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海と首輪のない兎


 殴ったらその身体は簡単に床に転がった。服を破り取って下着も剥ぎ取って。嫌だ、と涙を流すその人が本当に前世では月島軍曹であった人なのかと疑問にも思ったが、確かにそうであったのだ。これは思い込みなどではない、運命が脳髄を焼き尽くすような感覚に、尾形は止まる理由など見つけられなかった。
 前世での筋肉がすべてやわらかな肉にでもなったのか、月島の身体は何処も彼処もやわらかかった。それは女であるとか、そういうことは別にして、その記号を強調するのに充分すぎるやわらかさを湛えていた。なかなか悩ましい身体である。これに触れた人間がいるかもしれない、と思うだけで腹立たしい。力加減もせずに鷲掴みにすると、か細い悲鳴のようなものが上がった。
 何処か、嬌声に似た声。
 笑みが浮かぶのも仕方のないことだろう。
「ハハァ、アンタにそういう趣味があったとは存じあげませんでしたなあ!」
感覚を狂わせるようにキスをして、その合間に胸に触れていく。指先が沈むような肉の中に、確実な快楽を教え込んでいく。
「まあでも分からんでもないですよ。前のアンタはひどく強いひとでしたから、これくらいの痛みなど快楽にだってなったでしょう。そう考えるとアンタは何も可笑しくなんかないですよね、こうなっていることすら真面だと思います。ですが、ええ、俺のようにものの分かる人間が相手でなければアンタはただのマゾヒストであることを、アンタだって分かっているはずだ…」
反論をしようとした唇を再び奪ってやる。次から次へと落ちる涙がもう、こうなってしまっては面白いものにしか思えない。最初に与えた痛みが尾を引いているのか、するり、と手を胸から腰へおろしていっても抵抗はなかった。弱々しく嫌だ、と聞こえたくらいで。
「なるほど嫌よ嫌よも好きのうちとはよく言ったものですが、アンタの場合、自分はちゃんと抵抗をしているのだと、そういう暗示を自分にかけてやらなければなかなか楽しめないものであると…。そうであるのであれば、次は拘束具でも何でも選んでやりますよ。アンタに似合うのは何色でしょうなあ」
ついでに耳に舌をねじ込みながら必死に閉じられる膝頭に割り込んでいく。
 くち、と。
 確かに音がした。
 その感覚が分からない人間ではなかったらしい、月島が顔を更に青くする。はは、と笑って尾形は指を更に進ませた。びくり、と身体が逃げるように揺れたが、そんなもので逃げられるのであれば世界に強姦なんて事件は存在しない。ぬるり、と濡れた感覚。指でそれを掬い取って、月島の目の前で見せてやる。
「分かりますよね、軍曹殿。ちゃんと濡れてる。アンタが俺のことを求めてる証拠だ」
女の身体には防御機能が備わっているので、例え強姦だろうと刺激があれば濡れるようになっていると尾形だってそれくらいは知っているのだが、今はそんな一般常識は邪魔なだけなので無視することにした。今はそうではなくても、そのうちにそうなれば良い。なら最初からこう言っておくのが良いに決まっている。
 指の間で糸を引く液体から、月島は逃避するように目を閉じた。
「ちゃんと見てくださいよ」
「う、ぅ―――っ」
「ほら、」
強引に指を口にねじ込むと、自分の味が分かるのか月島が眉間に皺を寄せる。その様子ですら悩ましげに見えてしまうのだから、もう尾形はだめなのだろう。指を戻してやっておざなりにナカをなぞる。奥からじわじわと溢れるものが、掻き出されるように床へと落ちたのを見たら充分だった。性急にベルトを外す。
 喉を震わせて逃げようとする月島の腰を掴む。
「ゃ、やだっ」
「ほら、軍曹殿。息吐いて」
「やだ、おがた、それだけは―――ッ、あ…いた、ぃたい…っ、う、やだ、おがた、ぬいて、」
「そんなこと言って、気持ちいいくせに」
「いたい、ほんと、だから…っ、ぃ、う、うごかない、で…ッ」
悲鳴は嘘ではないようだった。ちらちらと、赤い色が見える。
 それでも尾形は動きを止めない。腰を掴んだまま、ハハ、と笑う。ぐちゃ、ぬちゃ、とひどい音が立っているのは月島の耳にだって届いているだろうに。
「ずっとそうであったのならそうと早く言ってくだすったら良かったのに」
顔を隠すようにして嫌だ、痛い、と繰り返すその声は、水音に消えていく。涙の奥に、どうしようもなく引きずり出された快楽が、身を守るために立ちはだかっているのが分かる。
「気持ちいいでしょう、軍曹殿」
「あ、ァ…っ」
「知ってます? 人間ってイきそうになると身体の末端に力が入るそうですよ」
「ち、ちが…ッ、う、ぃた…っ、あ…アッ…、」
責めるように腰を推し進める。身体の奥底を直接叩くような動きに、墜落するように月島からは力が抜けていく。
「あ…、あ………」
「…は、軍曹殿。気持ちよかったですよね?」
「う…っ、う…」
「はは、そんなに泣かないでくださいよ」
次はゆっくりしますから、と涙を拭ってやる。思考がもうついてこなかったのか、月島はうつろに尾形を見上げるばかりだ。
「俺は、」
だから、呟く。
「愛せるようになりましたよ」
 余韻に突き放されたような月島を、今度は出来得る限りの丁寧さで引き上げる。
「軍曹殿」
触れて、撫でて。言葉をかける。
「愛せるようになりましたから、もう何処へも行かないでくださいね」
 キスをもう一度したら、再び涙が溢れた。
 珠のようなそれを、今度は余さず舐め取った。



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