愚の遊戯


 混んでいる車両だった。だから気を付けてくださいよ、なんていつもいつもうるさい尾形がいつも以上にうるさかったので覚悟はしていたが。扉の閉まる音がする。ぎゅう、と月島は壁際へと追いやられる。こういう時、小柄に生まれてきたのは本当に不便だな、と思った。身動きが取れない。
 と、そんな風にしていると、ふいに後ろに何かがあたった。
「………?」
後ろ、というか尻、の辺り。これはもしかして痴漢なのではないか、と声を上げようとして、それからその触り方に覚えがあることに気付いた。するり、と意図を持った指がそのままつつ、と背中をのぼって、肩を経由して大胆にも胸へと降りていく。その動きに完全に犯人が分かったものの、この人混みだ。大して抵抗など出来やしない。片手は吊革だし、これを離したら慣性の法則に負けてしまう。もう片方は手持ちの鞄だった。朝、執拗にこちらをすすめてきたのはこのためか。
 兎に角、こんな馬鹿なことはやめさせないといけない。そう、分かっているのに。
「ん、」
知った指が尻の肉をゆっくりと擦る。まるで開いて遊ぶように、ぐにぐにと形を変えていく。
「ふっ………ぅ♡」
繋がっている肉は特に敏感な場所を引きつらせ、今までの行為を思い出させるのだ。
「…顔、真っ赤ですよ」
耳元で囁いたのはやはり尾形だった。馬鹿なことをしていないでさっさとやめろ、と思うものの、無闇矢鱈に口を開けばあられもない声が上がりかねない。
「俯いて誤魔化せますよ。アンタ、小さいですから」
「…ッ、ぅ♡ン♡」
「そうそう、その調子です。アンタがそうやって声抑えようと頑張る度に、こっちはもっと、はやくって言うんですよね」
もしかしてそういう趣味に目覚めましたか? なんて聞いてくるこの男を、どうしたら月島は殴れるのだろう。
「ワイシャツの中で今か今かと待ってる乳首を放置するのも忍びないですが…まあ、そこはプレイですので。帰ったら、ということで許してください」
アンタが泣いても気持ちよくしますから、という尾形にまず泣かせるな、という一般常識はどうやったら叩き込めるのか。月島は永遠にこの命題と向き合わなければならないような気がする。
「ストッキングは買い置きがありますので」
 そんな不穏な言葉と共にびり、という音がした。それに抗議するより先に、指が差し挿れられる。
「ッっぁ♡」
「ぐっちゃぐちゃ」
「ちが…っ♡」
「嘘吐かんでくださいよ。悲しくなります」
やっぱりこういうのに目覚めました? と項に舌を這わす尾形に、何を言うことも叶わない。
 尾形の指が、性器の形を確認するようにすべっていく。そのすべりを助けているのは、紛れもなく月島から分泌されたものなのだ。女性の身体というのは便利に出来ていて、たとえそれが強姦だったとしても濡れるようになっているらしいが、これはどう考えても月島の身体が快楽を覚えてしまったからこその反応だった。それが分かるから唇を噛む。
 尾形の指は、ぐるぐると回るだけで何もしない。それはあまりに拷問に近かった。前であったならば抵抗出来たかもしれないが一手も二手も遅れを取っている今の状況では意味をなさない。
「…ッン♡…はぁ…♡」
腰が勝手に動く。尾形の指が、充血した突起にしっかりと当たるように。
「ハハ、」
かぷり、と尾形が耳に甘く歯を立てた。その刺激でぐっと圧をかけてしまう羽目になる。
「ふっ………♡…ン、ぁ…♡」
「軍曹殿、今何してるか分かってます?」
「ん、ぁ…♡ちが…♡」
「何も違わねえよ」
 アンタ、俺の指使ってオナニー愉しんでんだよ。こんな、公共の場で。
 尾形の、何の間違いもない指摘に、びくり、と身体は叱られたように竦んで、更にそれが尾形の指に押し付けるという行為に拍車をかける。
「軍曹殿、此処、結構好きですもんね」
「そん…♡な、こと♡」
「ゆるく刺激されるのが一番馬鹿になれるって、やっぱアンタ自覚あったんじゃねえか」
「ちが…♡なぃ、…♡からっ♡」
自分で動かしている分、もどかしさはある。でも、そのもどかしさが―――良い、なんて。
「アンタやっぱり焦らした方がエロくなるんだな」
「そん…っな♡こと、…♡ない、からぁ…♡」
「次は挿れて欲しいって自分で言えるようになるまで、試してみますか」
「ゃ、♡や、だ♡すぐ、すぐ♡ぉわりに、して…っ♡」
「ハハ、絶対に嫌だね」
アンタそういう演技壊滅的に下手だよなあ、と会話はあるものの、尾形の指は動かされないまま。
「ほら、軍曹殿。そろそろ降りる駅ですよ」
尾形は言う。
「俺が運んでやりますから、一回イきましょう?」
出来ますよね? と。残酷に。月島に選ばせる。月島の身体は既に快楽に従属して、理性が引きちぎれる寸前だった。そんな状態で悪魔のような囁きに従わないなんてことが出来るはずないのだ。
「…っう♡ふ…ぁ…っ♡」
「そうそう、上手ですよ、軍曹殿」
「ぁっ…♡ゃぁ…ッ♡」
「嫌も何も、軍曹殿がやっていることですからね」
勉強になりますなあ、と言う尾形を、殴ろうと言う意志はもう潰えていた。
「〜〜ッ、♡ぅう、アッ♡」
「もうちょっとですか?」
「ン、♡ぁと、すこ、しっ♡」
「偉いですね、月島軍曹殿」
「ァっ♡ぃま、みみ♡ゃ…っ♡」
逃げようとして動いたのがいけなかった。
 ぐり、と決定打のように圧が加わって。
「―――〜〜ッ♡♡♡ァ、ぅ…♡」
尾形が咄嗟に口を押さえていなかったらどんな声が出てしまったのか。
 思考してしまったからか、きゅん、と下腹が喚く。
「ッ♡ぅ♡〜〜ンッ♡」
更に追い詰めようと言うかのようにぐりぐりと容赦のない圧が、今度は尾形からかけられる。今までゆったりとした刺激ばかりだったのもあって、その緩急についていけない。何度も何度も、敏感になった身体は好きなように絶頂へと放り出される。
「イ…♡イ…ったぁ♡…だ、ろ♡」
「一回、って言っただけですよ」
だけ、とは言ってません、という言葉にまた絶頂が襲い来る。
「あとまだ少し時間ありますので、」
「〜〜ぅ♡」
「何回イったか数えておいてくださいね」
数えてなかったらお仕置きですからね、と馬鹿なことを言う尾形に凭れるようにしながら、
「―――ッ♡ン、ゃあ…♡」
必死に繋ぎ止める理性で数を数えながら、電車が駅に着くのを待つのだ。



https://shindanmaker.com/855637