うさぎさんこちら、手のなる方へ。 今花諏佐


 「いやもうホントお前の趣味も分からんがお前の後輩の趣味も分からん」
諏佐がそう言ったのを今吉も花宮も笑う。
「でも似合ってますよ」
「あと律儀にカクテルグラスで持ってきてくれるしな」
 ただのごっこ遊びなのに、それ以上が欲しいみたいだ。



文化の日えのさんのバニー諏佐より

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せんぱいのしゅみ 今花

 「アンタこういうの趣味なんですってね」
わっかりやす、と後輩は笑う。
「赤縁眼鏡の英語教師って、は、ホント」
これからちゃんと言うこと、聞いていてくださいね、と囁かれたのは海の向こうの、きっと授業なんかでは出てこないだろうスラングだった。



えのさんの花宮絵より

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いのり 花諏佐

 花宮真が姿を消したことを今吉伝いに聞いたとき、諏佐佳典の心に浮かんだのは死に場所を探す黒猫の後ろ姿だった。人間は好き嫌いをする生き物だがそもそもその線上に上がってこないものがいて、諏佐にとっての花宮とはそういう存在だった。へえ、という空虚な返事は今吉の耳にどう届いたのだろう。
「お前ら、付き合っとったんやなかったんか」
珍しく深入りするようなことを問うてきた今吉に、諏佐は笑うだけだった。
 付き合う。恋人。
 そんなきっと、ちゃんとしたものではなかった。
 一度、一度だけ。むしゃくしゃしたから殴らせろ、というような顔で 縋ってきた後輩に、まあ犬にかまれたようなものだと思えば、と承諾をしただけ。好奇心、と言えば聞こえは良いのだろうか。ただ、その一度があってから花宮の様子はおかしくなり、少しずつ何かが始まって、それに気付いていたからこそ諏佐は彼が姿を消したことについて大した驚きも見せなかった。
 恨んでいたわけではない。
 彼がしてきたことを許せなかったわけでもない。
 ただ、それは諏佐の役目ではなかったというだけ。
「諏佐は花宮のこと嫌いやったん?」
「どっちでもない、が正しいんだろうな」
本当はどっちにもしたくない、が正しいのかもしれなかった。
「でもな、今吉」
はらり、と落ちるのは何だろう。
 「オレは 今、無性にあいつに会いたいんだ」
どうしてかな。



あなたは宮沢賢治作「青森挽歌」より「あいつがいなくなつてからあとのよるひる わたくしはただの一どたりと あいつだけがいいとこに行けばいいと さういのりはしなかつたとおもひます」で花諏佐の妄想をしてください
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パペットキッス 笠森

 パンダのパペットを手に入れた。
 ちゃらららーん、という効果音を自分の口で言いながら森山はいつかのCMのように笑ってみせる。だからなんだと言うんだと言いたげな顔の笠松がじとり、と視線を投げ掛けてくる。いつもながら冷たい。森山が今まさに勉強中である笠松の邪魔をしたから、というのもあるだろうが、それにしたって一応は恋人であるはずなのにこの反応はあまりに冷たい。
 だから、森山は仕返しをすることにした。パンダの口をぱくぱくと動かして、それからそのまま笠松の方へ押しやる。ちゅっという効果音は森山が口で言ったものだ。
「奪っちゃった」
どうだ、と言わんばかりに笑ってみせると、瞬間、視界がブン、と展開した。
「えっ」
 胸ぐらを掴まれている。
 え、嘘、という言葉は言葉にならないまま口の中で消える。今ので怒った? と思うも笠松にだってそりゃあ虫の居所が悪い時だってある訳で。衝撃に目を瞑る。放課後だ、もし笠松が此処で一発森山を殴ったとしても周りは静かで人は居ない。誰かに見られて部に迷惑を掛けるようなことはないだろう―――とそこまで思考が回った時。
「………かさまつ?」
 触れた感覚も殆どなかった。
 うっすらと目を開ける。目は合わない。でも、と思う。さっきのは、だって。
「…ンなことしなくても、いつでもしてやるっつーの」
赤く染まった頬が見えた。
 それにつられるように自分の頬も熱くなっていくのが分かった。



あみだ

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「やっと二人きりになれた」 青諏佐

 桐皇バスケ部には妖怪という名の今吉翔一がいる。間違えた。今吉翔一という名の妖怪がいる。だからだろう、青峰と諏佐の関係をいち早く嗅ぎ付けてやって来たその妖怪が邪魔をして来ないなんてことがある訳ないのだ。
「アンタ、ッあの人と友達なんじゃなかったのかよ!?」
「友達だからこそのこの邪魔っぷりなんだろうな…」
二人きりになろうとすれば何処からともなくやって来て、部屋に忍び込めば課題の範囲がどうとかこうとかでやってくるし、だから真面目に練習に出ようとすればあれやこれや理由を付けて諏佐から引き離される。どうしろって言うんだ。
 と、そんなことを考えていたある日、やっとのことで桃井が今吉の呼び出しに成功して、その合間を縫うようにして二人で抜け出した。何も考えずに走り抜ける。今吉の来なさそうなところ。やっとのことで一息ついて、座り込んで。
 額と額がぶつかる。
 互いに、笑い合う。



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ままごとを続けたかった 黛葉

 まだまだ子供だったのだろうと、そういう自己評価くらいは出来ていた。だからこそ、目の前で分かりにくく悲しそうな―――切なそうな顔をしているその人の、気持ちが分かってしまう。
「だめなんでしょ」
分かってしまうからだろうか、口から出た言葉は子供じみていた。
「アンタが嘘でも良いって言うなら、オレも嘘のまんまで良かったけど。そうじゃ、ないんでしょ。だめなんでしょ、嘘じゃあ」
 こくり、と縦に振られた首はひどく微かで、ともすれば見落としてしまいそうだった。けれども葉山の動体視力がそれを許してはくれない。
「じゃあさ、」
手を取る。
「オレはアンタに真実をあげるよ」
 子供だった、まだまだ子供だった。葉山も、黛も。だからこそ、このままごとみたいな関係が終わって真実になるのが、嬉しいのと同時に苦しくてたまらなかった。



烏合
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外には出さない 今諏佐

 じゃらり、と細い鎖が音を立てるのが聞こえた。
「すーさ」
それをつけた張本人はにこにこと、この上なく楽しそうに笑う。
「今吉」
「なん?なんか欲しいモンあるか?何でも買うてやるで」
「これ、外してくれないか?」
「それはだめ」
 別に、何か事件があった訳ではない。そろそろもう良えやろ、そう言った今吉が、部屋に遊びに来ていた諏佐の手に手錠を掛けて、その先に細い鎖をつけて。ちょっとしたアクセサリーみたいだ、なんて呑気にそんなことを思う。
「諏佐、あんまそないなこと言われると、ワシ、心配になってまうやろ」
「心配か」
「そや。諏佐がワシの知らんところ行ってしまうなんて、耐えられんわ」
「………そうか」
捨てられた子犬のような顔をしてみせた今吉を、少しだけ不自由な手で撫ぜてやる。こんなふうに執着されることに、優越感を感じるなんて。
 ああ、大概だな、と諏佐は小さく笑った。



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I want / You want 緑高

 高尾和成の会話の引き出しは多すぎる。緑間真太郎はそう思っていた。
「高尾ってさ、元々おしゃべりだけど、なんてーか。お前といるときは威力倍増だよなあ」
それは、クラスメイトが言っていたこと。確かに、と思った。元々喋るのが好きなのであろうが、緑間の前では更にその口が回る。何故だろう。
「お前は、どうしてそんなに喋る?」
気になったので、聞いてみた。いつものように、ぺらぺらと喋っている最中に、口を挟んで。
「え、何、突然」
「少し、気になった」
 きょとんとしていた瞳はすぐに真剣な色を帯びて、じっと緑間を見上げてくる。
「真ちゃんと一緒にいると、たくさんオレのこと、知ってほしくなるんだよ。オレの思ってること、感じてること、ひとつも余すことなく、全部」
だから、しゃべるの。言葉にしないと、伝わらないでしょ。
 遠回しに朴念仁と言われたような気がしなくもないが、一理あると頷く。すると高尾は許されたと思ったのか、またぺらぺらと喋り出した。それがなんだか気に食わなくて、がっとその顎を掴む。
 え、という顔をした高尾に気分がよくなって、そのまま接吻けを落とした。
「…こうすれば、お前も静かになるのだな」
良いことを知った、とばかりに唇を舐め上げれば途端、面白いようにぼっと赤くなる頬。熟れた林檎のようとはこのことを言うのだろう。な、あ、の、と途切れた音を発していた高尾は、暫く視線を泳がせてから、困ったように見上げてきた。
「…お、オレ、そんなに、煩かった?」
「いや?」
時間を掛けたわりには最初に言うことがそれでいいのかと、少し呆れる気持ちもなくない訳ではなかったが。
「煩くはないが、主導権を握られているようでずっと喋らせておきたいとは思わん。それに、」
 もう一度。
「―――静かなおまえも、それはそれで好きだ」
 ぼん!と音が聞こえた気がした。それはもう可哀想なくらいに真っ赤になった頬と、若干涙目になっているらしい瞳。
「し、真ちゃんの、ばかー!」
可愛らしいなんていう感想を抱いたことは、暫くの間内緒にしておこうと思った。



image song「マシンガントーク」ポルノグラフィティ

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友情以上愛情未満 今山

 別に愛だの恋だの言うつもりはなかった。山崎にとっては同級生で部長で監督の花宮の先輩、今吉にとっては中学時代のやんちゃな後輩の同級生、二人を繋ぐのは花宮だけで、それ以上は何もないはずだった。
「やまざきくぅん」
妙に甘ったるい声が耳につく。
「…それ、やめてもらえませんか」
「何、嫌なん」
「嫌とかじゃないですけど」
「なら良えやん」
 今にも口笛でも吹き出しそうなほど上機嫌な顔で、その人は隣に座る。こてん、とその首が山崎の肩に乗せられた。この人は。
 弱みを見せるのを嫌うくせして、気まぐれのようにこうして無防備にしてみせるから。それが。ひどく。
「山崎くん」
「ッ」
落ち着かない、なんて。
 きっと、見透かされているだろうけれど。



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すきすきだーいすき。 黒原

 生ごみでも見るように歪められた空色の瞳がこちらを見ていた。
「原さん」
今からとても大事なことを言いますとばかりにきっぱりとした声が、耳を左から右へと撫でていく。
「僕は貴方が嫌いです」
「そー」
知ってるよん、と笑ってみせればまたぐるり、歪む空色。
 それでも晴れ渡る空には何ら異常がないのだから笑ってしまう。
「聞いてますか、嫌いって言ってるんです」
「聞こえてるよ」
「じゃあなんですか、この距離は」
まるで、のあとは続かなかった。恋人同士みたいだ、とでも言おうとしたのだろう。指と指を絡め合うようにして繋いで、半分その身体の上にのし上がるようにして。
 今にも、唇と唇が触れ合いそうな。
「え、黒子こういうの嫌い?」
「大嫌いです」
嫌悪という言葉が似合うくらいの表情で吐き捨てられた台詞にも、ふうん、と返すだけ。
 でもさあ、と絡めた手をぎゅっと握った。
「ねーえ、黒子。嫌いって三回重ねると、大好きって言ってるように聞こえない?」

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20160923