バイ・マイ・ハニー


 この御仁は少々危機感が足りないのではないか、と鶯丸は思う。
 事の発端は主が媚薬をまた買い足したことだった。それを拝借したところを御手杵に見られて、ええ、それ、流石に主に怒られるんじゃないのか、なんて言われたけれども許可は貰っている、と言えば簡単に引き下がった。俺鶯丸の嘘見抜けないんだよなあ、と疑っているのを隠しもせずに呟く御手杵に苦笑しか出ない。
 主に許可を貰っているのは本当だった。
「けれどもなあ、主」
凭れ掛かる身体の熱さに鶯丸はくく、と喉を鳴らす。
「こんなものを目の前に置かれて、腹を空かせないでなどいられるものか」
ちゃんと思考が回っていないのだろう、何か言ったか? と、とろん、とした瞳が見上げてくる。普段はそんなことをしない御仁だと聞いていたのだが、相手が鶯丸であるからだろうか。鶯丸は、彼の主の命令であったとは言え、彼女の処女を奪ったものだと言うのに? これが鶴丸国永辺りであったら警戒もしただろうか、それとも彼女の思考の中には鶴丸国永がそんなことをする、なんてものはないのだろうか。まあ、あれを見ていて出来るとも思わなかったが。自分の主がVRとは言え自分と同じ顔をしたものに犯されているのを盗聴しては落ち込んでいるようなものだ。普通そこは喜んだり自分にも機会があるのだと思ったりとか、そういうふうになるものではないのだろうか。御手杵辺りは鬱勃起の出来ないタイプかあ、大変だなあ、と言っていたけれども最早彼の趣味についていくのは諦めていたのでそのまま流した。というか、そもそも御手杵の趣味についていく必要などない。
「白樺殿?」
 心配そうな声を装って呼ぶ。悪い、何か、調子が、と言葉を懸命に並べる白樺を腕の中へと抱え直してやる。すまない、と言われても、そもそもこの状況を作ったのは鶯丸であるのに。
「暑いのだろう? ならば脱いだ方が良い。人間の身体は熱で簡単に壊れるのだろう?」
そう言いながらきっちりと着込まれた制服を崩していく。隙間から入る空気が気持ち良いのか、はあッ、と熱い息が落ちた。
「まだ辛いか」
「…あ、あ」
「どうしたものかな」
悩んだ振りをしながら、既に鶯丸の指は次の段階へと掛けられている。
「そうだな、これも外してしまおうか」
 白樺がこれ≠ェ何を指すのか判別する前に、と金具を外してしまう。充分な張りを持った乳房が解放された反動でぷる、と震えた。
「…っぁッ、」
それすら刺激になるのか、桜色の唇は嬌声に似たものを吐き出す。自覚がないのは本当に、どうしてなのか。ならば、と鶯丸はそれに合わせることにした。鶯丸にも自覚がない、けれども注意だけは促すように。これから先、まさか他の刀剣男士が彼女に手を出すことなんてないだろうが、万が一、ということは充分にあり得るのだ。許可されているのは鶯丸だけ、でも一夜の夢、と思う心がない訳でないのだと思う。
 刀剣男士は、こんなにも人に近く作られてしまった。
 用心に越したことはない。
 そんなふうに思いながら邪魔な下着を剥いで行く。あつい、という声が上がって、だから熱いな、と返した。鶯丸は熱くなどないが、此処は肯定してやった方が良いだろう。
「しかし、白樺殿。此処にいるのが俺であったから良かったものを…もし他の連中であったなら困ったことになっていただろう」
触れてもいないのにその先端はすっかりと主張をし、今すぐにそれをつまみ転がし、その気にさせてやりたくなった。けれどもそれでは面白くないのだ。
 今後も、出来ることならば白樺から。
 主で足りなくなった時に、呼び付けられるのが鶯丸であるならば。
―――それは、どんなに。
面白いことだろう!
「このように乳房を晒されてしまえば、付喪神とて男の身体。こうして、触れてみたくなるものも現れよう」
ふにり、と掌がその乳房を包み込む。それに、ん、と思考の追い付いていない吐息が落とされた。どうしてこうなっているのか分からないだろう、この御仁は主のことになると非常にしっかりするが、自分のこととなるとどうにも判断が遅れる。あの鶴丸国永の気苦労が知れるな、とは思ったがあれはあれで己の主に懸想しながらも手を出すことをしないと決めているのだからやっていられない。こんな、ただ愉しいからという理由で白樺に触れている鶯丸などにはそれこそ唇を噛み締めて威嚇してくるかもしれなかった。いや、威嚇で済めば良いが。一応この事実は知っているが、いつ抜刀騒ぎにならないとも限らない。
 くるくると円を描くようにして指を遊ばせると、腕の中で白樺は身動いだ。その小さな動きで、ギリギリを遊んでいた鶯丸の指はその中心を掠る。
「ん…ッ、ぁ…」
 まるで、自慰行為を見ているようだった。頭が朦朧としているのか、白樺はん、ん、と小さな声を上げながら鶯丸の指に、自らの突起をこすり付ける。否、そんなことをしている自覚はないのだろうが。あつい、と彼女は言う。ああ、熱いな、と鶯丸はまた返して、それから少しだけ指を遠退かせる。あ、と切なげな声がして、また彼女は身動ぐ。その僅かな追いかけっこで彼女の理性を削り取っていく。
 この薬の効果はそう長くないはずだった。だからそろそろ、本格的に逃げ道を塞いでやらねばならない。
「白樺殿、辛いか」
「ん…」
「…まるで、」
 つつ、と指でまた円を描く。熱さに目を瞑っている白樺には、その刺激だけで苦痛にもなる。
「腫れているようにも、見えるんだな」
「ひゃ、あッ!?」
前触れなく強くつまんでやると、その衝撃に白樺は目を見開いた。それに構わず形を変えるが如く捏ねてやると、悲鳴のような嬌声が上がる。今まで焦らしに焦らしたのだ、無意識に自分で動いてしまうほどに。そんなところに与えられた快楽は、きっと、毒のようなもの。逃げるように手足をばたつかせるけれどもそれに力は入らず、ただ快楽を増幅するだけの行動にしかならない。
「白樺殿?」
もう、気付いたのだろう。この状況を作り出したのが鶯丸であることに。けれどももう、遅い。これから自分のことでもしっかりとしてくれれば良いが。それによって鶯丸にとっての難易度は上がるが、それはそれで面白いので良いだろう。
「分かるだろう?」
ぐり、と押し付ける熱が何なのか分からないほど白樺は愚かではないはずだ。
 そして、もう、この身体は鶯丸を覚えている。ずる、と抽挿を思わせるような動きをすれば、びくり、とと身体が揺れた。
「俺も神とは言え男の身体を持っているものでな」
そういえば後背位はやったことはあっても、背面座位はやったことがなかったな、と思う。今日はこのままこの中途半端な着衣で進めるのも面白そうだ。残念なことに鏡はないから、そういうプレイは出来ないが。
「それに、」
 こちらを見上げる来る瞳。その色を、鶯丸は知っている。
「白樺殿も、此処でやめるなんて言わんだろう?」
 知っているが、言ってやることはしなかった。けれどもそれが、絶望や恐怖の色ではないことだけは、よく知っていた。



https://shindanmaker.com/505267