燭台切光忠は自身が他の個体よりも主に対して塩対応であるという自覚があった。勿論、対応が塩気味というだけで別段主を嫌っているということはないのだが。朝が弱い主を起こすことは苦ではなかったし、事あるごとに面倒事を持ち込んでくる主だけれど、それでも彼女に顕現された刀剣男士として燭台切光忠は主を支えるつもりだったし、今までもそうして来た。

故郷には帰さない


 その日主は政府からの要望で現世に来ていた。護衛は燭台切光忠である。主の護衛は大抵が主の思いつきで決まる。だからその日燭台切光忠が選ばれたのにも大した意味はないと思っていた。
 政府の要人だと言う男との面会。高級レストランの個室に通されて、何かが可笑しいと思った時には既に主は敵地の真ん中だった。恐らく主は知っていた。知っていて、燭台切光忠には黙っていた。こういうところが困るんだ、と思いながら主についていく。
 そして、話も半ば。男がどうぞ、とワインを差し出してきた。燭台切光忠はふと気付いて、主、と視線で制す。だが、それでも主の気は変わらないようだった。というより、恐らく、最初から知っていた。それに気付いた燭台切光忠が出来たのは、主がそう決めたなら、と笑ってみせることだった。
 主が男の持ち込んだワインを飲み干したところで男が急に饒舌になった。主は微笑んだまま話を聞いている。話の内容はひどいものだった。この男は裏切り者だ。でも、燭台切光忠は胸を張って主は違うと言える。ならば燭台切光忠は主に倣って微笑んでいるしかない。
 これは、作戦だ。囮捜査だ。
 いつもパンツスーツで出歩く主が今日に限って、普段動き辛いからと嫌っているスカートを着用している意味を遅まきに理解して、その速度に嫌気がさす。いつもと違う服装をしている時点で気付くべきだったのに。護衛を任されたと言うのに、例えそれが主の気まぐれだったとしても思いつきだったとしても、護衛は燭台切光忠なのに。すぐにそれに気付けなかった。心の中で歯噛みする。主は微笑んだまま表情を変えない。毒ではないのか、それでも何か入れられたのは確実だ。主は、一体いつまで耐えられるのだろう。
 そうして永劫にも似た時間、男が立ち上がって主に近付いたところで、個室の扉がばっと開けられた。男が驚いて飛び退く。政府職員を名乗った覆面たちがなだれ込んで来て、男が捕まった。燭台切光忠は主を背に庇いつつ、その様子を眺める。
「ご協力ありがとうございました、杜鵑様」
「いえいえ。美味しい食事も食べられましたし」
主が立ち上がってまた微笑む。貼り付けたような表情。男が喚くが主が気にした様子はない。
 男が連行されて行って、扉が閉まってきっかり三十秒。
「…主ッ!」
主の膝からはかくん、と力が抜けた。
 燭台切光忠は慌てて抱きとめる。瞬時に熱い、と思った。
 燭台切光忠の主は基本的に体温が低くて、自分で変温動物なんだよ、なんて冗談を言うこともあるくらいだ。だからこの熱は可笑しい。職員が杜鵑様を医務室へ、と言っているけれどもそんなの聞きたくない。こんな任務の指示を出したのはそもそも政府だ。最終的にそれを受けたのは主でそれはそれだけれども、やっぱり指示がなければ主だってこんな馬鹿な真似はしなかっただろう。
 主を抱きかかえたまま、燭台切光忠は職員に牙を剥く。
「君たちに主を渡すことは出来ない」
「あー…すみません、なんとかするんで。対応ツケといてください」
端末に解析結果送ってください、と主は続ける。どう見てもぼうっとしていて頭なんか働いてなさそうなのに、最初からこのパターンを想定していたのか。
「それまでは、とりあえず、吐いとくんで…」
主が手を振ろうとして失敗した。それを見たらもう燭台切光忠はなりふりなど構っていられず、失礼する、とだけ残してその場を離脱した。

 本丸に駆け戻ると秋田藤四郎が迎え出る。
「秋田くん、主をトイレに連れて行くから水を持ってきてくれないかな」
「500ペットに詰めて〜」
「君は黙ってて!」
口だけはまだ動くらしい主が軽口を叩くのも苛立つ。
 トイレの扉を全開にして主を連れ込む。自分では腕を上げることすらままならない主を支え、代わりに手袋を外して指を喉へと差し入れる。苦しそうな主に声を掛けながら、吐けるだけ吐かせる。
「どうして飲んだの」
何か入れられているなんて分かっていたはずだ。それくらいあの男は分かりやすかった。なのに、主は飲んだ。
「…飲まないと、何も喋りそうに、なかったからね」
「だからって」
「虎穴に入らずんば…」
「虎子を得ても君がこんなじゃあ困るんだよ!!」
嘔吐の疲弊が滲む声で、主は続ける。
「でも君がいた」
頭を殴られたような心地だった。
「君を選んだから、出来ると思ったんだ」
 その言葉で、ぷちんと切れたのは何だったのだろう。まだ身体を動かすのが億劫な主を抱き上げると、周りの声も無視して自室へと向かう。手を洗う余裕もなかったけれど、今なら飲める気さえした。半分は吐けただろう、熱は先程よりも引いたように感じる。ここまで即効性であるならきっと効力は長くない。答え合わせのように形だけの許可を求めて主の端末を覗くと、先程の職員からメールが届いていた。即効性だが、効き目は長くない。吐き戻すことによって吸収を妨げることが出来るが、既に吸収してしまったものを解毒する方法はない。水を飲んで時間経過と共に体外に排出されるのを待つか、それとも―――
「燭台切」
部屋の前で立ちふさがったのは三日月宗近だった。
「何、三日月さん」
 燭台切光忠は三日月宗近を睨め付ける。
「退いてくれないかな。今それどころじゃないんだ」
片手程度主と寝たくらいで、まるで番いであるような顔をするのか。ぎゅう、と主を抱く腕に力を込めると苦しそうな声が上がった。
「主を返してもらおう」
「三日月さんのものじゃあないでしょう? 彼女は、僕らの主だ」
「…ッ、燭台切…!!」
「みかづき、」
三日月宗近が本体に手を掛けようとしたところで、主が弱々しく口を開いた。
「待機」
「主!」
「いいから、たいき、だ。水、持ってきておいてくれ」
その言葉で三日月宗近はもう動けなくなった。燭台切光忠はその横をすり抜ける。
 自室の障子を乱暴に閉めて、畳の上に主を転がしてその上に覆いかぶさった。
「助けてって言えば良かったじゃないか」
とろり、と焦点の合わない瞳が見上げてくる。
「君、今から僕に何されるのか分かってるの?」
薬を盛られた本人が一番よく分かっているだろう。自分が飲まされたのが何なのか。
 メールには催淫剤の一種だと書かれていた。ゆるゆると不安そうな顔になると、主は小さく呟く。
「…いちおう、聞くけど、わたしに、しんらい、されるのが…いや、だったわけでは、ないんだよね?」
「まさか、そんな馬鹿なことをまだ言うの。君の信頼が嫌な訳じゃない」
この期に及んでそんなことを言うものだから燭台切光忠はため息を吐いた。
「君に信頼されていることは嬉しいよ。僕は君の刀剣男士だから。でも、それが、君が率先して危険な目に合うことをよしとすることに繋がるんだったら、僕は素直に喜べない。そういうのがついてくるなら、要らないとさえ思うよ。…君が、もう、馬鹿なことしなければ良いって思う」
 そう、二度とこんな馬鹿なことをしようなんて思わないように。覚悟してよね、と燭台切光忠は上着を脱ぐ。
「血を吐くほどに泣いても手放してはあげないから」
主の顔が心の底からドン引いた、というものになって、こうだからなあ、と燭台切光忠は思う。大体こういう時って怯えた顔とかするものじゃあないんだろうか。主にそういった感情が欠落しているとは思わないけれど、嗜虐心を唆られるような場面にいつも注意しているみたいに見える。そういう、自分の力が及ばないところをなんとか覆い隠そうとする様は賢いと思うけれども、反面可愛らしいなあ、とも思う訳で。それは多分力があるから、という認識から来ているものなんだろう。主よりずっと、力があるから。
 よく主は言っていた。
―――力があれば、きっと私は加害者だった。
燭台切光忠はそれが羨ましかった。加害者になることを何処かで望んでいる彼女が、とても羨ましかった。



 丁寧にワイシャツのボタンを外していく。本当は引きちぎってしまいたかったけれどそれは嫌だった。はやく、はやく、と何かが急かす。ワイシャツの下のタンクトップをたくし上げれば、淡い水色の下着がすぐに顔を出した。汗の滲んだ肌が生きているのだと感じさせる。下着に手を掛ければ抵抗のつもりか、力の入らない腕が少し動いた。それすら煩わしくて、下着をさっさとずらすと手首を掴んで畳へと縫い付けた。
「大丈夫だよ、主。主だってちゃんと女の子なんだから、刺激したら反応は起こるんだよ。主がどれだけ今怒っていたとしても、主の身体は主を守ろうって反応をするんだ。そういういの、主の方が分かっているだろう?」
触れてもいないのにぴん、と主張してみせる膨らみを見て、ああ彼女も女なのだと思った。そんなことはずっと知っていたはずなのに。鼻をすり寄せて舌をちらつかせると、その気配だけで高められるのか子供の泣き声のような声がした。主がこんな声を出すなんて、勿論燭台切光忠は知らない。舌で突けばやだやだと駄々をこねるように首が振られ、口に含めば主の顔はどんどん迷子になっていく。知らない人間のように、主が変えられていく。燭台切光忠の所為で。苛立ちのようなものを感じて歯を立てれば、悲鳴と一緒に腰が揺れた。痛みすら快感にすげ替えられているなんて、きっと、怖いだろう。
「ねえ、主、」
 熱い。熱くて堪らない。
「気持ちがなくても、気持ちがよくなくても、セックスは出来るんでしょう?」
どうして勃っているんだろう、と思う。主のことをそんなふうに見たことなんてなかったはずなのに。燭台切光忠は刀剣男士で、それ以上でもそれ以下でもない。この本丸の刀剣男士は殆どがそうだ。確かにこの身は人間のようで、人間のような欲も少しずつ芽吹いて来て、だから花街へと行ったりすることもあったけれど。それでもそこにいるのは同じく付喪神の女性であって、人間に、そんな、ことを。
 しかも、主に。
 主が魅力的ではない―――という訳ではないと思いたいが、それでも主は主で、もしも人間の言葉で表すなら親とかそういうものだったのかもしれないけれど、燭台切光忠はやっぱり刀剣男士だったから。主にそのような感情を向けたことはないはずだった。なのに、今は彼女を蹂躙したくてたまらない。もっと欲しいと言って欲しい。奥の奥まで突いて自分のことしか考えられなくしたい。泣きながら助けてと乞うて欲しい、何も悪くないのに謝ってほしい。
「だけど、やっぱり僕としては主に気持ちよくなって欲しいから」
手を離すと手首には燭台切光忠の手の後がくっきりと残っていた。
「さいあく、おまえさいあく」
「語彙力死んでるよ、主」
「だれの、せいだよ」
「僕かな。ねえ主、主がそう言ってくれるの、何だか嬉しいんだ」
「………そだてかた、まちがえた、かな…」
今日珍しくスカートを履いていたのだって、女≠ニいう記号の強調だ。ストッキングを脱がせて、下着もずり下ろす。腰にたまったままのスカートが余計、視覚に悪い。
「ぐちゃぐちゃだ。…ひどい、薬だよね」
 ひどいことをしているのは、燭台切光忠の方なのに。
「主はそんなつもりないのに、僕なんかにこんなところ見られてさ。気持ちよくなりたくないのに、なるしかなくて。…本当、ひどい薬だ」
ひく、ひく、と震える入り口は誘っているようだ。指でならす必要もないだろう。ベルトを外す燭台切光忠を見て恐らく主は無意識のうちに逃げようとした。それすら燭台切光忠は気に入らない。
「逃げないでよ」
掴んだ腰をそのまま引き寄せて、貫く。悲鳴と同時に主の身体が痙攣にも似た動きをして、この動きだけで一度達したことを知る。
「はは、こんなに簡単に挿入っちゃった。でも薬の所為だから仕方ないよね」
 そう、薬の所為だから仕方ないのだ。ずちゅり、ぐちゅ、とわざと水音が経つような動きをしてやればその音を拾ってしまうのだろう、応えるように身体が震える。意味をなさない悲鳴をもっと聞きたくて、奥の奥まで推し進める。三日月宗近はこんな乱暴にはしないのだろう。ならばきっと、これは燭台切光忠だけのものだ。
「は、あるじ、僕、きもちいい…」
「ぐ、ン…あ、やだ、ァ…」
「ね、主、分かる? 主のナカ、ちゃんと僕を受け入れようとしてくれてる。そっちの方が痛くないって分かってるんだよ。主、主の身体は、ちゃんと生きようとしてるね」
「ひとを、しにた、がり、ぐ…ッ、みたいに、いう、な…!!」
「事実、そうでしょう」
肌と肌のぶつかる音がする。もっと、と内壁が蠢く。彼女の意志とは裏腹に。
「主。君が僕を嫌いになることで、生きてくれるなら。僕はいくらだって君に嫌われるよ」
「…なんで、」
 主はずっと泣いている。
「そんなこと、いうんだ」
ぶちり、と今度の何かの切れる音は先程のものよりずっとひどい音だった。一度抜いて主をうつ伏せにして腰だけを上げさせると、そのまま、また貫く。こっちの方がより奥に届くことを燭台切光忠は知っていた。勿論、相手は付喪神の女性だったけれど、人間の女性だってつくりは変わらないはずだ。母音の羅列と悲鳴、そして合間に紡がれる助けを求める声。彼女は一体誰に助けてもらいたいのだろう。
「は、あるじ、出すからね」
いやだ、と言われたような気がした。それで逃してやれるなら最初から触れていない。
「ねえ、きゅうきゅう吸い付いてきて、僕のことすきみたいだね。主、ぜんぶ、薬の所為なのにね。ひどいよね、ほんとうにひどい。でも、身体ってそういうものだから。主が悪いんじゃないから。出してって主の身体は言ってるけど、僕の子を孕みたいって言ってるみたいだけど、それも全部ぜんぶ薬の所為だから。大丈夫だよ、主」
白濁を塗りつけるように抽送を繰り返す。縋り付くところのない主の指が、畳の上を滑っていった。ああ、こんなのは本当に。
 「ひどいよね」



 気付いたときには主は声を出すことも出来なくなっていて、まるで人形のように燭台切光忠の好きにされていた。燭台切光忠が自身を引き抜くと、白濁が追走する。一体何度中で出したのだろう。彼女が刀剣男士を刀剣男士として顕現した審神者でなかったら、孕んでいた可能性だってあったのに、と思った。
 ズボンを直して、彼女のスカートも戻す。ぐちゃぐちゃになった上もとりあえずボタンだけ止めて外から見えなくした。それで気付いたのか、主は燭台切光忠を見上げる。気は済んだか、と言うその声はかすれていた。
「…謝らないよ」
「謝って、欲しい訳じゃない」
そういうのじゃ、ないだろう。途切れ途切れに続ける主にまた苛立ちが湧いてくる。
「僕のこと、嫌わないの」
「きら、わない」
「じゃあ僕のことも許すの。主を痛め付けたのに?」
「許すつもりは、ないよ。でも、それと、嫌うことは、イコールじゃない。でも、腹は、立ってるから、物干し竿、追加で、何か、罰を考えるよ」
「物干し竿に追加かあ…」
どうして彼女はまだそんな甘いことを言うのだろう。事実、彼女は犯されたのに。押さえ付けられて、薬の所為だからと言い聞かされて、暴かれたくないところを暴かれた。なのに、まだそんなことを言う。普通、刀解処分ものだろうに。
 どうして、もっと自分を大事にして欲しいのに、さっきまでひどいことをしていたのは燭台切光忠なのに。
「主!」
ばたん! と音がして障子が開けられた。そういえば、障子なのだから鍵も何もないはずなのに、どうして誰も入ってこなかったのだろう。
 入って来たのは鶴丸国永だった。
「まさか緊急用の蟄居ロックを掛けるなんて思っていなかったぜ。俺も忘れかけてたくらいだ」
その言葉で、誰も来なかったのは主の判断なのだと知る。
 鶴丸国永は燭台切光忠を主から遠ざけると、しゃがんで手に持っていた羽織を主にかけた。
「…なんで立てこもったんだ、君は」
「その方が、はやいと、」
「ったく君は、自分のことをもっと考えてくれ」
「考えて、る…」
けど、と何か言おうとした主の先手を鶴丸国永は取る。
「俺には待機命令は出ていないだろう?」
「…鶴」
「ああ、分かってる。主、良いから君は水を飲め。顔色が良くない」
「燭台切、にも…」
「分かってるさ。でも、それとは別に罰はちゃんと与えろよ? 君は審神者なんだから」
「ちょっと、後日…」
「ああ、あとで良いから兎に角…今、俺が触れても大丈夫か? 自分でまだ立てたりしないだろう? 清光の端末の方に結果が転送されてたから、大体対処は分かっているが…ほら、とりあえず水だ。ストロー持ってきてて良かった」
大人しく水を飲まされる主を眺めている。よく考えなくても薬を飲まされて、無理矢理嘔吐させて、それから間髪入れずに無体を働かれたのだ。調子が良い訳がない。
 じくじくと罪悪感が湧いてくる。主を傷付けたのはきっと燭台切光忠でしかないのに、すべてあの男の所為にしたくてたまらない。
「主」
部屋の外にには三日月宗近が座っていた。本体に手を掛けている。何をしようとしているか、何を待っているのか、それは一目瞭然だ。
「待機の命令を撤回してくれ」
「三日月、」
「主」
 水が溢れる。鶴丸国永が、三日月は黙っていてくれ、と困ったように頬を掻いた。
「今は主の体調の方が優先だろう」
「なら鶴丸、お前はこの状況を放っておけと言うのか」
「放っておけとは言わないさ。だが、その判断を下すのは主だ。今主に判断をくださせるのはあまりに無茶がすぎるってモンだぜ」
「無茶だろうが今すぐに処断した方が良いにきまっている」
「だから、それは君の考えで主の考えじゃないだろう」
みかづき、と主が呼んだ。三日月宗近の顔が歓喜に染まる。
「待機だ」
それでも主の言葉は変わらない。
「何故だ」
 泣きそうな声を出したのは三日月宗近の方だった。
「主、いやだ」
泣きたいのは、主の方だろうに。
 主は少しの間悩んだように黙って、それから再び顔を上げた。
「…撤回するのに条件をつけよう。私を風呂に連れて行け。そのために待機は撤回する」
「待て待て待て。風呂って君、普通に入る気か!? 蒸発して死んじまう」
「………じゃあ、ぬるま湯で」
「三日月、頼むから主が風呂場で干上がって消えちまうなんてことにはするなよ」
「…言われずとも」
三日月宗近が部屋に入ってきて、羽織ごと主を抱きかかえる。ついでとばかりに主のものも回収していった。
「鶴、」
「分かってる分かってる。燭台切光忠は暫く蟄居で良いな? 兎に角君はまず体調を戻してくれ」
「…頼んだ」
「頼まれた」
 廊下に消えていく三日月宗近と、彼に抱えられた主をぼうっと見送りながら、一体何処で間違えてしまったのだろうと他人事のように燭台切光忠は思った。