これ以上は無理
憧憬を抱いていた。それはそもそも鈴木伊織に元々備わっていた感情であり、植え付けられたものではないと、そう判断することが出来る。だからこそ箱庭の約束を遂行しようとそんなことを思ったのだろうし、何も言わずに彼の言うとおりにしている、のだろうけれども。
「芝村、先輩」
未だ先輩、などと呼んでいるからだめなのだ、と。
「もう、」
抑えた唇が震えているのが分かった。
「女々しいと、思われるかもしれませんが、その、」
こんなことを言うなんて。
「キスは、出来ない」
彼の感触を、一瞬でも忘れたくはなかった。
精一杯のおねだり
鈴木はさあ、と呼びかけられたことに反応が遅れたのは、奥の奥を暴くようなそんな乱暴さの中でのことだったからだ。
「し、ばむら、せん、ぱい?」
「どうしてあの時、なんでもするって言ったの」
そんなこと言わなきゃ、こんなことしなくてよかったのに、と続けられる。確かにもっと、何かあったのだろう、と思う。結果論ではあるが芝村の協力は得られなくても良かったのだ。読みを間違えた、とは思わない。あの時の鈴木は、ただ、必死で。
「それしか、出来ないと思ったからです」
ぐちゅり、と二人の混ざり合う音がする。
「俺は、どうしても、一人で戦うことが出来なかったんですよ」
ずるいでしょう、と言えば、そうだね、と返さた。
「上手になったね」
そう言われて思わず顔を上げた。いつだって優しく、肌と肌を一部の隙もなく合わせてくれるような、そんな行為をしてくれる人だったから驚いた、というのもある。勿論、自分が上手いなどと思ったことはなかったが、職業柄慣れているその人にそう言われると、たとえそれがお世辞だとしても嬉しく思う。
「そんなに嬉しかった?」
頬を撫でる手は、医者であることを忘れるほど、やさしい。
「はい」
「ならもっとはやく言ってあげればよかったね」
きみが、ぼくのために上達してくるのは、とてもうれしいよ。
そう言われて嬉しいのは、彼のことを愛しているからなのか、それとも。
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