尊い犠牲者 花諏佐(*)

 ぴんぽんぱんぽん。そんな気の抜けたチャイムのあとに流れたアナウンスは、にわかには信じられないものだった。此処は、どちらかが相手の舌を噛み切らないと出られない部屋です、とその機会音が言う。十分以内に実行しなければ………、と重要な部分を言わずに放送は途切れた。
 さてどうするか、と顔を上げたところで、隣にいた花宮が大層嬉しそうなのに気付いた。
「………どうしたんだよ」
「諏佐さん、イソップのカナリアの話って知ってますか」
「夜にしか鳴かないって話か?」
「はい」
突然なんの話だろう。
「俺、あれはすごく良い話だと思うんですよね」
「馬鹿らしい話、ではないのか?」
「ああ、教訓として、です」
馬鹿なカナリアのお陰で、俺は他の救うことが出来るんですよ。
 ずい、と花宮は近付いて来た。もうすぐ、唇と唇が触れ合うような距離。
「諏佐さん」
熱の、こもった目が、
「アンタの魅力も、その言葉がなければきっと半減して、俺しか知らないものになりますよね?」
じっと見つめてくるのから逃げられる方法を、諏佐は知らなかった。



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ランドルト、まだこっちに来ないで 今花

 なあ、とその声はいつでも甘ったるい。まるで地獄を煮込んだような―――地獄なんて見たこともなかったけれど。
「ほら、今吉さん眼鏡外してもーたから何も見えんの。はやくこっち来ぃ」
手招く、本当は何処まで見えてるのかも怪しいその人にとりあえず蹴りを入れようと一歩踏み出した。



窓辺にはくちづけのとき外したる眼鏡がありて透ける夏空 / 吉川宏志

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四月の魚 今花

 ぴちゃん。魚の跳ねる音がする。引っかかった釣り針を痛がりもせずにするりするりと上がっていく。知らない空気がえらを叩いて、苦しさが尾を動かす。先ほどよりも水面が強く叩かれ、其処から水紋が広がった。
 「ワシな、お前のこと好きやで」
唐突に零されたのは、在り来りな嘘だった。裏をかいて裏をかいて、自分に都合の良いように受け取ることも可能だ。例えば、今日、エイプリルフールを利用して、いつもなら言った時点で笑い飛ばされそうな愛の告白をしているのだとか。一般的に嘘を吐いても良いとされるこの日ならば、こういったことも否定されたら嘘だと返せば関係性の保持には役立つ。相手が同性など、思いを伝えたところで気持ち悪がられる可能性が高い場合にも有効だ。
 けれど、今吉翔一がそんな人物でないことを、花宮真は嫌と言う程分かっている。
 「へぇ、そうなんですか」
精一杯に猫かぶり用の笑みを引き出す。
「それは知りませんでした」
「嘘やと思ってるやろ」
「いいえ?そんなことありませんよ?」
にこにことした気持ちの悪い笑みを全力で向けながら続ける。
「偶然ですね、オレも貴方が好きなんですよ」
くくっと鳴ったのはきっと、相手の喉だ。
「嬉しいわぁ」
ふわりと抱き締めてくるその腕が憎らしい。
「ふふ、両想いですね」
「そうやな」
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ」
触れ合った胸越しに伝わる心音が煩わしい。
 一つになれるのならば、垂らされた釣り糸にだって食いつくことも厭わない。
 そんなふうに思ってしまっているのだから、オレの気持ちも知らないで、と憤るのは間違いだ。



エイプリルフール

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平々凡々の可笑しな君 瀬戸+モブ

 自分の周りには可笑しな人間ばかりいる。それが瀬戸健太郎、十七歳の周りへの評価である。
 勿論十七歳の世界など狭い箱庭でしかないことを瀬戸は理解している。けれど、それでも可笑しいか可笑しくないかを見極められるくらいには、瀬戸は賢く生まれてしまっていた。そんな狭い箱庭の中で一番初めに瀬戸に可笑しいと認識されたのは、幼馴染だった。山下響。瀬戸家の隣―――そりゃあもう、アニメで良くあるような窓から出入りが出来る程近い隣の山下家の、同い年の息子。賢く生まれついた瀬戸にとっては、どうして出来ないのか分からないようなことが出来ない、所謂普通の子供だった。そう、山下は呆れる程平凡で、突出している所などなくて、漫画ならばモブにすらならないくらいの普通な人間だ。それがどうして可笑しいという認識になるのか。
 「お前、可笑しいよ」
そう初めて面と向かって言ったのは、小学校の時だったと思う。人に向けて言う言葉ではないとは思った。少なくとも、真面な人間ならば。
「知ってるよ」
でも相手も残念ながら真面とは言い難い人間なようだった。頭は人並み、だからこそその異常性は紛れる。完璧に擬態したそれを、瀬戸は恐ろしいと思ったことはない。理由は単純に、山下と過ごす時間が楽しいものだから、である。
 こんこん、と窓が叩かれる。確認もせずに開けると、よいしょ、と山下が入ってきた。
「めずらしーね、健太郎がこんな早く帰って来るなんて」
「ん、今日は職員会議」
「ミーティングもなかったんだ」
「花宮も何か用事あるんだってさ」
「へー」
ぽすり、とベッドに勝手に腰掛ける山下を見下ろす。幼い頃は山下の方が背が高かったな、とふと思い出した。成長期ににょきにょきと伸びた身長はいつしか山下を追い抜いて、座られると首が痛いな、なんて思う。が、特に座ることもせずに、着替えるためにネクタイに手をかけながら、言葉を紡ぐ。
「響」
「なに、健太郎」
穏やかな声はずっと変わっていない。
 「お前、可笑しいよ」
「知ってるよ」
「可笑しいオレと付き合ってられるお前は、可笑しいよ」
「だから、知ってるって」
天才と付き合える凡人は、凡人とは言わない。そう自覚していると笑った時と変わらない、穏やかな声。
 「今、オレ、楽しいよ」
山下はそれを予期していたように見えた。瀬戸のように直前で予測するのではなく、ずっと前から知っていた、というようだった。
「それは良かった」
にっこりと笑ったその顔を見て、やっぱりこいつは可笑しいな、と瀬戸は思う。でもだからこそ今が楽しいのだと思うと、また何か可笑しくなってしまうのだから、ああこいつが可笑しくて良かった、だなんて思うのだ。



うめださんリクエスト
#指定されたキャラでほのぼのSS書く

山下響(やましたひびき)

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心が同じ方向を向く 今山

*今→花・花←山要素含む

 「また花宮か?」
わざと耳元で囁くようにけたけたと笑う声に、背筋がぞっとするのを感じた。ばっと振り返ると、顔見知り程度の人間が其処にいた。何故いるのか、そんな質問はきっと意味をなさないのだろう。
「…今吉さん、ですか」
びっくりしました、と全てを飲み込んで眉間に皺を寄せる。
「んー。やーっぱり、山崎くんは嘘がヘッタクソやなぁ」
十数センチ下から見上げられているはずなのに、ずっと高い所から見下されているような。まるで、地面を這う蟻になった気分になる。楽しそうに足を踏み鳴らしている子供、どうやって殺してやろうか、そんな無邪気な残酷さでもって見つめられている心地。嘘、嘘なんか吐いただろうか。そう悪いとは言えないであろう頭で考えるが、この人も花宮や瀬戸と同じ部類の人間だ。山崎の考えの及ばない所から揚げ足を取ってくる。
「…すみません、下手で」
「別に悪いとは言うとらんよ」
けたけたと上下する白い喉仏が、異様に目についた。少々尖り気味のそれは凶器のようにも見える。
「ワシのこと、怖い?」
花宮を蜘蛛だと言ったのは、古橋だったか。ふと思い出す。花宮が蜘蛛だと言うのなら、この人は蛇だ。ずるずると這いながら、絞め殺そうか丸呑みにしようか、考えあぐねている。
 山崎が否定も肯定もしないでいると、すっとその人は視線をズラした。それを追えば、ああ、やっぱり。
「花宮に会いに来たんですか」
「んー」
生返事。
「声掛けてきたらどうです」
喜びはしないでしょうけど、と言いながら報われないな、と思った。それは別に、この人にだけ向けた言葉ではない。
「そうやろなぁ」
一緒やな、と言われた気がした。そしてきっと、それは気の所為ではない。
 原と古橋とじゃれあう花宮を暫く見つめている。それだけで胸がいっぱいになるなんて、どこの少女漫画だろう。こんな感情が自分の中に埋もれているなんて思っていなかった。少なくとも、ラフプレーなんてものに手を出した時点できれいさっぱり、そういったものは死んだのだと思っていた。
 それが。殺させたはずの張本人によって息を吹き返すだなんて。
 なんて、喜劇だろう。
 「どうしても、花宮は一番から外れられへんのやろ?」
今度は言葉にされたそれに、山崎はやっぱり答えない。ワシも同じや、と笑ったそれは確かに嘲笑だった。でも、山崎に刺さるのと同じだけ、その人にも刺さっている。
「なら良えやん」
引き寄せてくるその腕を拒むことはしなかった。
 例えこれが傷の舐め合いであろうとも、幸せを誤認するようなこの状況を、馬鹿馬鹿しいなどと一蹴できないのは山崎自身が一番に分かっていたのだから。



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48の日

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たまにはのんびり 花瀬

 「健太郎」
ゆさゆさと揺さぶる手で目が覚めた。
「…はなみや?」
薄めをあけた教室は赤く染まっていて、夕方なのだと伺えた。
「今日の予定は?」
「えー…あー…」
そう言われて思い出す。今日は部活がないからオレの家でデータ集めな、そう言われたのは朝練のあとのことだ。
「…悪い」
「…別に、責めてる訳じゃねぇけど」
どかっと前の席に腰を下ろして、花宮は呆れたように言い放つ。
「いつもならお前ホームルーム終われば起きるだろ。それが出来なかったのは疲れてるからなんじゃなねぇの」
思わず、目を瞬いた。
「何だよその顔」
まさか、花宮の口からそんな、
「自己管理の出来てない部員がいたら、オレだって注意くらいする」
やさしさみたいな。
 「明日もどうせねーから、今度こそオレん家だからな」
「りょーかい」



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45の日

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want to do 高尾

 壊れたようだと、自分でも思った。スポスポと入るボールは身体に馴染んで、まるで一部分のようだったし、それは喜ばしいことなのだけれど。それでも何かを感じていた。原因が何かなど分かっている。絶対倒すと誓った、その緑間が此処にいたこと。それが、高尾和成の人にとっては取るに足らないであろう決心を、大きく削りとったのだ。諦めてしまえ、何処かで囁く声。倒す前に、チームメイトとしてもお前はアイツの足元にも及ばない。そういう言葉だった、神様がもう一度敗北して駄目になる前に、教えてくれた事実だ、ありがたく受け取って、此処で諦めてしまえ。
 阿呆か。
 声を振り払ってレイアップ。もう一度振り払ってダブルクラッチ。まだ追い縋ってくるからバックシュート。全部、決まった。
「大丈夫」
 悔しさを忘れる程に圧倒されたあの試合。ただ決まりきった運命をなぞるように、ゴールへ向かっていくシュート。見とれる程なそれを、いつかきっと叩き落としてやろうと、そう決めた。でも、それが出来ないと言うのなら。
 諦めろ、だなんて、質の悪いトラップだ。
 「…ぜってー、認めさせてやる」
そう言って、自分に魔法をかけてやる。術式展開、きっと大丈夫。自己暗示、自己暗示、きっと自分なら出来る、それは過信でも自惚れでもない。笑え、高尾和成。それはお前の得意分野だろう?
 「よう! 緑間真太郎クン!」
 ああ。お前とやるバスケが、楽しいものになれば、良いのに。



#RTされた数だけ好きなボカロ曲を黒バスキャラで描く
image song「magician's operation」巡音ルカ(EZFG)

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 赤山(R18)

 始まりがどうだったかなんて聞かないで欲しい。ただ一つ言えるのは、これが初めてではないということだ。
 トイレに寄ったのがきっと運の尽きだった。その鏡越しに見えた特徴的な赤にすぐさま逃げようとしたのだ。しかしそれは叶わなく、強引に個室に引き込まれた。
「あかッふ、ぅんッ」
怒りを込めて呼ぼうとした名前も接吻けに絡め取られ、その隙にワイシャツのボタンが外されていく。体格差的に突き飛ばせば勝てるはずなのに、奥底に残った阿呆みたいな良心がそれに歯止めをかける。ついでにコート外では何も起こすな、という花宮のありがたい忠告まで思い出してしまった、くそ。
「声、出さないでくださいね」
バレちゃいますよ、と耳元で囁いて、そのまま耳を食んでくるのは、山崎の弱点が耳と知っていてのことだろう。
「…ッ、〜ッ」
耳から首筋、鎖骨、と降りてくる舌に耐えながら、何とかその頭を押しのけるように手を添えるも、力も入らないそれは意味をなさない。そうして焦らすようにうろうろとしていた舌先が、待ちわびていたそこを押し潰すようにゆっくりと嬲る。
「ひゃあッ!?」
思わず口をついて声が出た途端、
「ぐ、かは…ッ」
喉仏の下辺りをぐい、と掴まれた。
「僕は声を出すなと言ったんですよ」
比較的小柄とは言え相手もバスケ選手なのだ、握力はそれなりにある。片手で掴まれていると言えど、圧迫感が顔を歪めていく。その表情に少しだけ満足したのか赤司はにやり、と笑って、
「次また声出したりなんかしたら…」
耳から滑りこむ低音が、ぞくぞくと背筋をなぞっていく。そのまま耳朶を嬲って中へ入り込む舌に、これでもかと言う程唇を噛む。
「殺しますよ」
ああ、それでも、彼好みに調教され切った身体はそれすら快感と捉えてしまうのだから情けない。
「大丈夫です」
耳元で囁く声。
「ちゃんと、気持ち良くしてあげますから」
その声に逆らえないだなんて、期待してしまう程には絆されかけているなんて、
「だから、黙っていてくださいね」
言うことなど、赦されないのだから。



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山崎弘は赤司に強引に抱き寄せられ、「声だすなって言ったよな? 次また声をだしたらころすよ」と言われます。

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何を運命と呼ぼう 青若

 眩しい光に薄っすらと目を開ける。開け放たれた窓で、カーテンがゆらゆら揺れながら外の空気を取り込んでいた。朝だ。そう思いながら瞼を少しだけ擦る。隣は既にもう空っぽで、キッチンの方から何やら物音と、美味しそうな香りがしていた。
「…ん」
身体を起こせば窓の外の小鳥の声まで聞こえた。良いところだ、そう思いながら伸びをする。朝のからりとした空気に混じって漂ってくる、バター、ジャムの甘い香り、パンの焼ける音。慣れ始めたこの土地の味にはまだ程遠く日本に近いそれ。繋がりが途絶えていないことの証明のようで心が疼く。
 強引に連れてきてしまったのは青峰の我が侭だ。きっと優しいあの人はそんなことないと否定するのだろうけれど、言葉もロクに通じないようなこの異国の地に知り合いは青峰一人、なんていう状況にしてしまったのは、紛れも無い青峰の所為だ。
 ベッドから降りて洗面所へ向かう。顔を洗って間抜け面をしていないことを確認してから顔を拭いた。
「…よし」
水道から出る日本とは違う水質のそれにももう慣れた。着実に、此処が第二の故郷となっていっている。あの人も、それを幸せだと、感じてくれたのなら。
 ダイニングに足を踏み入れる。金に近い色素の薄い髪が、朝陽にきらめいて、ああ、綺麗だ。ふと、運命という言葉が過ぎった。高校時代も思ったが、自分が存外ロマンチストなのかもしれない。それを指摘したのはあの幼馴染だったか。中学時代のチームメイトに影響を受けたところはまぁ、あるのだろう。運命。良い響きだと思った。抗えない、それでいて希望に塗れている、唯一のもの。
 「若松サン」
「おー起きたか、青峰」
振り向いてニカッと笑顔を向けたその人がこんなにも愛おしいのが、運命でないのなら。



廿楽さんお誕生日献上品

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さよならは言わない 今諏佐

 「桜はなんで散ってしまうんやろなぁ」
珍しく今吉がロマンチストめいたことを言っていると、ツッコんだ方が良かったのだろうか。諏佐は横目で隣の男を見やってから、ん、と生返事をした。
「なん、諏佐、聞いとる?」
「聞いてる」
「ならなんで答えてくれないん」
「…独り言じゃなかったのか」
自分で言うのも何だが、諏佐にロマンチストじみた性質は備わっていない。それを言うのなら今吉だってそうなのだが。春の陽気で少し浮き立っているのか、それとも別れの季節ということでセンチメンタルになっているのか。いつもよりもふわふわしているように感じる。んーと意味のない音を紡ぎながら、諏佐は考えてみる。
 桜は何故散ってしまうのか。
 自然の摂理だと言ったところでこの男は納得しないだろう。そんなことが分からなくて問うているのではないのだ。桜が散るのは自然の摂理、そう分かった上で、ポエミックなお花畑回答を求めている。少しでも夢を見ていたいと、軋む心で叫ぶように。
「…また咲くためじゃないか」
捻り出した答えは、自分でもありきたりすぎるだろ、と思った。
「次にまた咲くために、何度でも美しい花をつけるために、散るんじゃないか」
その身を賭してでも、愛していると伝えたいから。
 「…なんや、諏佐もそないなロマンチックなこと言えんのやな」
「喧嘩売ってんのか」
「まさかぁ」
そうか、と今吉が桜を見上げる。桃色に色付いたその花は、もうひらひらと舞っていって、その下から緑が顔を出している。
「…満足したか」
「…あぁ」
「じゃあそろそろオレは行くな」
「おん」
立ち上がる。もう出ないと電車の時間に間に合わない。
 大丈夫だ、心の中でだけ呟く。例え茨城と京都、遠く離れようとも。
 必ず、春は巡ってくる。



わんこさんリクエスト
#指定されたキャラでほのぼのSS書く

諏佐さんつくば、今吉さん京都のイメージ

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20130411
20130412
20130424
20130426
20130606
20150518