高校卒業おめでとう モブ花

 「おじさんは絶望のドン底だよ」
小汚い油ぎった彼は悲しそうに頭を撫でる。先ほどまで人の使い古した鞄を踏みつけていたのと同一人物だとは思えない。
「君は法律が許す年齢になってしまったんだよ」
 それはそれは悲しそうな顔だった。それを見て、やっと自分は用済みになったことを知った。



おじさん、絶望の、法律
ライトレ

***

嘘吐きたちの卒業式 今花

 卒業するのだと言う。
 そんなことは言われずとも分かっている。普通に学校に通っていれば、三年経てば卒業というものはやってくる。避けられない、もの。きっと、避けようとも思わないこと。
「やからな、花宮、今日で終わりや」
何がだ、と口に出して突っかからなかったのは周りに人がいたからだ。此処でこの本性を見抜いたのはこの妖怪だけで、花宮真というのは卒業する先輩を涙ながらに見送る、そういう立ち位置にいる生徒だったのだから。花束を渡して、高校でも頑張ってくださいね、なんて。先輩と一緒にバスケが出来て嬉しかったです、そんな心にもないことを。
 唇を噛む。
―――バッカじゃねぇの。
言わずとも、伝わっていると思っていた。そういう人間だった。もしかしたら言わせようと、そんな悪趣味なことでも考えてるかとも思ったけれど、そういう訳でもないらしい。本当に、腹が立つ。
 立ち去ろうとする背中が小さくなり始めて、やっと花宮はだっと駆け出した。同級生が驚いたように声を上げるのも構わず、ただ走る。見えているその背中はすぐだった。そのまま飛び蹴りを食らわす。他の人間にはあとでてきとうな言い訳でもしておけば良いだろう。感極まったとか、そういう。頭の良い人間のやることはわからないと、きっと勝手に理解してくれるはずだから。
「一回しか言わねえぞ」
襟首を掴みあげて、その耳元に唇を寄せて。
 囁いた言葉が、花宮からの卒業祝いだった。



image song「Keyword」9mm Parabellum Bullet

***

七割 花宮

 寒い冬の日だった。木枯らしなんてものがふよふよと吹いている、いかにも、という日。やたらと学校帰りのコンビニの光が誘惑を強めていた。肉まん、あんまん。並ぶ言葉の中に混ざる、30%OFF。決して花宮の財布は寂しくなんかない。今日のように木枯らし吹く有り様になどなっていない。しかし、それでも。人はお得感に弱く出来ている。
 ぴんぴろりん、入店の音が鳴った。安っぽい油の香りが、すんと鼻腔を刺激した。



花宮、寄り道

***

世界でふたりきり 花山

*幼馴染設定

 「お前だけいれば良い」
その言葉がどれだけ残酷なものだったのか、きっと花宮は知らないだろう。切欠が何だったのか山崎には分からない。ただただこの幼馴染の思考は山崎にはとんと理解の及ばないもので、けれども説明してくれる気もないことを、それでもどうしても山崎と一緒にいたいらしいということを、山崎はちゃんと理解していた。
 だから、彼には到底及ばない頭を一生懸命に働かせて、山崎は言う。
「…お前が他を大切にしたところで、オレは消えねぇよ」
「………知ってる」
どうやらアタリだったらしい。転校生と山崎が仲良くしていたのが気に入らなかったのだろう。別に、花宮がそれについてウジウジと言うことはしないし、山崎に対して誰それと仲良くするな、と言うことはしないけれど。
「知ってるなら、良いだろ」
「…そう、だな」
「良くないと思ってんだな」
「そう、だけど」
歯切れの悪い花宮を見られるというのはきっと、幼馴染である山崎に許された特権だろう。
「オレは、いなくならない」
繰り返す。
「オレはお前だけ、なんてかっこ良いこと言えないけど、お前のそばにいるよ」
ずっと。
 だから、この手は離さないでいて。



あみだ

***

「アタリです」 今黒

 「今吉さんって思いの外馬鹿ですよね」
ずずっといつものその甘ったるい飲み物を啜りながら、仮にも付き合っている後輩はそんな可愛くないことを言う。
「馬鹿ってなんや。ワシなぁ、関西住みが長かったもんやからアホは許せても馬鹿は許せんのや」
「…ええと、なんでしたっけそれ。コロちゃん」
「ケロちゃんや」
「そうそれ」
コロスケとまざってんちゃうか、と言えばそうかもしれませんね、と返される。興味のなさそうな返事。自分でふったくせに。
「対戦したときは、この上なくこわいひとだと思ったんですが」
ねえ、と彼は今吉を見つめる。
「今、ボクの考えてること、分かりますか」
本当に、意地が悪い。
 今吉はそう思いながら、当てずっぽうで答える。
「キス、して欲しい=v
 ゆるり、と描かれた弧に、今吉はええ、と声を上げた。



あみだ

***

 「あ」
先に声を発したのはどちらか。あまりに憎々しげな視線に、花宮は思わず唇が歪むのを感じた。

かみひとえ。 花リコ

 休日、本屋。欲しい本があって少し遠くまで足を伸ばしてみたら、思わぬ収穫があった。相田リコ、誠凛バスケ部監督。
「花宮真…」
苦々しく呟かれた名前。大分嫌われているようだ。それ相応のことをした自覚はあるから今更気にもしないが。大切なチームメイトの膝を故意に壊した。そして、彼からバスケをし続けるという未来を奪った。恨まれるには充分だろう。
「木吉のこと、まだ根に持ってんのか?」
そんな当たり前のことを聞いてみる。思わず、と言ったように手が出た。が、届く前にいとも簡単に受け止める。握った手首は思っていたよりも細くて、ベンチではあれだけ強く見えるこいつも女なのだと感じさせられた。
「おお、怖」
下から向かってくる視線はそれだけで人を殺せそうで、唇は怒りでも耐えているのかわなわなと震えている。歓喜に背筋が粟立つのを感じた。こうだ、こうでなくては。
「…私は…貴方を絶対に赦さないわ」
ふは、と笑いが漏れる。
「それは有難いね」
例えそれが憎悪だとしても、その心に居場所を作れるのなら。灼けつくような感情を、植え付けられるのなら。
 今はそれだけで構わない。

***

弓の音は春を鬻ぐ 今山・花山

*花宮くんと山崎くんが幼馴染で今吉先輩と同じ関東圏の中学校に通っている設定

 「…何、やってんですか…主将…」
山崎が自主練を終えて更衣室に戻ると、そこには信じ難い光景が広がっていた。椅子に縛り付けられて身動きの取れなくなっている花宮。そしてそれをしたであろう人物、主将・今吉。
「何って、なぁ。楽しいこと?」
この場面を見られたことを何ら気にしてないかのように今吉は笑う。楽しいこと、それが示す状況はこの場合いくつか考えられるが、花宮にとっては楽しいことにはならないだろうとは予想出来た。
「同意じゃないっすよね…?」
「そうや、って言ったら山崎はどうするん?」
細い瞳が眼鏡の向こうから、こちらを舐めるように眺めている。同意じゃないならば、止めさせたいと思う。が、今吉を自分如きが止められるだろうかという不安はあった。持ち前の頭の良さで言葉を駆使して人を丸め込む。それが出来るからこそ一癖も二癖もある部員を要するこの部活で、主将を務められているのだ。
「君が代わりに相手してくれるんか?」
代替案とはまた、嫌な手を使う。
 その言葉に、今まで黙っていた花宮が声を上げた。
「てめ…ッ最初からそれが目的だったな!? 弘! こんな奴の言うこと気にすんな、今すぐ帰れ!!」
ひどく、荒れた声。
「花宮には聞いとらんで。ワシは山崎に聞いとるんや」
ひたひたと今吉は距離を縮め、山崎の顎に手を掛ける。絡んだ視線の先に色の灯った瞳を見て、今吉の言う楽しいことの方向性を掴んだ。
「…まぁ、何も見なかったことにして帰るのもアリや。花宮もああ言ってることやし」
すぅ、と血の気が引いていく音がした。逃げ道を示されているようで、それは全く逃げ道ではない。
「どうする?」
「弘、帰れ…頼むから…」
懇願するような花宮の声が、右から左へ抜けて行った。大切な幼馴染がこんなことになっていて、言われた通り帰れる奴なんていないだろう。自分を落ち着けるように、山崎は息を吐く。花宮は最初からそれが目的だったのだと言った。それでも山崎は構わなかった。自分の所為で、大切な幼馴染をひどい目には合わせたくない。
「…分かりました」
ニィ、と目の前の唇が歪むのが見えた。
「弘…ッ」
「ごめん、真」
謝罪は接吻けに飲まれた。



ヤマ呼び発覚前

***

「ちゅーしよ。」 諏佐桃

*男前桃井ちゃんと乙男諏佐さん

 どうしてこうなった。諏佐佳典は頭を抱えたかった。
 諏佐は自主練習を終えた後、着替えて日誌を書いていた。お先に失礼します、と後輩たちが出て行くのを横目で見送ってペンを進める。全員が出て行ってしまってから、もう少しで書き終わる―――そんな時。
 ばたん。扉の開く重い音がして、
「諏佐さん?」
「桃井?」
思いもよらない人物が入ってきた。
 ぱちり、ぱちり。
 自分の瞬く音が聞こえるようだった。それからはっと我にかえって笑ってみせる。
「誰もいないかもしれないからって、女の子が男子更衣室に入って来たらだめだろ」
「いえ、誰かいるって、分かってました」
「じゃあ、尚更、」
「諏佐さんがいるって、分かってました」
ずい、と距離が縮まる。椅子に座っている諏佐は、逃げられない。
 そして、冒頭に戻る。
 目の前には桃井の顔。鼻と鼻がくっつきそうな距離ではあるが、あからさまに避けるのもどうかと思うし、そもそも諏佐は椅子に座っている状態で、うまいこと身体を逸らすのにも限界がある。
「もも、い?」
「私だって、女子高生なんです。人並みに、恋もするし、見返り求めないなんて出来ない」
まるで―――まるで。
 それでは桃井が自分に恋でもしているかのような言い草じゃないか。
 いや、そんな訳ない。だってこの可愛らしいマネージャーは誠凛の黒子に恋をしていたではないか。
「…それは、黒子に直接言ってやれ」
「とっくにフラれています」
返って来た言葉は間髪入れず。諏佐は唖然とする。それは、一体。
 そういえば、最近桃井の口から彼の名を聞いていないことを思い出した。
「ねぇ、諏佐さん、」



(スイッチが入ると敬語が崩れる桃井ちゃん)
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***

悪い大人の甘え方 原諏佐

 一滴、二滴。スポイトで水の張られたコップに移されるそれを諏佐はじっと見ていた。小さな小瓶に装飾はなく、入っているものの名前を示すラベルもない。
「監督」
「はい」
「それが何か聞いても?」
「そうですね、媚薬とでも言っておきましょうか」
「え」
「とても良く効く薬なんですよ」
ことり、と小瓶が横に置かれた。何処か切なげな瞳が諏佐に向けられる。
「嘘にしろ真実にしろ、君次第です」
その言葉を受けて諏佐はコップを持ち上げた。ゆるく弛んだ唇を尻目にその中身を飲み干す。
 予想通り、飲み慣れたカルキ臭い東京の水道水の味がした。



5RTで140字SS

***

かくれる場所はもうないよ 諏佐桃

 眼鏡の奥の瞳を楽しそうに細め、
「桐皇男子バスケ部第一回隠れん鬼ごっこ大会〜!」
どんどんぱふぱふ、今吉がそう宣言した時から嫌な予感はしていた。
 ルール、制限時間、範囲などなど必要事項を一気に喋った今吉が、
「あ、勿論捕まった奴には罰ゲームやからな?」
と部員たちを恐怖の坩堝落としいれ(だって相手はあの今吉だ)(どんなえげつない罰ゲームが下されるかなんて考えたくもない)、
「鬼はワシや。ほんで捕まった奴は体育館に戻って言い渡された罰ゲームな。五分待ったる、精々足掻きぃ」
なんて魔王も真っ青な面で言うものだから、部員たちは脱兎の如く逃げ出した。
 が、相手はあの今吉なのだ。妖怪サトリなのだ。耐性のない平部員たちはどんどん捕まっていくのを諏佐は少し高いところから見ていた。隠れん鬼ごっこなのだから隠れるのはルール違反ではないが、こうして見ていると申し訳なくなってくる。だからと言ってほいほいと出て行くつもりもないが。今吉のことだ、数の減った後半はまず確実に鬼ごっこオンリーになる。今吉に振り回されて三年目の諏佐は、ため息を吐きながらそう考えていた。
 かくして、諏佐の予想は大当たりすることとなる。
 姑息とも言える手によって次々に部員たちが陥落していくのを横目に、諏佐も必死に走っていた。遠く後ろだが、今吉が追って来ている。此処で隠れようものなら妖怪サトリの力によって暴き出され、デッドエンドになる未来しかやって来ないだろう。逃げ切るしか道はないのだ。
 そんなことを思いながら走っていると、誰かにぶつかった。
「わ、悪い!」
「…ッ、諏佐さん?」
 ぶつかった相手は見覚えのある桃色の少女で、そういえばマネージャーも参加なーと今吉が言っていたな、と思い出す。マネージャーとはいえ女の子をこんな鬼畜な遊びに巻き込むのはどうかと思うが。
「桃井か。ッ今吉が追って来てる…逃げるぞ!」
振り向いた視界の端にうっすらと移った人影に、咄嗟に桃井の腕を掴んだ。
 「すまん…隠れる場所があれば、そこに桃井だけでも隠すんだが…」
最初に制限時間とされた四時まで残り十五分。逃げ切れるか、と問われれば微妙な時間だ。桃井だけでも今吉の魔の手から救いたいところだが、あの腹黒眼鏡を欺けるような隠れ場所なんて存在するのだろうか、いやない(反語)。
 悩む諏佐をじっと見ていた桃井が、何か決意したように諏佐に向き直った。
「いいえ、このままで大丈夫です。逃げましょう」
するり、と繋がれる手。驚いたがすぐに決意して、自分より一回りも、もしかしたら二回りも小さなその手を、痛くないようにきゅ、と握る。
「…後悔、するなよ?」
「しませんよ! 此処まで来たら運命共同体です、必ず勝ちましょう」
「ああ」
二人、笑い合った。

 残り十分。屋上で諏佐と桃井は、鬼である今吉と対峙していた。
「諏佐ァ、桃井ィ。お前らが最後なんや…大人しく捕まり!」
その役に相応しく鬼のような形相をした今吉が叫ぶ。
「断る!」
「お断りです!」
諏佐と桃井が手を繋いだままそう返し、反転して走り出した。その先にはフェンスしかない。それを今吉は知っているようで、にやりと笑い終わりやな! と叫ぶ―――が、桃井は知っていた。この先にフェンスを飛び越えて飛び移れる場所があることを。それを今吉が知らないことを。そのタイムロスは、逃げる時間を稼ぐのには充分なことを。
「行きますよ諏佐さんが!」
「ああ、スカート押さえとけよ!」
そうして二人、まるでアクション映画のようにフェンスを乗り越え、今吉の位置からは死角になっていただろう場所へと飛び移る。一瞬だけ視界の端に、呆けた顔をした今吉が映った。

 そういう訳で後日、学園中を手を繋いだまま走り回った所為で、桐皇公認カップルという認識まで広まった二人だった。
 が。
「さつきと諏佐サンとうとうくっついたんだって?」
珍しく練習に顔出した青峰がそう問えば、
「大ちゃん何言ってるの? くっついてなんかないよ?」
「そうだぞ青峰。何でそんな勘違いしたんだ?」
きょとん、とした顔をする二人。データをまとめたノートを覗き込んで話し合ってる最中だったようで、その光景はあまり珍しいものではなかったが、如何せん距離が非常に近い。しかし、特に誤魔化しているような様子もなく、本当にどうしてそんなこと聞かれるのか、分からないという顔だ。
「…あれで付き合うてないとか、嘘やろ」
「流石に嘘っすよね…」
「ボクにはお互いに好きだと思っているのさえ、認識していないように見えますスイマセン…」
 どうやら桐皇バスケ部にカップル誕生となるのは、まだもう少し先の話になりそうだ。



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