パスワードは愛の言葉 今桜

 普段バスケ部の更衣室として使われている部室で、桜井は固まっていた。視線の先には衣類が落ちている。ただの衣類ではない、下着である。強豪である桐皇の練習量はとても多く、それに比例してかく汗の量も半端ではない。練習の合間に下着まで変えるのも、珍しいことではない。問題は、それに非常に見覚えがあるということだ。
「…これ、キャプテンの、だよね…」
ぽつんと自分だけが残る部室で、誰に言うでもなく呟く。所謂恋人である今吉の下着など、飽きる程見ている、見間違えるはずなどない。というか、
「こんなの…他の人が履いてる訳、ない、か…」
少し前話題になった拡張子パンツ。黒地に白で堂々と「.zip」と書いてあるそれはお世辞にも趣味が良いとは言えない代物である。こんなもの(と言ったら失礼だが)を好き好んで履く人間が、同じ部活内に二人もいるなんてしたら、それはちょっと嫌だ。
 どうせ夜に会うのだ、その時に渡してしまおう。そう思って拾い上げて、再度ため息を吐いたその時。
「あれ、桜井、まだ残ってたんか」
「え、キャプテン!?」
音もなく開いた扉から、今吉が現れた。
「合鍵渡してあるんやから、先に行っとけて―――」
ふいに今吉の言葉が止まる。何事かと視線を辿れば、
「…あ」
自分の手の中に。
 「それ、ワシのやんな?」
あ、やっぱりそうなのか。
「で、桜井はだーれもいない部室で、恋人のパンツ握りしめて、何してたん?」
「なっ」
にやり、と歪んだ今吉の表情とは反対に、途端に余裕なく赧顔した桜井を後ろから包み込む。
「やーらしいなァ」
ゼロ距離でくっついている所為で、くつくつと喉が震えているのが分かる。桜井はと言えば落ちていたのだと弁解することもできず、ただ大人しくその腕の中に収まっているだけだった。
「鍵付きのzipやで?桜井にしか開けられへんやろなァ」
耳に吹き込まれた甘い息に、この人には敵わない、と痺れゆく脳の片隅で思った。



偶然、相手の下着を発見した時どうするかについて語りましょう。

***

心の中で予行演習 高緑

 これだからフランス映画は。それは偏見だろうが高尾は気付かれないように息を吐き出した。命の危機に晒されながら逃げる二人が深いキスをしてベッドに倒れ込むのを見て、あっちゃーと思ったのは事実である。一人で見ているならまだしも、隣には緑間がいるのだ。きれいなきれいな高尾の相棒様は、こういうものに耐性がないように思える。そしてそれは恐らく間違いではない。ちらり、と見やれば可哀想な程あかく染まった耳が見えた。あーあ。
「…真ちゃん」
小さな呼びかけにもびくりと肩が揺れる。
「ごめんね、こういうの苦手だよね。ちょっとリサーチ足りなかった」
チャンネル変えよ、とリモコンに手を伸ばして―――その手は止められる。
「真ちゃん?」
「大丈夫、なのだよ」
大丈夫じゃない声出してそんなこと言うんじゃないよ。
「高尾、お前はオレを見くびりすぎなのだよ」
いやいや見くびってなんかねーよ、っていうかこんなもんで見くびるとかねーから。
「お前とも、そのうちこういうことをするのだろう」
って、え?
「だから、これは言わば試練なのだよ。ならば、オレは乗り越えてみせる」
なになになに何言ってくれちゃってんのこの天使は!
「―――〜ッ」
慌てて顔を逸らす。
 熟れたトマトみたいな顔で、そんな殺し文句、狡すぎる!!



2人でテレビを見ていて気まずいシーンになった時、どうなるかについて語りましょう。

***

積み木遊び 紫黒

 紫原は保健室に向かっていた。廊下を早足で通り過ぎる紫原にすれ違う生徒がふり返るけれど、そんなこと気にしていられない。がらり、とドアを開け保健室に入る。先生はいないようだ。一つだけ閉まっているカーテンを乱暴に開けると、見慣れた水色が目に入った。
「黒ちん」
「…むらさきばらくん?」
「風邪、ひいたんだって?」
「はい…」
「体調管理も出来ないとかー」
「返す言葉もありません…」
見下ろした先の黒子はいつもよりも小さく見えた。自分が何もしなくても、勝手に潰れていってしまいそうな。
「オレがおんぶして帰るから」
勝手に帰ったら捻り潰すからね、と物騒な言葉に黒子は微笑む。
「迷惑掛けてしまってすみません」
「迷惑じゃねーし…」
それが不器用な優しさなのだと、黒子はちゃんと分かっている。だから、微笑んだ。



どちらかが風邪をひいてダウンした時の2人について語りましょう。

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正しくはまらないパズルのピース 木花

 漸く自覚に至ったその想いを告げれば、花宮は信じられない、というように目を見開いた。でもすぐさまきゅ、と眉根を寄せて、
「あァ、嫌がらせか」
なんて吐き捨てる。
「これ以上の嫌がらせ、ないもんな」
「そうなのか?」
首を傾げる。オレに告白されるのがこれ以上ない嫌がらせ、イコール、
「オレのこと嫌いか?」
ばっと視線が逸らされる。当たり前だろバァカ、とでも返って来ると思ったのに、それもない。
「花宮」
声をかければ肩がびくりと揺れる。あ、耳が真っ赤だ。
「…オレのこと、恨んでる、だろ」
やっとのことで絞り出したらしい声は震えていた。
「許せないだろ」
「うん、まぁ、許せないけど」
膝を壊されたことは許せない。この怪我の所為でこの先バスケは出来ないのだろうから。でも、それでも。
「それでも、好きなんだよな」
「…馬鹿じゃなねーの」
「馬鹿で良いよ」
お前がその穴を埋めてくれるなら、それでも良いよ。



告白したときの2人の様子について語りましょう。

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悪童の憂い 花桜

 「う、ん…」
自分の膝を枕代わりに擦り寄ってくる男に、花宮はわざとらしいため息を吐いた。
「桜井」
「はにゃみやさん」
「言えてねーから」
鼻をつまんでやればふがふが言うものの、そこから離れようとはしない。
「こういうの、誰にでもしてんじゃねーだろーな」
「やりま、せんよう…」
「特にあの妖怪サトリ眼鏡とかの前では間違ってもすんじゃねーぞ」
「今吉サンのことですか? それ…」
「分かってんじゃねーか」
ぽん、と頭に手を置く。
「こんなお前見て良いのはオレだけなんだよ」
ふはっと笑って言い放てば、にへら、という緩んだ笑みが返って来た。…心配すぎる。



2人きりでお酒を飲み、どちらかが酔いつぶれてしまった時の2人について語りましょう。

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黒子くんの恋人 今黒

 「くろこーくろこー」
小さな、でも聞き覚えのありすぎる声に振り向けば、
「…どうしてこうなった」
まさに手乗りサイズになった今吉翔一が黒子テツヤを見上げていた。
 「それがワシにもよう分からんねん。気付いたからこうなっててなー」
なんと呑気な。
「戻る方法も分からんし、とりあえず黒子ンとこ居ようおもてなー」
はぁ、と黒子はため息をついて今吉を拾い上げる。
「そうですね…」
こうも小さいと何かと巻き込まれてしまいそうで怖い。
「元に戻るまでよろしゅうなー」
「はいはい」
一波乱ありそうだなぁ、なんていう黒子の嫌な予感は、当たってしまうのかそうでないのか。



相手がポッケに入るくらい小さくなってしまった時の2人について語りましょう。

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知らないふりをすればする程喉は渇いて 花諏佐(R18)

 「ん、む…う、」
「声出せよ、諏佐さん」
ぎちり、と結合部分から音がする。
「だ、れが…ッ」
相も変わらず抵抗をやめない諏佐に、花宮は感心していた。唯一敵わないと言っていい人物の、大切にしている人間。だから奪ってしまおうと思った。矜持から何からズタズタに切り裂いてぐちゃぐちゃになったこの人を、あの妖怪の目の前に放り出して、泣き叫ぶ姿を、もしくは壊れてしまう姿を拝んでやろうと思っていたのに。
「む、だッ…だよ、」
どれだけ激しく犯そうともこの人は折れない。花宮に虐用されたそこは、もうこの先ただの排泄器官には戻れないだろうに。それを理解出来る聡明さを持っているのに、この人は濁らない。
「オレは…屈し、ない。だからッ…今吉に、お前は、届かない」
脳内に朱が奔ったような衝撃だった。返答の代わりに、力任せに腰を打ち付ける。さすがにそれ以上は憎まれ口も向かって来ず、後には苦しそうな呻きが残るだけだった。
 ああ、どうして。泥に塗れる蓮の花のようなこの人に、自分を見て欲しいなどと思うのだろう。



辞書ゲーム「虐用」

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周波数 火黒

 練習が終わって真っ暗になった道を歩くのに、特に会話は起こらない。時折思い出したようにコンビニやマジバに立ち寄る。それが火神と黒子の日常だった。
「火神くんは、ボクの考えてることが分かるんですか」
ある日いつものように立ち寄ったマジバで黒子が唐突に呟いた。ずごごごご、というシェイクを啜る音が途切れたのはその一瞬だけで、またその音は戻る。
「いや、分かんねぇけど」
山のようなチーズバーガーを貪るのを一旦止めて答えた。
「いえ、本当は分かっているんでしょう?」
「全く分からん。何で突然そんな話になったんだよ」
首を傾げて問えば、黒子もまた首を傾げている。
「…おかしいですね…。いつも言葉を交わさなくても寄りたい場所に寄っているので、そうなんだとばかり…」
その言葉に火神は少し目を見開く。火神は火神で黒子が自分の寄りたいと思うのを、感じ取ってくれているものだと思っていたからだ。双方相手を感じ取ろうとしていないのに、同じものを欲する。そんな偶然があるのだろうか。不思議に首を捻り掛けた火神はあ、と思い出した。この黒子との状況をぴったり言い表す言葉を見たことがある。
「あー…えーと、なんだ。アレだろ、アレ」
自他共に認めるバスケしか詰まっていない頭で考える。
「えーと…あ、そう、周波数」
日本に来たばかりの頃、立ち読みした漫画。
「オレとお前は周波数がぴったりなんだよ、きっと」
ふい、と目を逸らした黒子に火神は何かまずいことを言ったのか、と不安になる。
「…火神くん、時々ものすごく恥ずかしいです」
「てめ、」
「でも、嬉しいです」
瞬間、ほわり、と花の咲いたような笑顔を見て、今度は火神が目を逸らした。胸の辺りがぶわっと疼く。
「周波数、ずっと合わせててくださいね」
「…たりめーだろ」
こつん、とあわせた拳から、芯まで温まるようだった。



辞書ゲーム「立ち寄る」

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僕の居場所 今諏佐

 諏佐佳典は甘い男だ。それは高校三年間を傍で過ごそうとしている今吉が言うのだから間違いない。そして、その甘さに気付いているのは今吉だけではない。クラスメイトも部活の後輩たちも、揃いも揃ってこの甘ったるい男を手に入れようと躍起になっている。今吉も例外ではなかった。甘ったるく居心地の好い諏佐を誰かにおいそれとやるつもりはなく、また方々から狙われていることを本人に教えてやるつもりもなかった。
「諏佐はワシだけ見てればええねん」
首に纏わりつく。こうしたことが出来るのも、今吉が他より先に諏佐の甘さに気付いていたからに他ならない。畢竟は子供の考えだったのだ。自分だけが知っていた秘密基地を、後から来た人間に奪われたくないというような。
「はいはい、そうするよ」
いくら甘いと言っても諏佐にも優先順位というものはある。ならば揺ぎ無い一位になってやればいいだけの話だ、今は。他のことを考えられなくするのは、後からでも遅くない。ゆっくり消していけば良い。
「ワシも諏佐のことしか見てへんからなぁ」
鼻にかかるような声も何もかも飲み込んでくれる諏佐が愛おしくて仕方ない。
 秘密基地、というにはあまりにそこは脆い城で、最後の砦だった。今吉翔一という男が、全身全霊を賭けて、それこそ世界中の自分と諏佐以外の人物を厭魅することになったとしても、守らなければならない居場所。依存よりも深い、一種の世界だった。



辞書ゲーム「厭魅」

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正しい依存症 花桜

 その眸に浮かぶ怯えが、限りなく表面的であると気付いたのは、いつのことだっただろう。最初に会った時―――今吉が試合会場で話しかけて来て、彼が後ろにいたその時は、何ともうざったい奴、とくらいにしか思わなかった。次の印象は馬鹿な奴、だったはずだ。試合会場で見かけて、あの時の奴だと気付いた。青峰にあの時のように謝りまくって、でもひょこひょこと後ろをついていく姿が、馬鹿らしいと。力に屈することに快感を覚えるタイプなのかもしれないと思った。その次は更に馬鹿な奴。青峰にヘコヘコしているだけなのかと思ったら、集団行動を外れようとするのを諌めていたり。所謂勇者だったのだ、彼は。馬鹿としか思えないが。遠くから見るその表情には怯えがありありと浮かんでいて、そんなに怖いのならしなきゃ良いのに、とさえ思った。そして―――ああ、この時だ。偶然だろう、ふと立ち寄った本屋で見つけてしまった後ろ姿。初めて間近で見詰めた眸の、その怯えが薄っぺらなものだと気付いてしまった。頭をがつん、と殴られたような感覚だった。恨み、つらみ、怯え、不快感。悪意に類するであろうそれらを向けられることに慣れてはいたものの、それを隠れ蓑に自分をただ真っ直ぐ見つめてくる人間は初めて見た。真っ向からぶつかってくる天然野郎なら知っているが。相手との間合いをとるのに、そういうものを使う。つまり、それはすべて嘘だ。
 こいつは、きばをむかない。
 はっきりと見えてしまったビジョン。手を伸ばせ、と何処かで声がした。それは鬼門だ、と諌める声もした。けれど、あまりに甘美なそれに、手を付けないなんて出来る訳がない。
 出湯を掘り当てる夢を見たら、そこに行かずにはおれないように。
 「良」
短く呼ぶと、なんですか、とやわらかい声が返って来る。
「お前は何処にも行くなよ」
「…真さんでもそういうこと言うんですね」
ふわり、と笑って、何処にも行きませんよ、と頭を預けてくる。
 ああ、本当に、手放せない。



辞書ゲーム「出湯」
(絶対安全の居場所が欲しい花宮くん)

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20121027
20121105
20121113