猫の悪戯



 発端はただ単純なものだった。五円玉を紐に通して目の前でゆらゆらと揺らす、ただそれだけ。使い古された手法。だから月島は勝手にやらせておくことにした。こんなものにかかるなんて、思ってもいなかったから。
「で、何をかけるんだ」
「じゃあ、アンタが腹を性感帯にする暗示で」
「は?」
「あ、ついでに俺のこと好きになってくれても良いですよ」
「それは無理な相談だな」
そんな会話までしたのに。
 ぞくぞくと、腹に何か熱が溜まっていく。あんなのはお遊びだった、五円玉で催眠術なんて、それこそかからないということはないが、かかりやすい人間でもない限り。しかし、月島は自分がかかりやすい人間であるなんて思ったことはなかった。というもの、大学時代友人とやったことがあるからで、しかし今それを尾形に言えば良くないことが起こりそうであったので黙っていたのだけれど。
 話が逸れたが、そういう訳で本当にそんなことが起こるなんて思っていなかったのだ。だから、何の覚悟も出来なかった。つまり何が言いたいかと言うと―――これらの反応はすべて、尾形に筒抜けだ。
 トイレに、と立ち上がろうとしたのを何処行くんですか、と留められる。それで衣服が擦れて、それでまた熱が溜まっていく。
「月島軍曹」
だめですよ、とベッドに放り投げられて手首を纏め上げられてしまえば月島に抵抗の術はなくなった。そして、自分で自分を慰めることも出来なくなる。こんな―――こんなもの、一人でどうにかしてしまえば良かったのに、尾形にこうして捕まってしまえば長引くのは必至で。
「軍曹殿は腹が気になるのですか?」
ぺろり、と服が捲り上げられ、尾形の視線に晒される。それだけで興奮が脳を占拠した。
「前から思ってましたけど、アンタよく鍛えてますよね」
「そ、うか?」
「ええ、うっすら割れてるのが美しいですよ」
言葉が掛けられる度、ぞわぞわと熱が更に集まる。もうどうしようもない。月島の変化に尾形はちゃんとついてきているのに、それに沿ってはくれない。そんなのは、今に始まったことではないが。
 ふう、と息を吹きかけられるだけで甘い声が漏れ出る。
「…んぅ♡」
それに味を占めたのか、ふう、ふう、と尾形は面白がるように月島の腹に息を吹きかけた。一見シュールな絵面だろうに、その度に月島はびくびく、と跳ね上がる。
「あっ♡ぃき、やめ♡おかしく♡なる♡」
「軍曹殿は俺に息を止めろとでもおっしゃるのですか?」
「ンッ♡そこ、でっ♡しゃべ…ん、なっ♡」
「顔と言葉が一致してませんよ」
 魚になってしまったようだった。まな板の上の魚。誰に調理されるかなんて考えるまでもない、月島には尾形しかいないし、尾形にだって月島しかいない。
「此処、」
言葉の風でもひどい刺激になる。これが本当に自分の身体なのか、怪しくなってくるほどに。神経が焼き切れそうで、ついでに理性も何処かへ行ってしまいそうで。
「舐めたらアンタ、どんな反応しますかね?」
「ッ♡」
「ハハァ、そんな期待込めた目で見んでくださいよ」
「ちがぁ…んっ♡アッ♡」
「まだ舌出してみせただけですよ」
「ンッ♡ふぅ…っ♡」
「自分から押し付けようとせんでくださいよ。せっかちですなあ」
「ちが―――ッあっ♡ひゃんっ♡ふ、ぁ…♡」
 れろ、と見せつけるように尾形の舌が、ゆっくりと降りてくる。唾液の湿った感覚だとかがすべて痛いほどの快楽になって涙が溢れる。
「ンんぅ―――ッ………♡♡♡」
「は、アンタ、腹舐めただけでイッたのかよ」
「ちが…♡ちがぅ…から…♡」
「じゃあイけるようになるまで腹舐めてても良いですよね」
「や…♡あ…♡」
撤回するにはもう遅い。いつだって月島は引き際を間違えてしまうが、そもそもからして尾形が月島を強姦なんて真似をしたから悪いのであって―――という真面な思考は、快楽に白く染まって、取り上げられていった。



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罪の調教



 基本的にお前が扇情的な格好をしていたから―――という言い訳はただの自己弁護でしかない、他者のことを何も考えていない発言であると尾形は理解している。理解した上で、これは月島が悪い、と言ってしまうことにする。
「ほら、手、壁についてくださいよ」
尻突き出すみたいにして、と指示をすればそろそろ、とそれに従うのは女の形をしている。故に前世のそれらよりもずっと小さく、だからやれることがわりと増えた。やれないことも増えたが、まあ増減を考えると増えた。
 以前であれば壁際に追い詰めたところで直ぐ様それは聞き入れられなかったし、抵抗らしい抵抗を受けたことだってある。だと言うのに今はどうだ。静かに尾形の声に従って、それから見上げてくる瞳の色をこの人は分かってやっているのだろうか。分かっていないのだろうな、と思うからこそ尾形はそれに乗ってやることにする。
「アンタが小さく生まれてくれて本当に良かった」
後ろから壁に手をついてやれば即興の檻の完成だ。月島は本当はいつだって此処から逃げ出せるのに、最近ではその考えすら消えかかっているようで。なかなかに上手くやれたなあ、と思う。
「軍曹殿、俺は壁に手をつけとは言いましたが、壁に貼り付けとは言っていませんよ」
やりにくいでしょう、と言えばなんとか尾形と距離を取ろうとしていた背中が、ふい、と寄ってくる。壁との間に空間が出来て、其処から手を差し入れることが出来る。
「…ンッ」
ティーシャツの上から無遠慮に揉みしだく胸は、既に期待に染まっていた。それが分かるということは、下着をつけていないということで。膝で足を割り開いて刺激しつつ確認する其処には布の感触があるから、どうやら下は履いているようだったが。長めの丈のそれは所謂ロングティーシャツというやつで、此処は家でもう外に出る用事などないのだから、それを身に付けることに意義がある訳ではないのだが。
 月島は尾形に強姦をされているのだ。籍を入れたのだって半ば粘り勝ちのようなもので、月島がまあ、納得していることは承知だけれども別段尾形のことが好きな訳ではないと、それくらいは分かっているのだ。尾形が分かっていることは月島だって分かっている。理性やら何やらを丁寧に削っていったのは尾形だけれども、だからと言って月島が自分の脳で考えられなくなっているとは思わなかった。
「前戯、欲しいですか?」
耳を食みながら問う。
「俺は何も考えずに、このままブチ込みたいんですけど」
 ねえ、軍曹殿、と膝で押し上げる其処からは水音が此処まで聞こえてくるほどしていた。

 下着は流石に買い換えないといけないだろうなあ、と思いながら腰を動かす。流石に身体の方は逃げた方が良いと判断したようだったけれど、頭がちゃんと働いていないのであればそれは無意味だ。男女の身体のつくりの差、力の差、抵抗なんて全力でしたってたかが知れるのに、すべての行為は後ろからおこなわれているのだ。余計に力なんて入らないだろう。
「楽しいですね」
逃げよう、逃げようとした所為で靴下は半分脱げていた。それが余計に滑るのか、月島は壁に縋ることをするばかり。それに意味なんてないのに、と思いながら必死に逃げ打つ腰を掴む。
「こうして、こう、するっ、と」
悲鳴のような声が上がる。中途半端に靴下の残った足が、露出した踵が床から離れる。
「ほら、もうちょっとで浮き上がりそうです」
「―――ッ」
痙攣のように中が収縮して、より尾形のものに寄り添うのが分かった。中だけで血管の数数えられるんじゃないですか、とその台詞でさえ興奮材料になるのか、いっそう離すまい、と締め付けてくる。
「ティーシャツ一枚って、期待してたんじゃないですか」
「…ッ、ちが、」
「しかも首元も裾も広い薄い生地って、犯してくださいと言ってるようなモンですよ」
「だ、から、ちが…っん、ぁ、」
「耳舐めてるとアンタの服の中見えるんですよ。そういえば少し大きくなりました? 揉んでいれば育つって本当だったんですかね」
「ッ、う…あ、」
強情だなあ、と思うけれどもこの強情さのことが尾形は嫌いではないので何も言わない。
「本当にアンタ、これ好きですよね」
 するり、と手を滑らせて下腹へと到達させる。
「きゅうきゅう、って俺のこと締め付けてくる」
内側からは未だ、刺激を与えていない位置。マッサージでもするようにやわやわと揉んでやれば外からだけでは、と言わんばかりに背中が震える。
「そんなに欲しいですか」
「ち、がぅ…っ」
「そうですか。ではここのままでいますか」
絶望に、ぴたり、とその動きが止まるのを感じた。強情ではあるけれど、こういう反応はひどく素直だ。
「ハハ、」
 あと少しだな、と思いながら検討違いの場所を抉ってやると、素直な身体は快楽を追うようにして動き出した。理性はほどほどに削れたと見て間違いないだろう。だから、尾形は声をかける。
「軍曹殿、その体勢で動くの大変でしょう」
「―――ぅ、ぁ、ん、」
肯定のような声の隙間に、ねじ込むのはこちらからの要求だ。
「諦めて腰全部下ろしちまえよ。逃げてないで。簡単だろ? 踵全部床につけるだけだ」
「ん、ふ………ァ、」
「軍曹殿」
出来ないなんて言わせないつもりで、尾形は言葉を続けていく。
「簡単なことですよ。だから、」
出来ますよね?
 尾形の言葉に月島は一度ぎゅっと目を瞑った。指先が壁に縋るように動いて、それから諦めたようにずるり、と落ちる。
「…ッン、ぅ…」
「そうそう、上手ですよ」
「―――ッ、う、あ…っ! おが、た、ハ…ぁ…っ」
ぱたぱた、と涙が床に落ちていくのが見えた。見えたけれども別にそれはもう見慣れたものだったので、可愛いですね、と言うだけに留まった。



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