貴方の傍は少しばかり冷たいのです。 瀬火

 つれなくこっちを向いた背中に、抱きつくようにして布団に潜り込んだ。
「てめ、入ってくんな!」
背中越しに荒れる声に、たしなめるように額をつける。怒鳴るわりには抵抗らしい抵抗をしないよね、と思いつつも、流石にこの場面で口にすることはしない。そんなことを言ったら蹴落とされるにきまっている。
「しないから」
「そういう問題じゃねえ!」
腰から回した手でその向こうの掌を掴む。
「これだけでいーよ」
後の言葉はおやすみ、で全部殺して。
 暖かさに身を委ねたら夢までおちるのはあっという間だった。



「手だけつないで」
診断メーカー

***

毎晩の妄想デート 赤月

 目を閉じると浮かぶ光景がある。心の奥底に潜む、願望が映されたもの。その人の手を引いていろいろなところへ行って、いつも最後には、
「海が見たい」
そうやってそれは終わる。所詮自分の妄想なのだから次の時は海へと連れて行ってやれば良いものを、何故かそうは出来なくて。
 今日も駄目だったな。海が見たいんだと、そう言ったその人を最後に、ふつりとその妄想を消した。何処となく悪戯っ子の笑みで、その人はいつも言う。最近はその顔に少しずつ翳りが出て来たように思える。妄想の中ですら行きたいところに連れて行ってやれない、自分の不甲斐なさでも映しているのか。
 だから、現実でその人に偶然ばったり出会った時、取る行動は一つだった。
 「良かったら、海に行きませんか」
手を差し伸べる。驚いて見開かれる瞳。けれども其処に驚きはあれども嫌悪の情がないことに、ひどくほっとした。
 おずおずと取られた手の温かさに驚くまで、あと数十秒。



(貴方も同じだったとしたら、それはどんな幸せだろう)
診断メーカー

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けもののくびわ 黒赤

 食らいつかれる、そう思った。瞬時に身体を奔って行ったのは恐怖だとか怯えだとかそういうものよりも、もっとずっと歓喜という方が近かった。
 この日を、何度夢見たことだろう。
 手からこぼれていった水が二度と戻らないように、姿を消した黒子が手元に戻ってくることはなくて。何度、後悔しただろう。
―――おまえのことが、だいすき、なんだ。
 そんな幼い声で叫べば良かったとでも言うのか。そうしたら、まだ、此処にいた、とでも?
 だから敵として目の前に立たれた時、必ず倒すと言われた時、頬が緩むのを抑えられなかった。夢が徐々に現実に近付いてくることに、浮き立つ気持ちがこんこんと湧いてきた。
 このまま食いちぎってくれ、そう思う。例え敵として相対しようと、伸ばした手をきっと振り払いはしない、そういう人間なのだと、誰よりも赤司が良く知っていた。



旧拍手

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コール・コール・コール! よしかず

 昼寝から覚めたら携帯がちかちかと光っていた。まだ寝ぼける頭で拾い上げる。
諏佐佳典
 見慣れた名前にゆるり、と頬が緩むのを感じた。履歴を見てみればそれは一時間も前のことだったけれども、確実に彼が原のためだけに使った時間というものを示していて。留守電メッセージサービスを利用していない原の携帯を、どれだけ鳴らしていたかも見える訳で。
 そのまま決定ボタンを押すと、折り返されるコール。
「すーさーさんっ」
二コールもしないうちに出た相手を喜悦でもってして呼ぶ。
 この時だけ、この時だけは。自分のことだけを考えていてくれるのだと、自惚れる自分を抑えることなど出来なかった。



旧拍手

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きみといるから 古花

*古橋・原・山崎が幼馴染設定

 「お前がこういうの得意とかちょっと意外なんだけど」
「…そうか?」
かちゃかちゃと操作をしながら古橋は花宮の言葉に首を傾げた。小さな画面の中で花宮と古橋の操作するキャラクターが、その身体より大きなモンスターに攻撃を加えていく。
「あ、飛んだ」
「旋回か」
銀色の大きな翼をはためかせ、ぐるぐると空を飛び始める。
「………持つのは遅かったが、」
思い出すのは公園の休憩所。
「原と山崎はいつも貸してくれたからな」
 直射日光の当たらないところ、でも明るいところを探して、三人で画面を覗きこんだあの日。順番ね、と言ってゲーム機を持たない古橋を除け者にすることなく、自分のそれを貸し与えた二人の幼馴染。子供の頃の思い出としては少々不健康気味ではあるが、楽しいものがあるのならそちらへ流れるのは普通のことだ。
 降りてきたモンスターに更に攻撃を加え続ける。
「もうそろそろ捕獲出来るだろ」
「罠持って来たのか」
「麻酔弾もばっちりだ」
「………お前、」
―――わらうんだな。
 そんなことを言いながら古橋の慣れた罠作業から目を離した花宮に、古橋は今更何を、と言った。



あみだ

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策略戦術的オトメ。………乙女? 氷諏佐

 諏佐佳典は焦っていた。
「ひ、氷室」
「何です?」
「えっと、その、この体勢は…一体…」
ひょんな切欠で知り合って、どうしてか付き合うことになった一つ下の恋人が、諏佐の部屋に遊びに来たという、そんな在り来りな話のはずだった。
 床を背にしている諏佐にその両手首を固定して、腹の上に座るようにして覆いかぶさっている氷室。どう贔屓目に見ても押し倒している、の状況にほかならない。
「押し倒してます」
「いや、それは分かる」
言葉にされなくても分かる。現実から目を逸らしたいのも勿論あったが、そういうことを聞きたいんじゃない。
「何でこうなっている」
 別に、上下問題でもめるつもりは毛頭ない。付き合うことになったその時に、オレ、ヨシノリさんなら抱けます。というか抱きたいです≠ネんて言葉にされてしまえば、更にはダメですか?≠ネんて上目遣いをされればその時既に氷室に陥落していた諏佐としては頷かざるを得ない訳で。
 けれどもそれは、今すぐ、という話ではなかったはずだ。その旨を問うて見ると、そう、なんですけど、と氷室は口を開いた。
「情けないけど………焦ったんです。オレは、頭も良くないし、男だし。ヨシノリさんに言い寄ってくる可愛い子なんて、たくさんいるでしょう」
その台詞、そっくりそのまま返したい。諏佐はそう思う。
「だから既成事実作っちゃおうかなって」
星の舞いそうな笑顔でそんなことを言われても。その笑顔にくらりとしてしまうのだから諏佐も相当だろうか。
「………氷室」
「はい」
「あのな、」
 胸が煩い。
「その、オレはだな、別にいやだという訳じゃないんだが…」
「はい」
「もう少し、心の準備がしたい」
「じゃあ、もう少し待ちます」
そうは言うけれども、氷室が諏佐の上から退く気配はない。
「氷室、」
「諏佐さんの心の準備が整うまで、オレ、待ちます」
此処で。
 絶対に譲らないというように付け足されてしまえば、諏佐にはもう打つ手がなかった。



あみだ

***

雨の日の出逢いの理由を教えて 青諏佐

 犬みたいだ、と、そう思った。
 ざあざあと音が邪魔をする視界の中、傘で半分になった世界にぽつり、きらきら光る色ひとつ。恨みだとか妬みだとか、正直ないと言ったら嘘になるけれど。
「…あおみね」
抑えて呼んだ名前は掠れていて、それでも届いたらしい。
「…諏佐サン」
くたり、人でも殺せそうな視線は弱まって、ただ所在なさそうに装ってみせた。
 ん、と傘をさしかけてやる。反対側の肩が雨に晒されたけれども、さっさと帰れば良い話だ。
「…なんでアンタ、いっつも来てくれんの」
そう問う青峰の言葉通り、こんなふうに雨ざらしの青峰に傘をさしかけるのは初めてのことではない。
「さあ」
「さあって」
「知らねーよ、お前が俺の前に現れるのが悪い」
「悪りぃって、別に、俺は嫌じゃねえけど」
「じゃあそれこそ別にどうしてだって良いだろ」
 互いの名前も知らなかった、そんな時に。帰るところも何もかも失ったみたいな顔で、それこそ捨てられた犬のように。
 何故、そんなところにいたのか。何故、一人でいたのか。何故、そんな目をしていたのか。何故、そんなに濡れていたのか。
 同じチームに所属するようになった今、その理由に検討はついているけれども。一度も聞くことが出来ないでいるのは。
「…臆病、ってこのことなんだろうな」
「なんか言った?」
「なんにも」



旧拍手

***

どんな流行のラブソングよりも貴方の言葉が欲しい 黛葉

 びゅうびゅうと風の吹きすさぶ屋上。いつものようにさっさと昼食を食べ終わってラノベに没頭する黛を、いつものように眺めてその日も終わる。
 はずだった。
 「なぁ、葉山」
「なーに、黛サン」
「俺、風になれたら真っ先にお前のとこまで吹いてってやるよ」
似合わぬ物言いにきょとん、と目を見張らせる。
「鳥になれたら、お前のとこまで飛んでってやるよ」
尚も続けられた言葉に、徐々にそれは絶句と言った感じに変わっていった。
 満足したように口を噤んだ黛がドヤ顔でこちらを見てくる。
「…黛サン」
「何だよ。惚れ直したか?」
「ううん。クサすぎて笑うにのも戸惑っちゃってんの」
突然、一体全体なんなの、と口を尖らせてみれば、駄目か、と返された。
「いや、ちょうど主人公がヒロインに流行りのラブソング歌ってやるシーンだったから。それで、こないだ聞いた歌のフレーズが浮かんできたから」
やってみた、と本に視線を戻す黛に呆れの表情しか出来ない。
「ねぇ、黛サン」
それがどんな歌なのか、どれだけ人気なのか、どんな人がどんな思いを込めて歌っているのか、知らないけれど。
「オレ、人の歌に代弁させるの、カッコ悪いと思うなあ」



旧拍手

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STRAIGHT 虹灰

 ずくり、と胸の辺りへと真っ直ぐに、突き刺さる心地がしていた。色のない、ただ純真に進むことだけを目的としているような、そんな視線は灰崎の胸に飛び込んで、そこで炭酸水のようにとけていく。
 眩しい、と。そんなことは同級生の彼らにも、思ったことがなかったのに。
 目を逸らす。見つめていたら潰れてしまう、そう思っていた。それが目なのか胸なのかは、分からなかったが。



image song「レーザービーム」Perfume

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ぐるぐる 赤黛

 電気を消してベッドに転がり、目を、閉じる。決まりきったその行動が引き金になって、ゆるゆると眠気がのぼってきた。何も問題はない、問題はない。ないはずなのに。
 眠る直前、ふわりと無意識の闇に浮き上がったのは、やはり同じ顔だった。
 何も問題はない、そう自分に言い聞かせる。実際、浮かんできたからと言ってそれが睡眠が阻害される訳でもないのだ。寝た気分は削がれるけれども、身体は充分な休眠をとっている。何も問題はない、そのはずなのに。
 かき消すように目を開ける。真っ暗な天井は、何を言うこともしなかった。



image song「悪いクスリ」9mm Parabellum Bullet

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20140606
20140709
20141106
20150708 編集