私が恋をしてはいけないことぐらい、わかってたはずなのに (本当の事は知られないように) 広鴎

 いつだって、その手が伸びてくるまで待たねばならない。その意図を、裏を、考えてはいけない。ただ従順な犬のように、純真な子供のように、その甘えとも言える無防備さを甘受する。
「広津くん」
「…なんですか首領(ボス)」
ひそめる息で返事をした。
 何が可笑しいのか、しなだれかかる彼はくつくつとその喉を震わせる。
「広津くんは、真面目で良い子だけれども、ときどき馬鹿なんだね」
「それは、申し訳ありません」
「謝って欲しい訳じゃないよ」
馬鹿な子もきらいな訳じゃないからね、とまた笑う彼に、また。
 呼吸の仕方を身体に教え込むように、深く、息を吸った。



青色狂気

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君だけ幸福ならそれで 太乱

 僕の目の前でそんなことをするとは良い度胸だね。その声に顔を上げてみれば見慣れた先輩がそこに立っていて、ああ今日はついていなかったな、とそのフェンスから手を離した。
「良いのかい?」
「乱歩さんに見つかってしまっては、そういう日ではなかったのだと諦めるしかないでしょう」
へらり、と笑ってみせると懸命だね、と近付いてくる。
 一歩、二歩。
 元々なかったような距離はすぐに縮まって、その小さな手が伸ばされた。
「太宰は賢い子だね」
まぁ僕には敵わないだろうけれど。そう付け足される言葉もいつもどおりで。
 なんだか胸の辺りがくすぐったいきもちになって、そのまま目を閉じた。



ぽつぽつ

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先なんて知らない(Mango Tango) 森梶

 もしも僕が本当の本当に真理に到達してしまったらどうしますか、と床に転がったまま青年は言う。子供のような顔に、人殺しの目を乗せて、言う。
「それは、君にとって私が宇宙大元帥でなくなったら、と捉えて良いのかな」
「それは違いますが、まあ、それでも良いです」
「ふふ、君は素直だね」
 そう言われても喜ばないことを知っているけれども言いたくなって、予想通りに嬉しくはないですよ、と釘を刺された。



エフェメラ @ephemera_odai

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食べ物を粗末にしていはいけないよ 太乱

 カップラーメンの麺がのびている。と、いうのは未だ起こっていない事柄であった。未来予知ではない。そんなものは詐欺師にでも任せておけば良い。
「でも、其れは起こることなんでしょう?」
「当たり前だろう、僕は名探偵だよ?」
「どうしてか聞いても?」
「直ぐに分かるよ」
 きりきりとどうやったって死にそうにもなく笑う男が同僚に依って連れ出され、主を失ったカップラーメンだけが残されるまであと三十秒。



https://twitter.com/72tone/status/553157196339359744

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たった一人の僕の探偵へ 福+乱

 もう、と口を開く。
「お前には守ってくれる人間がいるだろう、生命を賭け金にしてはいけないという言葉の意味もしっかり分かっている。お前はもう子供じゃあない、私が守らねばならない存在ではない」
ずっとそうであれば良いと思っていたが、そうもいかないようだ。
 彼は泣くことをしなかった。そんなことは教えなかった。



ゆきち先生は 「もうあの日々に戻りたいなんて言うのはやめるよ だから 君との未来を願うのも 今日で終わりにしなきゃね」とゆっくりと眼を伏せ絞り出した声で言いました。
http://shindanmaker.com/537086

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誰も欲しくない 福+乱

*今吉さんはほぼ無自覚
*諏佐さんも無自覚

 青天の霹靂。そんな言葉がきっと似合いだ。降って湧いた少年は人の人生を掻き乱し、気付けば自分すらあるのを知らなかった庇護欲なんてものを表面まで引っ張り上げた。
 ひとりで生きるのが正しいことだと思っていた、闇に染まらぬ程度に、暗がりを歩くのが正しいことなのだと。
 息の止め方が分からなかった。求められてもいない助けに応えたかった。



http://shindanmaker.com/375517

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言えるわけがない 福+乱

 あれはまさに非であった―――真面目なその人がそう思ったことを、幼さが信じ込んでしまった故にその残酷な嘘を撤回することが出来なくなっているのだと、もうとっくの昔に成長した賢い頭脳は見抜いていた。天才に分からないことはない、覚えられないことはあるけれど。例えば電車の乗り方だとか、そういうものはどうしても、駄目だけれども。
 でも、でもね、と思う。
「あのね社長、子供は大人になるんだよ」
 それでも天才的な唇は閉ざされたまま。



http://shindanmaker.com/375517
(だってそれは僕の罪を認めることになるじゃないか!)(天才は、天才的な探偵は、人助けをしなければならないのだ!)(悪になってはいけないのだ!)(だって、そう教えられたのだから!!)

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わが腕は既に無用の有(もの)に似たり 太中

 どうにもこの人間はまるでふわふわと一人降りしきる雪のようで、けれども消えてしまいそうだなんて言うことすら馬鹿馬鹿しいような包帯野郎であっていつだって死ぬことを望んでいて早く死ねと思うのに、それはかねてからの願いを叶えてやることになる訳で。
 大嫌いだと。そんな言葉じゃあ足りなかった。この世のどの言葉をもってしても、きっとこの感情は表せられなかった。それでも、ああ、それでも。
「汝」
この背中を任せられるのはこいつしか、このひどく目障りなこいつしかいないのだ。
「陰鬱なる汚濁の許容を―――」
 きっとそんなことは出来ないのに、それを分かっているのに、きっと生き残ったらこんなことを言うのだ。今から用意しておく。

 「手前を信用して…『汚濁』まで使ったんだ…ちゃんと俺を、拠点まで…送り届けろよ………」



ask
明日どこで目を覚ましたいですか?

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 広鴎

 何か盗んだことある?
 ゆったりとした口調はまるで一般人のそれで、けれどもその人が一般人でないことを広津は誰よりもよく知っていて。
「盗み、ですか」
「うん」
「貴方の命とあらば何でも盗んで来る手足ならば多くいるでしょう」
「違うよ広津くん。私が言いたいのはそういうことじゃあない」
要領を得ない。
 なんだろう、と思う。この人はこんなにも回りくどい言い方をするような人間だったか。いつだって合理的なやり方でこの街を愛している、その人が不明瞭な言い方をするのは、何の前兆か。
「…君は、無自覚なんだね」
「はあ…?」
「そうか、なら良いんだ。広津くん」
「なんでしょう」
じっと、昏い瞳が広津を覗き込んでくる。
「私は、君を手放してやる気はないからね」
「…私も、貴方を裏切る気はありませんよ」
「うん、よろしい」
結局、彼が何を言いたいのか、最後までは分からなかった。
 分からなかったがきっと広津がこの人の合理性に意を唱えることはないので、分からないままでも良い気がした。分かってはいけない気もした。



ask

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所有の印を残してよ 福乱

 ねえ、と笑う。だってこんなこと、どうしてこの人が、立派な大人のこの人が尻込みするのか、まったく分からないから。
「するならしようよ」
ことの重大さがわかっていない訳ではない。それこそ懇切丁寧に、教えてもらった。メリットもデメリットもちゃんとわかった上で、しようと言っているのだ。それも、負担の多い乱歩の側から。そうでもしないとこの人は端正な顔立ちに情欲を隠してしまって、このまま何も変わらない。
「お祝い、ってことで良いじゃん」
ねえ社長?
 本当はずっともっと前に言えば良かったのを、本当はもっとうまく丸め込める術を知っているのを、全部我慢して妥協で最後の判断をあげているのだから、はやく、頷いて欲しいのに。



覚悟ならとっくに決めた さあ早くキズモノにして責任とって / 栞

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20140920 20150623