愛の運命
月島にだって少しだけ遠出しなくてはいけないような日はある。そういう日は電車を使うし、大抵そういう時は満員電車になることが多い。だからあれこれと自衛、というかまあ、巻き込まれないように、というものは考えていたはずだった。そもそも月島はあまり身長が高くないので、同じ女性目線からでも物理的に視界に入っていないことがあったりする訳で。ヒールというものは凶器であると、思うことだって度々あるのだ。
だから、まあ、つまり。
正直これは想定外だったのだ。
満員電車の中で座ることが出来た、それはとてつもなく僥倖だろう。だから月島は持っていた文庫本を開いたし、横に誰が滑り込んで来ても気にはしなかった。が、それがいけなかったのだ。くい、とスーツの裾が引かれた。何だ? と思って見たら、其処にいたのは尾形だった。何故同じ電車に乗っている、と一瞬思ったが最早この男に関してはそういうことを考えるだけ無駄だった。でも、無駄でも考えることが出来ればこのあとのことは回避出来たかもしれないと、そんなことを思ってしまう。何を思ったのか、尾形はひと目をはばかるようにしてスーツの裾から、手が入り込ませて来たのだ。手慣れている、と思ってしまったのが最悪だった。今までもこんなことをしてきたのだろうか、もしそれが協力的な相手であるのなら、さっさとそっちに戻って欲しいものだが。
「尾形…っ」
「シィ〜…」
黙って、といつもであればキスがされるのに、と浮かんで来てしまって思わず首を振った。その隙にも尾形の手はワイシャツの中に入って、それから丁寧に下着の中へと滑り込む。
「バレますよ? それとも、」
バレたいんですか?
くりくりと弄ぶような遣り方はいつもと同じだった。だから月島のスイッチはいとも簡単に入れられてしまう。
「ひぃ………っ♡」
「ほら、そんな声出したらバレちまいますよ」
「ン…ッ♡」
「頑張ってるんでしょうけど、それじゃあバレますよ」
それともやっぱりバレたいんですか? となんてことない会話のようなそれに、耳を済ませている人間はいない。誰だって満員電車の中だ、自分のスペースを確保することに必死になっている。
「折角本読んでるですから、そっちに集中したら良いのに」
誰の所為で集中出来なくなってると思ってる! と言いたかったがそれでは尾形の行動で快楽を得ていることの肯定になってしまうので出来ない。つまり、にっちもさっちもいかなかった。いつもと同じ状況。
「お前…ッ、バレたら捕まるぞ…っ」
「だから、バレないように静かにしててください、と言ってるんですよ」
アンタの乱れる姿を誰ぞに見せたい訳ではないのですから、と言うくらいならそもそもこんなところで触ってくるなと言いたい。声を大にして言いたい。声を大に出来ないからこそこんなことになっているのだったが。何も言えないまま、尾形の好きにさせてしまっている状況で、身体は勝手に反応していく。ぴん、と立った乳首を弾かれて、くぐもった声を押し殺す。下半身が熱かった。ぐるぐると、思考が離れていきそうなのをどうにかつなぎとめる。
「アンタ、胸だけでイけますもんね」
そうやって仕込んだのは尾形だった。月島の身体のことなんて尾形の方がずっと、知っている。押しつぶされるように、指先でキスをされるように丁寧に弄ばれて、時折痛みを覚えるほどにつねられる、その緩急が月島には毒だということを、尾形の方がずっと、知っている。
「ほら、俺しか見てませんよ」
「…ン、ぅ♡」
「ちゃんと文庫本で隠して」
少し前かがみになれば、それは尾形に遣りやすいような格好になってしまうのだったが、それはそれとして今の顔を誰かに見られたくはなかった。出来ることなら、尾形にも。
「ハハッ」
でも、それは叶わない訳で。
「いーカオ」
下腹がどくどくと煩かった。
なんとか残った理性が、此処でこのままこの男にぐちゃぐちゃにされたい、と願うのを留めていた。
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