一度刺したい背中 今花 *少し原澤監督の影 「…アンタさぁ」 「なんや」 「なんで進路、急に変えたンだよ」 「なんでって言われてもなぁ」 「やっぱあの監督か?」 「それもあるな」 「アンタ好きだったもんな、原澤選手」 「そういうん覚えてるもんなんやな」 「アンタのことだからな」 「今日はやけにデレるやん…ま、もっと意外なんはお前がワシの進路、そのまま信じこんでたってことやけどな」 「…」 「そりゃあ確かに急やったし、お前に連絡した気になってた言うのもあるけどな?」 「………」 「普通受験前に調べるとかするて思うやん。ワシ一年ン時もそれなりに活躍しとったし、新生桐皇の要・今吉ー言うて結構名前知られとったんやで?」 「……………」 「ちゅーかまず、追いかけて来るなんて思わんし。ワシいなくなってから中学でも好き勝手やってる聞いてたしな? あれ、目ェ光らせるワシがいなくなったからやろ? そんなんやって聞いてたら、もうカルガモみたいにひっついては来ーへんと思うやん」 「カルガモって何だよ」 「そんままの意味やで」 「…」 「………」 「……………」 「…なぁ」 「なんだよ」 「ついてくる気、あったん?」 「…」 「なぁ」 「………」 「花宮」 「…うるせーな、どーだって良いだろ」 「…」 「大体アンタにそんなん気にされる筋合いもねーし」 「………」 「ってか今更すぎんだろ、それ。一年前にするならまだしも」 「…花宮」 「ンだよ」 「あんな?そない耳赤くした状態で何言うても説得力ないからな?」 「…ッ死ね!!!」 * #指定されたキャラで会話文書く for すみね * 20130906 *** とある試験前の一風景 原諏佐 「…かんと、く」 「…なんです」 「その、」 「そう言えば定期テストが近いですね」 「…そうですね」 「諏佐くんならば心配ないと思いますが…一応聞きます、“大丈夫ですか?”」 「“勿論です”…化学は特に力を入れて勉強しています」 「それなら安心です。でも他の教科も疎かにしないように」 「分かっています」 「…」 「………」 「諏佐くん」 「何でしょう」 「何か話があるのではありませんか」 「…さっき自分で遮っておいて、聞きますか」 「それは申し訳ありませんでした、何分心の準備が出来ていなかったもので」 「そんな準備がいることを言おうとは思っていません」 「そうですか、少し安心しました」 「…」 「………」 「あのですね」 「はい」 「テスト前ですし、部活も休みですし」 「はい」 「…その、察してくださいよ」 「えっと…何処かへ行きますか?」 「なんでそうなるんですか!貴方教師でしょう!」 「えっ」 「教師が率先してテスト前の生徒唆さないでください」 「ああ、それもそうですね。でも諏佐くんは成績良いですから…」 「それは努力しているからです」 「素晴らしいことです。…でも、なら、何を?」 「…あのですね」 「はい」 「テスト前と言ったらテスト勉強しかないでしょう!」 「真面目ですね」 「今更何を言っているんです」 「すみません」 「ですから、その、化学の分からないところとか、教えていただけたら、と、思って…」 「…」 「…だめ、でしょうか。こんな一人の生徒を贔屓するような、真似」 「…いえ、駄目ではないと思いますが…」 「じゃあ、」 「ですが、」 「何ですか?」 「その、二人きりなんでしょう?」 「ええ、まぁ…その方が嬉しいですが」 「…」 「なんです?」 「あの、君と二人きりで、自分を抑えられる気がしません…」 「え、」 「それにやるなら教室で、ということになるでしょう?」 「そうですね」 「誰もいない教室に二人きり、というシチュエーションは正直とても燃えます」 「…エロ親父」 「君限定です」 * #指定されたキャラで会話文書く for 鳥吉さん * 20130906 *** 捻くれ者同士の五日間 黄灰 空回って 遠回りして それでもその先で必ず巡り逢えるよね いつものことですから 「…はァ?」 大学四年冬。実家住まいの黄瀬が家に戻ると、そのリビングに少々大きめの荷物と共に鎮座していたのは何を隠そう灰崎祥吾その人だった。高校一年の冬以来その荒々しさは火が消えたように身を潜め、確かにその後の大会では好敵手として対面することが出来てはいたが。それでもやられた側はずっと覚えているということなのか、彼のラフプレーや中学時代の素行などを完全に忘れてやることは出来なかった。だから、こうして大学に上がりバスケから手を引いたことで、もう二度と会うことなどないだろうと思っていたというのに。 ショーゴくんね、静岡にいるじいちゃんの末の娘の孫でつまりね、アタシたちとハトコなんだってー。ちょっとあっちの家がごたごたしてるのとか、ショーゴくんの学会とかで、四日くらいうちに泊まってくのが良いかなーってなってうちに来たのー。もーこんなイケメンが親戚にいたなんてねー。リョータぁ、アンタ知り合いなら紹介しなさいよ、馬鹿ね! というのが姉の談である。ちょっと待て、泊まるとか言わなかったか、しかも四日とか。キャパオーバーを起こした黄瀬はモデルにあるまじき表情をしていたらしく、何、いやなの!? と金切り声を上げる姉に叩かれる。 「あ、アタシ明日から一週間旅行でいないから」 「はァ!?」 「彼氏と旅行〜」 待て、ちょっと待て。言葉が続かない黄瀬に更なる言葉が降りかかる。 「私も一週間いないわ、出張」 「私もお父さんと旅行なのよ」 ひょっこりと顔を覗かせたその上の姉と母である。声が似通っている所為でいっぺんに喋られると混乱しそうな黄瀬家ではあるが、言うまでもなく前者が一番上の姉で後者が母だ。どうして誰も家を出て行かないのだ、というツッコミは勿論実家暮らしの黄瀬には出来ない。 「じゃ、じゃあショーゴくんはどうするんスか」 「どうって…」 ほんやり、と母が首を傾げる。 「貴方がいるでしょう?」 やっぱりかー! りかー! と心の中でエコーする叫びは置いといて。 ちらり、と灰崎を見やる。灰崎はその視線に答えるかのように一度、ぱちり、と瞬きをすると、 「俺は寝かせてもらうだけで良いし、お前の邪魔はしねーよ」 あまりに簡素でさっぱりしたその口調に黄瀬は思わず言葉を失った。 「そういうの、慣れてっし」 今更気にしねー、と出されたお茶を啜る灰崎に、黄瀬はなんだかため息を吐きたい気分になったのだった。 俺は俺、あなたはあなたです 「リョータ」 ゆさり、と身体を揺すぶられ、微睡みの淵から浮上する。 「リョータ、もう二時過ぎてんぞ」 二時過ぎ。その不吉なワードに慌てて飛び起きた。 「なーんちゃって。うっそー」 何処となく棒読みでそうのたまった灰髪の男が一瞬誰か分からなくて目を瞬く。高校時代の特徴的なコーンロウをやめ、中学時代のような髪型に戻ったその男は、灰崎祥吾。つい昨日発覚したことだが黄瀬のハトコらしい。あれやこれやの諸事情でしばらく黄瀬家に泊まることになった客人だ。 「う、そ…?」 寝ぼけた声でそう返せば、 「まだ十一時半」 ほら、と見せられた時計は確かに十一時半だ。 「…もー…なんなんスか、嫌がらせッスか…」 布団を引き体育座りでぬくまる黄瀬。背中が寒い。それを呆れたように見下ろして、灰崎は言う。 「おばさんにお前に昼食食わせてやれって頼まれたからよ」 食卓に並ぶその食事はどれも美味しそうだった。 「ショーゴくん料理出来たんスね」 「まぁな」 いただきます、と手を合わせてありつく。 「これでオニオングラタンスープがあれば完璧なんスけどね〜」 素直に舌鼓を打ちながら零した好物の名に、 「悪ぃな、俺、たまねぎ嫌いなんだよ」 「あれ、いっがい〜…」 黄瀬は顔を上げた。 「バスケの技も女の趣味も似てるってのに、食べ物の好みは分かれるんスねー」 別段傷を抉るつもりはなかったし、嫌味のつもりもなくその言葉を放つ。ちらっと一度こちらを見やった灰崎もそのことが分かったのか、一つため息を吐くと返事をした。 「たりめーだろ」 しゃく、り。食んだレタスの音がやけに大きく聞こえるような気がする。 「似てるっても違う人間なんだからよ」 そんな言葉が灰崎から出て来るのは何か不思議で、咀嚼されきったレタスを飲み込むのに、少々の時間を要した。 俺はそんなふうには笑えません 慣れない、と思った。ふう、と緩めたネクタイの隙間から冷たい風が入ってくる。ぶるりと震えた肩を竦ませて、今日も宿への道を急ぐ。出て来る時にマフラーを忘れてしまったからか、いつもよりも寒さが身にしみた。 先ほどの言葉は別にマフラーのないこの寒さや、まだ何処か着られている感の漂うこのスーツ姿をに対してのものではない。家主に対してのものだ。主に、彼のきらめくような、しかし何処か温かみのあるような笑顔について。彼と会うのは初めてではないし、短期間と言えど中学時代に面識もある。高校時代では敵としてコート上で相対もした。その頃にもファンが聞いたら羨ましがるくらいには様々な表情を見てはいたが、こんなほんわりと何処か冷たいものが抜けたような顔は、知らなかった。それを直視する羽目になって三日目だが、それでもまだ慣れは訪れない。 きれいなものを見たときのように。小鳥のように、心臓が跳ねる、なんて。 「ショーゴくんっ」 聞きなれた声に顔を上げる。 「…リョータ」 「今日マフラー忘れてったっしょ? 暇だから寒いだろうと思って迎えに来たんスよ」 とろける夢のような顔。そう思う。 「…さんきゅ」 受け取った赤いマフラーは冷たくて、頬が火照っているように感じたのはきっと、その所為だ。 それであなたが満足するならいいんじゃないですか 「あっちゃー」 べっちゃりと汚れた布団を前に、黄瀬は心底真面目くさった顔でそう呟いた。 「と言う訳で、今日はオレのベッドで寝て良いッスよ」 「人の布団の上でジュース零すってお前…」 どうやったら、というツッコミは心にしまっておくことにする。 「…まぁ、いっか。でもお前は何処で寝るんだよ」 「え、ベッドだけど」 「俺に貸してくれんじゃねぇのかよ」 「え?」 こてん、と首を傾げて(それはそれは大変似合う仕草だった)(腹が立つ)、 「一緒に寝れば良いじゃないッスか」 かくして。身長のことを考えたのか縦にも横にも一人用としては充分に広いベッドに、190cm近い巨体が二つ、犇くようにして転がったのである。黄瀬の言い分はモデルがソファで寝るなんて! らしいので、じゃあ俺がソファで寝ると提案してみれば、客人にそんなことさせられないと言うし、すったもんだの言い合いになり、結局灰崎の方が折れただけのことだ。 電気を消した布団の上、寝返りも打てないほどの背中に人の体温を感じた。壁に向いた灰崎の横には、同じ方向を向いた黄瀬が丸まっている。 「ショーゴくんてドーテーじゃあないッスよね」 「…それがどうした」 いやちょっと気になっただけッス、と呟く背中の声。ちょっと気になっただけで経験の有無を問うのは、些かデリカシーやモラルに欠ける行為な気はするが、同じようなことをやっていた灰崎が言えることではないだろう。何せ高校一年生の冬、ほかでもないコート上で発した言葉のことは忘れていない。出来れば早く忘れたい。修学旅行の気分にでもなっているのか、黄瀬の小さな声は止まない。別段次の日も早いわけではないし、ともかく眠いわけでもないので、仕方なしに付き合ってやる。無難な相槌を打っていると、なにやら後ろから拗ねたような雰囲気が漂ってきた。 「抱き締めて良いッスか」 「…は?」 思ったよりも低い声が出てしまった。振り返ることもしないし部屋も暗いしてでどんな表情をしているのかは分からない。 「何なんだよいきなり」 「別にいきなりじゃないッスけど」 「いやいきなりじゃなきゃ良いって訳でもねーよ」 「そッスか」 ひたりと当てられた掌があつい。でも抱き締めたいッス。そう重ねられればため息しか出ない。 「もー好きにしろよ」 「やったぁ」 するりと回された腕。縋りつくようなそれを、擦り付けられた額を、懇願するような呟きを、きっと無視することなんて出来なかった。 ええ好きですよ、悪いですか 昨日の返事、欲しいッス。朝起きて食卓で顔を合わせて開口一番に突きつけられた言葉に、しばし絶句したのも無理はないだろう。気の迷いとして処理する猶予として、灰崎は黄瀬を起こさないようにその腕の中から抜けて朝食を作っていたというのに。 とりあえず座れ、と示し、食卓で向き合う。今日も美味しく出来たに違いない朝食だが、少しばかり冷めるかもしれない。 「昨日のことって」 「オレがショーゴくんを好きだって話ッス」 「…人の話遮んな」 別に聞いたんじゃねぇ、と続ければ真っ直ぐな視線が逃げ道を塞いでいく。 「…俺は男だぞ」 「知ってるッス」 「バスケももうやってねぇ」 「それはオレも同じッス」 「良い人間とも言えねぇ」 「それも同じッス」 「正直、何でお前がそんなこと言うのかわかんねぇ」 「…オレだって」 射抜きは、しなかった。以前見たような荒々しい光は微塵もなくて、だけれどそれと同質の熱さを秘めたもので。この何年かで丸くなったのだと思う。角が削れて、きっと宝石になったのだと。 「オレだって分かんないッス。ショーゴくんが高一ン時にオレにしたことも忘れてないし、中学の時だってマジむかついたし。でも何か、こないだっから、ショーゴくんにドキドキするし、目で追うし、むらむらするし、昨日抱き締めたらぐっちゃぐちゃにしてやりたいって」 「頼むから黙れ」 朝からそんな話は聞きたくない。もしかして昨日のデリカシーのない質問は、なんて血迷っても聞けない。 「…気の迷い、とかじゃ」 「ないッス」 間髪入れない答えだった。 息を吐く。ああ、もう。 「…ヨロシク、オネガイシマス」 ぱあ、と。効果音のつきそうな。 「こちらこそ!」 きっと本物の恋じゃない、きっと本物の愛じゃない。それでもああ、自分さえ映し込むこの瞳の輝きの雄弁なことよ。 花の咲くような笑顔を見たときから、この未来は確定していたのだろう。 (どうしてこいつだったんだろう?) (これが運命だなんて、笑えもしない!) 「捻くれた彼のセリフ」より 確かに恋だった http://have-a.chew.jp/on_me/ * 20130820 *** 恵まれている奴だと、そう思っていた。同じような人間なのに、自分よりもひどく恵まれている奴だと、そう思っていた。 早翠黙契 小諏佐 小堀が諏佐を最初に見たのは偵察に行った先の体育館だった。似ている、と思った。見た目の話ではない、ただの直感。何か、何か自分と似通ったものを抱えていると、そう思った。 「あの、」 同伴していた二年のマネージャーに問う。 「あの十八番って何年か分かりますか?」 「十八番? ああ、桐皇の今年の推薦枠の一人らしいな。確か…諏佐佳典。お前と同い年だよ」 同い年。その単語がやたらと胸に突き刺さった。そうですか、ありがとうございます、と曖昧に笑って返してまたコートを見つめる。 どうして、と思わずにはいられなかった。ポジションは違えど、身長や体格も大差ないというのに。片方は番号をもらって試合に出ていて、片方は番号ももらえず試合の日には偵察を任されるような。 ただただ、悔しさだけが残った。 二年になってユニフォームを手に入れて、後半にはスタメンの座も半分ほど手に入れた。それでも小堀にとって諏佐は羨望の対象だった。 「…あ」 その見知った背中に声を上げてしまったのは、本当に思わず、だった。 「あれ、海常の…小堀、だったか」 振り向いた顔がきょとん、と自分の名を紡ぐのを聞く。 「あ、えっと…」 自分の名前さえ肯定するのを躊躇ったのは、今日の試合を見たからだ。そんな小堀の様子に言いたいことは分かっている、とでも言うように諏佐が笑う。疲れたような笑みだった。それに堪らなくなって、言葉が飛び出す。 「諏佐は…PFじゃなかったのか」 疑問の形はとっていたが、記憶違い、ということはないだろう。諏佐は確かにPFだった。ポジションが違えども小堀を魅了した諏佐をこの二年ずっと見ていたのだ。間違えるはずがない。エースとして桐皇を引っ張っていくそのプレーに、試合成績では海常の方が常に上だったはずなのに、何度も負けた気分にさせられたのだから。 「来年、青峰が入ることになったから」 息が止まるかと思った。桐皇に、青峰が。海常もまた同じキセキの世代の黄瀬を獲得してはいたが、青峰。 「…それ、言って良いのか」 「良いだろ。もうあっちこっちから情報漏れ始めてるし」 人の口に戸は立てられないしな、と笑う諏佐は缶を開けた。プシュ、と小さな音が立つ。 「…悔しく、ないのか」 「そりゃあ悔しいよ」 こくり、と一口飲んだ諏佐が答えた。 「でも、やっぱり、このままスタメンを外されて最後のチャンスを逃す方がきっと、何よりも悔しいから。―――それに、」 すうっと、落ち着いた視線が小堀を見やった。 「小堀を見たから」 「オレ?」 瞬く。 「練習試合の日だったんだ、コンバートを言い渡されたのは。監督はその日の動きを見て、最終的にコンバートを勧めることを決めたらしい」 あまりに淡々とした語り口だと思った。 「言い渡された後はただぼうっとしてしまって、本当にだめだったんだ。バスケやめようか、そこまで考えた。でも、その日は、海常の偵察班も来てた」 思い浮かべる。つい最近の桐皇の試合ならば、小堀も同行していた。 「その中に、小堀がいた」 諏佐の穏やかな瞳が小堀を映す。 「ずっと、射殺すような目で、オレのこと見てただろ」 知っていたのか、とそれは言葉にならなかった。良い感情ではないと言うのに、諏佐がひどく嬉しそうな顔で語っていたというのもある。まるで、それが命綱だったかのように、きらきらとした大切なものを語るような顔で、こちらを見るから。 「それを見たら、俺が此処で諦めるのはだめなんだって思った。桐皇のスタメンだって、そう簡単に手に入るものじゃないし、俺は俺と同じようじスタメンが欲しい奴らを蹴落として此処にいるんだ」 空になった缶を諏佐が放る。宙を舞うその軌道がスローモーションで見えるようだった。何よりも諏佐が悔しかったのは、コンバートではないのだろう。元がオールラウンダーであるのは、その柔軟な動きを見ていれば予想がついた。コンバートに伴う、エースの地位からの失脚。例えキセキの世代だろうと、後輩にその場所を奪われるのは屈辱に違いない。本当は、もっと激昂したって良いはずなのだ。諏佐だって、小堀と同じ十七歳で、まだ子供なはずなのに。その穏やかさに腹が立つ。綺麗な放物線を描いたそれはゴミ箱に入る。カコン、と良い音がした。 「だから、オレは、出来るところまで足掻こうって」 なんて、なんてひどいことを言う。 小堀は思う。そんなの、手に入れられた者の余裕ではないか、と。しかし、それでも、 「ひどいこと言ってるのは分かってるよ」 その妙に熱を帯びたその声が、 「でも―――ありがとう」 その言葉が、嬉しいだなんて。 「お、れは、」 「小堀」 諏佐が遮る。 「今年、桐皇は強いぞ」 それだけで、言いたいことが分かる。小堀は一度小さく息を飲むと、拳をつき出した。 「海常だって、強いぞ」 きらきらとした冬の陽射し。こつん、と合わされた拳が、希望みたいに照らされていた。 * (空森さんへのお礼の品) * 20130731 *** スキキライ 青諏佐 *青峰くんも寮生活という設定 「アンタ、嫌いなモンとかねぇの?」 寮の食堂。すとん、と隣に座った後輩の突然の問いに、諏佐は首を傾げた。 「特に…これと言って思い付くもんはねぇけど」 今日のメニューはハンバーグだ。良く付け合せの野菜が嫌いだと言う同級生もいるが、諏佐自身はそういうこともない。茹でられたブロッコリーを箸で持ち上げる。この凝縮した森のような野菜が嫌いだと言う話も聞いたことはあるが、森だからどうしたと言うのだ、というのが諏佐の見解だ。 「何なんだよ、急に」 こうして隣に座られるのは最近では珍しくはないが、質問を投げかけられることはあまりなかった。しかし、もしもこれがコミュニケーションをとるのを目的で投げかけられた問いだったのだとしたら、先輩としてもうちょっと構ってやるべきだったのだろうか。そういえば今吉にももうちょっと青峰に構ってやったら良いのでは、と言われていた。あの今吉にである。そんなに青峰に対して冷たかっただろうか、そう思いながらブロッコリーを咀嚼していると、いや、と青峰が声をあげる。 「嫌いなモンとか食べてやるのがこう、良い彼氏の基本だって聞いたから」 その口から飛び出してきた、どう考えても不似合いなその言葉に諏佐は吹き出しかける。慌てて口の中のブロッコリーだったものを飲み込んだ。良い彼氏の基本なんて誰から聞いたは分からないが、そんなものを参考にするのも、まるで良い彼氏になりたいというようなその言動も、というか彼女がいたのかという驚きも、いろいろがごたまぜになって諏佐を襲う。爆弾を落とされたような気分だ。 「お、おう…」 何と返して良いのか迷ってしまう。だがまぁ、まずは事実確認だろう。 「そ、の。青峰は、彼女がいるのか」 「いや、いねぇけど」 いねぇのか! 心の中でだけ盛大に突っ込んでおく。良く知る妖怪腹黒サトリ眼鏡だったら実際に突っ込んだのかもしれないが、残念ながら彼は今この場にはいない。 「いねぇけど、気になってるやつはいる、かな。そーゆーのになったら、振り向いてくれたりするかもしんねーって」 爆弾二個目。いや、考えてみて欲しい。新鋭の暴君―――その二つ名は何処ぞの雑誌が付けたものではあるが、それから取って桐皇の暴君と、影で表で呼ばれるような後輩だ。ついでに結構な強面である。年下とは言えそんな人間が、気になっている人間に振り向いてもらうためにちょっと格好良いことをしようなんて。可愛らしいにも程がある。 「諏佐さんはそーゆー彼氏、どう思う?」 「どうって」 「なんかあるだろ、好きとか」 「あー…」 それはどっちかと言えば女子にした方が良い質問ではないのだろうか。そうは思ったものの、先ほどのコミュニケーション云々が思い出されたので律儀にも答えることにした。 「そうだな、まぁ、良いんじゃないのか」 一瞬悩んだにしては当たり障りのない答えになってしまったが、それでも青峰は満足したらしい。嬉しそうにハンバーグに箸を入れ始める。それを横目で見ながら、何だったんだ、と諏佐もハンバーグに箸を入れた。今日のも美味しそうだ、流石桐皇寮の食堂である。ハンバーグが綺麗に半分に割れたところで、ふと、思い付いた。 「青峰」 「ンだよ」 「ハンバーグ半分やろうか」 「えっなんで」 「なんとなく」 ほら、とその半分を皿の端へ移動してやる。 「返せって言っても返せねーからな」 「良いよ」 スポーツをする男子高校生にとって肉は必要不可欠だが、それ以上に青峰がハンバーグを好きなことは隣で見ていれば分かる。嬉しそうにその半分を皿に取って食べる青峰を見ながら、諏佐は小さな声で呟く。 「俺は好きなものを美味しそうに食べてくれた方が良いと思うけどなぁ」 嫌いなものを、食べてもらうより。好きなものを食べて、幸せそうな顔をしている方が。 「なんか言ったか?」 「いや別に」 皿に残っていた半分に箸を入れると、諏佐もハンバーグにありついた。 今日の夕飯も予想に違わず美味しかった。 * for咲葉さん #私の嫌いなもの食べ物当てたら小説を献上します * 20130728 *** 君だけが希望 黛葉 ひどい話だ、と思った。 葉山小太郎は自分が賢くはないと思っている。どちらかと言えば馬鹿の分類であることも分かっている。分かっているだけましだとも思っているが、それは今は関係ない。 「黛サン」 呼んだところで何が変わる訳でもないし、葉山が正しい言葉を賢い言葉を選べるかと言うとそんなことはないのだ。眼力があってもどうにもならない。この人はそんなものに負けてはくれないことを知っているから。 「そんな目をするな」 がし、と頭に手を置かれる。わしわしとぎこちなく動いているそれに、どうやら頭を撫ぜているつもりらしいと気付いた。下手だ、壊滅的に下手だ。これならまだ根武谷の方が上手い。 「お前がいてくれるから」 俺はやっていけるんだよ、なんて。 思ってもいない言葉を掛けられて、それでも頷くしか出来ないなんて。 * http://shindanmaker.com/a/67048 *** 話聞け馬鹿 今諏佐 諏佐が何か話している。結構真面目な顔で。それを今吉は見つめている。いつもの顔で。その視線が何処に向いているかというと、諏佐の手元だった。何を頼んでいたのだったか、諏佐なら普通にコーヒーだろうか、そんなことを考えながら冷たいそれに刺された赤いストローを見つめている。あまり目立たないけれども少しだけ噛み跡のある、ストロー。諏佐の、噛んだ、ストロー。 「オイ、今吉」 あまりに熱心に見つめていたら、諏佐が胡乱な視線を寄越して来た。 「うん、ごめんなあ」 聞いてへんかった、と素直に言えば、だと思ったよ、と呆れられた。 * ストローを「ちょっと」眺めて「話ちゃんと」口紅綺麗だね「聞いてる?」 / 小箱 *** 好きになると、弱くなるね 降古 規則正しい呼吸を聞くことが、こんなに心やすまるものだと知ったのは、つい最近の話だ。古橋は自分の後ろで無防備にも眠っている少年を見やった。周りが青年へと羽化していく中で、彼に残るあどけなさはいっとう目立つ。それ故、古橋は彼が一つ下の高校一年生だということを時たま忘れてしまうほどだ。もっと下なのでは、まだ中学生なのでは、そんなことすら思ってしまう。身長だってそう大差ないはずなのに。 他人なんてどうだってよかった。自分の身体が傷付こうが、そもそも自分のものであるのだからとやかく言われる筋合いはないと思っていた。 けれども今は、自分のことのように泣く彼がいるから。もしかしたら古橋以上に、古橋のことで泣いてしまう彼が。 どうしても他人だからと割り切ることが出来なくて。 「…弱く、なったな」 どうしてかそれが嬉しいのだから、適度な弱さも良いなんて、そう思えてしまうのは。 「…お前のおかげだな」 眠る頬を撫ぜる。暖房の温かさに色付いた頬は、確かに幸福の色をしていた。 * http://shindanmaker.com/122300 *** 流れに身を委ねる虚しさ 今花 よく続くなあ、というのは同じ関係に身を浸している人間から言われるようなことではないと思った。 「これが恋やないの、分かっとるんやろ?」 全て分かったような顔でのたまうそういうところが嫌いだ。けれども結局、花宮に反論らしい反論も出来ない訳で。ただだんまりを決め込む。その方が正しいと分かっているから。 「これが嘘だって―――アンタはそういうんですね」 こんな、こんな。胸を焦がすような衝動が、喉を絞めるような情欲が。 すべて嘘だと、嘘にしてしまいたいと、そう願う唇が嫌いだ。 * http://shindanmaker.com/35731 *** きみの愛に蝕まれるならそのまま消えてもいい 花諏佐 花宮真は馬鹿である。そう、一つ下の天才を諏佐はそう評価していた。天才だ、花宮が天才というところに諏佐だって異論はない。ないけれどもやっぱり総合的に見て馬鹿だと思った。天才ではあるのだ、それは否定しない。そのプレースタイルそのままの人間だ、そうも思っていた。じわりじわりと、糸を張り巡らせて獲物がかかるのを待っている蜘蛛のように。あれこれまあ褒められたものではないが頭がなければやっていけないプレースタイルだった。諏佐とて、相手を壊していく、なんて言うのを褒めることは出来ないし早くやめれば良いのに、とも思うけれど。 そう、やめれば良いのに、と思うのだ。 何故なら、誰よりも花宮があまりにその中心で苦しそうにしているから。 別に、人を傷付けることに対して良心の呵責があるだとか、そういうことではないのだろう。ただ、こんな無様な真似をしなければ此処に生き残ることが出来ない。その事実が花宮を苦しめている。花宮が悪童を呼ばれる所以をすべて断ち切ったらきっと霧崎は此処までのぼってくることはなく、此処まで苦しむこともないのに、と思う。 理想と、現実。 その間で独り、勝手に苛まれている。でもそれが心地好いなんて、そう思うのだから、救いようがない。苦しんでいる花宮の、そのぼろぼろの愛が心地好いなんて、そんな馬鹿なことを思ってしまうので。 本当に、救いようがないのだった。 * http://shindanmaker.com/122300 *** 20190119 |