終電も始発もない


 電車、終わっちゃいましたね、と言った時には別にそんな下心はなかった、と断言出来る。そもそも前世の記憶があるからと言って別に、その前世とやらと今の尾形は別人であるのだし、それが分からないほど物分りは悪くないし。
 直接問うたことなどなくても、月島に記憶がないのなんて見ていれば分かった。尾形だってそれが分かっていて、詰め寄ろうという気にはなれない。例えそれが前世で身体を重ねたことがある相手なのだとしても、前世は前世、今世は今世と区切りをつけていた。
 つけられている、はずだった。
 安っぽいホテルに身体を押し込む。お前がベッドで寝ろよ、なんてそんな遣り取り。それがどうしてこんなことになったのか。汗の匂いとベッドの軋む音。混ざっていく呻きのような嬌声。掠れたそれに痛みがあるのだろうと察することは出来るが、それでも止まってやることは出来なかった。
 こんなにも、自分は。
 堪え性のない人間だっただろうか。前世の狙撃手が聞いて呆れる。どうして、という声が聞こえる。その言葉に、本当この人記憶がないんだな、と思ったらとてつもなく嫌な気分になった。うるさい唇はキスで塞いで、適度に痛みやら何やらを与えて主導権を握ってやる。そうなってしまえばあとは前と一緒だった。何もかも―――何も、かも。いいところも、反応も、尾形の知っている月島のものなのに。
「軍曹殿、」
尾形の下で困惑しながら涙を流す月島は、尾形のことを知らないし、尾形だって涙を流すような月島のことなんて知らない。
 苛立ちにまかせて尻臀(しりたぶ)を叩く。その痛みすら快感に変わるのだろう、背中に浮き上がった筋がよりいっそう見えやすくなる。
「ハハ、」
笑みは、乾いたものにはならなかった。
「ナカだけでイッてんですか。ちゃんと覚えてるじゃあないですか…っク、そんな、欲しがんないでくださいよ…ッ」
もう押さえつけることもなかった。好きなだけ奥をついてやろうと体勢はとっくに変わっている。まるで獣のようだな、と思った。まさしく交尾と言った様子で、月島が喘ぐのを聞いている。
「ちゃんと射精(だ)してやりますから」
 最初はちゃんとつけていたはずだったけれど、と思う。別に避妊具がなくなった訳ではないけれど、もう何をつけるのも邪魔だった。ナカが独立した生き物のように尾形を欲しがる。前へ、前へと逃げようとする月島は枕に阻害されて上手く逃げられずに、身体がたまって腰が上がる。
「軍曹殿ォ」
そんなに欲しいですか、と背骨を指で辿ってやるだけで身体は強請(ねだ)るように揺れた。熱く、蕩けるように絡みついてくることを、月島は理解しているのだろうか。今も尚、この反応のすべては尾形の所為であると、そんなことを願っているのではないだろうか。
「好きなだけくれてやりますから」
 キスマークではつきそうにないから歯を立ててやると、また力が抜けていくのが分かる。尾形から与えられるすべてが快感に変換されていることが、尾形だけの所為とは言えないだろうに。
「もう、忘れないでくださいね」
覚えてもいない人間に言う言葉ではなかったが、こうなってしまったらもう手放してなどやれないのだから、これで良かった。



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