拒否できないって知ってるくせに


 無理強いをするような、そんな相手だったら良かったのかもしれないな、と思うことはする。そうであればわたしは多分、厚顔無恥に被害者の顔が出来た。わたしは嫌だって言ったのに、と相手を責め立ててわたしだけが可哀想なふりが出来た。わたしは淫乱でもなければ不道徳でもない、そう主張出来たのに。
「主」
わたしはその声だけで肩を震わせる。やさしい声、でもいつもの声じゃない。スイッチを入れるための声、わたしをそれを知っている。此処でわたしが耐えられればわたしの勝ち、彼は無理強いをしない。それは彼が人間じゃないからなのだと思う。彼はわたしが人間で彼が人間じゃないことをよく分かっている、だからわたしが耐えるなら、それはそれで良いとぱっと手を離す。
 飽きるまで、なんて言ったら彼に失礼だろうけれど、わたしはどうしたってそういう話にしたかった。永遠の少女を夢見ているわたしにとって、彼は劇薬みたいなものだった。まるで大人の男みたいに、実際外見はそうだったのかもしれないけれど、それでもその価値観は人間のそれとは違って、だからわたしは自分の本性を向き合わなくてはいけなくて。他愛のない話が続いていく。彼の手はわたしに触れることすらしない。それでもわたしの奥底は反応を始める。パブロフの犬の方がよっぽど賢い。
「ねえ、だめかな」
どろどろの声がわたしを呼ぶ。嘘みたいにわたしを女にする、女の部分を無慈悲に引き出す。
「………みつただ、」
まるで人間のようにわたしは彼を呼んで、不道徳に身を窶す。淫乱にわたしは命令する。
 もう二度と少女には戻れない。



確恋 @utislove