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 記憶がないのだろうな、と思った。思ってから、そもそもこれが記憶であるのかも怪しい、と思った。でも結局確かめる術などないのだったら、それが記憶でも尾形の幻想でもどちらでも良いのだ。だから今日、結婚するんだと言って笑って酒を飲んで少し疲れた様子の月島を言葉巧みに自分の部屋へと誘い込んで、そして、犯している。記憶があったらこんなことを許してはいないだろうに、鍛えられた肉体は何の役にも立たないで、それでいて知っている反応を返すのだから。
「ほら、月島さん」
覚えてるものですね、なんて言ってやる。月島に記憶がないことは分かっているのに。月島は何を言われているのか分からないのだろう、どうして、と繰り返している。
 前、で。
 寝たことがあった。尾形は月島を抱いていた。その時に持っていた感情が今や恋なんてものに形を変えただなんて、あの頃の月島に言ったら冗談だろうと一笑に付されたことだろう。尾形だってそんなことが起こるとは思わなかった。前≠フ尾形はついぞ愛なんてものを理解しないまま死んだのだし、それについて月島は何も未練を持っていなかった、きっと、そういうことなのだろう。あの生を月島は月島として全うした、だから何も覚えてない。至極単純な話。
 でも、尾形は納得出来なかった。こんなにも前と同じ反応を示すのに、身体は新規作成だろうに何もかも変わっていなくて。
「アンタ、使ったことでもあったのか?」
「…ふ、ざけ…」
「へえ、やっぱり処女なんですか」
「…しょ、………」
普通女に対して使われるべき言葉を此処で使うのは単なる嫌がらせだった。好きな相手に対してそういうことをするからだと、記憶があったなら言ってもらえただろうか。
「しかし、強情ですね」
「…ぐ、」
「こんなに硬くしてんですから、さっさと楽になれば良いのに」
「だ、れが…」
お前なんかに、というのは言葉にならなかった。
 音がする。
 初期設定から変えていないのであろう、音。
 月島の携帯の着信音。
 月島が手の届くそれを切る前に、尾形が拾い上げた。
「電話」
持ち上げた画面に見えたのはさっき散々惚気を聞いた相手の名前だ。ちゃんと見えるように、でも勝手に切られないようにと距離を保ったまま問う。
「出なくて良いんですか?」
こんな状態で出られるか、というような吐息があった。仮にも初めてであるからと言って後ろからにしたのはもったいなかったか、とも。
「大切な相手なんでしょう?」
でも、それが思い付いたことを止める理由にはならない。
 尾形の指が、通話ボタンに触れる。
「ま―――」
月島が何を言うよりも先に、電話から女の声がした。音を大きくしてやると、なかなか帰ってこないから心配して電話をしたらしい。月島は珍しく飲みすぎて、だとか、酔い潰れたから後輩の家で休んでる、とかそういうありふれた言葉を、ありふれた音程で繋げていく。まるで尾形なんかいないかのように。
 腹立たしい、と。
 そう思うのだって本当は勝手だった、思っているだけなら好きにしたら良かった。でも結局尾形は行動に移して、もう後戻りは出来ない。身体はこんなにも尾形を憶えていてもっと、とねだるのに記憶がないだけで、出会うのが遅かっただけで、こんなにも尾形は後回しにされる。否、先に出会っていたら何か変わっていたかなんて、たらればの話でしかなくて既に起こってしまったことは変えられないのだけれど。今日は帰れなさそうだ、とか、ちゃんと戸締まりをして寝ろ、とか。羞恥に震えながら、それでも他の人間を大切にしている姿なんて見たくはなかった。それがあの、前≠フ月島が大切にしていた女であって、何事もなければ二人がくっつくのは最早運命とすら言っていいことなのだと分かっていても、それでも尾形は納得出来なかった。
―――こんなに、
―――人間らしくなったのに。
 アンタは俺を見てくれないのか、なんてこどもの癇癪以下だった。それくらいの自覚はある。ある、けれども。それと納得とはまた別の話なのだ。
 話が一段落したところで、端末を視界から取り去ってやる。
「はは、」
「き、った…か…?」
「アンタ、よく声抑えられてましたね」
正直尊敬しますよ、と言いながら、でも限界でしょう、と指摘してやる。
「奥、」
「ひ、ぁ」
「好きですよね」
「だ、れが…ッ」
「アンタ好きなんですよ、奥。覚えてないみたいですから、今から思い出させてやります」
何を、というのは嬌声に消えた。通話に入らないようにと必死に抑えていた分が決壊したのだろうか、声に艶が乗っているのがどんどん隠せなくなって。
「あ―――、ッ、ぅ、い、………ッ、ぁア………」
びゅくびゅく、と月島の性器からは精液が押し出される。否、飛び出した、という方が正しいだろうか。この身体でも高い声が出るようで良かった。前≠ニ何も変わっていなくて良かった。
 ほくそ笑みながら、そのボタンを押した。
『………はじめちゃん?』
スピーカーにした端末から声がする。ビクッと震えたナカに、絶望したように振り返るその動きに、月島軍曹≠セったらこんなことは許さなかっただろうにな、と思う。
「切っ…、」
「切ってませんよ。聞こえてましたよね? アンタの月島さんが俺ので思い切りイッたの。女みてえに、いや女よりヨガり狂って、俺と気持ちよくなってんの。聞こえてましたよね?」
「ちが…っ!」
「違わねえよ」
一旦抜いてひっくり返して挿れ直す。これで顔がよく見える。
「はは、月島さん。アンタさあ、」
 そして、月島のものの状態も。
「今の状況でまだおっ勃てて、俺にもっとってねだるって、なかなか才能あんじゃねえの」
「だから、ちがう…!」
「何も違わねえって。逐一レポートされたいですか? 今アンタのナカが俺のにどれだけ絡みついて離したがらないのか、さっき一回抜いた時だってまるで名残惜しいみたいにきゅんきゅんさせて…そんなにナカに射精(だ)して欲しいんですか」
「やめ、」
「あ、締まりましたね。なるほど、そういうことでしたか。気付くのが遅くて申し訳ありません。あと俺も遅くて申し訳ありません。とりあえず俺が満足するまで付き合って貰っても良いですか。アンタ途中で気絶するかもしれませんけど、まあ、この分なら反応くらいはちゃんとしてくれるでしょう」
「き、れ…ッ」
「ハハァ、」
その言葉は裏を返せば通話を切れば続きをして良いということにもなりかねないのだけれど、記憶がないとこういう部分がおざなりになるのだな、と思う。
「まあ、ほら。電話口の彼女と一緒に楽しみましょうよ」
 通話は切られない。信じられなくて切れないのか、それとも思考が回らなくなっただけか。尾形にとってはどちらでも良かった。どうせなら月島の精を此処で使い切るつもりで抱いているのであるし、一旦手放したとしても月島が戻ってくるように仕向けるだけであるし、そもそも二度と女なんか抱けない身体にしてやる、くらいは最初から思っていたのだ。ちょうど良い。
 生理的なものだろう、浮かんだ涙を舐め取ってやる。その動きで再び奥まで挿ったのか、月島が声を上げる。
「俺の方が本物だって身体に教え込んでやるよ」



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