さよならを言わなかったものですから、
よく、顔が見えた。傷の少ない、人間として真っ当な影をした男は月島にも覚えがある。なんなら前世というやつではセックスをする仲だった。しかし別に恋人であった訳ではない。月島の認識は間違っていないはずだった。だから再会したとしても特に何もないと思っていたのに、だって好きだった訳でも好かれていた訳でもないのだから―――残念ながら、その認識は間違っていたらしい。月島が女の身体なんてものを持ってしまったからか、その行為はあまりにもスムーズに進んだ。そのことで、男同士というのは何かと大変であったのだな、と改めて実感してしまうほどに。現実逃避だった。まあ所謂顔見知りの犯行だ、どうしてこんな凶行に及んだのか分からなくもない、悲しいことに。だから月島はとりあえずすべてを円満に終わらせようと思った。これが終わったら病院に行って、勿論その金を出させて―――と、そこまで考えて、この行為に避妊具というものが介在していないことを思い出した。前もそう思っていたにはいたが、このそれなりに平和な世の中にあってもクソ野郎はクソ野郎だった。その点においては月島もあまり人のことを言えないだろうが、まあ、それでも尾形のことをクソ野郎と罵る権利くらいはあるだろう。何せ、今、犯されているので。
あまりに激しい行為に、視界が飛ぶこと数度。そんなことをしていたから避妊具の存在を忘れていたのだったが。
「はー…そろそろ、ン、でそう、」
尾形が腰をへこへこと、それこそ犬か猫か兎に角獣のように動かすので、こちらも絶えず悲鳴を上げるばかりになって話にならない。
だから、中は、とその声は懇願になった。中だけは、と。生でやっている時点で大して差はないだろうが、それはそれ、これはこれだ。やはり確率というものが違う。病院に行くにしたって着床なんてものをしてない方がいいに決まっている。主に月島のテンションの問題で。あったかもしれない生命のことを考えると流石にテンションは下がるので、そういう可能性の芽は摘みました、というポーズが欲しかった。自衛だった、月島は人間なので。尾形は多分人間じゃないが。
「―――」
沈黙が落ちたけれども、暫くしてずるり、と尾形が抜けていった。ほっとする。これで、確率は下がった。良かった、と尾形を見上げて、此処はありがとう、とでも言って機嫌を取っておくべきか―――なんて思案をしていたら。
ずぷん。
再び衝撃が身体を貫いた。陸に上げられた魚のように腰が跳ねる。
「え―――ぁッ、う、おが、た…!?」
「ハハァ、アンタのそういう顔も悪かあないですね」
驚愕に目を瞠ることも出来ない。快楽が怒号のように叩きつけられて、白閃が舞う。尾形のそれが、どんどん限界になっていくのが分かる。抜いてくれ、抜け、というのは最早言葉にならなかった。意味をなさない嬌声ばかりが尾形の耳に届いて、それに多分、尾形は満足そうにして。
どくり。
その感覚は初めてだったがそれでも分かった。分かってしまった。一度も使ったことのなかった子宮に、その臓器に、正しい使い道として熱が、精液が注ぎ込まれる。
「あ、ぁ…、」
絶望が、其処から広まる。足りないですかね、と尾形が言うのが聞こえて、何を言っているんだ、と思った。足りないって、何が。有り余る性欲の発散が終わらなかった、とか?
そんなことを一生懸命弾き出しても、結局この脳は正しい解えを計算してしまう。理解ってしまう。どうして、何も、分からないのに。
「アンタはきっとちゃんと、親をやっていけるはずだから」
ちゃんとしましょうね、とキスが落とされて、再びそれが芯を持つ。月島の子宮を、精液で塗りたくる準備をする。
「楽しみですなあ、軍曹殿」
月島の胎を撫でる尾形がどうしてこんなにも嬉しそうなのか、月島には分からないまま。
*
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好きも嫌いも倍返し
「はーあ、これなんて言うか知ってるか? 尾形、尾形百之助。いやこんな時代に百之助なのか? お前」「百之助です…」「監禁っていうんだよ、監禁。監禁って犯罪なんだが知ってるか?」「知っています…」「ついでに合意を得ない性行為は強姦って言ってな、それも犯罪なんだよ」「存じております…」「もっとやりようはあっただろうに何でお前はそう…そうなんだろうな? 何をやっても上手くいかないというかつめが甘いというか、挙げ句、何だ、俺とか言っておいた方が良いのか、今は普通に女なんだが」「それは別にお好きにしてください…」「じゃあ私で。私なんかを監禁と強姦?」「はい…」「訴えたら何年つけられるんだろうなあ、差し入れは何が良い?」「月島…さん、がくれるのならなんでも………っていうか何面談に来ようとしてんだよ」「面談は嫌か。なら仕方ないな、此処に住むか」「は?」「あーこれはストックホルム症候群というやつだろうなあ、何回も殺すとか言われたしなあ」「いや…は?」「覚えてないのか。すごい回数言ってたぞ。私も途中まで数えてたんだが諦めた」「いえ、そうではなくて」「明治の頃でもあんなに言われたことはなかったなあ」「棒読み…」「可哀想に、ストックホルム症候群ってなかなか治らないらしいぞ。周りが止めても飛び出していく程度の強い症状が出る場合もあるしそのまま結婚するケースも多くある」「いや、何の話を」「尾形」「はい」「責任取るつもりはあるかって聞いてんだよ」「はい?」「だから、責任」「責任…」「血とかめちゃくちゃ出たしな、とりあえずもう病院連れてけよ。その前に市役所にでも行くか? 印鑑なら此処にあるぞ」「いや、アンタ、何…」「責任取れって言ってんだよ」「いやだから」「尾形クンは刑務所がお望みかあ」「それが可哀想っていう人の顔ですか?」「言うことにかいてそれか」「だってアンタ、は? いや…何…」「刑務所が良いならそうと言え」「そうではなく…」「何だお前、明治の頃も思っていたが結構優柔不断というか衝動のままに動いていると言うか脳みそが海綿体というか…あ、もしかしてお前って馬鹿なのか?」「なんで今馬鹿にされたんですか」「だって好きでもない女に監禁強姦って馬鹿以外の何と言えば良いんだ…」「あー! もう! 好きですよ!? これで満足ですか!? なんか手違いですかなんで女になってんですか!? 籍とか入れやすくていいですけど!? 法は俺たちの味方ですか!?」「残念ながらお前が一手目で馬鹿やった所為で既に味方じゃない」「………デスヨネ」「でも私はお前の味方だ」「うわあ…この上なくクソみてえな台詞…」「嬉しいだろう」「ハイハイめちゃくちゃ嬉しいです」「はいは一回」「はい」「あとそれが強姦魔の台詞か」「いやホントマジアンタだけなんで…こう…カッとなって…」「そういう言葉で済んだら警察は要らないんだよなあ」「デスヨネ」「まあ喜べ、私はお前の味方だ」「胡散臭い台詞二回も繰り返さんで貰えますか」「嬉しくないのか」「嬉しいです」「じゃあ市役所だな」「病院先でしょう」「ならこの結束バンドを切れ」「暴れんでくださいね」「というかお前、親指アレするのは良いとしても、このきつさだと壊死しかねないからもうやめろな」「いやもうアンタをこうやって拘束してヤることは」「そうなのか? 随分興奮してたからそういう趣味なんだと」「………」「………………」「ハイ」「それはなんのはいだ」「興奮しましたのハイです」「いい塩梅を探っていこうな」「………いやそもそも結束バンドを使わなければ良いだけでは? 養生テープでも良いですし」「普通に破けないか」「………もうそういうちゃんとしたグッズ買いましょう。安心安全」「お前に不似合いな言葉だな」「いやまあだって…うん、アンタ、女ですし」「女だな」「ほら、男女差…っていうか、殺したら死ぬでしょう」「まるで明治の月島基は殺しても死ななかったような言い草だな。死んだから此処にいるんだが」「そりゃそうですが…いや、うん、やっぱりなんか…そうですね、安全第一」「標語か?」「標語にしましょう」「ほら、早く切れ」「マジで一緒に市役所行ってくれますか」「まず病院な」「子供出来てたらどうします?」「来週生理の予定だからまあないと思うが」「じゃあ単なる仮定として」「お前はどうしたい」「アンタとならやっていけそうな気がしました」「私は正反対の意見だな」「じゃあ、今回は出来てないことを願って子供に触れる機会とか作りましょう。ボランティアとか。それで見極めてみたら良い」「ポジティヴな言葉がポンポン出過ぎて気持ち悪い」「はい、切れました」「尾形」「はい」「一発目殴られてこかされて結束バンドだったから出来なかったことがあるんだが」「殴り返しますか?」「それは病院とかのあとにする」「ええ、じゃあ何を」「抱擁」「法要?」「ハグだよ馬鹿、今絶対誤変換しただろ」「はい?」「だから抱き締めさせろって言ってんだよ、馬鹿め」「………ええ?」「尾形」「はい」「尾形百之助」「何ですか、月島基…さん」「好きだよ」「俺はアンタのことが好きだけど嫌いですよ大嫌いです愛しています」
手土産はりゅうのひげで包んで
アルハラという言葉がある。飲みたくもない酒を俺の酒が飲めないのか、と押し付けられて次から次へとそれを断ることは許されなくて。気がついたら知らない天井だった。何処だ、と思う。一般的なマンションとか、そういう一室らしい。部屋は薄暗く室内灯がぼんやり照らすくらいだけれども、知った場所ではない。潰されたのだろう、ということは分かったが、さて、僕を介抱してくれた物好きは誰なのだろう。
と、僕の横たわっているすぐ横で何か物音がした。がさごそと。最初は家主が寝返りでも打っているのかと思ったが、そんな音ではない。何だろう、とこの暗闇の中、音のする方へと目を向ける。
ぱちん、と。
誰かの目と合った。
「おがた、おが…やめ、ぉき、…った、」
「急に反応変わりましたけどどうしました? …ああ、宇佐美が起きたんですか」
暗闇の中でも分かる。女だった。そして、裸だった。もっと言えばセックス中だった。ピストンに応じるように揺れる胸がとてつもなく大きくて、夢かなんかかな、と思う。そういえば最近ご無沙汰だった。
ぴ、と音がして部屋が明るくなる。なんで、と女が悲鳴のような声を上げて身体を丸めようとするが、そんなことは土台無理な話であって。どうやら夢じゃあないらしい。この女が誰か知らないけれど、先程呟かれた名前と、聞こえた声から察するに。
「おはよう」
尾形だった。所謂同僚というやつで、まあ同期の中では出世頭みたいなところなのだと思う。それが何故、僕の横でセックスなんてしてるんだろう。
「…なにこれ?」
「此処は俺の家。お前は潰されたから俺が連れて帰ってきた。この人は俺の嫁。しじみ汁のインスタントは台所。ケトルの横に置いてある。トイレは出て右。シャワー欲しいなら左」
「…お気遣いドーモ」
出てけ、と言われたような気がしたのでとりあえずその言葉に従う。潰れて放置されていないだけマシだ。何故横でセックスなんてしていたのかは分からないけれど、というか尾形にも性欲ってあったんだ、と思う。何に対しても興味なさそうな顔しか知らなかったし、今度シモネタでも振ってみようか。
トイレに寄ってシャワーを浴びて、しじみ汁を飲んで部屋に戻っても状況は変わってなかった。正常位だったのがバックになってるくらい。それもそのお嫁さんの方が勝手に腰を動かしているような有り様で、戻って来なきゃ良かったかな、と思った。
「軍曹殿、宇佐美戻ってきたんで賭けは俺の勝ちですな」
「ゃ、なんで…っ、」
「あと俺のことイかせられなかったんでそっちも軍曹殿の敗けですな」
「ぅ、う、」
「自分ばっかイッて、俺はバイブかなんかですか?」
「ちが、ちがぅ、っ、」
「分かってますよ。泣かないでください。でもアンタばっかイッてたから宇佐美が戻って来ちまったのは事実なんで」
なんだその軍曹殿って。思ったけれども尾形がこれだけ真面に長文を喋っているのを初めて聞いたから、特に突っ込まないことにした。まあ夫婦間であれば互いを何と呼ぼうと自由だったし。ハニー・ダーリンじゃなかっただけマシだったのかもしれない。
「そういや結婚したって聞いてたけど」
「そ。取引先の一つの、あのポカやらかした社長のとこのご令嬢。ミス帳消しとこれからの末永いお付き合いを願ってクソ親父にドナドナされた可哀想だけど世界で一番幸せな嫁」
「お前って寡黙な方だと思ってたけどセックス中は違うの」
「この人相手だから。まあもうこの人以外となんてしねえけど」
腰を上げられた状態のまま、床に蹲るようにしているそのお嫁さんの顔は見えない。けれども女性にしては珍しいくらいのベリーショートだった。尾形こういうのが好みなんだな、なんて思いながらひう、という悲鳴を聞いている。多分僕に真面な良心とかそういうものがあったのなら此処で失礼しましたーって言って出ていってやるのが正しいのだろうけれど、生憎そういうことは出来なかった。女性にしては鍛えられているだろう身体が綺麗だと思う。まあ、人の、っていうか尾形の嫁ってことでそう手出しをするつもりはなかったけど、やめてないってことはそういうことで良いんだろうな、と僕は勝手に解釈した。見られたくない、とばかりにどんどん小さくなりたがるお嫁さんには申し訳ないけど、こっちはこっちでご無沙汰な訳だし。
「ぉ、がた…っ、そこばっか、やだ…ッ」
「じゃあ何処が良いんですか?」
「…っ、…ッ、うさ、みが、いるだろ…」
「良いじゃないですか、宇佐美に教えてやったら。アンタ何処を俺に突かれるの好きなんでしたっけ?」
「ッ、ぁ…っ、ん、ぅ、」
「この奥ですよね。もっと強くして欲しいんですよね。知ってますよ。でもいつもはちゃんと言ってくれるのに、どうしてです? アンタがいつも言ってることじゃないですか。自分の意見を察して貰おうとするな、って」
まさか尾形に言葉攻めの趣味があったとはなあ、と思いながら手を伸ばす。汗だくになって張り付いた、その人の髪に触れてみたかった。と、それは視線だけで制される。
「触るなよ?」
此処までしてお預けとは恐れ入る。
「じゃあなんで僕のいるときにセックスなんてしてんの。しかも僕の横で」
「ヤりたかったから」
「サルかよ〜」
「新婚だから」
「それで済むと思ってんの?」
ねえ、軍曹殿、とその人を呼ぶ尾形はこの上なく楽しそうだ。
「宇佐美はアンタに触りたいそうですが? 前もそんなことを思われてたんですかね?」
「ン、な訳…ッ、お前が、こんなことする、から…ぁッ」
さっきからなんだかその人も僕のことをよく知っているようなことを言うけれど、会ったことがあっただろうか。ポカした取引先のことは知っていたけれど、別に其処のご令嬢とは面識がなかったはずだ。正直な話、尾形が結婚するまで其処の社長に娘がいることも知らなかった。
見られていると興奮するのか、それとも元々感度が良いのか、床に張り付くようにしている彼女が何度も何度も細かくイッているのが分かる。その度に肩甲骨が動いて、その向こう側であの大きさの胸が圧し潰されるのが分かる。もう一度くらい見たいな、と思った。結構な大きさだったように見えたし、ちゃんと目に焼き付けるくらいはしても良いはずだ。
「エー。ちょっとくらいおこぼれちょうだいよ」
「さっき起きたくせに?」
「起こしたのお前じゃん」
「まあ、そうだけど」
「そこでお嫁さんの所為にしないとこでやらかしたのがお前だって分かるのがサイテーだよね」
「サイテーって言いながら笑うなよ」
「だって良いもの見れたし」
眼福、と言えばびく、と怯えたように肩が揺れる。別に穴まで貸せって言ってる訳じゃないんだけど、ちょっとだけオカズになって欲しいくらいなんだけど、まあ、この状況じゃあ仕方ないか、とも思う。
「軍曹殿、何期待してんですか」
ぱしん、と尾形が彼女の尻たぶを叩いた。ア、と艶の乗った声がする。っていうかさっきからずっと一生懸命抑えてんだろうけど、完全に声なんて殺せない訳で。これが結構な毒だった。人のセックスを見て興奮するなんてそんなことがあるとは思っていなかったけれど、正直これは仕方ないと思う。
「だーめ、アンタは俺のだろ?」
「ふ、ぅ…っ」
「あーもう、アンタも結構物好きですよね」
彼女を見つめていた尾形が顔を上げて、ニィ、と口角を上げた。
「しっかたねえな、胸触るくらいは許してやるよ。口とかにはぜってえ触るな」
「はー? 尾形の癖に命令口調とか」
「俺の嫁だし」
「その嫁とのセックス人に見せてやるなよ」
「見て興奮してる奴が何言っても無駄だろ」
「まあそれはそうだけど」
尾形がぐい、と肘を掴めばその上体がそり返る。AVかグラビアくらいでしかお目にかかれないようなブツが、惜しげもなく晒された。
「ゃ、やだぁ…っ」
「それがやだって声ですか」
ナカきゅうきゅう言わせて、俺だけじゃ物足りないって訳ですかあ、と尾形が間延びした声で耳を食む。なんかこいつめちゃくちゃ楽しそうでむちゃくちゃ腹立つな。
「大丈夫ですよ。アンタは今までもこれからも俺以外とはセックスしませんから」
必死に隠そうとしているようだったが、片腕を掴まれて後ろに引かれてしまえば、もう片腕は身体を支えるのに使うしか出来ない訳で。尾形が突く度に揺れるのを見ているだけでくらくらするレベルだ。すげえのと結婚したな、尾形。
「ね?」
無理矢理振り返らせて、舌をねじ込んでいるのが見える。なんで僕、同僚のキス顔なんて見てるんだろうなあ、とは思ったけれどもそれで彼女の意識が逸れるのであればまあ、妥当な駄賃だろう。そもそも尾形のお嫁さんな訳だし。僕は部外者な訳だし。
「では失礼しまーす」
「ひっ、ぅ」
さっさと堪能しとこう、と思って遠慮なしに手のひらを押し付ける。
「うっわ、すご」
「手に余るだろ」
「文字通りね」
どこから触れても肉が余る。やわらかいし、でも大きさの割には乳輪だとかが小さくて、なかなかに可愛い。これを毎晩独り占め、と思うと尾形もなかなかに良い貰い物をしたんだなあ、と思った。人の結婚をそんなふうに言うのもどうかと思ったけれど、まあ、口に出さなければ良いだろう。
彼女はと言えば僕の顔が目の前にどうしたって来るのが耐えられないのか、ぎゅっと目をつぶってしまった。別にそれでも良いけれど、何か、何処かで見たような顔だなあ、と思う。こんな、眉間にぎゅっとさせているような知り合いはいないはずだったけれど、誰かに似ている、とかだろうか。もう僕が触った時にはすっかり勃ち上がっていた乳首を引っ掻くようにしてやると、悲鳴のような声が上がる。可哀想、だな、旦那以外の男にこんなことされて、とは思うけれどもまあ、大体尾形が悪いのであとで尾形を好きなだけ叱って欲しい。指の腹でつまんでぐりぐりと強めにしてやっても痛い、とは言わなかった。結構な逸材なのかもしれない。再度、良い貰い物をしたんだなあ、と思う。人をモノみたいに言うのは流石に憚られたのでやっぱり口にはしないけれど。
と、なってくればもうちょっと、何かしてみたいと思う訳で。いや、確かにこの感触だけで充分オカズにはなるのだけれど、それはそれとして。
「ねー尾形、触るだけ?」
「は? 触るだけでも譲歩なんだが」
「舐めるくらいよくない? 減るもんじゃないし」
「減る。俺の独占欲とかそういうものが減る」
「それ減るんじゃなくて増えるんでしょ」
「屁理屈」
「そっちもね。ていうか、ほら、お嫁さんの方はどうなの? 尾形の方が分かるでしょ」
「俺のなのにお前に触られる度にめちゃくちゃ締めてくるからムカつく」
「お前が悪いんじゃん…」
「あーでも、俺以外で気持ちよくなったお仕置きっていう名目が出来ますなあ、軍曹殿」
うわこいつサイテーだな、と思ったけれどもおこぼれに預かっている身としては何も言わないに限る。軍曹殿、って、どうして軍曹殿なんだろう。仮にも社長のご令嬢なら自衛隊とか、そういうのに入っていたとかあれば噂でも流れてくるだろうし、サバゲーでもしてるんだろうか。まあ、深い事情には突っ込まない方が良い。僕が彼女に突っ込まないのと同じで。
「んじゃあお言葉に甘えて」
「………ッう、ゃあ…っ」
流石にお仕置きという言葉に怯えたのか、逃げるように彼女は身を捻るけれど、この体勢では頑張っても後ろに退くのが精一杯で、そんなことをすれば自分から尾形のモノを深く迎え入れることになるのは自明の理であって。
「ひゃ…ッあんっ」
「軍曹殿此処こすられるの好きですよね」
「んっ、あっ、あ…ッ」
「あーあ、自分から腰振り出しちゃって」
かーわいい、と呟く尾形を尻目に、いただきまーす、と口を開ける。
「や―――ッ、んっ、ぐっ」
「声抑えるってことは気持ち良いんですか?」
「軍曹殿、旦那が挿れてるのにまだ足りんとは」
「癖になっちゃったらどうすんの? 尾形」
「俺が分裂する」
「真顔で怖いこと言わないでくんない」
芯を持ったそれはまるで飴玉みたいだ。髪が短い所為で表情なんて隠せていない。目をつぶっていてもよく分かる。上気した頬、噛み締められた唇。その端から抑えられない唾液。好奇心で軽く歯を立ててみたら思いの外身体がしなった。こちらとしてはやりやすくなって良いけれど。
「ア―――ッ、あ、やだっ、あ…ッ」
衝動を逃がすためか、見開かれた目から涙が溢れ落ちる。
「おがたっ、だ、めぇ…っ」
「宇佐美ですよー」
「宇佐美の名前なんぞ忘れて良いですよ」
「お前それが仮にも同僚に言う言葉?」
「俺の嫁だし」
「そのお嫁さんにヒデーことしてんのお前でしょ」
床に張り付いていたのが嘘みたいだ。いつの間にか半分立ち上がったような形になっている。胸の大きさの割には小さい人なんだな、と思った。普通思うのは逆なんだろうけど。
そうなれば、まあ、僕のの状態も尾形からちゃんと見えるようになる訳で。仕方ねえなあ、と尾形が笑う。
「軍曹殿、抜いてやるくらいはしても良いんじゃないですか」
「な、んで、」
「慣れっこでしょう。そういうの。手で、ほら」
気持ち良いんでしょう? 胸、と尾形が言う。ならお返ししてやらねえと、と尾形の手が、彼女の手に添えられて。手も小さいんだな、と思う。僕はと言えばしてもらえるなら、と前を寛げる。
「う…」
「案外嫌そうにしないんですね」
何処か事務的なその動きになんでだろうなあ、と思いながら、体勢的に舐めるのが無理になってしまったのでつまむ方へと戻る。他のところを舐めたら尾形に殺されそうだったし。ご無沙汰だったのもあって、他人の手でこすられればすぐに射精(で)た。尾形には早漏、と言われたけれどそれを言ったら尾形は遅漏だろう。普通にまだ保つし、持久力にはそこそこ自信がある。
「尾形まだー?」
「別に出したら先に寝ても良いんだが」
「いや、完全に目ぇさめちゃったし無理でしょ」
「じゃあ飽きるまで起きてろ」
「ハイハイ、遅漏の尾形クンが射精(だ)すまでねー」
「うるせえ。軍曹殿はこれくらいの方が良いんですもんね」
それに彼女が少し迷ったような目をしてから、うるさい、と呟いた。
どうやら僕が思っているよりもこの二人はラブラブらしいので、やっぱりなんだか尾形の癖に、とは思うので先半年分くらいのオカズくらいは貰って帰ろうと心に決めた。
堅牢な檻で不実に誠実
俺だってこんなことをしたいのではないですよ、というのはこの上なく本心だった。だってこの女に興味などないのだ。尾形の興味のあるのは何の因果か、記憶を持ったまま女に生まれ変わってしまったかつての上官だけであって、その幼馴染みだか元婚約者だか、忘れてしまったがそれには興味は微塵もなかった。ただ、まあ、断られたら殺すくらいはしたのかもしれないけれど。だってこの女がいると、かつての上官は決して尾形のことを見てはくれないのだし。
兎に角今回もヘテロセクシャルとして生まれたらしいその女の、恋愛対象には上がらなくなってしまったかつての上官は、月島は、潔くそれを諦めて、だからその女の一番の友人を演じている。いた。それを尾形はずっと横で見ていたのだ、その執着たるや。月島は尾形のこの感情のことを執着だと言ったけれども、尾形にしてみればどちらも同じだった。同じ穴の狢とはこういうことを言うのだろう。
睡眠薬を飲ませたその女は今、すぐ手の届く場所で眠っている。眠っているだけだからいつ起きるか分からない、でも、抵抗も出来ないだろう。それを月島は分かっている。そして、尾形の要求も。
「俺はただ、アンタのことを知りたいだけなのです」
「知っているだろう」
「今回はアンタ、やけにガード固いじゃないですか」
だから本当に全然知らないんですよ、とその肩を撫でる。それは前世とやらの記憶よりずっとまるい形をしている。
「軍曹殿、俺はアンタのすべてが見たいんですよ」
だから、と尾形はその耳に舌を這わせる。
「まずは服、全部脱いでみましょうか」
眠っているその女を起こさないために、只管声を耐えるしか出来ないのを知っていて、その首が縦に振られるのを待った。
いちいち恥じらってくれるような人ではないと思っていたが、それでも屈辱のようなものは感じてくれるらしい。一矢纏わぬ姿になった月島は身体を隠すことなく尾形に向き合うけれど、その目には涙が浮かんでいる。ああ、違う人間になってしまったのだな、と思いながら、尾形よりも先にそれに気付いていたであろう月島がどうしてその女に執着し続けたのか、知ってみたいと思った。
「素晴らしいですね」
「…声がデカい」
「ああ、これはすみませんでした」
肌に指を滑らせながら、要望通り声を潜めてやる。ではさっさとことを進めた方が良いですね、と言えばそうだな、と首肯が返された。何一つ納得していないのに、そんな顔をするくせに。
だから、尾形は座ってみせる。これからやることを考えたら椅子の方がいいだろう、と思ってそうした。自分でベルトを寛げて、ほら、と月島に見せつける。
「勃たせてください」
今回は月島が持って生まれなかったもの。
前世では、散々に見飽きていたであろうもの。
だと言うのにどうやって、なんて言うから。腕を掴む。自然、ひざまづくような形になる。その小さな口の中を蹂躙するのもそれはそれで面白そうだったが、今はそれよりも。
「軍曹殿、立派なものをお持ちですよね」
ふるり、と揺れた双丘にモノを押し付けると月島は理解したようだった。恐る恐る、といったように自らの胸を両側から持ち上げて、尾形のそれを包み込む。やり方が正しいのか分からないのか、尾形の様子を上目にちらちらと窺っているのが惨めたらしくて愛おしい。ああ、そうだ、愛おしかった。月島が執着と呼んだそれを、尾形は愛としてしまいたかった。
「ハハァ」
やわらかな肉の中で興奮がかたちになる。それは行為がどうこうというよりかは、月島が形はどうであれ自主的にやっている、というものによるものだ。
「なかなか気分が良いものですな」
「…悪趣味め」
「上手いじゃないですか。何処ぞの男でも誑かしましたか」
「―――」
そんなことがなかったことを、尾形は知っていた。知っていて言葉にした。
「…ぅ、ぐ、」
「ハハ、サービス精神旺盛ですね」
尾形が何を言うでもなく、その胸の間から少しばかり顔を覗かせた先端を、月島の舌が抉っていく。やり方を知っているのは前世の記憶があるから、ただそれだけなのに。まるで誰かに教え込まれたようで気に食わない。
「ン、ふっ」
「軍曹殿楽しそうですね」
「たの、しくなんか、ン、な…い…」
チロチロと赤い舌が見え隠れする度に興奮は高まって。
「目、つぶってた方が良いですよ」
「え、アッ―――」
そのまま顔に射精(だ)した。
流石に呆然とした様子の月島を立たせる。精液を塗り込むようにしてやれば、その匂いが嫌なのか首を振られた。まさかその仕草にまで興奮するなんて思ってもいなかったけれど。
「まだ終わりじゃあありませんよ」
既に硬度を取り戻しているモノを指し示す。月島も結末は見えていたのか、それ以上は何も言わなかった。
「ほら、軍曹殿。俺に跨って」
肩に手、ついて良いですから、と導くと自然、目の前には胸がくる訳で。なかなかの視界の圧迫、と思いながらも未だ触れることはしない。
「やったことあるじゃないですか。今回女なんだから前よか楽ですよ」
アンタに今ついてんのは紛れもなく挿れられるための穴なんですから、と言えば睨まれた。それも涙を湛えたままなので逆効果ではあったが。
女は未だ静かに眠っている。規則正しい呼吸が逆に不自然なほど。
月島が尾形の肩に置いた手に力を入れて、体勢を整える。モノが目的の場所に、月島の手によって宛てがわれて、尾形は思わず笑った。
「ハハッ、女って不便ですねえ」
くちゅり、と音がする。粘膜同士が接触したからと言ってそんな音が出るはずもない。
「こんなセックスでも濡れるんですか」
―――興奮している。
それが月島のものなのか、単に女だから、というだけなのかは分からなかったが。腰を撫でる。びく、と震えたその動きで、またくちゅくちゅ、と可愛らしい音が立った。
「それとも、アンタが俺とのセックスを楽しんでるんですかね?」
それなら嬉しいですなあ、と言いながら尾形は何もしなかった。
すべて、月島にやってもらうつもりだった。少なくとも最初は。
「ほら、早くしないとあの女起きるかもしれませんよ」
「おがた、」
「俺は別にそれでも良いですけどね」
アンタは良くないんだろう? そう言外に滲ませてやれば、次の行動が起こされるまでは早かった。意を決したような月島が一度だけ強く、目を瞑って。
「―――ぅ、あ…」
少しずつ、腰を下ろしていく。
「ぁ、ぐ、う…」
「這入りませんか? 慣らした方が良いですかね?」
「よ、けいな…お世話、だ…ッ」
「でもあまり血を出されるのも趣味でないので、その辺は気をつけてくださいね」
「注文の―――多い、やつ、…っ、う、ァあ…っ」
確実にその声には艶が乗っていた。それを尾形は嬉しく思う。ゆっくり、ゆっくり。尾形が月島の中へと迎え入れられていく。慣らしてもいないはずの其処はそれでも、最初からそのためであったかのように尾形を歓迎した。蠢いてはもっと奥へと、と呼ぶ。その度に月島が細かく震える。
そうして、やっと下生え同士が絡み合って。
「はぃ、っ、…う、………た」
押し出されるように涙がぽろり、とこぼれ落ちたのを見たら、今まで考えてきたことがもうすべてどうでも良くなってしまった。ここまでやったのだからいいだろう、とその腰を掴む。
そして、そのまま思い切り突き上げた。
「アア―――ッ!?」
びくん、と揺れた身体が一瞬仰け反って、その悲鳴にんん、と女が身動ぐ。意識の端にはあるのか、必死で声を抑えようとするさまが甲斐甲斐しい。でも、そちらに意識をやってしまえば他のコントロールなど効かなくなるのは必定で。
「―――ッ、っ、ぅ、うぁ、ッ」
崩れ落ちてきた胸が顔を押し付けられて、これ幸いとばかりに舌を出してやった。その感覚ですら毒なのだろう、ひ、ひ、と断続的な悲鳴が上がる。こうして欲しかったんですよね? と問うても返事はない。
震える身体を手放す気はなかった。このまま感度が上がってくれるならそれはそれで良い。
「そんなに簡単にイかれても、終わりになんかさせませんから」
女が寝返りを打つのが見える。今起きたら全部見えちゃいますね、と言いながらキスをする。
「ねえ、軍曹殿?」
腰を掴み直す。びくびく、と未だ余韻に浸る身体に鞭を打つように。
「俺のこと全部憶えて帰ってくださいね」
そしてもう忘れないでくださいね、というのは言葉にするのはやめておいた。
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