夜を徹して待つにははやい
主がぐったりしているのが薬の所為なのか、それともそれ以外なのか三日月宗近には分からない。しかしながら今大事なのは主がぐったりしているということで、その主を任されたのが三日月宗近だと言うことだった。首に手を回させても主は何も言わなかった。いつもであれば恥ずかしいだの嫌だの君と私はそういう関係である訳じゃあないだろうだの好き勝手言うくせに、今は三日月宗近にされるがままになっている。何よりも、恐らくこの状況だって主の予測の中には入っていただろうことが余計に腹立たしいのだ。自分を擲つだけの価値があると、主が保身のみに走らずに行ける人間であることを三日月宗近は誇りに思う、だがそれとこれとは話が違うのだ。どうしたってこちらの受ける負荷分の方が大きい。そう思うのに、主はそれを大きいだなんて思っていないのだから。
主の中へと指を差し入れるまでもなく、どろり、と中から白濁が出てくる。太腿を汚していくのをシャワーで洗い流す。薬の所為だ、仕方ない。主とて好き好んでこのような状態になった訳ではない。それは分かっている。そもそもこの主が顕現させた刀剣男士は刀剣男士でしかなく、だからこの白濁も意味をなさない、かたちだけのものだ。それも分かっている。それでも腹が立って指を差し入れた。薬の影響が未だ抜けてはいない主の其処はひどくやわらかく、まるで吸い付くようであった。無意識だろう、すすり泣くような嬌声がこぼれ落ちる。白濁を掻き出すほどに、びくびくと身体が震える。何度かまた細かな絶頂を繰り返しているようであった。その度に三日月宗近の首に回された腕が縋り付いてきて、意味をなさない言葉が落ちていく。
本当は、このまま。
上書きしてやりたかった。けれど今の主は抱けるような状態でないのは分かる。無理をさせられたのだ、さっさと風呂だって上がってゆっくり休ませなければいけない。そうしてすべて白濁が掻き出されたところで、ようやっと三日月宗近は言葉を発することが出来た。
「主が薬の入ったものを飲んだのだと聞いたが」
「…見れば、分かる、だろう」
その言葉で、境界を行き来していた主は戻ってきたのだろう、言葉に芯が戻って来る。
「それだけじゃ、なかった。それだけの話だ」
本当は、三日月宗近とて分かっている。あの空間で、一番強いのが物質として存在する薬だった。飲み物の中に入っていたものがそうなのだろう。けれどもそれ以外に、術も仕込んであったのだと、主は言いたいのだ。そしてその考えは間違っていないのだろうと思う。主がそういった部分で間違うとも思わない。あの燭台切光忠が、術以外の理由で主にあんなことをしでかす理由も、思いつかない。彼女の刀剣男士は偏に、刀剣男士でしかないのだから。その意識はモノ寄りで、人間の感情の機微には少々追い付いていないし主は主でしかない。
それでも、三日月宗近は燭台切光忠を許せそうになかった。
「…主」
ぎゅう、と抱き上げるついでに抱き締める。
「もう、あんなことはやめてくれ」
「何故、」
「何故も何もない! もっと他に方法があっただろう!!」
今だけは、顔を見たくなかった。
「それでも、」
主の声は凛と、強い。
「燭台切光忠は私の刀剣男士だ」
主が主として、本当に嘘偽りなく三日月宗近に言葉を放っていることが分かってしまう。それは嫌だった、駄々をこねていたかった。主の力の調整を出来るのは三日月宗近だけなのだと、それがこの本丸の均衡を保つのに一番良いのだと、そうしたままでいたかった。
「…三日月宗近」
「分かっている」
「分かっていないだろう」
「分かっている」
噛み付くように接吻けをしてそのまま抱かなかったのは、ただひとえに三日月宗近の忠義だった。