corrupt 今←花 R18

*逆レ
*暴力表現有り
*今吉さんが他の女性と結婚している
*未来の話
*今吉×女性の性行為も有り



*本作品は犯罪行為を推奨するものではありません



 そろそろ子供が欲しい、とそういう話になるのは別段可笑しいことではなかった。結婚して三年目、丁度いい時期だろう。ねぇ、良いでしょう? と可愛らしく微笑んだ彼女を拒む理由はなかったし、経済的余裕や自分の覚悟など、妨げになるものもなかった。
「良ぇよ」
そう言って白いシーツの波に溺れようと、二人転がったのは、何も可笑しなことではない。首に回された細い腕に一つキスを落として、その髪を撫でて。いつものように優しくしてやろうと、その唇に食らいついた。
 か細く喘ぎながら、彼女は自分の上で動いていた。子供が欲しいと言ったのは彼女の方だったのもあったのか、今日はやたらと自分で動きたがる。好きなようにさせてやろうと思った。結婚するほどに愛した女性だ、それに、気持ち良くなれるのだから文句はない。主導権を握られたからと言って悔しがる程、自分は器量の狭い男ではないと自負している。ふと、彼女と目があった。ふわり、と微笑まれて、同じように返す。きもちいい? きもちええ。そんな会話、ありきたり。なのに、こんなにぞわぞわと悪寒がするのは何故だろう。
「翔一さんに、」
きゅう、と締め付けながら彼女が笑う。
「翔一さんに良く似た、男の子が、良いなぁ」
積極的に腰を動かす彼女の言葉に、ひやり、と脳幹が冷える音が聞こえた。とろりと喘ぐ彼女は動きを止めた自分に気付かない。
 翔一さんに良く似た男の子、が良い、なぁ。
 がんがんと脳内を侵食していく痛み。一気に放出されたのは、まるで、麻薬のような。
「翔一、さん?」
不審に思ったのか彼女も動きを止めた。咄嗟に口を押さえて顔を背ける。鈴の鳴るような、と表現しても差し支えない声が、あの小馬鹿にしたような声と重なって聞こえた。

 今吉翔一が後輩である花宮真に押し倒されたのは、彼が高校を卒業する少し前の日のことだった。
「第一志望に受かったんですよ」
だから褒めてください、そう言って一人暮らしする自分の家にやってきた彼を、その時点で疑うべきだったのだ。
 「中に出させてくださいって言えよ」
自分の上に跨った花宮が言う。突然の容赦のない拳に反撃する術もなく、床に倒れ込んだ。ラフプレーでこんなものまで培ったのか、ああやっぱりお礼参りなどあったのだな、なんて考える余裕がまだこの時点ではあった。倒れたままの自分を抑え込んで、花宮は服を剥ぎ取っていく。唇を奪われ口腔内を荒らされ、身体中にキスを落とされる。
「ねぇ、翔一さん」
名前でなんか呼んだことないくせに、と思った。抵抗する度にあちこち殴られて、今は何処が痛いのかすら良く分からない。頬が殴られ血の味がしていたから、きっと口の中は切れているのだろう。
「言える、でしょう?」
いっそのこと、錯乱したように怒鳴られたかった。今がした自分を殴った人間と同一人物だとは思えない優しさで、髪が梳かれる。好きなんです、と花宮は言った。今吉さんが好きなんです、とあの花宮からは想像もつかない程震える声で、確かにそう言ったのだ。突然のことにえ、あ、と意味のなさない言葉を零していると、続いて飛んできたのは追撃の愛の言葉なんかではなく、拳で。
 「まこちゃんの、ナカで、出したいーって。ほら。言えるでしょ? 翔一さん」
良い子だもんねぇ、とこちらを見つめる目はとろり、と確かな欲に染まっていて、ああ本当にこいつは自分をそういう意味で好きなのだと今更ながらに思う。だからと言ってこの仕打ちを許せる訳はないのだが。
「ほら」
口に指を突っ込まれる。
「このまま焦らして欲しいんですか?」
翔一さん淫乱だなぁ、とにやける花宮を睨み付けた。と同時に空いていた方の花宮の拳が腹に落ちる。ギャッという悲鳴が漏れた。
「言えますよね?」
さす、と臍の辺りに指を滑らされるその感覚に、プライドなんかよりも恐怖が勝った。
 「な、ナカ、で」
「はい」
「まこちゃん、の、ナカ、で、だ、だした、い」
その瞬間破顔した花宮は、天使と見紛う程だった。
「良い子ですね、翔一さん」
愛おしそうに、本当に愛おしそうにその指が頬を撫ぜて、また腰を揺らす。
「ん、あッ」
女と大差ないその艶めいた声に、思考も感情も真っ白になる気がした。
 どくり、と開放感が訪れたのは自分が一番良く分かっていた。あ、は、と語尾にハートでもつきそうなとろっとろの唇が笑いを漏らす。
「出ちゃいましたね、翔一さん」
自分のものの所為で、そこは一層とろりと蕩けたようだった。
「翔一さんの望んだ、まこちゃんのナカで出しちゃった感想はァ?」
望まれている応えなど分かっていた。けれど、先ほど砕け散ったはずのプライドは、またいつの間にか自分の両腕にかき集められていて、それを紡ぐことを拒んでいる。
「ねぇ、」
言えますよね?
「き、きもちえかった」
花宮が手を握ったのが見えて、またプライドは散らばった。
「へぇ?」
嬉しそうに、心底嬉しそうにこちらを見やる花宮に、考えるより先に言葉が転がり出て行く。散らばり切ったプライドは、もう戻って来ることはないのだろう。
「ま、まこちゃんの、ナカ、すご、きもちえか、った、ほ、ほんまやで、い、いままでに、ない、くらい、きもちえ、くて、ま、まこ、ちゃん」
その言葉に満足したように、花宮はまた笑顔を見せる。そうして今がした満たされたはずの腹をさすって、
「妊娠しちゃうかなぁ」
お前は男だろうと、そんな全うな指摘さえ出来なかった。こんな、こんな男の中で達してしまうなんて。ひどく自分が浅ましいものに思えた。けれどそれを口に出すことはしない、出来ない。
「妊娠、してたら、責任、とってくださいねぇ?」
するすると指がまた、腹の窪みを辿って臍をくい、と引っ掻く。
「翔一さんに良く似た男の子、が良い、なぁ」
おとこのこ、と脳内で花宮の言葉を反芻する自分がいる。アルバムで見たことのある幼少期の自分を思い浮かべて、そこに花宮の特徴的な眉を付け足す、そんな空想をした自分があまりに自然だと思えてしまった。
「名前、何にしますか?」
また腹の上でゆさゆさと揺れ始めた花宮が、嬌声混じりに首を傾げる。
「…は?」
与えられ続ける直接的な快感に唇を噛み締めながら何とか花宮を見つめた自分は、彼の目にどういうように映っていたのだろう。確かに言えることは、それすら花宮にとっては煽っているようにしか見えなかったらしいということだ。きゅう、と締め付けられ、咥え込まれたままのそこは愚かにもまた熱を持ち始め、それが更に花宮を喜ばせているのは一目瞭然だった。しょーいちさんの、おっきくなったぁ、とけたけた笑う無邪気な声に、もう何を言う気も起きなくなっていた。
「翔一さんとオレの名前から一文字ずつ取って、真一とか、良くない、ですかぁ?」
狂ってる、そう思うのはきっと楽だった。けれども中学の頃からずっと知っている彼が、それを邪魔してきて。
「ねぇ、ほら、きっとオレたちに似て、賢い子ですよ」
真一、真一、と生まれもしない子供の名前をひどく愛おしそうに呼びながら、腰を振り続ける彼はとてもじゃないが正常だとは言えないのに。
「ほら、翔一さんも呼んであげてください」
既に痣だらけの腕をひかれて、痛みに顔を顰めながらも導かれたのは平坦な腹。
「此処に、真一がいるんですよ」
指先から伝わるはずのない鼓動が、聞こえた気がしていた。

 結局、花宮はそれ以降自分の元には現れず、自分も男に犯させられたなどと吹聴する勇気はなく、そのままにしてきた。猫は死ぬ時は姿を晦ますと言う。あれから花宮のことは風の噂にすら聞かなく、まるで死んだようだった。そう思えば、最後の思い出に、と考えたのだったら、と、許せはしなくても、忘れることは出来るような気がしていた。
 だが、それは間違いだったのだ。
 たちまちに冷えきった脳の奥とは反対に、沸騰するように熱くなった胸を掻き毟りたかった。妻を突き飛ばすようにして向かった先はトイレで、そこに既に消化され切った夕飯を全て吐き出す。それでも尚吐き気は収まらなくて、もう綺麗に治ったはずの傷がじくじくと疼き出す。
 あれは、確かな恐怖だった。
 それなのに、それなのに。滑稽にも未だ熱を保ち続けるそれは明らかに先ほどの行為の名残ではない。忘れることも叶わない程、この身体に刻みつけられた、どろどろで行き場のない、それこそ吐き気がするような想い。それを、思い出してしまったから。
 ああ、くそ。十年以上経った今、あの全ての理由が分かって、今吉はトイレの便器を殴るしか出来なかった。
 ずっと、オレが、のこっているでしょう?
 何処かで無邪気な声が聞こえた気がした。



20130424

***

白い痕 原山

*事後



 消えないんだよ、と原は言った。明らかに自分の目線が其処にあることがバレている言葉だった。そんなに自分の視線は露骨だったろうか、山崎は反省しつつそうか、とだけ返す。
「ザキはこれ、カワイソーって思うの?」
カワイソー。頭の中で繰り返す。カワイソー、カワイソー、カワイソー。
「んー…?」
「何その生返事」
「ん、別に。思わねぇ、かな」
「…そー」
前髪に隠れた目は見えないが、ほっとした空気がぼわり、と湧いて出る。
 原が目を見せてくれるのは、行為の最中だけだ。挿入して暫くするとあの鬱陶しい程の前髪を全部掻き上げて、その目を晒す。一度、どうしてそうするのかと尋ねたことがあった。答えは、ザキのだらしなくひゃんひゃん喘いでる顔、見る価値あるよね、だと。それを聞いた山崎が言葉を失ったのは言うまでもない。
 「ザキはさぁ」
既に降ろされている前髪の所為で、目は見えない。何故あんなに前髪を伸ばしているのか、それは聞いたことはない。ただなんとなく、その一本だけ、奇麗に白く通っている痕に、何か関係している気がして。山崎にはそれを聞くことが出来ない。
「オレが死にたいって言っても止めない?」
瞬きが、ひどくゆっくりに感じられた。いち、に。きっかり二回瞬かせて、何でもないような顔を作る。
「…難しいな」
「えー」
なんでぇ? と首に腕を絡めてくる原をさせたいようにさせたまま、今度は笑う。
「だって、お前のいない世界は楽しくなさそうだ」
そうしたら想定外の答えだったのか、さらさらした前髪越しに目が見える。山崎は原のこの、少し垂れていてやる気のなさそうに見える目が好きだ。
「それにほら、」
良くも悪くも素直な原がああ言ったのだから、つまりそういうことなのだろう。少しくらい自惚れたってバチは当たらない。
「死んだらオレの、あ、喘ぐ顔だって見れなくなるんだからな」
言い切ると同時にぶふっと原が吹き出した。
「な、なんだよ!」
「だ、だって…そんな真っ赤な顔で言うくらいなら、言わなきゃ良いのにぃー」
どさり、とそのまま押し倒される。
「え、はら?」
「ん、ザキがかわいーこと言うからー」
ね、もっかいしよ? と掻き上げられた前髪に、山崎ははぁ、と息を吐いて降参、と言わんばかりに目を閉じたのだった。



20130412

***

いじっぱり 花山

*モブ女の子



 「花宮」
山崎に話しかけられたのは部活を終えた更衣室の中でのことだった。山崎が制服に着替え終わったところなのに対し、花宮は既に帰り支度を済ませている。
「藤原さんのことなんだけど」
藤原、その名前で花宮の頭に浮かんだのは一人の女子生徒だ。霧崎の制服を着た、可愛らしい清楚系の少女。
「何か花宮にひどいこと言われたって…津賀屋さんから怒られたけど、」
「ああ、言ったな」
本当か? というその最後を待つ間もなく花宮が答える。津賀屋というのはきっと、その藤原の友達なのだろう。
 女とは厄介な生き物だ。偽善めいた考えを振り回し、他人の事情にやたら首を突っ込みたがる。やれやれ、と首を振り花宮は鞄を持ち上げた。
「おま…っ」
話は終わりだ、とばかりの花宮の行動に山崎が眉を顰めるのが見えた。
「…ッ、意地張ンのもいい加減にしろよ!」
怒声を背にすたすたと歩いていく。他のメンバーは関わり合いになりたくないとばかりに知らんぷりだ。
「オレがっ! 何も知らねぇと思ってンだろ! 知ってンだよ!! 下駄箱に入ってたオレ宛てのラブレター破り捨ててンのも、オレに告白しようとした子の心を悉く折ってンのも!」
ああ、それオレも知ってる、という顔になったのも見ないふり。山崎に知れていることだって、計算のうちだ。馬鹿なこいつにも分かるようにやっていたのだから。今まで噛み付いてこなかったことが可笑しかったのだ。部室の扉に手をかける。
「理由がねぇなんて言わせねーぞ!!」
何処か頼りなくゆれ始めたその声にはぁ、とため息を吐いて立ち止まった。そして踵を返して山崎のところまで戻る。唇を噛み締めてこちらを見ている山崎の目の前に立つと、
「ばっかじゃねぇの」
ぐい、とその腕を掴んだ。
「う、わ」
十数センチも上にあるその瞳を睨みつけながらその唇に食らいつくように接吻る。
「理由、これで充分だろ」
「…足りねーよ」
「はぁ?」
「言葉で言えよ」
高い位置から見下ろされているはずなのに、上目遣いをされているような心地。
「我が侭だな」
「意地っ張りよかマシだ」
もう一度掴んだままの襟首を引き寄せて、今度は優しく触れるだけ。尚も不服そうな色の瞳をじっと見つめて、一言。
 「好きだ」



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4×8の日



20130412

***

影踏み優勝者 今桜

 ごぽり、ごぽり、自由にならないこの鰭の所為で沈んでいく。さよなら、さよなら、涙で息が出来なくなるよ。
 その後ろを歩いていたのはわざとだ。夕暮れ、紅く染まる帰り道。影は進行方向に伸びている、踏む可能性は限りなく低い。
「さくらい?」
「何ですか、今吉サン」
「何で隣歩いてくれへんの?」
ワシら仮にも恋人やん、と眉根を下げてこちらを振り返る。
「えっと…まだ、恥ずかしいので…スイマセン」
真似して眉根を下げてみた。
「そか」
「それに、ボク、今吉サンの背中、見るの好きなんです」
「それならしゃあないな」
また前を向く。その背中を見つめる。
 警鐘の鳴り響く脳内。渇いて堪らない喉。それでも駄目だ、駄目だと抑制する。息を押し込めて、耳を塞いで、ぎゅっと瞑った目に光は映らない。
 このまま、このままでいられたら。



オマージュ:「蟲師」残り紅
image song「影踏みエトランゼ」初音ミク(Substreet)

4×9の日

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20130411

***

(ああ、そっか、知らないうちにこんなにも、) 今桜

 「ご卒業おめでとうございました」
「ございましたって言うのも何か可笑しいな」
「僕もそう思います」
見据える。
「あの日は、言えなかったので」
新しくなった桐皇が新入生を迎える日、この人は何故だかやってきた。
「それもそやな」
桜井おらんかったもんな、と今吉が笑う。その通りだ。桜井はその日、卒業式後の三年生を送る会のような小さな催しから逃げ出した。ご卒業おめでとうございます。その一言が、いやに喉にひっかかってたまらなく、学校中の水道という水道でうがいして回ったのは記憶に新しい。体育館を見下ろせる窓から、三年生が出て行くのを確認してから戻ると、桃井にやたらと心配されてしまって、悪いことをしたとは思っていた。
「…なぁ、何であの日いなかったん?」
桃井も心配してたで、と続けられれば返す言葉が見つからなくなる。何か嘘でも吐いてやり過ごせれば良いのだが、目の前の人はそういうことを赦さない人だ。その目は、全てを見透かすかのようで、少しだけ居心地が悪い。
「…秘密、です」
だから、嘘ではない言葉を選ぶ。全てを隠す言葉を選ぶ。
「秘密、かぁ」
少しだけ、眉尻を下げて微笑むその表情を見た瞬間、ぱちり、と頭の中で音がした。タイミングを見計らったかのように、若松の集合、という声が掛かる。
「…じゃあ、僕行きます、ね」
「ああ。頑張りぃ」
背を向けて走り出す。
 気付いてしまったこの事実は、どうしても言えやしないと、でもそれと同時に、殺してしまうのも無理なのだと、そう分かっていた。



4×9の日

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***

流れていくのは涙かな、それとも愛? 今桜

*桜井くんが人外

 「桜井が卒業するときは、一番に迎えに来たる」
そう優しくも寂しそうな瞳が告げた、春の終わりのこと。
「…待っています」
同じような瞳で桜井も返す。
「…名前で、呼んでも良えか?」
「…はい」
「…りょう」
「はい」
ふわり、包まれて。
「すきや」
あたたかいな、と思った。これが、人間の、桜井良という人間の愛した人間の温度だ。そっと瞳を閉じる。これで最後であろう抱擁を、その身に焼き付けるかのように。
「…僕も、すきです」
 桐皇学園の中庭にぽつりと立つ桜の木を、切ろうという話が出たのは去年の今頃のことだった。部活動に力を入れるこの学校は、その木を切ってスペースを確保して、新しく部室塔を建てようとしているらしかった。ならば、と願ったのはたった一つだけ。
 神様の悪戯か悪魔の奇跡かは知らないが、温度を持ったその身体は焦がれるその人に触れられるようになった。
「今吉サン」
「なんや?桜井」
その耳に滑り込むことのなった声で、囀ることができるようになった。それだけで充分だったはずなのに。
「桜井」
「何でしょう」
「さくらい、すきや」
祈るように紡がれた言葉は桜井の頭のてっぺんから足の指の先までを包み込む。ああ、これが幸せというんだな、とぼんやり思う頭で、
「…僕もです。僕もすきです」
詰まりそうな喉で、やっとのことで出て来た言葉は、あまりに捻りがなく平坦で、それでいて一番のものだった。
 もうこれ以上望むものなどないように思えた。なのに。
 僕はいなくなってしまうんです、貴方を置いていってしまうんです、そう声高に叫びたい。ごめんなさい、貴方を一人にしてしまうんです、そう謝りたい。けれど、それをしてどうなるというのだ。この残酷で無慈悲な運命は、紛れもなく桜井自身が掴み取ったもの。
 桜井良という人間の記憶は全てから消えてしまう。それが、たった一年の奇跡を叶えるための代償の一つ。
 「…さよなら、翔一さん」
さいごの呼ぶことを赦されたその名が、貴方に届きますように。



4×9の日

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***

殺さない理由がなくなった

アノミー 今花 R18

(本当に、なくなった?)


*首絞め描写有り
*付き合ってない



 夜更けの街を歩いて行く。東京の空は歪んでいて、月が辛うじて見える程度。星の光も見えないような、そんな暗い駅までの道を踏みしめている。駅の改札。走るように駆け抜けていくサラリーマンを横目に、たらたらとスイカをタッチする。駆け込み乗車はご遠慮ください、その声を横目に階段の始まりに立った。視界の底の方で電車の扉が閉まった。がたん、と動き出す芋虫のような車体を眺めながら階段を降りていく。未だ人がごちゃごちゃしているホームで、電車は終了しました、と光る掲示板をぼやっと眺める。始発まで五時間程。
何処か二十四時間営業の店にでも入って時間を潰せばあっという間に過ぎてしまうだろう。ふと、視線を感じた。
 「…何だ、アンタか」
「先輩に向かってその言い草はないやろ」
振り向いた先の見知った妖怪に息を吐く。
「…アンタ、家一駅先じゃなかったか」
「そやで。終電逃したんなら来るか?」
頷く。知りもしない人間が犇めく場所で五時間を潰すよりは、それなりに知っている人間の家に行った方が良い。考えるまでもないことだった。

 「楽園って存在すると思いますか」
眼鏡をしていない顔がその細い瞳をいっそうに細めてこちらを見やる。恋人でもないこの人と肌を重ねるのにはもう慣れた。本来その用途ではない場所を解して、女のように喘ぐことも、笑うことも、慣れた。自分と同じように熱をもったそれを、ゆっくりゆっくりと飲み込んで、一息吐いて瞼の裏に浮かんできたのは此処へ来るまでに通ってきた夜の光だった。あれも一つの楽園だ。どうしようもなくこの人と、こんなことになっているのが証明だ。
「楽園?」
「ええ、楽園」
「なんや花宮、今日はやたらメルヘンチックやなぁ」
「うるせぇ」
べちり、と目の前の胸板を手の平で叩く。バスケから離れて時間の経つそれは、学生時代のような硬さはない。はやく答えろ、との意味を込めて手の平を押し付けた。心臓が鼓動するのが伝わってきた。
「んー…そうやなぁ」
少しだけ悩んだあと、
「ワシにとっての楽園は、此処やから。それ考えたらあるってことになるけどな」
「な、」
んだよそれ。口の中がからからに渇いていくような気さえした。自分じゃないその一部分だけを残して、身体中が冷えきっていくような。実際にはそんなことはなくて、そこいらの浅ましい人間たちと、あのネオンの街に群がる虫たちと同じように、欲に忠実なそこは熱を保ち続けていた。言葉が出ない、とでも言うように唇を微かに動かしたのに気付いたのか、聞いてもいないのに解説が飛び出してくる。
「花宮がいて、こういうこと出来て、それってもう愛やん? 愛があるって、もうそれは、楽園やないの?」
 勢いに任せるようにその首に手を掛けた。そしてそのまま押し倒す。繋がったままの箇所がぎちり、と軋んだ。自分の下のその表情はいつもの如く澄ましたままで、それがやけにしっくり来た。
「…アンタの、」
ぐ、と力を込めれば目のあたりから徐々に朱に染まっていく。
「アンタの言う愛って何なんですか」
真っ直ぐでたまらない程の憎悪、馬鹿みたいな尊敬、そんなものは数えきれない程向けられてきた。でもその中に、愛はあったのか。そう問われたら花宮は口を噤むしかない。
 花宮は知らない。その単語が何を、どういったものを、指し示すのか。そういう人によって大幅に解釈の異なるものは、とても、苦手だ。
 そうやなぁ、とその唇を猫のように弛ませて、
「単純なもの、やないの」
たんじゅん、と口の中で繰り返す。
「人にやられて嫌なことは人にするな、って言うやん? それってやったこと返って来るからやろ」
お前はそんなんお構いなしやったみたいやけどな。その言葉が差すのは中学から高校時代、コートで花宮がしていたこと。悪童と、その名がつく切欠になった馬鹿みたいなお遊び。
「其処に介在する理由ってモンを、まとめて言ったのが愛なんやない」
妙に掠れていた声はどんどんいつも通りのそれに戻っていった。そんなにきれいなもんやないよ、慰めの色をした声が耳元に滑りこむ。認めるくらいに、あばずれで尻軽なもんや。それに腹が立って頭突くように頭を下げた。がぶり、と肩口に歯を立てる。それを振りほどくでもなく、痛いわぁ、と笑っただけだった。
 あまりに馬鹿馬鹿しいと思った。許すだの許されるだの、そんなものはとっくの昔に決まっていたことだった。基準になる価値観も何もかも全部嘘の代物でしかなくて、そうやってきれいにしていったら手元には何も残らなくて。
 単純で、特別なんて、ああなんてそれは。
 首に添えた手はとっくに緩んでいた。そこから抜けだした身体が慈しむように抱きしめてくる。
「いたいです」
まるで、泣きそうな子供のようだ、と思った。自分で思ったのだから、自分を抱きしめているこの人も同じことを思っているに違いなかった。
「花宮のそれは、複雑やなぁ」
嘲るでもなく、憐れむでもなく、淡々と事実を述べるような声だった。
「でもほら、救えるものもあるんやで?」
くくく、と喉が震えるのが振動で分かる。痛がっているのはきっと、この人の方だとも分かっていた。
「なぁ、花宮?」
分かっていて、その言葉が吐き出せない。
 たった五文字、心なんてものがあるなら、それを底から曝け出すような言葉。
 「ワシのこと、救ってえな」
それはオレの台詞だ、そんな簡単なことも言えないまま、応えるようにその背中に爪を立てるしかなかった。



image song「アノミー」amazarashi



20130322

***

悪い魔法遣いのかけた、ややこしい沈黙の呪い。
きっと耐え切ったら、素晴らしい祝福が待っているから。


午前零時まで呪いは解かないで 花諏佐

*花宮くんが関西出身設定



 「今日一日オレと口聞くな」
はるばるやって来て開口一番言うことはそれか、とは思うが、どうせまた今吉と良からぬことを企んでいるのだろう。分かった、というジェスチャーをしてからそのまま参考書に向き直る。
 諏佐佳典と花宮真は付き合っている。無論、恋人としてである。今吉という接点らしかぬ接点しかない二人がどうやってそういう関係になったのかはさておき、こうした花宮の良く分からない要請は初めてのことではない。その大体に今吉が絡んでいるのも、諏佐が害のない範囲でそれをのむ理由の一つだ。高校生活の大半を一緒に過ごしてみれば分かるが、今吉という男を止めるなんて土台無理な話なのだ。妥協出来るように自分の思考が作り変わっていくのも無理はない。一体今度は何をしているのか気になる所だが、まぁ悪いことではないだろう。霧崎第一と桐皇は同じ都内ではあるが、そこまで近いという訳でもない。狭いと言えども東京だって二千キロ平方メートルを越す面積を所有しているのだ。幾ら交通機関の発達した現代に暮らしていると言えど、学校も部活もある学生ではそうそう会うことは出来ない。諏佐が寮生活なのも手伝って、その機会は恐らく普通の恋人たちよりも少ないだろう。まるで遠距離だ。同じ都内なのに。
 こんこん、とノックされた扉にはーい、と声を掛ける。
「今吉さんやでー」
「入れー」
がちゃり、とドアが開いて入ってきたのは恐らく元凶であろう同級生。手に参考書を持ってはいるが、監視のため来たと考えるのが妥当だろう。当たり前のようにローテーブルの向かいに座った今吉を呼んだ。
「今吉」
「なんや?」
にこにこと楽しそうに、そりゃあもう楽しそうにこちらを向く今吉にため息を吐いてから尋ねる。
「さっき花宮が一日って言ったけど、零時までってことか?」
「そうやで」
当たり前のように頷く今吉。
「どうせ花宮泊まってくんやろ?」
「そうだけど」
翌日は休日で、諏佐も花宮も予定がない。だからゆっくり過ごそうと思っていたのに、そうも行かなそうだ。呪いか、呪いなのか、妖怪なだけに。はぁ、と今吉へのあてつけのように大きくため息を吐いて、諏佐は参考書へと向き直ったのである。

 今日を余すところ三十分となったくらいで花宮の落ち着きはなくなった。そわそわと時計を見つめる姿はそれなりに可愛らしいが、恐らく本人は必死なので微笑むだけにしておく。花宮がやって来てから既に六時間程が経過していた。途中夕飯に繰り出したり、花宮の宿泊届けを出しに行ったりしたが、その間諏佐と花宮の会話はゼロである。良くここまで耐えたと思う。
 十、九、八、七、と秒針を追って心の中でだけでカウントしていく。一、零。
「…ッやりきったぞ、さっさと出すモン出して自分の部屋に帰れ!!」
立ち上がった花宮が、声も抑えずにそう吐き出して、今吉の襟首を掴んだ。掴まれた方の今吉は少しだけ驚きに目を見開いて、直ぐににやにやし始めた。
「なんや花宮、そんなに諏佐と喋れんの、」
「嫌だったに決まっとるやろ! 仮にも恋人やぞ!」
余程苛々していたのか口調が関西弁に戻っている。諏佐は止めるでもなくその様子を見ていた。穏やかにこそしてはいるが、諏佐とて花宮が横にいるのに喋れないという状況に、不満がない訳ではないのだ。正直良いぞもっとやれ、くらいの気分である。そうして今吉が差し出した何かをひったくるように受け取ると、花宮は今吉を蹴り出すようにして部屋から追い出したのである。
 「もう喋って良いのか?」
「ああ」
すっきりとした笑顔で隣に腰を下ろした花宮が寄りかかってくる。
「今回は何をしてたんだよ」
「…これ」
花宮が差し出したのは二枚のチケット。
「諏佐さん、行きたいって言ってただろ」
確かにそれは諏佐が以前行きたいなぁ、と零したイベントのチケットであり、あまりに人気で前売り券が完売したというニュースを見て、半ば諦めていたものでもあった。
「今吉と賭けたのか?」
こくり、と縦に振られる頭を撫ぜてやる。今吉がどうやって手に入れたのかは気にしないことにしておくことにした。
「ありがとな」
外から見るよりも花宮は存外寂しがり屋だ。喋るのが好きとまではいかないが、諏佐といる時には口数が増える。そんな彼にとって一日諏佐と口を聞かない、というものは結構辛いものだったに違いない。自惚れではなく、それくらいには愛されている実感があった。どうせ今吉のことだ、そういう花宮の性質も見抜いた上での条件だったのだろう。なんて奴だ、とは思うが、チケットの価値を考えるとそれくらいの条件も付けたくなるのかもしれない。まぁ、花宮の頑張りのおかげでチケットは手に入っているのだから、今は素直に感謝しておこう。勿論花宮にだが。
 するり、と腕が首に回される。
「なぁ」
呼吸が分かる程近くで、花宮が囁いた。
「頑張った分のご褒美くらいはもらって良いんじゃねーの」
「…手加減、してくれよ」
その瞳に子供のような光を見つけて、ため息を一つ。
 夜は、まだ、長い。



花諏佐の「今日一日オレと口聞くな」で始まるBL小説を書く
https://shindanmaker.com/321047



20130322

***

とくとくまわれ風車 青今

 それはあまりに唐突で、不躾で、こちらの事情なんか汲みやしないあざとい暴力のような言葉だった。独りきり、たったそれだけのことすら耐えられないのか、ちゃんちゃらおかしい、と嘲笑われているのだと、非常に頭の悪い自分でも分かった。何故、自分なのか。前述通り頭の悪い自分はそこまで考えが及ばなかった。相手は非常に頭の良い人物だった。この春、日本最高峰の大学に進学を決めてしまった程。嘲笑うことは心の内だけで、それをしまっておくことだって出来たはずだ。彼はそういう人間だった。共に過ごした一年足らずの時間が、自分にそう伝えていた。何度も重ねるのも情けないと思うが自分はとても頭が悪い。しかし人を見る目はあると自負していた。その自分が出した結論が、あの横殴りに三トントラックをぶつけてくるような初対面は、あまりにも可笑しかった、ということなのである。
 桜がほころぶ気配を見せていた。非常に頭の良い彼は、同じく非常に頭の良い、まるでニコイチのような同級生と一緒に住む所を探していた。もう卒業式は済んだだろうに、制服を着込んで屋上へこっそりやって来る様は、まるで悪餓鬼のようだった。給水塔の上からそれを覗き見る。制服姿の二人は暫くあーでもないこーでもないと紙を見比べて囀り合っていた。
 それを崩したのはやはり不躾な存在の方だった。三年になってから此処、来なくなってたんはアイツの所為か。ぱちり、と自分も目を瞬かせて更に聞き耳を立てる。所為っていうと違うかな、と温厚な笑みの良く似合う、曲者揃いのあの部活の中で最後の良心とまで言われていた彼は笑った。その曲者の中には自分も含まれているのだが、まぁ置いといて。別に、アイツに追い出された訳じゃない。彼の表情は何処までも穏やかだった。ただ、先輩としてやってやれることなんて殆どなかったから、こういう格好のサボりスポットを譲ってやるくらい、良いと思ったんだ。初耳だ、と思ったが息を飲むだけにとどめた。何しろ自分は聞き耳を立てている身なのだ。言い方を悪くしてみると、絶賛盗み聞きの最中である。それを腹黒な彼に見つけられるのは、よろしくない。非常によろしくない。
 なんや、それ。気が抜けたように言葉が返るのを聞いていた。ちょっとした先輩の意地だよ、先輩は後輩を可愛がるモンだろ、アイツはそう簡単には可愛がらさせてはくれないからな。笑う彼に最後のあの時、手を差し伸べられていたことを思い出す。あれは、可愛がるということの一環だったのだろうか。真偽は不明だが、どうもそうらしいと思うことにした。先輩からの何かしらのものは、自分をとてもくすぐったい気分にさせた。それ、ワシへのあてつけか。ぽつり、と呟いた声はとても小さかったけれど、彼も、そして自分も聞き逃すことはなかった。まぁ、そうかもな。笑う彼はその頭をぽん、と撫でてから立ち上がる。
 そして、こちらを見やると、隠れる間もなくばっちりと目があった自分に対して、非常に、非常に悪どい笑みを浮かべたのである。こんな表情出来たのか、と正直呆気にとられた。重ねるが良心とまで呼ばれるような人物である。そんな人物がサトリな彼顔負け―――いや、それ以上の悪どい笑みを浮かべているのである。そのギャップに暫く口がぽかん、と開いてしまった。
「やっぱり、いた」
その言葉に性悪な彼が顔を上げる。目が合う。瞬間湧き出てくるものに、まるでそう、悪どい良心は春風のようだと、足りない語彙力でそう思ったのだった。



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お題:天才の春



20130318

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ユダの接吻 原山

 世界が終わるんだよ。
 そう前髪の向こうから言った男に、オレはへぇ、と頷くしか出来なかった。
 昼休み、屋上。気心知れたそいつと二人で、昼食のパンを貪っている最中だった。
「最後の晩餐が焼きそばパンかよ」
やっすいな、と笑えばそーだね、と同意が返って来た。その声には陰りがあった、でも指摘しない。
「最後の晩餐って。誰が裏切るんだよ」
語尾に草の生えてそうなその口調は無理矢理だろう。咀嚼しているはずの焼きそばパンの味はしなかった。
「何それ」
「えっ知らないの」
「知らねぇ」
こちとらそんなに賢くねーよ。そうは口に出さないで(だって惨めだ)そちらを伺う。オレも良く知んないけどねーと前置きしてそいつは喋り出した。ていうか良く知らないのか。くそ。
 曰く、その晩餐にて主の使徒が一人、主を裏切ることを告げられたのだと言う。
 「最後の最後で裏切りがあるって分かるとか」
「まぁどうしょもないって思うけどね」
喉の奥から絞り出すような笑い声に、目を逸らした。逸らそうとした。
 手首に熱を感じたのは、食べかけの焼きそばパンを落としてからだった。信じられない程熱いその手の平は、強く、でもあまりに優しくオレの手首を掴んでいた。
 何、と聞ける程、オレは怖いもの知らずではなかった。
「…裏切り者は、オレかもね」
自嘲したような言葉に、何を言うことも出来なかった。
 それは、あまりに、ざんこくだ。
 するり、と首筋を撫ぜた手がのぼってくる。ひたり、と頬に添えられたそれもまた、ひどく熱かった。人間の手は緊張すると冷たくなると言う。そこで初めて気付く。こいつの手がいつも冷たかったのは、この所為なんだと。末端冷え性なんて嘘だった、テキトーに言葉を並べたら馬鹿なオレが信じるだろうと予想しての狼藉だ。実際、今の今まで信じていたのだから、あまり言えはしないが。
 裏切りが露見した今、こいつが緊張する理由がなくなったのだ。もうバレることを心配しなくて良い、それがこいつをこんなにも安心させている。ひどい話だと思った。
 終わってしまうのならば、何も始めない方が賢い。
 足りない頭でそう思いながら、すっとこちらを射抜く瞳をただぼんやりと眺めていた。世界は終わるんじゃない、こいつが終わらせるんだ、そう思ったら余計に、何をすることも出来なかった。



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昼間の夕飯



20130318

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20190117