ただ一度でも願えば 今花

 「花宮は頭、良えんよなぁ」
花宮真の先輩にあたる人物―――今吉翔一がそんなことを言ってきたのは、何の嫌がらせか、彼が日曜日の花宮家に突然遊びに来た日のことだった。
 「何ですか、今更」
良いですけど、何か、という態度で花宮は答える。こんなふうに問わずとも、今吉は花宮の頭の良さを中学の時から知っているはずだ。じろり、何を企んでいる、とでも言うように睨みつけた花宮に、今吉は全く意に介していない様子で首を傾げてみせる。
「魚の目て頭に良えて言うよな」
唐突な話題転換。
「言いますね」
嫌な予感はするが返す。まさか、まさかそんなことはないだろう、そんな馬鹿なこと。
 花宮がそう乾いた笑いを漏らした、一瞬が運命の分かれ目と言えばそうだったのだろう。
 思ったよりも舌の温度は感じなかった。もっと熱いかと思っていたのに、花宮はそう思う。舌は白目部分をうろうろとしているようだった。よくもそんな器用な真似が、と思っているとそれは突然黒目部分を覆う。
「う…」
視界を奪われているその状態に落ち着かず、目を閉じようとすると、だーめ、と指がその目を無理矢理に開いた。
「白目も剥かんといてな」
「ぁ、や、ちょ、」
ぐにり、と抉るように優しく嬲る肉の動きは慣れないもので上ずった声が漏れる。後頭部と目元を固定しているその力は強いものの、振り払おうと思えば出来たはずだ。しかし出来なかった…もしくはしなかったのは、それがあくまでも優しさのみで構成されていたから。
甘ったるい砂糖菓子のように、今すぐにでも崩れ落ちるもののように、そう、まるで。
 まるで、セックスでもしているみたいに。
 ぢゅ、と音を立てて舌が離れていく。思考を読まれたようで、花宮は咄嗟に唾液の残る左目を拭った。
「アンタ、」
「効く、かなぁ」
「はぁ?」
罵詈雑言を浴びせようと開いた口は、場違いと思うほどにのんびりした口調によって失速する。
「花宮の目ぇ、食べてしまうんは勿体ないやろ? だから舐めるだけにしてみたんやけど」
はく、と言葉を失った唇が震える。
 左目はもう正常なようだった。先ほどまでのぬるい熱さももう引いて、何事もなかったかのようになっている。今吉も効けば良いんやけど、とからから笑うだけで、何も可笑しいことはないような顔をしていた。
 それが花宮にはひどく屈辱で、しかしそれを伝える術など何処にもないのが分かって、ただ今吉から見えないように拳を握りこむしかなかった。



for えのさん
俺ビンゴ7列空けの景品

***

ホネノズイマデ 今花

 「はなみやぁ」
間延びしたその呼び方に頭が悪そうだと思いながらも、無視すると後々面倒なことになるのが分かっているので返事をする。
「何ですか今吉さん」
「豚の骨から作ったスープとか、食べたこと、ある?」
「は?」
突然何の話だろうか。
「中国とかの料理やろか。骨から作るスープ」
「ないですけど」
「えーもったな。あんなに美味しいんに。あのなー普通にスーパーで骨売っとるからそれ買うてな、生姜とか人参とかと一緒にコトコト煮るんよ」
「…はぁ」
花宮はスーパーで骨が売っているところなど見たことがないのだが、それは地元文化の違いか何かなのだろうか。いちいちツッコむのも億劫で気のない返事だけを舌に乗せる。
「出来上がったスープも美味しいんやけど、ワシのイチオシは髄液でな」
「はぁ」
「白子とかカニ味噌みたいな感じでほんまうまいねん。でな」
「嫌です」
流石にそこまで言われれば今吉が何を言いたいのか分かって、その言葉を遮った。
「…まだ何もいうとらんやんか」
「嫌です」
「ケチやなぁ」
言わせてなるものか。ケチで結構だ。それに。
 顔を上げてその瞳を覗き込む。
「今の話聞いてたら俺も食べたくなってきたので嫌です」
「…そりゃあ、」
それが何処か愉しそうに、にんまりと弛んだのを見て、花宮は苦々しい顔をしてみせた。

***

不幸にも繋がってしまったその縁(えにし) 瀬今

*瀬花・今花前提みたいなあれやそれや

 「あ、桐皇の眼鏡の人」
街中をぶらぶらと歩いていたら、そんな声が聞こえてきた。そこそこ強豪の四番、という番号を背負う宿命とでも言うのか、残念ながらこの一年弱で知らない人間から声を掛けられることにも慣れてしまった。振り返る。
 呼び止めたつもりはなかったのだろう、ただついそう漏れてしまった、そんなような顔をしていた。ええと、間違ってたらごめんな、と前置きをしてから言葉を吐く。
「霧崎の…瀬戸クン?」
「なんだ、オレの名前知ってたんですか」
「花宮からよう聞くからな」
ワシら結構仲良いんやで〜とけたけた笑ってやれば、少しばかりその眉間に皺が寄ったような気がした。ほう、と唇を吊り上げてずい、と顔を近付ける。
 「花宮。かわええやろ?」
 そう言葉にした瞬間、こちらを向く視線が剣呑なものになった。おーこわ、と呟いてやれば舌打ちもおまけで付いてくる。
「瀬戸クンて、疲れそうやなぁ」
気付いたら、そう漏れていた。
「はァ?」
「花宮に関すること、毎度そんな反応してたら疲れてまうやろ」
「…別に、」
「ああもしかしてワシやから?」
頭が良いと聞いてはいたが、花宮と同様、こういうことには弱いのかもしれない。
「瀬戸クンが反応するのは、ワシやから、なんや?」
思わずと言ったように振り上げられた手を、そこではっとしたように止められた手を、そっと両手で包んでやる。
「嬉しいなァ、瀬戸クンのトクベツ、になれて」
 くそ、と吐き捨てられた言葉がどうにも敗北宣言のように聞こえて、もう一度、唇を釣り上げた。



forえのさん

***

切実にレベルアップが望まれる 花山

 「何で指輪しねーんだよ」
山崎の手をガッと掴んで花宮がそう言ったのは、部活が終わったあとの部室でのことだった。周りにはまだ古橋をはじめとした部員が残っていて、またはじまった、という顔をした。
 霧崎第一男子バスケ部主将・花宮真と、副主将・山崎弘は付き合っている。それは部員全員が知る事実である。勿論、先ほどの花宮の台詞から想像がつく通り、彼の類まれなる独占欲と自己顕示欲から来ているひどくはた迷惑な事実なのだが。考えてみても欲しい。同級生が目の前で彼女といちゃついてるのだってそこそこ腹立たしかったり、うざかったり、面倒だったり、兎にも角にもリア充爆発しろとなるのがまっとうな思考だと古橋は思っている。異性でもそれなのに、同性が、目の前で、それこそ臆面もなく、だ。
 多少(というには些かやつれて見える部員もいる気がするが)、げんなりとするのも仕方ないと思う。
 「嫌なのか」
「いや別に嫌じゃねえけど…」
と言うのはまぁ、周りの思考なのであって。本人たちは別段げんなりすることもなく今日も平和にいちゃついているのである。古橋は思う。さっさと着替えて帰り支度を済ませて、この空間から逃げ出すべきだと。
「落ち着かない」
山崎の答えにそりゃそうだ、と頷いた命知らずな数名の部員を殴りたい。古橋は無心で、無心を装って帰り支度を進める。こういう時に限ってなかなかボタンが留められない。
「…なら仕方ねーな」
「悪い」
「別に気にすることねーよ」
花宮のその少し拗ねてはいるが優しげに聞こえる言葉に、数名が安堵の息を吐いた。古橋は尚も無心でボタンを留めている。馬鹿め、経験値が少なすぎる、こんな綺麗な花宮が存在してたまるか。無心だ無心、今オレは無心なのだ、そう自己暗示を掛けながらボタンを留め終わり、ネクタイを拾い上げる。
「代わりに首輪すれば何も問題はない」
ピキッと部内の空気が凍り付いたところで、古橋はやっと現実逃避に成功した。
 なのでその後、帰り支度の済んだ山崎が、花宮に何処かへ引っ張って行かれたのだとか、上機嫌な花宮がペットショップとエムズどちらが良いかと問うていたことだとか、そんなこと古橋は知らない、知らないのである。



耳に入ってきたあるカップルの会話。 女子「なんで指輪しないの?いやなの?」 男子「いやじゃないけど落ち着かないんだ」 女子「そっか、仕方ないね。」 男子「悪いな」 女子「いいよ。代わりに首輪にしようね」 周囲が一斉にカップルに注目。
sanyaaann

***

耳の細胞 花山

お前の声を熔かしてわたしの一部にしようか。


 第一印象は犬、だったと思う。その妙に耳につく声はいつでも不憫に思えてならなくて、どうせならば自分が首輪を付けてやろうと腰を上げたのが始まりだった。飴と鞭という言葉があるように、何かを躾ける時はそれ相応の褒美が必要となる。ただ、花宮にとってはそれら二つを用意するのは非常に面倒だった。
 だから、両方を兼ね備えるものを使った、それだけの話だ。
 「ひろし」
耳元で低く囁けば肩がびくりと震える。それが心底可笑しくてくつくつと笑い声が漏れた。
「は、なみや」
「何だよ」
何か言いたげに唇が震えるのが見えた、けれども花宮はそれが形をなさないことを知っている。彼の容量ではそれがまだ処理し切れはしないことを、感情が追いつかないことを、知っている。
「お前は、可愛らしい人間だなァ?」
尚も耳元で囁やけばまた逃げるように肩が震えた。それをそっと撫ぜるだけで抑えこむ。
 犬というのは単純だ。しかし単純だからこそ、現実が許容量を越えた時、そこに立ち止まるしか出来なくなる。その立ち止まっている時間は他人にしたら短いものかもしれないが、花宮にとっては充分だ。
 まあるくまるく、そこから世界を切り取るように、それがいつしかその首を締める首輪になるように。

 ああ、目的が変わってしまったのは、いつからだったのだろう。



「耳の細胞」 オディロン・ルドン
ヤマ呼び発覚前

***

しゃぼんだま 黛葉

 「黛サンてさ、消えちゃいそうだよね」
既に日課になっていた屋上での読書。その静かな時間に割り込むように降ってきた言葉が一つ。
 黛はゆっくりと顔を上げた。漂った視線の先に、すぐに留まる姿。良く知る、とは言えずとも、知らない、とも言えない人間。いつものきゃらきゃらとした表情を消して、まるでコートの上にいるような表情をしている。それくらいはこの短い時間でも区別がつくようになっていた。
「うん」
こちらが何も応えないでいると向こうは勝手に頷く。
「やっぱり、消えちゃいそう」
すたすたと歩み寄って来たかと思ったら目の前にしゃがみ込んだ。そうして、覗き込まれる。
 ネコ目(もく)を彷彿とさせる吊り上がった眦、その中にまるっと鎮座する黒々とした瞳。そこに映る、無気力な自分。
「そんなに死にたいなら一緒に死んでやろうか?」
深く考えることもなく、唇からこぼれ落ちたのはそんな言葉だった。
 「そんなつもりないくせに良く言うよ」
途端に歪んだ頬を見て、先ほどまでのはそれなりに好奇心だとか、興味だとか、そういうプラスのもので構成されていたのだと知る。
「ていうかそんな話じゃなかったじゃん、ねぇ、オレの話聞いてた? 聞いてなかったっしょ」
黛サンが消えそうって話してたのに、なんでオレが死にたいって話になってんの。不機嫌そうに続ける彼に思わず笑ってしまった。そうすると気に入らないのか、徐々にその目が細まっていく。
 「じゃあこう言おうか」
腕を引く。まるでそうすることが予想出来ていたみたいに、抵抗一つない身体。殆どゼロ距離、触れ合うような近さ、耳に押し込むように。
 おまえと、しにたい。
 「…嘘吐きは嫌いだよ」
少しだけ、距離を取って見上げてくる。そうして吐かれた拒絶の言葉に、苦く笑ってみせる。
 けれどもその口角が押し止められるように少しばかり震えたのを、見逃してやるほどお人好しではないのだ。

***

正論はいつだって人を傷つける 赤黛

 風の強い日、屋上に出たことを後悔した。風が強かったからではない、何者かが階段を登ってくる音がしたからだ。がちゃり、遠慮もなしに開け放たれる扉。
「こんにちは」
初っ端の言葉に違和感を持った。
 赤司征十郎。バスケにおける天才、バスケ以外においても天才。洛山バスケ部に入部して一年ながらに主将を任される、あらゆる意味でぶっ飛んでいる後輩。黛千尋を、バスケ部へと戻した、つまるところ彼の平穏をぶち壊した、張本人。彼の言葉はいつだって尊大だ、其処に先輩への敬意は欠片も見えない。その彼が、こんにちは。別に可笑しいことではないのかもしれないが、やはり引っかかった。いつもなら、やぁ、千尋、奇遇だね、それくらい言うものではないのだろうか。彼のことを良く知っているとは残念ながら言えないけれども、それでも平穏を壊してくれた仇なのだ、目で追うくらいはする。
「…赤司?」
そっと、名を呼ぶ。赤司はもう、目前まで迫ってきていた。
 静かな足取り、縮まる距離。座ったままその足を眺める。いつもの逃げられないようにするものではなく、逃げないと知っているような。
「貴方は自分のことが大好きだと言いましたね」
唐突に、何を言い出すのだろう。それに、敬語、と見上げる。
 その瞳は左右両方同じに見えた。ひたり、心臓があるであろう、その上に置かれる指。制服に遮られているはずなのに、それが冷たいなんて思ったのはどうしてだろう。
「それは、裏を返せば何かに対して、自分を強く残したいということですか」
いつもよりやわらかな口調、やわらかな微笑、なのに、なのにどうして、こんなに、
「出来ませんよ」
赤司はトン、と黛の胸を突く。痛みも伴わない、ほんの戯れのようなもの。それだけで、黛を突き放そうとする。
 本人が自覚すらしていなかった、首を擡げはじめていたそれを、殺そうと。
 「貴方はそうはなれない」
上澄みを滑られている心地だった。
「貴方がいなくなったところで何も変わらない。貴方がいなくなっても、同じように明日は来る」
静かに続ける彼があまりにも可哀想で、衝動のようにゆるゆると、腕を伸ばした。避けられると思ったのに、簡単にその腕が掴めてしまって、戸惑いのまま引き寄せる。
 赤司は抵抗しなかった。それを赤司と呼んで良いのか、黛は知らないが。
「なれるさ」
 耳元で囁いた声が僅かに震えたのは、黛だってそれが欲しいからだ。
「なれてしまうんだよ」
首筋に顔を埋めるそれがその言葉に何を返したのか、黛には分からなかった。



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45の日

***

この関係に名前を付けるとするならば 今諏佐

 する、と手の甲を滑る指は、そこにある微小な凹凸をゆるりと拾った。白魚のような―――なんて、お世辞にだって言えないその手が、今吉は好きだ。
「今吉」
咎めるような声も聞こえないふりで流して、今吉は指を滑らせ続ける。
 手の甲から指先へ、綺麗に切りそろえられた爪。突き指でもしたことがあるのか、微妙に曲がっている関節。ペンだこ、うっすら浮き上がる血管、皮を押し上げる筋。綺麗ではない、けれども今吉はそれをうつくしいと思う。農作業をする祖母の手に触れた、あの時の感覚と似ている。
「すさ」
そっと呟くように呼ぶと、なんだ、と返ってきた。呆れさえも含んだその声は今吉の奇行を許容しているようで、ひどく心地好い。
 喉まで出かかった謝罪は、そのまま飲み込んだ。与えられるこの心地好さは、何も無意識のものではない。
息を吐く。
「なんでも、ないわ」
 ただもう少し、このぬるま湯の中で。



(そのこたえを僕らはもう既に知ってしまっている)
(だから、まだ、名もなきもののままで)

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47の日

***

こころなんて不確かなものを 今古

*中学生
*花宮と古橋が同中学出身設定

 夕暮れの昇降口に足を踏み入れる。下駄箱から靴を出して代わりに上履きをしまい、落とした靴に足を差し込んで踵をとんとん、と。そんなさしたる意味もない動作を遮ったのは、出来ることなら聞きたくない呼び声だった。
「そない嫌な顔せんといてや」
傷付いてまうわ、とへらり、笑ってみせたその人は、足音を立てずに寄ってきた。
「…今吉、先輩」
あいも変わらず妖怪のような人だ、と友人の言葉を思い出す。
 友人の部活の先輩らしいこの人は、どうしてか事ある事に古橋に構ってくる。古橋としては迷惑この上なく、叶うのなら今後一切関わりたくない。
「はは、ほんま、嫌われてんのやな、ワシ」
からからと声を立てて笑うその人を胡乱に眺めてから、では、と立ち去ろうとする。靴なんてとっくに履けていた。さっさと逃げたい。
「ちょお待ちぃや。ちょっとお話してこ、くらいは思わないん?」
「思いませんね」
「即答かいな、古橋くんつめたぁ」
何もダメージを食らっていないようなその表情が鬱陶しい。
「トモダチの先輩立てよ、とか」
「思いません」
「えーいけず」
こんな言葉すら喜んでいるような、その唇が不愉快だ。
「言うて古橋くんやって、こうしてワシが話かけてくるん、楽しみなんやろ?」
何もかもお見通しと言わんばかりの、眼鏡の向こうが疎ましい。
 ぎり、と口の内側を噛みながらくるりと背を向ける。何も答えることが出来ないなんて、そんなのは肯定と一緒だ。そう分かっているのに、どうしてか否定の言葉が出て来ないのは、この人に話し掛けられるようになってからずっとで。
 ふるはしくぅん、と間延びした声が呼ぶ。
「言わなずっと、分からんままやで」
そんな当たり前のこと。振り返りそうになったのは拳に力を込めることで耐えた。
 あの人の声を聞いた瞬間から、胸の辺りが蒸発するように熱いだなんて、そんなのは気のせいでなくてはならないのだ。



47の日
「言葉」+夢見がち+玄関or入口
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流星の軌跡はライオンの見るゆめに続く 赤山

 流れ星とか、そういえば見たことないな。
 確かに―――確かに。山崎は先週、そう零した。こじんまりとした所謂隠れ家的カフェで流れていたラジオ。来週は流星群ですよ、と楽しそうなパーソナリティの声につられるようにして、そういえば、と思い出したことを呟いた。だが、それだけだ。確かに見たい気持ちもそりゃあ勿論あったにはあったが、それにそれがその時一緒にいた恋人と叶うのであれば、そりゃあ楽しいだろうが。
 頼むから、サプライズ的にやるのはやめて欲しかった。
 黒塗りの高級車から降りてきた黒服に囲まれて誘拐紛いに連れ去られた放課後、その先で待っていた年下の恋人に、思わず飛び蹴りを食らわせた山崎は悪くない。避けなかったのは本人の中でもやり過ぎた気持ちがあるからだろう。
 はぁ、と大きくため息を吐いて、暗い草原に敷かれたブルーシートへ寝転がる。
「…でも、別に嫌じゃねえから」
天体望遠鏡まで用意されて、もう金持ちの嫌味かと思うのも勿論あるけれど。
「お前とこうやって星が見れるのって、すげえ嬉しいよ」
だから連れてきてくれたんだろ。たしたし、と自分の横を叩けば、恐る恐ると言ったように影が近付いて来た。真横に来たその美しい横顔に呼びかける。
「ありがと、な」
あかし、と続いた呼び名は星空に吸い込まれたのかもしれなかった。
 指先が触れ合ったのが合図だった。こちらを向いた赤司がはにかむ。そうしてもっと近付いて、それで。
 視界の端で一つ目の流れ星がおちていった。それだけで今日の目的は達成してしまった気分になって、山崎はそっと、目を閉じた。



48の日
シュロ
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