる夢見た」
「そうか」
「しあわせな夢だった」
「…そうか」


から出かけられない 黛葉

*付き合ってない
*葉山くんが寮生設定
*洛山が共学設定



 葉山が熱を出した。そのことを赤司が部活前に連絡事項として黛たち部員に伝えた時、黛の頭に浮かんだのは馬鹿でも風邪を引くんだな、ということだった。
 黛千尋にとっての葉山小太郎というのは良くも悪くも天真爛漫で、勿論その知力レベルというのは一般の高校生と大差ないものであるとは思っていたが、精神年齢と言った観点から見てみればやはり幼く、風のようだという自覚のある黛からしても、自由に生きている人間だった。
 そんな葉山が風邪を引いたと言われば、意外に感じるのも無理はない。
 しかし葉山が風邪を引いたからと言ってその日の練習がなくなる訳もなく。いつも通りに厳しいそれに、いつの間にか葉山のことは頭から消え去っていた。

 それを思い出した、否、思い出させられたのは練習が終わってからのことである。
 いち早く着替えてさっさと帰ろうとした黛を呼び止めたのは、赤司の声だった。
「何だよ」
「小太郎が風邪を引いたという話をしただろう」
「ああ、したな」
「様子を見に行ってはくれないか」
 いち、に、さん。
「はァ?」
普段これと言って感情を露わにしない方だろうと自覚している自分の面が、ぐにゃりと歪んだのが自分でも分かった。
「場所は知っているだろう」
「知ってるけど」
そういう問題じゃなくね、そう言おうとするも、言葉はもごもごと口の中で消えていった。にこり、と細められる瞳にすべてを見透かされているようで気に入らない。
 やはり赤司は笑みを湛えたままで黛の肩をぽん、と叩くと、じゃあ頼んだよ、と言い残して行ってしまった。差し入れだろう、いくつかのものを押し付けて。主将殿は今日も忙しいらしい。残された黛は盛大にため息を吐いた。もう行く以外に選択肢がないことは、流石の黛でも分かっていた。

 学校の敷地内、西側。其処に学生寮はひっそりと立っている。古いその建物は決して綺麗とは言えないが、その代わりに確かな威厳をかもしているようにも見えた。
 寮母室に寄って名前と用件を告げると、ああ、と頷かれる。赤司から連絡はもらっている、と続けられた言葉に、我らが主将は一体何処まで交友関係を広げるつもりなのか、恐怖にも似た呆れを感じた。葉山くんの部屋は三○八号室ね、と既に知っている情報を貰い、寝てるかもしれないから、と予備の合鍵を借りる。そうして、黛は葉山の部屋の前までやって来た。
 一応手を掛けたドアノブは特有の反発を示す。ノックの音にも反応はない。仕方ない、と差し込んだ鍵はかちゃり、と回って、その扉は開かれた。
 体調の悪い時特有の篭った空気が黛を襲う。部屋の中は明るかった。電気つけっぱなしで眠ってしまったのだろうか。
 一歩。踏み入れた部屋の中、ベッドの上で心もとなそうに丸まっている身体が、もぞり、と動いた。寝返り。半分だけ開いた目が、怠そうに視線を彷徨わせる。
「む、つみさん…?」
「ちげぇよ」
誰だむつみさんて。知らない人間の名前を呼ばれたことに少々苛立ちながらも、熱で朦朧としているにも関わらず、影の薄い黛が部屋に立ち入った瞬間にその気配を気取るとは、と感心する。流石雷獣と言ったところだろうか。鞄と差し入れをてきとうな場所へと置いて、ベッドの方へと視線を投げる。
「悪かったな、彼女じゃなくて」
「カノジョ?」
「そのむつみさんとやら。その子を待ってたんだろ?」
さん付けであるところを見ると年上だろうか。日中男子寮に忍び込めるなんて、合鍵でも渡してあるのかもしれない。この学校の生徒だろうか、もしそうなら黛と同じ学年になるのだろうか、もっと同学年の生徒のことを知っておくべきだった。黛の記憶の中にむつみという生徒はいない。知っていれば、何かしら言われた時に黙らせる手段として使えたかもしれないのに。いや、今からでも遅くはない。帰ったら名簿をさらってみよう。
 言われた葉山はと言えば暫くの間きょとん、としていて、そうしてゆるゆるとその頬を赤く染めた。飛び起きる。
「なっ、バッ…むつみさんは寮母さんだってーの! 武田睦さん! オレらと同じくらいのお子さんもいるよ!!」
「そうか、葉山は熟女好きだったか」
「なんでそうなるの!」
げほ、と重そうな咳が出た。そりゃあ突然叫べばそうもなるわな、と近付いてその肩をつい、と押してやる。風邪で痛めているのなら尚更だ。
「ほら、布団に戻れよ」
「誰の、所為だよ…」
「俺の所為だとでも?」
「そうじゃなきゃ、何なの」
 額の冷却ジェルシートはかぴかぴになっていた。それいつ頃変えたんだ、と問う。
「えー…、………ひる?」
ひどく曖昧なその返答に、仕方ない、と備え付けの冷蔵庫に向かった。
 ドリンクの類とプロテインくらいしか入っていない冷蔵庫に、やはりそれはあった。ついでに新しい薬の袋も見つける。覗いた感じの減り方では、ちゃんと薬は飲んだようだ。ジェルシートを一枚取り出して、まだ朦朧としている葉山の元へと戻る。
 既に効果を失っているように見えるそれを剥がして、新しいものを貼ってやると、葉山は気持ちよさそうに目を細めた。
「寝ろよ、ほら、目、閉じて」
「そーやって、コドモ扱い…オレ、もう、高二なのに」
「子供だろ」
「黛サンもね」
言われた通りに目を閉じる葉山の髪を撫ぜてやる。たくさん汗をかいたのだろう、指通りは悪かった。
「…はやく、よくなれよ」
そう呟くと、微かに笑みが返って来たように思えた。
 暫くして規則的な呼吸が聞こえてくると、自然と息が出て行く。病院にかかったとは言え、薬を飲んだとは言え、熱が出ているのだから否応なしに体力は奪われるだろう。そういう時は、勿論栄養補給も大事ではあるが、やはり眠るのが一番だと黛は思う。
 さて、と立ち上がった。赤司には様子を見に行けと頼まれただけで、それからどうしろとは言われていない。もう様子は見た、思っていたよりも辛そうだが、その辺は薬が効くのを待つしかないだろう。シートも変えたことだし、黛に出来ることはもうない。鞄を拾い上げる。
「まゆず、み、サン」
細い声がした。いつもの張りの強さは何処へやら、今にも消えそうな。起きてしまったか、と振り返ると、その瞼は降ろされたままだった。寝言、だろうか。そんなことを思っていると、うっすらとその目が開かれた。
「はやく、かえって…きて、ね」
つう、と頬の際を汗が滑り落ちていく。
 帰って来て、なんていうのは同じ家に住む者に言うことだ。家族、とか。兎にも角にも帰って来る予定のある者に言う言葉で、黛のように此処へと立ち寄っただけの人間に言う言葉ではない。なのに。そうだと、頭では分かっているのに。
 何を思うより先に素直に、それに頷いた、なんて。
 肩に掛けていた鞄を下ろす。赤司に押し付けられた差し入れの中から、外部のものが寮に泊まる時の申請書を取り出した。まだ何も記入されていないその安っぽい紙には、どうせすぐに自分の名前が記入されるのだろう。家にも電話しなければならない。此処へ入る時に借りた鍵も返さなければ。着替えは残念なことに鞄に予備が入っている。トレードマークになりつつあるラノベも今日の朝読み始めたばかりで、まだまだ余裕がある。困ることは何もない、危惧すべきことがあるとしたら、風邪がうつらないように、くらいだろうか。
 考えながらベッドの葉山を見下ろす。もう目は閉じられていた。すうすうとまた規則的な呼吸が続いている。頷いた効果かは知らないが、その表情は先ほどよりも穏やかになっているように見えた。
 ああ、もう。



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20140449

***

飲込んだ言葉で窒息死 今山

*山崎くんが花宮と同中設定

 どうやらこの人は本気だったらしいと、さいごに思ったのは、そんなことだった。
 今吉翔一は花宮真と、そして困ったことに彼らと同じ中学に身をおいている山崎弘の先輩だ。いつだって思考の斜め上を行く人、だからこれも花宮に対する嫌がらせの一環なのだと、そう思っていた。好きだの愛してるだの結婚しようだの。冗談というには重く、呪詛というには軽い。そんな口調でうたわれるそんな言葉が、もしかしたら本物だったのかもしれない、そんなふうに思ったのは卒業する背中を見送ってからだった。
 手の中に、第二ボタン。
 それだけ握らせて、あとは何も言わないで。まだ咲かない桜の横をさっさと横切って行ったその背中を見てしまえば、何も思わないなんて出来る訳なかった。
 さいごだ、と思った。さいごのチャンスだ、と。彼が本気なのかもしれないと思って、それが嫌ではない時点でもう答えなんて出たようなものだ。あとは選択するだけで、そうしたらきっと、それなりの幸せというやつが手に入るのだろう。
 そう分かっていても、山崎はその背中を追いかけなかった。この言葉を言うことは、花宮に対する裏切りだとも思っていた。
 ただ、まだほんのりと体温の残るボタンを握りしめる。桜が咲いて散る頃には、この言葉も嚥下できるだろう、そう思っていた。



4×8の日



シュロ
http://syuro.sakura.ne.jp/index.html



20140409

***

おまえが愛とよんだものは 花山

 いつだってその姿を見れば胸の辺りが焼けるような心地がしていた。
 人当たりは良い方、頭も決して悪い方ではない、そして人の領域にどの程度踏み込んで良いか、そういう気配りが勿論本人は自覚していないが、出来る。手元に置いておくには非常に扱いやすい人種で、過去の花宮もそう思ったからこそ手駒に加えた。実際彼の隣というのはそこそこ心地好く、これはアタリだ、とまで思っていたというのに。
 ぎらぎらと、青い焔が舌を伸ばすような、そんな、感覚。
 それが嫌に気持ち悪くて、うっかり部室に二人きりになった金曜日、部誌を書き綴るその手を気付いたら掴んでいた。
「…花宮?」
壁際に追いやられるようにして置かれた机。その椅子に座った状態から見上げてくる瞳は怪訝(かいが)の色をしている。それがまたあまりにも素直な反応で、恐らくこれが花宮でなくともこうなのだと思ったら、余計に腹立たしかった。
「なんだよ、花宮。黙ってたらわかんねーだろ」
困ったように眉根を寄せてみるも、手を振り払おうとしないのは許容されているからだろうか。
「はな、み、」
声が、途切れた。
 掌から暖かさが伝わってきて、その時初めて花宮は自分の手が冷えきっていたことに気付いた。力を込めればその椅子ごと、壁へと身体が押し付けられる。はく、と喘ぐように酸素を求める唇が、伽藍堂な胸を満たしていくような気がした。
「やまざき」
いつものように、花宮の手が現在進行形で彼の首を絞めていることなんてないみたいに、花宮は呟く。
「オレは、お前といると、落ち着かない」
懺悔のようだ、と思った。
「お前はオレが認めた優秀な駒だ、オレの見立てに間違いはない。なかった。お前はこの曲者集団をまとめるのに一役買っているし、オレもお前がいれば心地好いとさえ思う。だけどな、最近は駄目なんだよ。お前が誰かと話していたり、笑っていたり、触れ合ったり、そういうふうにしていると、訳もなく腹が立つんだよ」
言っている内容はまるで駄目な男だ。けれども花宮の声は内容に反して静かだった。縋ることもなく、そう、殺人宣告のように。このまま本当に、首を絞めて殺してしまおうと言うかのように。
 は、と。苦しそうに漏らされたのは、確かに笑いだった。
「ンだよ、そ、れ。告白、みたい、だ、な」
絞められた喉は、平常よりワントーン高い声しか出せないようだった。まるで山崎ではないようで、花宮は驚いて手を緩める。
「こく、はく?」
「違ぇのか、よ」
 今度は花宮が鼻で笑う番だった。
「これが?」
手に力を入れなおすとまたその顔が歪む。
「これが、愛だとでも言うのか? ほんとうに? これが?」
先ほどと同じようには力は入らなかった。けれども足りない空気が頬から目元まで朱色に染めて、その瞳に涙さえも浮かべて行く。
 いいだろ、と山崎の唇が紡いだ。
「それが、愛で、も、良い、だろ」
息も絶え絶えに吐き出す、その姿が。その表情が。その唇が。ひとつひとつ、花宮に浸透していくようで。
 もう手に力は入っていなかった。げほ、と咳き込む音がわんわんと耳の底に響いて、愛なんて陳腐な名を付けられたことがひどく幸福で、それと同時に、ひどく哀しかった。



(この世でいちばん、うすよごれたものだ)



4×8の日



シュロ
http://syuro.sakura.ne.jp/index.html



20140409

***

だって、負けたら勝ちじゃんね、これ。


 惚れたら負けよ。そんなことを言った大昔の人は大馬鹿だ。葉山は走りながらそんなことを思っていた。

「負けでもいいよ」 黛葉

*黛さんの実家が大阪で実家通い設定
*卒業ネタ

 春休みでも練習はある。先日から春休みに入った洛山高校のバスケ部は、ついさっき昼休憩に入ったところだった。暖かくなった空気にそろそろ桜もほころぶ頃だ、なんてのんびりした気分をぶちやぶったのは、チームメイトである実渕が部室の扉を蹴破った音。その時葉山は昼食であるコンビニおにぎりに手を掛けたところだった。
「小太郎!」
何事だ、と顔を上げると名を呼ばれた。オレ? と自分を指してみれば、実渕はずんずんと近付いてくる。
「黛さん、今日引っ越すって」
 何を言われたのか、分からなかった。
「れお姉?」
「今、職員室にプリント出しに行って、それで、先生たちの話聞いちゃったの。さっき合格報告に来て、それで言ってた、って。実家に一度寄ってから、そのまま、って」
これを伝えるために走って来たのだろう、実渕の息は荒れていた。ぶつ切りだったが必要な情報は聞き取りやすいように言葉にされていて、そんなところにもこのチームメイトの気配りを感じる。
「小太郎」
「さっきって、ほんとにさっき?」
「ええ、そこは悪いとは思ったけどツッコんで聞いてきたわ。ほんとにさっきよ」
 それだけ聞ければ充分だ。おにぎりをさっと開けると口に咥え、開いた手でバッシュの紐を解く。
「昼休憩、終わる前に戻って来なさいよ」
「…ッ、分かってる」
瞬時に脳裏に浮かんできたのはあのおっかない主将の顔だったけれども、勿論それだけじゃない。この洛山という強豪で、レギュラーを背負っている責任、みたいなものだった。

 葉山小太郎と黛千尋の関係が少しずつ変化し始めたのは夏の頃からだったと思う。本人たちでさえ持て余すような微妙さで、もしかしたら外から見ていた人間の方が分かっていたのかもしれなかった。と言っても、本当にそれは微妙なものだったので、気付いていたのは実渕と、あとは恐らく赤司くらいなものだったろう。
 丸く、やわらかいものではなかった。
 でもだからと言って、触れたら爆発するような、そんなものでもなかった。
 徐々に縮んでいく距離は嫌ではなかった。二人でいる時間も、ふとした瞬間目が合うことも、会話が途切れることも、何もかも。それがプレーに影響するかというとそんなことはなかったし、バスケにおいては葉山の負うプライドやら何やらの方が大きくて、何度もひどい言葉を吐いたと思う。それが問題にならなかったのは、諦められ甘やかされていたのだと、大した時間も経っていないが今なら分かった。
 一つの年の違い。それだけだと思っていた。けれども実際はもっとたくさんのものが黛には見えていたのだろう。葉山にしたら絶対に越えられない壁があって、どうしようもないと思っていたこの才能だって、黛にとっては自分を拒絶するような傲慢さに見えていたのかもしれない。
 言葉にはしたことはなかった。この関係に先に名を付けた方が負けだ、双方がそう思っていた。それと同時に、触れるか触れないかという距離感がとても心地好かったのもある。ぬるま湯に浸かるようなこの関係は、葉山にとっては幸福と言っても間違いはなかった。言葉にすれば、それは明確なものとしてこの世に顕現する。そうしたらもう二度と、このぬるま湯には戻れない。熱かったり冷たかったり、二面性を行ったり来たりする、そういうものになってしまう。
 葉山は変化が恐ろしかった。だから、黛が飽きるまで、もしくは痺れを切らすまでは、無名に甘んじていようと、そう決めていた。

 学校近くのバス停にたどり着く。周りに黛の姿は見当たらなかった。もう前のバスに乗っていってしまったのだろう。ポケットから取り出した携帯を確認する、まだもう少し時間がありそうだ。そのままアプリを開いて時刻表を確認する。先ほど実渕は、黛は一度実家に寄ると言っていた。実家の場所なら聞いたことがある。
「…にじゅう、はっぷん」
恐らく、黛が乗るであろう電車。それが、タイムリミットだ。それまでに駅で黛を捕まえなければ、恐らく、もう二度と会えない。そういう話をしたことはなかったが、残念ながらそういうことを平気でやる人間なのだ、黛千尋という人は。
 バスの時刻表を見る。次のバスは二十分。駅の近くのバス停まで、平均十分。
 これは賭けだ、と思った。神様、と心の中で叫ぶ。少しで良い、少しで良いから、運をちょうだい。

 願いが通じたのか、葉山が二個目のおにぎりを飲み込む頃にはバスがやってきた。予定時刻より少し早い。自動でドアが開くのを待つのももどかしく、押し入るようにして乗り込む。
 車内はがらがらで、バス停には葉山の他には誰もいなかった。運転手は呑気な顔をして時計を確認して、一人頷くと扉を閉めた。ぷしゅう、とバスが動き出す。
「じゅうきゅうふん」
携帯の時計を読み上げる声は、震えているようにも聞こえた。
 道はひどく空いていて、信号にも引っかからずにバスは進んだ。これは本格的に天が味方してくれているのかもしれない。一番扉に近い席に浅く腰掛けながら、葉山はただぎゅっと拳を握りしめ祈っていた。今になって、黛の連絡先を知らないことを、知ろうとしなかったことを、ひどく後悔した。いつまでも其処にいる、そんなふうに思っていた訳ではない。それでも、卒業前に話す機会があると、たかを括っていた結果が今だ。
 黛に会ってどうするだとか、考えてはいなかった。
 けれども今会わなければ、此処ですべてが終わってしまう、それだけは分かっていた。終わったところで何が起こるということもないだろう、そんなこともあったな、そう笑える日も来るだろう。でも、だけど。
 それでも、何もしないで終わるなど、きっと、後悔する。

 バスが目的の停留所に着いた時、時計は二十七分を指していた。
「あと一分!」
カードを翳して支払いを済ませると飛び降りる。目の前の横断歩道、信号は運良く青だった。渡りきった先、そのまま駅の階段を駆け上がる。
 黛サン。
 階段の上、発車メロディが聞こえていた。ホームに足を踏み入れる。臙脂色の車体の扉が閉まるのが見える。行かないで、叫んでいる暇があったら足を動かせと全身に命令を送る。待って、待って―――ふわり、と身体が宙に浮いた気がした。

 ずべしゃ。ひどい音と共に視界が一瞬消える。喉から漏れたのは反射的な悲鳴だった。
 コケた。じんじんと広がる痛みに理解する。強かに打ち付けた膝小僧と、本能でついた手は擦り剥けているかもしれない。
 そんなふうに地に伏した葉山の横を、臙脂色の電車はゆったりと出発していった。間に合わなかった、痛い、会えなかった。胸がぎりぎりと締め付けられるような心地。痛みというのは慣れなのだと誰かが言っていた気がする。葉山は元々の身体能力の高く、最後に転んだのなんて正直記憶の彼方の出来事だ。その所為か、やたらとぶつけたところが痛い気がした。涙が出そうだ。そんな痛みに起き上がる気力も湧いてこず、それでもどうにか自分を落ち着けようと、息を吐こうとした。
「派手に行ったな」
 息が、止まるかと思った。
 顔を上げる。
「まゆずみ、さん」
聞き間違えるはずがない。どこか偉そうで、かっこつけで、すべてに興味がないとでも言いたげな、そんな低い声。文庫本を片手にこちらを面白そうに見下ろしているのは、やはり、黛千尋、その人だった。
 差し出された手に縋って立ち上がる。手の方は少し擦り剥けているようだが、膝の方は無事なようだった。
「大丈夫かよ。膝割れてねぇ?」
「ん、多分…?」
「屈伸してみろ」
言われた通りに屈伸をする。別段、可笑しな痛みは感じない。
「大丈夫そうだな」
こういう時のこういう台詞は、もっと笑顔で、安心した、というように言うべきではないのだろうか。黛のいつもと変わらない、一応知り合いが目の前で派手に転んだから心配してみせただけ、みたいなそんな軽い対応に眉根を寄せた。
 が、それに黛が何らかのアクションを起こすよりも先に、葉山は気付く。
「何で黛サン此処にいんの?」
「何でって、帰るからだけど」
「ちげーよ、電車! 今、出てっちゃったじゃん!」
痛みに歪む視界で、耳で、それはしっかりと確認した。なのに黛は目の前にいる。葉山の一本前のバスに乗ったのだとしたら、余裕をもってあの電車に乗れただろうに。
 問われた黛は少しだけ目を細めた。
「…なんとなく、お前が来るような気がしたから」
別に、そこまでギリギリで計画練ってる訳じゃねえし、一本くらい。そう何でもないように言い放った、その姿がどうにも計算された気障ったらしさに溢れていて、つい吹き出した。
 何だよ、今の、格好良いって感動するとこだろ。その言葉にやはり先の行動は考えられたものなのだと分かって、まだ荒い息の中、咳き込みながら笑い続けた。
「…にしては、ぎりぎりじゃな、い? だって、今日、もう、引っ越すって、」
「先生に聞いたのか」
「先生にはれお姉が聞いて、オレはその又聞き」
ああ、なるほど、と黛は頷く。
「どうせ受かるって思ってたからな。それに良い部屋は早めにとっとかないとなくなるだろ」
「そりゃそうだけど」
だからと言って合格発表の前にさっさと引っ越し準備を進めるなんて。相変わらず身の丈にあった選択、というものに自信があるらしい。
「で、お前は?」
「オレ?」
「お前は、何で此処にいんの」
 その言葉で、あの勝負はまだ続いていたのだと気付いた。こうして走って追って来て剰え転んで。そんな行動を見てしまえば既に、葉山の方が分が悪いような気はするが。どうしても、黛は負けたくないらしい。ため息を吐く。
「黛サンに会いに来たの!」
「へぇ、俺に」
「あのねぇ、そろそろその分かってるくせに惚けようとすんの、やめてよ。話が進まない」
オレだって昼休み終わる前に戻らないとなんないんだから、と頬を膨らませてやれば、悪い悪い、と笑われた。
 黛が何かを差し出す。
 きらり、太陽の光を受けて輝く銀の鍵。何処のものかなんて、聞くまでもない。
「欲しいか?」
そんなもの、答えはとうに決まっている。
「うん。欲しい。だから―――」



https://shindanmaker.com/122300



20140405

***

泡沫日和 原澤+山崎

*殺害ネタ

 まだ大人になりきらない声の集合体。なんていうと合唱のようだったが、残念ながら違う。時折混ざる金属音は鉄パイプか、はたまた金属バットか。まぁどっちでも同じことだ、そんなふうに思いながら原澤は音の方へと足を進めた。声の高さから言って彼らはまだ子供だ、どんな状況であろうと子供を保護するのが、教師という生き物だと、今日も朝礼で校長が長々と話していた。
 しかしながら、原澤が其処へと辿り着く前に音はどんどん小さくなっていく。はて、と思いながら足を早めることもせずに耳をすますと、どうやら叫びが呻きへと変わっただけのようだった。
「おやおや」
感情の読めない声でそう呟く。
 曲がり角を曲がったところで視界に飛び込んで来た光景は、まさに死屍累々という言葉が適切なものだった。
「…ア? 取りこぼし?」
その中心に立って背を向けていた少年がこちらを向く。
 と、同時に、原澤は右へと避けた。さっきまでいた空間を少年の拳が過っていく。
「突然すぎますよ」
「アンタ、やるな、あ!」
ひゅん、と音がするほどに鋭い打撃は、彼の恵まれた体型がもたらすものだろうか。右からの打ち込みを囮に左でアッパーを放つ流れにも無駄がない、均等についた筋肉があるからこそなせる技だろう。良い人材だ、こんなところにいるなんて惜しい、バスケをやっていれば―――そこまで考えて、思い当たった。
 くるりと一回転して避ける。後ろから脇腹へと手刀を叩き込めば、糸でも切れたようにその身体は崩れ落ちた。
「霧崎第一の山崎弘くん、でしたよね」
ぴくり、とその肩が揺れる。当たり、という意味だろう。
「学校に言いつけます?」
悪戯っ子のような目で少年、山崎は見上げて来た。こちらのことも分かっているらしい。伏した身体を持ち上げる気配はない。先ほどの一撃で力の差が分かったとでも言うのか、聡い子供だ。
 先ほど言った保護がどうとかの話だけではない。敵対する高校のバスケ部の生徒の、暴力沙汰だ。此処で学校に連絡すれば出場停止は免れないだろう。それを分かってこの子供は問うている。
「…言いませんよ」
 その言葉になんだ、と山崎は笑ってみせた。ごろり、仰向けになって空を見上げる。無防備な、姿。ざわり、何処か奥の方がざわめく感覚。
「…何故」
唇を一度舌で濡らせて、原澤は呟いた。
「ん?」
「何故、こんなことを?」
先ほどのフェイクと良い、判断と良い、頭は悪くなさそうに見える。だからと言って、正義のためにやっているとか、そういう青臭いものでもなさそうだ。
 わかってんでしょ、と彼は言った。原澤が答えずにいると、はーと長く息を吐いてから、小さな声で言った。
「楽しいんですよ」
柔らかな肉に拳を埋め込む感覚だとか、骨がぶつかって鈍い音がするのだとか、与えただけの痛みが返って来ること、身を削るような殺気、なにもかも。楽しそうにそう語ってから、ふっと冷たい声で、それが、怖いんです、そう言った。
「怖い?」
「ええ、怖いんです。いつかその快楽だけになって、俺が消えてしまうんじゃないかって」
たのしいからやってる。では、その“たのしい”を感じる自分が消えてしまったら?
「だから、その前に、死んじまいたいなって…そう思ってたんです。でも自分で死ぬのも嫌で。…俺が消える前に、俺を殺してくれるひとに、出会えたら、って」
見上げてくる瞳は真っ直ぐで、それが居心地が悪く目を細める。
「教育者としては見逃せない発言ですね。いのちの電話の番号、教えましょうか?」
「は、要りませんよ」
あいも変わらず山崎は其処から動く気はないようだった。四肢を投げ出して、抵抗などしないと、誘っている。
 まるで、最後の審判でも待っているかのように。
 ぐり、と自分の前髪を捻る。
「それならさっさと家に帰りなさい。別に怪我もしていないんでしょう」
「なぁ、俺はアンタがそうだって言ってんですけど」
「私が?」
は、と息が漏れる。これは決して動揺なんかではない、歓喜なんかではない。
「私が、君を殺す者だと?」
まさか、と鼻で笑うことには成功した。
「私にそんな趣味はありません」
「嘘言わないでくださいよ」
 ぐるぐる、瞳の色が交差する。
「アンタは俺と同じ目をしています。何かを傷付けたくてたまんねーって、そういう、目」
 ね、かんたんでしょ、と囀る声はもう聞こえなかった。代わりに苦しそうな呼吸音。勝手に力を込めていく両手から伝わる、確かに暖かく、生きている身体。びくん、と意志とは関係なく跳ねるそれを、否、根底の話で言えば意志なのかもしれなかったが、丁寧に封じ込めて更に両手に力を込める。
 微かに、その唇が動いた。ありがとう、と形どられていた気がした。その目が閉じてしまってもまだ、原澤は力を抜かなかった。此処でやめてしまっては、彼に失礼だとも思ったのもある。勿論、それだけではなかった。
 この掌の中で生命が、あぶくのように消えていく感覚。これを追い掛けないでいることなんて、出来るはずがなかった。



#一番目にリプきたキャラを二番目にリプきたキャラが殺す



20140405

***

つりばしわたれ 原澤+武内

*リバではない
*お好きな方でお読みください

*若克徳・若源太の喋り方等々いろいろ捏造
*時期とかはてきとーに脳内で補完してください
*場所は市営体育館とかそんな感じのわりとちゃんとしたとこ想定

 「はらさわァ、お前、目上の者への敬意ってねぇワケ?」
どう贔屓目に見ても怒りが煮えたぎっているであろうこれは左からの声である。
「敬意を払うべき相手には払ってますよ」
最大限に相手を馬鹿にしているのを隠そうともしないこれは右からの声である。
 武内源太は絶賛非常に面倒くさい立ち位置に立たされていた。
 左には同じチームの先輩。右には同期の友人。彼らの間に挟まれてその頭上で口論というべきなのか、嫌味の応酬というべきなのか。おおよそ可愛らしい表現も穏やかな表現もききそうのないそれを聞かされている、無関係の人間の身にもなってほしい。先ほど、あの、とやっとのことで発した言葉も過熱する言い争いに蒸発してしまった。もう何を言う気も起きない。ただ此処から逃げたい。
 左の先輩の言い分はこうだ。後輩である原澤の態度がでかいばかりか、先輩である彼らを敬う様子もなく、そしてその口から飛び出すのはその顔に似合わない暴言ばかりであり、これはひとつ、シメてやらねばならない、と。
 右の友人の言い分はこうだ。態度がでかいと思うのも敬われていないと思うのも先輩である彼らの器が小さいためであり、自分は勿論自分の感性から生じた少々の敬意は持ってはいるのだし、暴言だと思うのも彼らの心が狭い所為で、可愛い後輩のちょっとしたお茶目で許せ、と。
 はぁ、とため息を吐く。彼らが分かり合うことは到底ないだろう、そう武内は思っていた。だからこんなどうしようもないことは止めて妥協点を探すか、もしくは今後一切関わらない宣言でもするかして欲しい。そんなふうにして思考を目の前の事柄から飛ばしていたのが悪かった。
 「其処にでも入って反省してろ!」
何処に? と問う暇もなく隣の友人が襟首を掴まれるのを見る。そして、数秒遅れて自分の襟首もまた、同じように掴まれる。え、は、と言葉らしい言葉を発する前に、わらわらといた先輩たちは二人を何処かに押し込んだ。鍛えているとは言え、同じような体格の男に囲まれてしまえば多勢に無勢だ、適うはずもない。がらがらと閉められていく扉に思わず飛び付く。重い扉一枚隔てた向こうではがちゃり、と錆びついた音がした。
「先輩!?」
何でオレまで、とは思うも流石に口にはしない。どんどんと扉を叩くも向こうからは、少しは頭を冷やせと怒りに満ち満ちた声が返ってくるだけだった。その台詞はそっくりそのまま返してやりたいところだがぐっと堪える。そんなことを言ってしまえば僅かな希望はおろか、武内のこれからまでも害することになりかねない。
 しかしながらやっぱりと言うべきか、出してくださいってば、という武内の悲痛な叫びも聞き入れられることなく、外の声は次第に遠くなっていった。見回すまでもなく此処がコートの脇にあった倉庫なのだと分かっている。先ほどの錆びついた音は錠が掛けられた音だろう。午前の練習が終わった直ぐ後だったこともあり、他のメンバーは一時間は戻ってこないだろう。希望がまったくないという訳ではなかったが、出れるとなればその時になるに違いない。
 「…お前の所為だぞ」
「そうだね」
静まり返ってしまった扉の向こうに諦めて、そう恨みがましく呟けば、そっけない相槌が返って来た。一応は武内を巻き込んだことを悪く思っているらしい。
「でも最初に突っかかってきたのは向こうだ」
俺は悪くない、と頬を膨らませたらしい友人は恐らくその動作すら様になってしまっていて、こういうところもあの先輩の気に食わなかったのだろうな、と思わせた。
 恵まれた才能、敵わないと心の底が冷える瞬間。そういうものに追加して、態度やら人格やら。原澤の持つすべてが妬ましくて、そのままそれは原澤自身への妬みになって。
 小さく首を振る。面倒ではあるがそれはどうしようもないものだ。それをどう最小限で抑えるか、そう本人が思わなければ。
「お前の口が悪いからだろ」
呆れた様子を隠すこともなくそう告げて、ぼすん、と近くのマットの上に座り込む。平たく積み上げられたそれはベッドくらいの高さで座るのに丁度良かった。
「君もそう言うのか」
「そりゃオレだって別にあの先輩たちはどうかと思うけどよ」
前置き。
「ああいうのに絡まれないためにも、お前のその口の悪さは直した方が良いって言って…」
「武内」
「ッ、ンだよ」
驚いたのはその呼び声が至近距離から聞こえてきたからだ。うっすらと扉の下からコートの光が差し込むくらいで、倉庫内は真っ暗である。原澤が何処にいるかがうっすら分かる程度だ、まさかこんなに近いなんて思っていなかった。
 しばらく、沈黙が続く。目の前にいるんだろう、それは分かるが、どんな顔をしているのか分からない。もしかして、落ち込んでいるのだろうか。尊大な友人に不似合いな想像をしながら武内は次の言葉を待つ。
 ふいに頬の辺りに手が触れた。
「ん、頬か」
「頬だけど」
「そうか」
その手がゆるゆると輪郭をなぞるように降りて行って、そのままトン、と武内の身体の横に置かれる。隣に座るつもりなのだろうか、そう思った武内の予想を華麗に裏切って、ぐい、と原澤の膝が割り入れられた。そこでようやく、何か可笑しいと気付く。
「原澤?」
「なんだ?」
「なんだはこっちの台詞だ。お前何してんだ」
「何って」
暗くて表情は見えないが、確かに笑われたような気がした。
「俺は口が悪いんだろう」
首を傾げる。
「ああ、そうだと思うが」
だから何だと言うのだろう。
 するり、と原澤の手が腰の辺りを滑っていく。そして、練習用のハーフパンツに手を掛けた。
「いやいやいや何すんだよ!?」
思わずその手を掴んで止める。
「何って、だから、武内も俺は口が悪いと思っているんだろう」
その通りにしてやろうと思ったまでだ、と続く愉快そうな声に一瞬意識が遠退きかけた。もしかして、“手癖が悪い”と同じような意味で“口が悪い”と言っているのだろうか。もしかしなくても、武内が口が悪いと言ったことについて、原澤は怒っているのだろうか。
 それならば謝ろうと口を開きかけた瞬間、黙っていろと言わんばかりに何かが押し付けられた。その直後に原澤の頭が下がっていく気配がする。むにり、とした感触。経験がない訳でもない、すぐに分かったはずなのに認めるのが躊躇われて。
「…抵抗しないのは、同意と見做すからな」
はやり何処か楽しそうな声が下腹の辺りを這うのを、呆然と聞いているしか出来なかった。



(恐怖を乗り切ったその先で勘違いをしよう)



20140313

***

きみのこいのゆくえ 実渕

*白狐の黎明堂クロスオーバー
*実渕さんが寮生設定

 実渕玲央は首を傾げていた。何に対してかというと、目の前の景色についてである。
「さっきまで、通学路にいたはずなんだけれど…」
先日の大寒波で降った雪がまだちらほらと山で残る道を、辿って学校へ向かっていたはずなのだが。考え事をしながら歩いていて、気付いたら目の前にはそれなりに大きな和風のお屋敷。普通ならば何処かで道を間違えたと思うのだろうが、如何せん通学路での出来事である。洛山の寮から学校まではほぼ一本道で、道など間違いようがないのだ。
 どうしようか、迷ったと連絡するべきか。しかしこの道でどうやって迷ったのか分からない以上、うまい説明も思いつかない。
『あら?』
うんうんと悩んでいると、庭の方から声がした。辿った先にはサングラスを掛けた男。実渕の目と同じくらいの高さにある頭は綺麗な橙をしていた。顔立ちから見ても、日本人ではなさそうだ。ポップな配色のパーカーと紺のジーパン、そして作業用なのか、少し汚れた可愛らしいエプロン。
『どうしたの? お店に用事?』
零れ出たのは聞き慣れた日本語だった。少しばかり発音は気になるが、それでも聴きやすい部類だと思う。
「え、あ、あの、迷っちゃった…みたいで…」
あらぁ、と呟いた彼は顎に手を当てて少しばかり悩んでいるようだった。
『貴方、何か悩み事とか、ない?』
「悩み事…?」
今の状況を考えると、迷子になっていることだろうか。
 そんなふうに考えてるのが分かったのか、彼はふふ、と笑った。
『まぁ良いわ。とりあえず中に入りなさい、寒いでしょう?』
歩いて行く背中に慌ててついていく。不思議と、知らない人間の家に、とは思わなかった。彼のやわらかな喋り方に同族意識のようなものを感じたからかもしれない。からから、と開いた玄関に、どうぞ、と通されればふわり、木の香りがした。

 いずみ、と彼が呼ぶと中から小さな子供が出てきて、そのまま居間に通された。この家の子供なのかと思いきや、此処は所謂なんでも屋で、その子はこの店の店主なのだと言う。
「何か叶えたイ願いのあル人だけが辿りつけル店なんですヨ」
白狐の黎明堂店主、筑紫いずみと名乗った子供は不思議なイントネーションでそう説明を続ける。外国人なのだろうか。確かに、銀色なんていう日本人には到底出そうもない色の髪はしているけれど、顔はどちらかと言えばアジア系だし、名前もそうだ。
「扉で繋がルようにしてあルはずなノデ、実渕サンがこうしテ何のクッションもなしニ辿り着いたノは不思議デスが…何かニ導かれたんでショウ」
「導かれた?」
そう問い返した時、先ほどちらりと見かけた黒髪の少女がお茶を持ってきた。どうぞ、と並べられた三つのカップ。実渕の前、いずみの前、そしていずみの隣の空白の席へ。其処に彼女が座るつもりなのだろうが、一つ足りない、と実渕は思う。
 実渕の隣で足を組んで座っている彼の分がない。
 実渕の戸惑いを察したのか、涼水、といずみが声を掛けた。
「お茶、モウ一つ頼んで良イ?」
それに涼水は不思議そうな顔をしていたが、ステファニーがいるから、との言葉にああ、と納得したように台所へ向かう。それを見送ってからいずみは涼水のところにあったカップを男の前に移動した。
 ステファニー。
 それが、彼の名前なのだろうか。
 『いずみ、アタシのことは気にしなくても良かったのに』
「僕モ君モ気にしなくてモ、実渕サンが気にするデショ」
『ああ…それもそうね』
何の話だろうか。いただきます、と断ってからお茶を飲みながら思う。お茶は美味しかった、少しばかりチョコレートの香りがするのは誰の趣味なのだろう。
 涼水が戻って来て席についたところで、さて、といずみが切り出した。
「多分実渕サンが此処に来タ原因ですケド…今日、何かいつモと違ウもの持ってまセン?」
いつもと違うもの、そう言われて、あ、と一つ思い当たった。今日は二月十四日だ。昨日の練習の後、寮の簡易キッチンで作った簡単なチョコマフィン。急いで鞄から取り出して説明する。
「実渕サン、それ、誰かにあげル予定…ありますよネ」
バレンタインなんて日の朝にそんなものを持っているなら、まぁ確かにそういう考えになるのだろう。しかし実渕は首を振った。別に、誰かに渡すつもりはなかった。ただ、イベントに乗っかってきゃっきゃする女の子たちが羨ましくて、少し参加したつもりになりたかっただけ。
 首を振っただけで理由は言わなかった実渕にいずみはなにか察したようだった。それならいっか…? と首を傾げている。
『何か悪いの?』
疑問はステファニーが代わりに聞いてくれた。
「ンーまぁ、単刀直入に言うとアレ、人間が食べルとヤバいやつになってル」
 え。声が重なった。見れば涼水が口をぽかん、と中途半端に開けている。この店の助手的な存在なのかと思っていたけれども、違ったのだろうか。それとも、助手でも慣れていない事態なのだろうか。
「え、何それ。食べるとどうなっちゃうの?」
疑問は涼水が代弁してくれた。
「エ、魂抜けル…的ナ?」
「…なんかそういう話なかったっけ」
「アレはそもそモ人間じゃなかったジャン! 実渕サンどう見てモ人間だシ!」
もういろいろとツッコミが追いつかない。捨てればいいのでは、とは思うけれどもそういう問題ではないのだろうか。
 それに。
 まるで、人間以外のものがいるような言い方だ。そこまで思ってまさかね、と小さく首を振る。確かに京都はそういうものの話が古く残る町ではあるけれど、実在するかと問われれば、実渕自身は否定する。何故なら、見たことがないからだ。見たことないものはいない、不存在の証明は不可能だと言われているが、実渕の頭を基準として形成される世界には、そのくらいで充分だと思っている。
 「どっカお参りトカ行きましタ? 初詣トカ…」
ああ、それなら、と近所の神社の名を告げる。確か、恋愛成就がメインの神社だったと思うが。その名前を聞いたいずみはあちゃーと額に手を当て、ステファニーは何がツボに入ったのか、あはははと笑っていた。
「気に入らレちゃったんデショー」
まぁ元々それなりに力のある人だったのもあるんだろうけど、といずみは髪を掻き上げる。力のある、ってなんなんだ、と思うけれども初対面の人たちに何処までツッコんで良いのかも分からないし、お茶を飲んでお菓子を食べるに徹する。美味しい。
 どうしよっか、捨てるのも駄目でしょ、罰あたっちゃうよー…などなど。三人が頭を捻っているけれども、どう考えても実渕の許容範囲を越した話になってしまっている。此処は願いを叶える店だと聞いた、実渕に出来ることは解決法が出るのを大人しく待っていることくらいだろう。
 『ねぇ、いずみ』
しばらくしてステファニーが声を上げた。
「なーニ」
『それ、アタシには影響、ある?』
また不思議なことを言う。そう思いながら彼を見遣ると、空っぽになったカップへと涼水がおかわりを注いでくれた。ありがとう、と言うとほほ笑みが返って来る。
「ア、ないネ」
『よねぇ』
先ほど人間が食べたら駄目だとか言っていたような気がするのだが。ステファニーは何か特別な人間なのだろうか。くるりとステファニーがこちらを向く。
 『ねぇ、玲央』
急に呼ばれたことに驚いて、肩が揺れてしまった。な、まえ。やはり向こうの人なのだろうか、それともただ単にステファニーがフレンドリーなだけなのか。そんなことがぐるぐると頭を駆け抜ける。どくり、疼いた胸は果たして本当に驚きだけだったか。
『そのバレンタインチョコ、アタシにくれない?』
何を唐突に。
『友チョコってことでも同士チョコでも、勿論本命扱いでもアタシは大歓迎よ?』
ぱちん、とサングラスの向こうで軽く閉じられた片目に、じゃあ、友チョコで…と、おずおずそのラッピングを差し出す。ありがとう、と一瞬触れ合った手は温度が感じられなかった。温かくも冷たくもなく、まるで、何も触っていないような。
『ありがとう。じゃあ、これはアタシからお返し』
ごそごそ、と彼のポケットの中から出てきたのは可愛らしいピン止めだった。白い小さな花が幾つも集まって、半球を作り出している。なかなか作りこんであるのは一目で分かる。
「良いんですか? 良いものでしょう、これ」
そう問えば、ステファニーははにかんだ。
『アタシの手作りなのよ、それ』
え、と思わず声を漏らして手元のそれを再びまじまじと見遣る。花の間に蝶の影が描いてあったりして、細かいところまで良く作りこんである。これを作ったなんて、驚きだ。すごい。
『良かった、気に入ってもらえて』
玲央にはこういうの、とても良く似合うと思う。そう言った唇にお世辞の色は見えず、実渕は照れくささに頬が熱くなるのを感じていた。

 これで解決だね、といずみが笑って、どうやらこれで本当にこの件は解決したらしいと知った。学校の場所を聞かれてそこまで送るから、と言われて荷物をまとめる。玄関から出ればすぐに帰れるよ、との言葉にはやはり聞きたいこともあったが、聞いたところで理解の範疇を越えていそうなので何を言わずに終わった。ステファニーに送らせるから、といずみが言えば、彼は立ち上がってエスコートしてくれる。
 『玲央はずっと大人しかったわね』
靴を履いていると、ステファニーはそんなことを言った。
『もっと聞いてくれても良かったのよ?』
サングラスの向こうの瞳はきらきらとしていて、実渕がいろいろな理由で疑問を飲み込んでいたことは、すっきりさっぱり見透かされているようだった。少し、恥ずかしくなる。
「…私に、理解しきることは、少し難しそうでした、から」
けれどもその目線に馬鹿にするような雰囲気は一切なく、するりと言葉は出てきた。彼らの会話の断片を繋げて大体のアタリはつけているが、恐らくそれは知れば知るだけ、実渕にとっては意味の分からない世界にしかならないだろう。理解出来ないものを知ることは悪いことではないが、自らパンクしそうな案件に突っ込んでいくのは賢いとは言えない。そうかもね、とステファニーは呟いた。
『アタシたちは多分、玲央とは全く違った世界に生きているわ』
玲央が此処を出て行ったら、またすれ違わない生活が始まると思う、その言葉に俯く。それは、言われなくてもこの短時間で痛いほどに分かっていた。
 今日のこの出会いは奇跡だ。きっと、二度と起こりえないもの。これ以上の同族意識もシンパシーも、きっと。
 すっと手が差し出される。
『アタシたちはまた会えるとは限らないけれど、良い友達になれると思うの。ねぇ、そう思わない?』
「思い、ます」
その手を取る。やはり、先ほどと同じように感触のない手だった。彼が其処にいることが不安になる程の。そのまま手を引かれて立ち上がる。もうとっくに靴なんか履けていた。からからと引き戸が開けられて青い空が目に入る。
 良い天気ね、との言葉にはそうですね、としか返せなかった。もっと、もっと話したいことはあるはずなのに。
 玄関から門までの道のりはすぐに終わる。
『貴方の恋が上手くいくことを祈っているわ』
アタシは此処から出られないから、そう言って手は離された。慣性で一歩、二歩、歩いてから振り返る。
『アタシの目は誤魔化せないわよー?』
驚いた顔をしていたのだろう、ステファニーはからっとした表情でそれを笑い飛ばして、いっそ小気味いいほどにウィンクを投げられた。
『あのヘアピンの花ね、小手毬っていうの。花言葉、玲央にぴったりだと思うわ』
ステファニーが手を振って、そうして踵を返して屋敷の方へ戻っていく。玄関の扉を開けずにそのまま進んでいって、
「え、」
その壁をすり抜けて行ったところでぱちん、瞬きをしたら、もう元の通学路に立っていた。
 「ええ…」
思わずもらったヘアピンを確認する。ある。
 ほっとした。今のすべてが夢だったなんて、それはあまりにひどい話だ。携帯を取り出して時間を確認する。早く寮を出たこともあって朝練には間に合いそうだった。歩き出す。手に持っていた携帯はそのままウェブを開き、検索ボックスに入力する。
 その、出てきた結果に、足が止まった。
「…もう」
零れた声を彩るのは笑み。
「そんなこと言われたら、頑張っちゃおうかな、なんて思うじゃない」
ステファニー、とそれが本名かどうかすら知らないけれど。確かに結ばれた友情は嘘ではないし、きっと、この先も消えない。
 学校に向かう足が、いつもよりも軽く感じた。心の隅に燻っていた恋心も、ちゃんと拾い上げてやれるような気がした。



バレンタインリクエスト
for すみね
参照:虚清音



20140214

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20190117