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残酷な神様の演技がしたい



 尾形がこんなヘマをするなんて珍しいなあ、と思う。鶴見中尉のお気に入りでなんか変なことをやってるんだろう、というのはなんとなく察していたけれど、まさか薬を盛られて来るなんて。しかも、見れば分かるほどに媚薬の類だったのだろうなあ、と思う。一体、何の悪さをしているのやら。それを聞くような豪胆さは僕にはないけれど。
「尾形」
「―――、」
密やかに、僕の名前が呼ばれる。此処に来たのはどうやらちゃんと尾形の意思らしい。
「どうにかして良いんですね?」
 一瞬迷ったような空白を挟むくらいなら、来なければ良かったのに。



 尾形の体力、というか精神力は僕のところまで来たことでぶっつりと切れてしまったらしく、時折掠れた喘ぎ声を漏らすだけで殆ど動かなかった。薬を盛られているとは言え、何も前戯をしないのも面白くない。今なら性感も倍増なのだろうな、と思いながらも培った知識で尾形を追い詰めていく。
 いつもより、身体が熱い。
 筋肉ダルマ、とは言わずとも結構な筋力を持つ尾形が熱いのはいつものことだったが、今回はいつもの比ではなかった。薬が入っているのだから当たり前だ。はやく、と尾形は何度も言った。言ったけれども僕は無視した。その都度、それらしい理由を取ってつけて。いつもの尾形だったら僕に乗っかるくらいしてみせたのかもしれないが、この状態ではそれも出来ないようだ。こんな機会を逃すなんて勿体ない。
 丁寧に、丁寧に。
 元々僕はそういうのが好きだった。焦らして、焦らして。相手が懇願してきても言葉巧みに交わしては追い詰められたところで一気に落とす。そういうのが趣味だった。ねちっこいというのは否定しないし、これで遊郭を出禁になったこともあるので、最近はそれなりに大人しくしていたのだけれど。飛んで火に入る夏の虫、ただの暇潰しで始めたこの関係で、こんなにも尾形のことを可愛いと思うなんて、思ってもいなかった。
「あつい?」
問う。たぶん、という弱々しい声が返ってくる。触れる場所触れる場所、すべてを性感帯にするように、丁寧に行為を進めていく。
「はやく、」
尾形が急かす度に指をうずめた中がきゅう、と啼いた。迷子のこどもが親の手にしがみつくみたいだ。これはこれで可愛らしいな、とは思うけれども、もっといけるはずだ、と思う。だから僕は、まだ、と言うのだ。
「水、飲みましょう」
「ん…、」
「汗もかいてるし、薬も入ってるし、しんどいでしょう」
「いや…」
「尾形は結構、気付かないうちに自分で自分を追い詰めますからね」
まっくろに、夜を閉じ込めたような瞳にうっすら、膜が張る。ああ、尾形もこうやって、うっすら涙を浮かべてみせるなんて仕草が出来たんだなあ、と少し感動した。暇潰しが最初だったものだし、僕も尾形もそれなりに相手に興味を持っていなかったものだから、あまりこういうまるで恋人のような行為はしたことがなかった。
 射精(だ)したら終わり。
 流石にそれだけではなかったけれど、結果的には何処か作業のような行為であって、其処に通う情はなかったはずだ。ぐったりとした尾形は、今にも死にそうに見えた。こんなに熱いのに、と思う。尾形は何処か、この世界に繋ぎ止められている気がしない。もしかしたら本人にもそういう自覚があったからこそ、僕がどうせやるなら抱く方が良い、と言った時に拒まなかったのかもしれない。
「尾形」
そろそろ良いかな、と指を引き抜く。人間の身体の中なのだからやわらかくて当然なのだろうが、いつもより丁寧に解した其処はとろとろになっていた。潤滑油だけじゃあない。射(は)き出させた尾形の精だけでもない。
 尾形が。
 俺の指によって、もう液体の如くになっている。
 それには正直、胸がすくものがあった。別に常日頃の尾形に腹を立てている訳ではないけれど。さてと、と最低限の準備をすると、ほら、と充てがってやる。隔たりがあるとは言え、いつもよりも感度が上がっているのだろう。薬も入っているし、ひどく虐めたし、このままことを進めればどうなることか、尾形にもよく分かっていないに違いない。
 熱に、尾形がいやだ、と首を振る。少し前までははやく挿れろと言っていたのにひどい意見の転換だった。まあ、その原因は僕にあるのだけれど。
「嫌なんですか」
「…う、」
「さっきまで早くって言ってたくせに」
「………いま、」
誰かが言っていた。
「いれたら、」
好いている相手の瞳のことは、どうしたって宝石に例えたくなってしまうのだと。
「だれか、わかんなく、」
僕はそれを信じてはいなかったけれど、確かに世間一般には好いている相手とこういう行為をするものであって、だからきっと、こんな、涙に濡れた瞳で見上げられることはそうそうない訳で。
「―――大丈夫ですよ」
 息を吸ってから、尾形に軽く、接吻けてやる。
「ちゃあんと、僕が覚えているので」
そのまま倒した身体の下で上がった悲鳴は、次の貪るような接吻けで留めた。



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