愛する人と結ばれてこその人生 今諏佐

 慣れ親しんだ香りが鼻孔を擽る。
「なぁ、すさ」
彼の作り上げたそれを舌の上で転がすように楽しんでから、小さな声で今吉は呼びかけた。
「うちに、来ん?」
 最初はその技術が、次第にその人自身が。喉が渇くように欲しくなって。
 だけれども諏佐はいつもと同じように笑うだけだった。少し悲しそうな顔で、やんわりと断りの言葉を吐く。
「…そう、か」
 諏佐にとっても条件の良い話で、今吉自身とて嫌われていないと自負している。それでも、断られるのはきっと、諏佐の中での問題なのだろう。
「…ま、何度断られても諦めはせぇへんけど」
一口、飲み込んだ濃紫の液体は、すうっと喉へと染みこんでいった。



image song「歓びと哀しみの葡萄酒」Sound Horizon

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RESET 今花(R18)

 花宮真の記憶は保たない。
「はーなみや、」
無理せんと別に次の機会でも良えんよ、とにやにやと笑ってみせたらすごい顔で睨まれた。
「バッカじゃないですか、ここまできてやめろとか拷問でしょう」
ずち、ずち、と粘膜のこすれあう音が本能を刺激しているのか、その目は情欲に蕩けきっていて威力はない。
「アンタも、そうでしょ?」
ね、と頬に触れる指が回数を追うごとに優しくなっていることを花宮は知らない。
 知れない。
 「こんな、の、一回きりなんですから。オレの味、忘れないでください、ね」
それでも尚偉そうに主導権を握ろうとするのだから、腹が立ってその腰を掴んだ。その瞬間深くはまった場所が良かったのか仰け反って嬌声を上げる。
 どうせ、忘れてしまうくせに。



forえのさん

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どこにいても気にしてる 黛葉

 キィ、と古い部室の扉が軋む音が顔を上げる。見覚えのある薄く伸ばしたはちみつみたいな色をした頭が、きょろきょろと部室内を見回していた。
「………なんだ」
もう慣れたと言わんばかりに黛は声をあげる。
 その声にはっとしたようにこちらへと視線が定まって、少しだけそいつは嬉しそうな顔をした。それに対して面倒だという気持ちを隠さずに見つめ返すと、途端にむっとされる。
「オレに気にされんのがイヤならその存在感どうにかしてよ」
とんだ言いがかりだ、とは思うが言葉にはしない。
「オレだって黛サンがそんなどこにいるんだか分かんないような存在感してなきゃ、こんなに気にしたりしないよ」
苛々と吐かれた言葉に、あれ、と思ったが葉山は更に続けた。
「授業中も三年が体育してるの見ると黛サン探しちゃうし、食堂とか行ってもいないかな、って思っちゃうし、部室なんて尚更だし。いないってなると気分落ち込むし、もうなんていうか最悪。だから黛サンがもっと存在感出せば良いし。そしたらオレすぐに黛サンのこと見付けられるのに」
「………お前それさぁ」
存在感がもしあれば赤司なんぞに目を付けられることはなかったので、そもそもこいつとこうしてしゃべっているこの現在がなかった気がするのだが、まあそれはさておき。
「告白、みたいだ」
 自分が何を言ったのか理解した葉山が顔を真っ赤にしてアワアワし始めて、それを可愛いな、なんて思うのが数秒後の話。扉の向こうで他の部員たちがにまにまと慈愛の表情を呈しているのを見付けて、葉山が追いかけていくのは数分後の話となる。



診断メーカー

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贅沢は味方! 花原

 嘘みたいにきれいな人間がこの世にいるなんて、信じられなかった。ちょっと微笑んでやれば、ちょっと触れてやれば、ころっと騙されるように好意を寄せてくるこの世界で、そんなものに惑わされない人間がいるなんて、原は知らなかった。
 近付いてみて、こんなに尽くしても、一向に振り向きもしない存在が、こんなに尊いことなんて。
 「ねーはなみや」
こどものような声で呼ぶ。
「オレのこと、ちゃーんと捕まえてて、よね」
 きっと、手を離されたら二度と会えないから。



image song「キラーチューン」東京事変

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どんな時もきっとそばにいるから 葉実

 空がきらきらと光るような日だった。
 「れお姉!」
誰よりも愛おしいその名を呼ぶ。呼ばれたその人も嬉しそうに、青空の下に降り立って、こちらの伸ばした手を取った。そのままくるくると回れば、まるでダンスでもしているみたいだ。
「すきだよ」
大切なことを話すように、一文字ひともじに心を込めて発音する。
「だいすき」
「アタシも、」
きれいな形の唇がそっと、花でも開くみたいに告げた。
「アタシも、だいすきよ、小太郎」
幸福の言葉。
 それだけで、これからも生きていけるような気がした。



image song「たしかなこと」小田和正

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どうしたら振り向いてくれる? 今桜

 さくらい、と呼ぶ。おどおど、とその頭は振り返る。ミルクティーのような色。この間諏佐が飲んでいたな、と思い出したら無性に腹が立った。諏佐が今呼んだ後輩と同じような色をした飲み物を飲んでいたことに、何も悪いことなどないが、それでも。
 悪い、と心の中で謝る。恐らくこの高校で得た親友はそれを赦してくれるだろう。だから心の中でだけ殴られといてくれ。あとで現実の拳を受け止めるから。
 意外とこの後輩を可愛がっているらしい諏佐に、確実に、確実に怒られるだろうことを思いながらも、それでも。
 その手を引いて、接吻ける。
「さくらい」
甘い、甘い、声で呼ぶ。
「ワシ、お前のこと、好きなんやわ」

 だから、どうか。
 逃げないで。



診断メーカー

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12月24日の悲観的推測 今+諏佐

 試合に敗け、三年生だけで夕食を食べに行ってきた帰り。今吉と諏佐は寮までの道をゆっくりと歩んでいた。はぁ、と今吉がため息を吐く。
「明日髪切り行こかなと思ったんやけど、美容師さんに変なこと聞かれるんやろな…」
「変なこと?」
「今夜はデートですかぁ? て」
にやにやと笑う美容師が想像出来る。何故かその美容師が青峰だったことは気にしない。
「正直に否定するにも辛いし、嘘吐いて乗り切るのも辛いしなぁ」
ひくひくと鏡越しに今吉の口角がひくつくのを、尚もにやにやと眺める青峰。性格悪いな、お前も。勝手な想像で青峰に要らぬ評価を下す諏佐。
「いっそのこと鋏奪って美容師さんを殺めてまうのが一番やないかって」
諏佐の頭の中で美容師な青峰が鋏で今吉にぶっ刺された。悲鳴はあぎゃー! だ。ドンマイ、青峰。お前が今吉なんかからかうから悪いんだ。全く悪くない青峰に責任をなすりつけつつ、諏佐は今吉に声を掛ける。
「明日は大人しく勉強しようぜ」
「…そうやな、それが良えな」
こうして恋人たちの一大イベントであるクリスマスは、野郎のみでやる勉強会へと姿を変えたのであった。



くずめもbotより

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カタコト。 早劉

 日本人にもいろいろといることを既に劉は知っていた。母国にだって舌っ足らずな人間というものは存在するのだし、別にそれをどう思うこともなかったのだが。
「ゆー、良い香いすう」
「ゆーって何アル。我は劉アルよ」
「ゆー」
「りゅ・う」
恋人に自分の名を呼んでもらえないとなると、少しそれは違ってくる。もういっそ偉の方で呼んでもらえば良いのかもしれなかったが、それを言い出すには劉にはまだ勇気が足りなかった。俯瞰的な思考をしている自覚のある劉も、一応まだ高校生である。恥ずかしいという気持ちはある。それが可愛らしい恋人に対しての思いであれば尚の事。
「ゆーは何であうあう言うんだ?」
「あうあうって何アルか」
「それ」
「アルのことアルか!」
話が通じないことだって出てくる。
 そもそも劉はまだこの国の言葉に不慣れだ。これはきっと同じ日本人でも苦労するだろう。
「劉」
「ゆう」
「りゅ・う」
「ゆ・う」
「りゅ」
「ゆ」
どうにも駄目らしい。はぁ、とため息。
「…だめ、言えない」
そう困ったように眉を下げてみせた恋人は、本当は落ち着いていればラ行もちゃんと言えるのだと言った。
「だかあ、むい」
「何故アルか」
それは、劉といると落ち着かない、ということになるのではないか。
 そう、落ち込んだ時。
「だって、ゆーというと、どきどきしてとまあない」
そんな可愛らしいことを言われて、お詫びのように抱き付かれれば。
 劉のラ行も吹き飛びそうだった。



あみだ

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 目の前には可愛らしいパンケーキ。更にその向こうにはそれに目をきらきらさせている恋人。
「いただきますっ!」
勢い良く手を合わせたその様子を、可愛らしいとその言葉以外で表現する術を降旗は知らなかった。

午後三時のカフェテラス 降桜

 ものすごく似合うなあ、というのは正直な感想である。可愛らしいカフェテラスにはそれに良く似合う女の子たちが友達同士やカップルで来ていて、こうして付き合っていると言えど男同士で来ているのはどうやら降旗と桜井だけらしい。
 そりゃそうだよなあ、と思う。男だけでは来るのには少し尻込みするくらいに、ファンシーな店内だ。幾ら美味しいと言われてもこうして誘われなければ来ることはなかっただろう。そんなふうにパンケーキにも手をつけずに、キョロキョロしていたからだろうか。
「降旗サンは、こういうとこ、嫌いですか…?」
不安げに瞳を揺らせて、こちらを伺ってくる桜井。
 慌てて声を上げる。
「そんなことないよっ!」
店内の視線が降旗に集まった。すみませんっと声を上げてナイフとフォークを握り直す。
「あんまり、来ないところだから…ちょっと緊張してただけ」
さくり、パンケーキに沈んでいくナイフ。
「でも、桜井と一緒だから」
たのしいよ、と笑ってから切り分けたパンケーキを口にする。
 口内に広がる甘さが、目の前の桜井の笑顔でもっと強くなったような気がした。



あみだ

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最後まで瞬く悪い夢 高緑

 忘れないで、忘れないで、忘れないで。頭のてっぺんからつま先まで、じわじわと染み出してくる感情。それが、爆発したのは。
「…オレは、高尾。お前のことが…恋愛感情として、好きだ」
馬鹿真面目な相棒が、そんなトチ狂ったことを言った時。
 これだ、これだ、歓喜の声が上がる。じわりじわり、胸が満たされていく。じゃあさ、と上がった声は明るかった。
「真ちゃんが俺のところまで来れたら、考えてあげるよ」
笑ってみせる。そうしてその高い位置にある頬を包み込むようにして引き寄せる。
 ばちばちと、その瞼の裏に悪夢を植え付けるようにその唇を貪った。
「出来る、でしょう?」
眼鏡の向こうの瞳が、ひどく驚いた形に歪んでいた。おいで、おいで、おちておいで。呼ぶ、呼ぶ、踊りだすことなど出来ないから、その分まで歓喜を吐き出すように。
「たか、お」
 ひく、と震えた唇の端を眺めながら、何処か満足した気分だった。



image song「けもの道」cocco

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20141106
20141204
20141225
20150708 編集