従順に吐いて連ねて愛に殉じて


 林藤、と呼ぶ度にその身体がびくり、と反応するのを見ていた。好きだ好きだと冗談のように繰り返されるそれを、林藤はきっと、城戸が冗談だと思っていると思っていたのだろう。いつもの冗談、ただの仲間内の愛情表現、それ以上でもそれ以下でもない話。林藤としてはそれで片付けられるならそれで良かったはずだ、普段自由にしてみせるくせにその本質はひどく貞淑であって、だから尊敬する先輩―――と言って憚らない城戸に、こんな劣情を抱いていることを知られたくなくて。
 なんて。
 すべて城戸が勝手に思っていることだったけれど、まあ、間違ってはいないだろう。
「そんなに触れられて嬉しいか」
トリガーを取り上げるのにそう苦労はしなかった。林藤は城戸に殺されることはないと分かっている、だからこうして不意の呼び出しにも対応する。林藤は城戸が自分の妨害をすることはあっても危害を加えることはないと信じ切っているから、こんなことになっている。
 ネクタイで縛られた腕は恐らく明日には鬱血することだろう。けれどもこちらにはトリオン体という便利なものがあるので、それで隠せる。まあ、そうでなくともこの場所であればスーツをちゃんと着ていれば見えはしないだろう。
 迅と林藤が、そして迅と城戸が、鉢合わせないような動線を作るのは少々骨が折れた。迅は組織の要であったし、そもそも迅と林藤は玉狛支部で一緒に暮らしているようなものなのだから。それを調節して、視えないようにして、警告など、させないようにして。いつもは体よく使っている少年を、城戸は自分のためだけに遠ざけた。
「ちが、ッ」
すっかり勃ち上がったそれを撫でてやれば、久しぶりに見るような反抗的な視線が返ってきた。眼鏡も何処かへと吹き飛んだその顔は久々だからか、知っている年齢よりも幼く見える。こんな視線は、前身組織だった頃、旧ボーダーではよく見ていたな、とも。林藤は負けず嫌いで、城戸は強くて、だから何度も何度もこんな目で見られた。その頃から林藤のこれが情欲へと育つことを心待ちにしていた、なんて言ったら、この年下の男はどうなってしまうのだろう。
「誰でも、良い…ッ」
何が何でも、林藤は認めたくないようだった。
 城戸に、こんな劣情を抱いていることを。
 城戸はずっと知っていたと言うのに。いやいや、と首を振りながらも城戸を睨め付けるのをやめない林藤が可愛らしくて、ああ、そう言えばこの顔が見たくて何度も何度も向かってくるのを倒したんだったな、と思い出す。自分からもうやめよう、と言わなかったのは楽しかったからだった。誰かが止めに入るまで、城戸と林藤の模擬戦は終わらなかった。
 加虐心を煽られていたのだと思う、今と同じように。
「誰でも良い訳がないだろう」
丁寧に丁寧に処理を施したそこは、既に出来上がっている。はやく、と催促すらしている。それでも林藤は認めない、城戸だからこうなっているという方がずっと人間性としては真っ当なのに、城戸にだけはそれを知られたくないから、自分はただのふしだらな人間であるのだと言い張る。そんなことはないと、城戸はもう知っているのに。無駄な抵抗が、続いていく。
「林藤」
そろそろ良いな、と充てがう。いやだ、と首が振られる。でも待つようなことはしなかった。これだけ膨らんだ欲を、林藤以外に渡すつもりはなかった。
「―――〜〜ッ!!」
「りんどう、」
一気に貫いた衝撃で、一瞬意識が飛んだようだった。それを無理やりにでも引き戻す。いやだ、ちがう、と尚も繰り返す林藤に、俺だから良いんだろう、と繰り返してやる。
「林藤、」
早く認めろ、と艶の混じる声を喰らう。
「お前、俺が好きだろう?」
 涙で融けそうな目が見上げてきて、嗚呼、あの頃はこんなもの見られなかったな、と思ったら獰猛な笑みが落ちた。



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