力が身体を駆け巡る。それに縋るように、縋るなんてちゃんちゃらおかしいので多分それは尾形の希望なのだろうが―――月島が言う。
「おがた」
声が震えていないのがこの人らしいと思った。
「抱い、て、くれ」
喉が引き絞られるような様子で吐き出された言葉に、尾形が頷く以外に何が出来たのだろう。
てんてんとろりと明日に融ける
ずちゅり、と音がする。それに呼応するように、う、う、と押し殺したような声がする。盛られた訳でもないのにこんなことになるなんてなあ、と思いながらも尾形とて同じようになっているのだから、なんとか思考を繋ぎ止めておくだけで精一杯だ。
抱いてくれ、と月島は言った。
抱かせろ、ではなく、抱いてくれ、だった。その言葉が、尾形にとってどれほどに甘美なものであったか! これで弱みを握れるような人ではないのは分かっていた、けれども此処で手管を見せつければもしかしたら、今後も、ということはあるかもしれない。おこぼれ、とは思わない、だって誰も月島を食うようなことはしていないのだから。自分のことを悪食、とは思わなかったけれども、なかなか月島のことを抱きたいと思うような人間は少ないのではないだろうか。
「はは、分かりますか、軍曹殿」
ぐるり、と差し挿れたままの指を回す。腸壁が蠢いて、まるで違う生き物のようだった。月島の意志とは関係がない、と言い切ってしまえれば良かったのか、そうしたら尾形は希望じみたものを抱かなくて済んだのか。
「ひくひくと疼いていますよ。まるで今すぐにでも俺が欲しいと言うように」
「いう、な…ッ」
「言っても良いでしょう、だって、事実なのですから」
本音を言えば、今直ぐにでも挿れてしまいたかった。けれどもそれではただの堪え性のない男になってしまう。尾形は月島に評価されたかった。抱いてくれと言われたのであれば尚のこと。此処で価値を見せなければ折角の機会が無駄になってしまう。
という思考とは別に、性感に翻弄される月島があまりに見ていて満たされる部分もあった。加虐心とはこのことを言うのだろう、と思う。こんな状態でも鋭さを失わない瞳は、多分反抗的というのだ。この場合、反抗しているのは尾形の方であっただろうけれど。きゅうきゅう、と指に縋り付くナカは限界を訴えていた。潤滑油でてらてらと光りながらも窄まったそこは、外から見れば確かに蕾のようにも見える。これを最初に蕾と言った人間はどれほど余裕があったのか、と余所事を考えていないとだめそうだった。
「こんなにも淫乱であったとは知りませんでした」
誰も知らないことですか? それとも俺だけが知らなかったことですか? 言葉を続けると、それに反応して身体は震える。可哀想なほどに。ついでに尾形の方も可哀想なことになる。救いは月島の方が余裕がなさそうなことだろうか。受け手の方が余裕がなくなるのは仕方ないこととは思うものの、今はそれで救われているのだからまあ、良いとする。
「誰でも良かったのではありませんか?」
誰にでも、うちの連中、全員に、本当は知って欲しかったのではないですか?
まるで月島の身体から何か液体が出てきているようだった、精液ではない、腹の方から。まるでおんなのように。それが潤滑油だと知っていても、一度押し込めたそれらが指の動きによってごぽごぽと溢れ、太腿を伝っていくさまは淫靡にもほどがある。
ちがう、と月島は言った。掠れるような声だった。
「なら、俺が良いのだと言ってください」
「…な、にを…?」
「そうしたら軍曹殿が楽になるように俺も努力しますから」
思考が追い付かないのか、月島が直ぐに答えることはなかった。
ぐちゃり、と指を引き抜いたそこは既に違う器官へとなっているようにも見える。否、月島が尾形相手に丁寧につくりかえたのだ。自分の身体を、適応させた。それが今は、震えるほど嬉しい。
「月島軍曹殿」
ひたり、と充てがう。その熱が、硬さが、分からないなんて今更言わないだろう。
「誰でも良かったのですか?」
「ちが、う…ッ」
「本当ですか?」
「ほん、と…う、っ、だか、ら…!」
はやく、と呼ばれる。勝手に挿れようと動く腰を抑えつけて、教えてくださいよ、と尚も強請(ねだ)る。
「軍曹殿、」
「おが、た、」
「誰に、何を、して欲しいんですか?」
「―――、」
つらい、というのは言葉にされなくても分かった。枕を抱き締めて、それから息をなんとか整えるように。整えられてなんかいないけれど。
「おが、た、おまえ、に…、だい、て、ほし…い…ッ、あ、はや、く、挿れ…っろ…!」
「もう一声」
「おま、え…だかッ…ら、…ぅ、ァ、ぐ…っ」
は、と息が漏れて。
「挿れて、欲しい」
最後の言葉だけが、妙にはっきりと聞こえた。
「―――〜〜ッ、ヒッ、ぁ、つッ…アアアッ、んっ…おが、ふ、ぁ…ッも、ァア、ふっ、う、ぃ」
「イイ声出るじゃないですか」
一気に奥まで挿し込んだ衝動で、びくびくと月島の身体が跳ねる。ふかい、なんで、はやい、あつい、と羅列される言葉の中に、それでも、もっと、きもちいい、というのも聞き取れる。待ち望んだ熱だと言わんばかりに尾形を呼ぶナカも極上だったけれども、今はずっと、この月島の反応の方が心地好い。
「もっと啼いてください」
だから言う、この夜を忘れることがないように。
「アンタが抱かれたがってた、俺が抱いてるんですから」
楽しみましょうよ、ともう聞こえていないだろう言葉を落とすと、嬌声の中に肯定があったような気がした。
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