甘美なる遊戯
充分に注意していたはずだった。
本丸での協同任務とそれは正式な任務であって、つまるところ断ることは出来ない訳で。向こうに行くよりもずっと安全だろうと言うことでこちらの本丸にで任務を行うことにしたはずだったのに。
「先輩…」
甘く煮詰めたような声がして、あ、と思った時には押し倒されていた。そして、間髪入れずに手首が拘束された。それだけならばなんとでもなっただろうが、彼女がなにかカチカチカチ、と動かす音がするとずしん、とそれが重くなる。自然、手首は拘束された状態のまま、頭上に固定される形となった。
「…一応聞くけど、何?」
「拘束具です。目盛りをいじると重力操作が簡単に出来る優れものなんですよ」
何だそれ、と思った。思ったけれどもそんな疑問をこの後輩が汲み取ってくれたことなど一度もないのだ。
最早手慣れたようにこの美しい後輩は人の服を剥いで行く。まるで人の身体を自分のものだと思っているような顔だ。でもそれがあまりにも当然に見えてしまうのだから困る。困るし、ここまで当然のように見えると抵抗らしい抵抗の意が消えていくのだから、また。
…という思考は、すぐに消えることとなるのだが。
「…な、に、それ」
「あら」
何かやたら大きな鞄を持っているとは思っていた。けれどもまさか、その鞄の中からそんなものが出て来るなんて誰が思うだろう。だから聞いたと言うのに彼女は首を傾げてみせた。
「先輩は蛸を見たことがありませんでしたか?」
そういうことじゃない。
そうは思っても身を竦ませるだけで何を言うことも出来なかった。はなうたでも歌い出しそうな可憐な唇が笑みを結んで、それから蛸をさらけ出された腹の上にそっと置いた。
「う、や、だ」
「大丈夫ですよ、先輩。ちゃんと噛まないように調教してありますから」
何も大丈夫じゃない。
ぬるりとした蛸の足(手だったかもしれない)(分からない)がぬたぬたと肌の上を滑っていく。その感覚が気持ち悪い。けれども彼女は頬を撫でるだけで、何一つ自分の思い通りにならないことなどないことを疑っていないようだった。
「だから先輩は、安心して気持ちよくなってくださいね?」
彼女の声に呼応するかのように、腹の辺りを彷徨っていた蛸が胸へと上がってくる。肌を滑るだけならまだ気持ちが悪いだけだったのだが、まるでそう躾けられているかのように真っ直ぐに桃色に色付く乳首へと向かって足を伸ばした。そしてしゅるん、とつつくようにしてから、吸盤を器用に使って吸い出す。
「ひゃ…ッ」
流石にその感覚にはぞっとしたものがあって声が漏れた。後輩はそれに嬉しそうな顔をする。これが狙いなことは分かっていた。だからぎゅっと唇を噛み締める。声なんて出してやるものか、と。けれども蛸はこちらの気持ちなんてお構いなしに行動を続けて、きっと今頬はひどく紅潮していることだろう。情けなくて涙で視界が滲む。そんな様子が嬉しいのか、彼女はうっそりと笑ってまた鞄に手を入れた。
そして。
「もう一匹、増やしましょうか」
まだ出て来るのか、と絶望した。大きな鞄だとは思っていたがまさか蛸が二匹も入っているとは思わないだろう。そもそも正式任務なのだ。ばっちり終わった瞬間に行動を起こす辺りは本当に、抜け目ないと思う。仕事も終わっていないのに、と責めることも出来ない。この部屋にはきっとまだ誰も来ないだろうし、助けはいないも同然だった。
どうしたら、と思っているうちにもう一匹の蛸もまた、胸へと這い上がってくる。何もかも分かっているというように色付く先端に吸盤を押し当て、その不規則な動きに身体は快楽を思い出してしまう。それらがまた絶妙な力加減になっていくのだから堪らない。じわじわと追い込むような動きに、腰が揺れそうになるのだけは、と必死で理性を引き止める。
「や、だ、ァッ、ん、ゃあ…ッ」
「両方同時に吸い付かれてますね。どう、ですか?」
「ゃ、だッ、はやく、離して…!」
何がしたいのかよく分からないが、もう充分だろう。そう思って見上げたのに。
「もう、先輩ったら」
秋穂は違うことを思ったらしかった。
「こっちが良いんですね」
こっち、ってなんだ。そう思うより先に後輩の美しい指が蛸の頭を突いて、それが合図だったようにきゅうう、と吸盤の力が増した。思わず唇を噛み締める。本当にこれは蛸なのだろうか、出来の良いロボットとか、ではなくて? そんなことすら思ってしまう。
胸の蛸に気を取られている間に秋穂の手は下着に掛けられていた。そして、一気に引き抜かれる。その行動でこっち≠フ意味が分かってさあっと血の気が引くのが分かった。
「ち、違う…ッ」
「先輩、大丈夫ですよ」
秋穂はちゃあんと分かっていますからね、と蛸が一匹、袴の中へと入れられた。太腿に張り付いて、更に奥を目指そうとする。懸命に妨げようと脚を閉じるものの、胸に残った蛸が絶妙なタイミングですっかり硬くなった乳首を吸うのでそれも上手くいかない。
太腿よりも先に行けば、それはもうすぐ其処だ。必死に脚をバタつかせながらいやいやと首を振る。
「やだ、やだっ、はいってくるな…!」
「あら、見えないのですが、先輩の中に入ろうとするなんて。蛸なのに、ちゃんと分かっているんですね」
分かっている訳がないのに、彼女がそう言うと本当にそうであるかのように感じてしまう。
「―――ぅ、やああッ」
びくり、と腰が揺れるのをもう誤魔化すことは出来なかった。目をぎゅっと閉じてやり過ごそうとする。でも、出来ないことを知っている。
「先輩、」
甘やかな声。
「さっきまで頑張って閉じようとしてた脚が、今はがくがくと震えて、開いていきますね」
自分の身体が今、どうなっているかなんて分からない。でも膝にはもう力が入らないのも事実だった。それくらいは分かる。
「秋穂に見せてくれるんですね…嬉しい…」
違う、と言いたいのに。蛸の動きに翻弄されて、そんな簡単なことすら言えない。
「ねえ、先輩、中で、どうなっているんですか?」
「ど、う、…?」
「秋穂に教えてください」
言葉の意味を吟味するより先に、びり、と電流が走ったような気がした。
「や、やだッ! アッ、そこ、やだぁ…ッ」
「そこ、とは何処ですか? 先輩の可愛いところ? それとも、先輩は浅い場所をくりくりされるのが好きですから、そこですか…?」
胸に残っていた蛸もまた、太腿へと降ろされた。別々に、予想出来ない動きをしてくるそれらに身体の制御権が奪われていく。がくがくと身体が震えて、性感が高められていく。どんどん崖っぷちへと押し出されていくかのように。そのまま思考も奪われていく。もう、自分がどんな格好になっているかも分からない。
「先輩、」
秋穂の嬉しそうな声がする。
「秋穂からも全部見えちゃいました」
それで白樺は自分がどんな格好になっているのかを把握した。蛸が邪魔で閉じられない太腿、逃げようともがくうちにめくれ上がった裾、其処に注がれる秋穂の熱い視線。
―――見ないで。
そう思うのに、やはり、言葉にはならない。
「まだ、先輩のナカに入ってないんですね…この子…秋穂が見るまで待っててくれたんでしょうか…」
「ぁ、あ〜っ! ゃだ、吸わないで…!」
「蛸に言っても分かりませんよ。ふふ、先輩の秘密の場所、真っ赤になってます。熟れた果実みたい…おいしそう…」
「ンンッ、ぁ〜〜ッ!!」
「ひくひくって、呼んでるみたい…。先輩の可愛いところに吸盤が吸い付いて、先輩の腰が揺れてる…可愛い…。こっちの子は、入り口をずっと吸ってるんですね…先輩、こういうのも好きなんですね…」
今度は秋穂がやってあげますね、という言葉は聞こえるものの、反応を示すまでには至らなかった。吸盤がぎゅう、と一層強くそこを吸い上げて、瞼の裏に閃光が疾る。
「ふふ、先輩、イっちゃいましたね?」
呆然とした。嘘、という言葉が漏れ出る。嘘だ、そんなこと、ある訳がない。真面な部分が否定をしたがる。
「蛸で、ですよ」
でもそんな白樺の思考などお見通しというように、秋穂は重ねてくるのだ。
「先輩」
認めてください、と。
「先輩、蛸にイかされちゃったんです」
視界が歪んだ気がした。秋穂が指で丁寧に目元をなぞる。
「泣いちゃう先輩も可愛い…」
その指には確かに優しさが滲んでいるのに、秋穂の望みはそこでは終わらないのだ。
「じゃあ、ナカに入ってもらいましょうか」
何を言っているのか分からない方がずっとマシだった。
「そ、れは…ッ!」
流石に嫌だ、と首を振る。涙があとからあとからこぼれて、止まらない。なのに、美しい後輩は白樺がどうしてそんなことを言うのか心底分からない、と言った様子で首を傾げるのだ。つん、とその指が白樺の膝をつつく。
「でも先輩の脚、ちゃんと開いて待ってますよ?」
違う、それは蛸が邪魔で閉じられないからだ。そう言うために閉じようとするのに、まったく膝に力が入らない。それを見越していたのか、秋穂はうっそりと笑った。
「ね? 気持ちよくなりましょう?」
そして、つん、と蛸の頭をつついた。
もう、それからは何が起こっているのか思考が追い付かなかった。ナカに入ってきた蛸はその予測の出来ない動きで内壁を刺激して、時折思い出したように吸盤で吸い上げた。その度に腰が浮き上がって、秋穂はそれを楽しげに見ている。唇を噛みたい気持ちだってあったのに、現実に思考が追い付いていない分そんなことも出来なかった。
「先輩、ちゃんと自分で腰を動かすことが出来てるんですね…」
やっぱり蛸じゃあ足りませんよね、という秋穂の台詞の意味を考えたくなんてない。
―――もっと、
今、一体自分のナカに何本の足が入っているのか、もう分からないけれど。
―――足りない。
「やぁああっ」
認識してしまったら、動きを止めることは出来なくなった。更なる快楽を求め、身体は貪欲になる。
「ひゃあんんッ!」
「あら、またイけましたね」
先輩、上手です、と秋穂が頬を撫でる。胸に触れる。
「ぅうっ」
その美しい指が刺激を与えてくるのと、もう片方に舌が這わされるのと。
「あぁあ、」
蛸の予測不可能な動きで、頭が真っ白になる。
「んいぃッああ、ひゃああ、ァ、んっ」
「そうですよ、もっと気持ちよくなってくださいね」
「ぁああっ、う、うっん、ア…ッ」
大好きですよ、先輩、という言葉と同時にまた絶頂を迎えて、それから先はもうよく覚えていなかった。