恋い焦がれたぬくもりに包まれて


 夢のようだった。
 そもそも前世や生まれ変わり、なんてものが突飛なものであることは理解していたし、ランバネインとてこんな広い世界の中、たった一人を見つけるなんてことは難しいと思っていたし。それがまるで運命のように目の前に現れたのだから、夢、と言う以外に何が出来るだろう。
 夢、夢だった。
 その夢は、今、ランバネインの手の中にある。
「ランバネイン」
「どうした?」
「ちょっと苦しいよ」
力緩めて、と言われてそのとおりにすると、いい子だね、と言われた。前世でもよくされた言い方だった。
「先生」
「なあに」
「幸せだ」
「僕も幸せだよ」
このまま死んでも良い、なんて。
 多分言ったら怒られることだと、流石にランバネインでも理解はしていたから。



睡郷 @suikyou_odai

出来得る限り手を伸ばして


 いやだ、という声は喉で押しつぶされたように聞こえた。けれども確かにランバネインには聞こえたのだった。だから、すい、と身体を起こす。
「らんば、ねいん、くん?」
「…少し、水を飲んで来る。先生も飲んだ方が良い。グラスを持ってくるから待っていてくれ」
「え? う、うん…」
困ったようにベッドに取り残されるその人の、甘い余韻を漂わせる声に思うところがなかった訳ではないけれど、流石に理性が働いた。蛇口をひねる。金属部分に触れると冷たくて気持ちが良い。
 本当はこのまま水をかぶって頭を冷やしたかったけれど、それをしてしまえば不審な行動として映るだろうから。背後でがさごそ、と音がする。所作が全体的に大雑把なその人の音だと、考えなくても分かる。
「ねえ、ランバネインくん」
すぐ後ろまで近付いてきたその人が少し、困ったままの声で呼ぶ。
「何だ、先生」
「もしかしてだけど、」
 息を吸い込む口も、その先にある胸も。ランバネインとは比べ物にならないくらいに小さいのに。
「僕が嫌だって口走ったから?」
「………だって、嫌なんだろう」
「うん、まあ、嫌だけどね」
嘘を吐いたつもりはないよ、という言葉はやっと、笑みの気配がした。
 手が伸びてくる。
「全部が、ってことじゃあないよ」
先程嫌なことをしただろうランバネインに、その人は優しく触れてくる。
「だからこうやって放置される方が寂しいんだけど、ランバネインくんは違うの?」
水の、音が。
 止む。
「先生の、」
「うん」
「嫌なことはしたくないんだ」
「うん」
「本当に」
「分かってるよ」
君のそういう優しさのこと、僕は誇りに思うよ。
 前世ではついぞ言われなかった言葉が、今世では随分多くランバネインに降り注ぐから。
「さっきのは嫌だったけど、ランバネインくんとセックスするの、別に嫌じゃないからね」
「………うん」
「それはそれとしてお水は取ろうか」
「うん」
「僕の分くれるかい?」
「勿論」
 この幸福を、ただひたすらに大切にしようと、そんなことを思う。